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しゅくだいの妖精
作:藤村香穂里


 マス付きの国語のノートに文字が埋まっていく。
 ボクは、自分の部屋の勉強机で、宿題の漢字の書き取りをしていた。
 今日の漢字テストで、ボクは65点だった。
 一つ5点のテストだったから、7問間違えたんだ。
 先生は、今日の宿題は間違えた漢字を20回ずつ書き取りをしてくることと言った。
 
 ノートのマスが一文字一文字埋まっていく。
 最初はていねいに書いていたけど、そのうちだんだんいやになって疲れてくる。
 いい加減、乱暴に書きそうになったけれど、「はね」とか「はらい」がきちんと出来ていなくてペケを付けられた問題もあるから、ていねいに書かないとまたやり直しを言われるかもしれない。
 ボクは少し休んで、それからまた漢字を書き綴っていった。
 
 今日、学校から帰るとボクはすぐに玄関にランドセルを放り出して、校庭にサッカーをしに行った。
 6時過ぎに帰って、それから夕御飯を食べてテレビを見て、宿題にとりかかった頃にはもう9時を過ぎていた。

「どうして、宿題をちゃんとやってから遊ばないの」

 テストの成績が悪かった事もあって、お母さんは、怒っていた。
 ボクはお母さんのお説教から逃れるように自分の部屋にこもって宿題を始めたんだ。
 だけど、眠い……。
 少し休んだら一気に眠くなった。
 サッカーをやって疲れて、ご飯も食べて。  
 9時過ぎたら、眠くなるに決まっている。
 でも、これを仕上げてしまわなくちゃ。
 だんだんと、紙の上を走る鉛筆の動きが鈍ってくる。
 ボクは、頭を振って、続きを書き始めたけれど。
 ふわぁああ〜。あくびが出てきた。
 最初は、正しい姿勢できちんと書こうと思っていたけれど、ボクの背中は丸くなっていた。
 左腕を枕みたいにして、机の上に横になった。
 字は、書きづらい格好だけど。
 お母さんが見たら、姿勢が悪いと注意する事だろう。
 そんなに目を近づけて書いていたら、目が悪くなります! ってきっと。
 そんな事を思いながら、またあくびが一つ。
 必死に眠いのと戦おうとしたけど、もう駄目だ。
 ボクは、左腕に顔を埋めて、眠り込んでしまった。

 少しして寝心地の悪さに目が覚めた。
 時計を見ると、11時を過ぎている。
 そう言えば宿題が途中だった。
 でも明日の朝、早く起きてすればいいや。
 ボクは眠くてたまらなくて、ベッドに入りなおしてまた眠ってしまった。

 朝。お母さんが起こしに来た。

「拓也。起きなさい」

 ボクは眠い目をこすりながら、布団から這い出した。
 ボクが起きるのを確かめると、お母さんは部屋を出て行った。
 机の上の時計は、7時ちょっと過ぎている。
 やばい!
 ボクは宿題の途中で眠ってしまったんだ。
 机の上にノートが開いたままだ。
 ボクは、慌てて机に向かった。
 ノートには、びっしりと漢字の書き取りがしてある。
 次のページをめくる。

――あれ?
 次のページにも書き取りがしてある。
 その次のページで書き取りは終わっていた。
 書き始めのところから見直した。
 間違った漢字の書き取りが全部出来ている。
 ボクは思い違いをしたんだろうか。
 全部書き終わってから寝たんだっけ?
 それともボクは夢遊病者みたいに眠りながら宿題を片付けたのかな。
 ボクは、ランドセルに今日の持ち物を揃えると、朝ごはんを食べに台所に向かった。

 学校に行き、ボクは宿題のノートを提出した。
 下校時間になって、返されたノートの書き取りにはマルがついていた。
『よくできました』のはんこが押してある。

 家に帰るとすぐにボクは、友達の和志君に誘われるまま遊びに行った。
 2人でゲームをして遊ぶ。
 それでも昨日お母さんに叱られたから、早めに帰って。
 ご飯を食べて、宿題の計算プリントと、算数の教科書の中にある問題のページをやろうと思ったんだけど、部屋にあるマンガの単行本を読み始めたらやめられなくなった。
 何巻もあるマンガだったから続きが読みたくなって、また1冊と夢中になって読んだ。
 部屋で静かにしているからお母さんは勉強をしていると思っているのかもしれない。
 いやな事は後回しにしたくなるんだ。
 宿題はどうしてもやっていかなければならないんだけど。
 後回しにしているうちにやっぱり9時近くなってしまった。
 ボクは、いやいや机に向かった。
 なかなか集中できない。
 だけどやっていかなくちゃ。
 教科書の問題は、少しは解けたけど、わからない問題もある。
 教科書のページを調べて解いていったけれど、面倒くさくなった。
 先に計算プリントをやることにした。
 こちらはわりとスムーズに進んだ。
 プリントを終えると、眠くなった。
 教科書の問題のわからないところは、飛ばしていいやと思って、ボクは教科書をしまって寝ることにした。
 
 こんなに問題を飛ばしたら、先生に叱られるかな。
 ボクは、算数のノートを提出した。
 下校時間になって、ノートが返された。
 おそるおそるノートを開いてみた。
 『たいへんよくできました』のはんこ。

――え?
 あんなに飛ばしたのに。
 ボクはあらためて、ノートを見てみた。
 全部の問題に答えてある。
 間違えて他の子のノートを受け取ってしまったのかと思って、ボクは慌てて表紙をひっくり返して見た。

――『3年3組 津田拓也』

 間違いない。
 ボクは、もう一度、ノートの中を見てみた。
 間違いなく書いてある。

 どうして? 
 ボクはやっぱり、寝ぼけて宿題を終えたんだろうか。
 そんな筈はない。
 書き取りは、もしかしたら寝ぼけて書いたかもしれないけど、わからない問題がどうしてわかるんだ?
 そんな事、ある筈がない。
 お母さんが書くわけもないし。
 ボクの眠っている間に何かが起こっている。
 今日は、眠ったふりをして起きていよう。
 そしたら、何かわかるかもしれない。
 
 家に帰ると、ボクは食後にコーヒーを飲んだ。

「どうしたの。拓也。苦いのは嫌いだったでしょう」

 お母さんは、不思議そうだ。

「大人ぶってみたいんだろう」

 お父さんは、テレビのニュースを見ながら言った。

 ボクは黙っていた。

 それからボクは部屋に戻って宿題をはじめた。
 途中で、マンガを見たりしてだいぶ遅くまで起きていたけれど、新しく習った漢字の書き取りの宿題だけを残して、ボクは布団の中に入った。
 それでもあたたかい布団の中に入ると、眠くなってくる。
 ボクは、必死に起きていようと頑張っていたけれど、眠さに負けてしまった。

 カサ……カサ、カサと音がしてボクは目が覚めた。
 部屋は薄暗いからまだ夜中だろう。
 ボクは目を開けてそのままぼうっとしていた。
 ああ。
 ボクは眠ってしまったんだ。
 部屋はとても静かで、ただカサカサと言う音だけが響いてくる。
 なんだろう。
 ボクは怖くなって布団にもぐりこんだ。
 そしてそのすき間から音のするほうをそっとのぞいて見た。
 机の上で小さなものが動いている。
 ボクの目は釘付けになった。
 それは小さな人だった。
 小人が4〜5人くらいいるだろうか。
 ボクの鉛筆を抱えて、ノートの上で動き回っている。
 しかもものすごく素早い動きだ。
 もしもボクが起き上がったら、きっとすごい勢いで逃げるに違いない。
 もしかしたらボクの宿題をしてくれているのだろうか?
 漢字の書き取りも算数の問題も小人達がしてくれたんだろうか。
 ボクは、食い入るように見つめていた。
 小人達は、ぼそぼそ話し合っている。
 何を話しているのか、ボクの耳には届かない。
 みんなボクとおんなじ小学生みたいな顔をしている。
 じっと観察していると、一人とても仕事の早い小人がいるのに気づいた。
 仕事の早い小人はめがねをかけていた。
 ダントツに動きが早かった。
 協力し合いながら仕事をしているみたいだけど、その小人が一番よく動いている。
 太っちょで、しょっちゅう、ポケットからハンカチを出して汗をぬぐって、休んでいる小人や、リーダーみたいに指示をしている小人。
 人間みたいにいろんな小人がいる。
 やがて、小人達は仕事を終えたらしく、お互いを顔を見合わせてうなずいた。
 そして、一列になって部屋の隅に歩いて行き、壁の中に消えていった。

 朝になって、国語のノートを見てみると、やっぱり漢字の宿題が全部やってあった。
 ボクは、学校に行くと、小人達の仕上げた宿題を提出した。
 朝、提出したノートは、下校時にマルがついて帰ってくる。
 そこには『たいへんよくできました』とあった。

――やった!
  何故かボクの宿題は、小人達がやってくれる。
 これで、宿題をしなくていいかもしれない。
 その日、ボクは家に帰ると、ゲームをしたり、マンガを読んで過ごした。
 そして、教科書とノートを机の上に置いたまま眠ってしまった。

 翌朝。
 いくらなんでも何もしないで寝るなんて、ちょっとひどかったかなぁと思って、おそるおそるノートを広げてみた。
 昨日の宿題は、社会科の『仕事調べ』だったんだけど、全く手をつけていなかった。
 でも全部やってあった。
 いちいち調べなくちゃいけないから、面倒くさかったんだ。
 それからボクは、宿題をさぼるようになった。
 来る日も来る日も宿題をさぼった。
 しなくても朝になると全部やってある。
 こんなに何もしなくていいのかなぁって、ボクはちょっと心配になった。
 でもいやなことは後回しにしよう。
 その時になったら考えればいいや。
 どうせ中学に行ったら、もっと勉強をしなくちゃいけないだろう。
 そうしたら、さすがにボクも自分でやると思う。
 今だけラクをしておくんだ。

 ボクは、夜中にトイレに行きたくなって、ふと目が覚めた。
 すぐに起きずにそうっと机の上を見る。
 小人はいない。
 ボクはベッドから出た。
 トイレに行って部屋に戻ってくると、ボクはギクッとした。
 部屋の隅にあの一番仕事の早いめがねの小人がいた。
 ボクの事をじっと見ている。
 ボクは固まったみたいにしばらくそのまま動けなかった。
 目が合うと、小人はニヤリと笑って、部屋の壁に吸い込まれていった。
 ボクは、怖くなって、ベッドには戻らずにお母さんのところに走って行った。
 
 お母さんが目を覚ました。

「何? 拓也。怖い夢でも見たの」

 仕方ないわねと、お母さんは布団をめくってくれた。
 ボクは、お母さんの隣にもぐりこんで眠った。
 朝になって、ボクはふと心配になった。
 そう言えば、宿題はやってあるんだろうか。
 メガネの小人は怒っているんじゃないだろうか。
 ボクは、自分の部屋に戻り、ノートを取り出すと、ぱらぱらと広げてみた。

――良かった。
 全部やってあった。
 
 学校での算数の時間。
 前の日の宿題の答えを黒板に書きなさいとボクと何人かがあてられた。
 きんちょうしたけれど、宿題は小人がやってくれているから、ボクはそれを書き写そうとノートを持って前に出た。
 教科書のリットルであらわしたものをデシリットルに直しなさいという問題だった。
 チョークを持って書こうとすると急にボクの目の前が回って見えた。
 ボクはその場に倒れこんでしまった。

「津田さん!」

 先生がビックリしてかけよって来るのが見える。
 教室がざわついている。
 ああ。でももうふらふらして、立ちあがれない。
 ボクはそのまま気を失ってしまった。

 気づくとボクはベッドに寝かせられていた。

「津田君。気分はどうだい」

 声がして、横を向くと知らない顔の男の子がいた。
 同じクラスの子じゃない。
 上級生の保健委員の人かもしれない。
 先生は、教室に戻ったんだろうか。
 ボクはどうしてしまったんだろう。

「津田君は、授業中に倒れてここに運ばれたんだよ」

 男の子は静かに言った。

「あっ。ボク。教室に戻らなくちゃ」

 慌ててボクは、起き上がる。
 てっきり、ここが保健室だと思ったけれど、違う。
 学校の保健室じゃない。
 保健室に似ているけど、違う。
 病院だろうか。

「いいんだよ。津田君。もう学校に戻らなくても」

 男の子は静かにほほえんで言った。

 どう言うことだろう。
 ボクは、病気になってしまったんだろうか。

「君は誰? ここはどこ」

「ボクはカイって言うんだ。今までずっと君の代わりに宿題をしていた小人の一人だよ」

 え。小人だって? 
 ボクは食い入るように男の子を見つめた。
 あのみんなに指示をしていた小人の顔がよみがえった。
 こんな顔をしていたかもしれない。
 でも男の子はボクと同じくらいの背格好だ。
 どう言うこと?

「見てごらん」

 ボクは、男の子に手を引っ張られて、部屋の外に出た。

 外に出た途端、体全体が凍りつきそうになった。
 息が止まったかと思った。
 そこはボクの部屋だった。
 でもボクの頭の上のはるか高くそびえる椅子。
 ビルみたいな勉強机。

――それじゃぁ……ボクは小人になってしまったのか。

 がちゃりと部屋のドアが開いて、一人の男の子が入ってきた。
 その顔。
 確かに覚えがある。
 あの、めがねの小人だった。
 その後ろからお母さんが入ってきた。

「拓也。今日のテスト、頑張ったわね。社会が90点で、国語と算数は満点なんて」

 お母さんは、ニコニコ顔で、机の上におやつを置いた。
 めがねのそいつの事を拓也って呼んでいるんだ。

(違うよ。お母さん! ボクはここだよ。お母さんは、自分の子供の顔を忘れたの!)

 ボクは、大声で叫んだ。でもお母さんは全然気づかない。

「ムダだよ。今日からあいつが君なんだから」

 男の子は言った。

「イヤだよ! 帰りたいよ。帰りたい……」

 ボクは泣き叫んだけれど、どうにもならない。

「あいつは、ずっと狙っていたんだ。君になる事をね」

 ひとしきり泣いて顔を上げてとカイを見る。
 もうカイに頼るしかない。 

「ボクは、ボクはこれからどうしたらいいの」

「僕たちと一緒に生活するんだよ。働きながらね」

 ある考えがボクの頭に浮かんだ。

「そう。宿題だよ」

 思ったとおり、カイは、ゆっくりと言った。


 とっさに思い浮かんだこの話を小3の勉強についてネットで調べつつ、書きました。













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