空也の想い 【番外編】
俺はずっと心に決めていたことがあった。
それは、もう二度と叶うことはない儚い夢だった――…。
血に染まった俺たちの最期の戦場。
結果的には味方軍の圧勝…とまではいかないが、とにかく兵士数倍以上の敵軍に屈することなく勝利をおさめたのは紛れもない事実。
けれど、今回の戦いで俺の夢は儚く散ったのだ――…。
気が付けば、戦場全体を見渡せるほどのところに俺はいた。
――下には無数の屍。
――鼻をつくほどの血の臭い。
自分が死んだと気づくには、そう時間はかからなかった。
でも、夢なんだろうかとも思った。
いつも見ていた、悪い夢…。
きっと目を覚ませば隣に秀前がいて、優しく微笑む。
『おはよう、空也。また悪い夢でも見たのか?』
心配そうな秀前の顔が鮮明に頭の中に浮かんでくる。
唯一、俺が甘えることを許される優しい秀前。
『秀前がいなくなる夢…。すげぇ恐かった』
真面目に言ったのに、秀前は一瞬驚いたように目を丸くして、スイッチでも入ったかのように大声で笑い出すだろう。俺は怒ったように頬を膨らませるんだ。
そしたら秀前は『ごめん、ごめん』と言いながらも笑っていて、ようやく笑いを堪えると、俺よりも大きい暖かい手でそっと俺の頭部に触れる。
『大丈夫。俺は空也のそばにずっといるよ』
それはいつも俺が悩んでいる時、困っている時に俺に秀前がくれていた優しい言葉。
馬鹿な秀前。
俺がどんな気持ちでお前と一緒にいたかなんて全然分かっていないだろ?
「ホントに…馬鹿だよ…」
呟いた言葉と一緒に、瞳から透明な雫がこぼれる。
しかし、形のない涙は地中に届くこともなく、幻影として空中で消えてしまう。
涙が消えたその真下には、大きな岩。
所々に無数の傷と生々しい血痕。
その岩にもたれるように寄り添う二人。
それは小さな俺の体を抱き締めるように永久の眠りについてしまった秀前だった。
腹部にはさし傷のような大きな傷を負っていた…。
すでに血はかわいている。
しかし、頬にはまだ新しい涙のあとのようなものがあった。
『ゴメン、空也……ごめんな…』
それは先ほどまで唯一戦場に響いていた声。か細く、かすれて、風の吹き抜ける音にさえかき消されてしまいそうな小さな声。
秀前は最期の力が尽きてしまうまで、すでに力のない空也を抱き締めて、ただ“ごめん”と呟いていた。
そんな声を空也はちゃんと聞いていた。
胸が苦しくなった。
無意識に流した涙は止まらなかった。
馬鹿秀前…。
お前が謝ることなんてなに一つないのに…。
あの時――…
『秀前!!』
危ないお前を見て、俺は腕を伸ばすことしかできなかった。助けに行くこともできなかった。
むしろ、俺の声でお前の注意をそらさせてしまった…。
アレは明らかに俺の失態だ。
ごめんな…、秀前。
俺って本当にかっこつかないよな。助けようとしたのに、自分が刺されるなんてさ…。
秀前が馬鹿だとしたら俺はただの大馬鹿者だ。
あのとき、ちゃんと避けることができていたら、あんな顔…させなくてもすんだのに……。
今だに頭に焼き付いて離れない…。
絶望に歪んだ悲しみの表情。
おかげで秀前の笑った顔も思い出せやしない。
――なぁ、秀前…。
笑ってよ。
俺、お前の笑った顔…
大好きなんだ――…。
空に浮かぶ光が、また一つ微笑んで消えた…。
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