最近おかしなことがある
デジャブだ。いや、その言葉が正しいのかも分からない
女は何かの言葉をきっかけにふと知らない記憶の蓋が開き、知らないはずの知識が頭を駆け抜けるのだ
ある日
女は気まぐれに何気なくそのデパートに入った
そして服を見に行った
店員は女を見ると急に顔面を蒼白にした
あ…あなたは…どうして?
そう言われても分からずに無視をして適当な服をクレジットカードで購入した
そして喫茶店で一休みしていると自分の名前が呼びだされ、先ほどの服屋にこいとアナウンスがかかった
なんだろうか。訳が分からない。ここにきたのは初めてだし、知り合いに店をしてる人がいるとは聞かない
とりあえず足を向けると
裏手に引っ張られ事務室のようなところで数人に囲まれながら席についた
どういうことだ?
生きてたんですか
は?ますます意味が分からない。聞いていると女相手に店員たちはペラペラと親しげに話しかけてきた
すると急に頭に映像が浮かぶ
自分が風呂場にいる。しかしこんな浴室は知らない。鏡に映る顔はたしかに女のもの
重なるように映像が現れた。それはあまりに早く流れ、確かに走馬灯だと思った。しかしその流れる人生は、女の知らないものだ
気付くと鏡の中の女はうっすら笑っていた。ぞっとした。あまりに強烈な印象で、女にただ恐怖を与える。一度見たら忘れられないような、にやにやした卑屈な笑みだった。そして左手にカッターナイフを滑らした
その、怪我はどうなんだい?
店員の中で唯一の男の声で女は正気に戻った。何がなんだか分からないがそれでも反射的に左手をつきつけた
私はリストカットなんてしてない!私はまだ24歳だ!
後半は特に不鮮明なところが多い映像だったが生まれた年は女より5年早かった
男たちは私の左手首をじろじろと見てから顔を見合わせた
すると今度は映像ではない。ただ視界は歪み、雑な音声が流れる
そうだよな。だってあいつは死んだんだ
いるはずがない。名前だって違うんだから
男だか女だか分からないまるで機会の合成音のようなものが矢継ぎ早にそう流れ、さらに音が重なり女には解読不能の嵐になった
バカなやつら…
だがふとはっきりと女の声が響くと嵐はやんだ。女は顔をあげる
あの…
ああ、すまないね。人違いだ。もう帰っていいよ
美奈子って人は…どうして死んだんの?
な!?何故その名前を?
知らないわよ。こんな能力があったなんて自分でもびっくりよ
びしゃりという音と鼻をつく臭い。そしてようやく女はガソリンをかけられたと気付いた
え…?
部屋は全てガソリンにまみれていた。店員の一人をみんなが凝視していた。店員の女は、にやにやと凶悪な、つい先ほどみたようないやらしい笑みを浮かべながら空のポリタンクを投げた。その女の左手には、一筋の傷痕があった
頭に一瞬よぎった映像に、女は全てを理解した
この女には、死んだ女、美奈子の霊がついている
憑かれた女は、火を放った
女はあらんかぎりに声をあげ、逃げだした。回りは既に火の海だったが、死にたくない
ぎゃあ!
悲鳴に一瞬だけ振り返ると、美奈子が憑いた女は燃えながら他の定員に抱きつき、形も分からない顔に唇だけが弧を描いていた
ただただ恐ろしく、多少の火なんて問題にはならなかった
女は病室にいた。ベッドの隣には警察の服をきた男がいる
では、その店員が急にガソリンを巻いて火をつけた、と?
はい
にわかには信じられませんね。だいたいあなたはアナウンスで呼び出されたんでしょう?知り合いでは?
違います
幽霊のことは言っていない。言ったところでバカにされ、最悪精神科行きだ。だが確かに無理がある。仮に女が聞いても変な話だと思う
まぁ良いでしょう。あなたは私に何もしてないから、許します
…え?
顔をあげると、警官はにやにやと馴れ馴れしい笑みで女を見ながら、左手で帽子をかぶった
では、失礼します。くれぐれも私に関わらないでくださいね。また、殺しますよ?
警官の左手首には、一筋の傷痕が走っていた
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