勇者ごっこ
「昨日は随分と楽しんだようだなぁ?ヒデ」
朝、教室についてすぐにトモヤに会った。ドアの前で待ち伏せしていたらしいトモヤに道を妨げられる。
秀秋は引きつった笑みを浮かべて目をそらした。
「な、なぜ…それを」
「なぜ…かって?」
秀秋は不思議に思う。昨日のことはトモヤに言っていない。もちろんコウにはすでに口止済み。
となれば、昨日のことを知っていて、告げ口しそうなヤツは一人しかいない。
空だ!!!
あの野郎、まだ昨日のことを根に持ってたのかよ…しつけぇやつめ。次に会った時は第3の術喰らわしてやる。
「言っとくケド、空から聞いたわけじゃねぇからな」
まるで心の内を詠んだかのようにトモヤは言った。その間も鋭い睨みが秀秋に突き刺さっていた。秀秋はどう説明すればいいか分からずにただ視線を泳がしている。
「黙ってるってコトは…裏切りと取ってもいいわけだな?」
低い声が唸る。
「ち、ちがっ!!」
俺は弁解しようと伏せていた目をあげて呆然としていた。なぜなら、目の前にいるトモヤの表情は無でもなく怒気を含むわけでもなくニッコリと笑っていたからだ。
「なーんてな」
「…………へ?」
おどけた調子のトモヤの発言に、秀秋は首を傾げるばかりで。
そんな秀秋の反応に満足気なトモヤはバンバンと秀秋の肩を叩いた。
「昨日ちょうどさ、店から出てきたコウから話を聞いたんだ。空も一緒だったってことも聞いたし、言えない事情があるってこともな」
満面笑顔でトモヤは言った。
「ただお前らが俺なしで遊んだってことに、少し嫉妬しただけだ」
「…つまり…からかったと?」
「そゆこと」
と、言ったのはトモヤではなく一樹だった。今まで気が付かなかったが、窓の前でしゃがみこむように座っていた。
「さぁヒデ!!遠慮することはない!やっちまえ!!!」
ふるふると肩を震わせていた秀秋に一樹は叫ぶように言った。一樹の人指し指はトモヤに向けられていた。
「え?」
トモヤは状況が詠めないらしく、戸惑いを隠せないようで。
一方、秀秋の中では怒りが渦を巻いていた。
「ちょっ!!?ヒデ、ちょっとしたジョークだろ!?」
構える秀秋にトモヤはなだめるように言うが、それは無駄な行為に過ぎない。秀秋の怒りは治まることを知らず、叫んだ。
「古賀流体式第3の術【零八】!!!!」
その後、トモヤはその日授業を受けることなく保健室で寝込んでいたという話だが、俺は知らない――…。
「ヒデ兄!!一樹!!…と、あれ?トモヤは?」
廊下で空と遭遇した秀秋。空はいつも一緒にいるトモヤが不在であることに疑問を抱き、キョロキョロと辺りを見渡す。
「話す・戦う・道具・逃げる」
「へ?」
一樹が突然、意味不明な言葉を発し空はさらに首を傾げた。よく見ると、なにやら一樹は楽しそうに、期待のような眼差しで秀秋を見つめていた。そんな一樹に興味なさそうに秀秋は答えた。
「話す。トモは今保健室」
ふーん、と空はどうでも良さそうに相槌をうった。今はそれよりも、興味の惹かれるものを見つけたからだ。
「一樹は何してんの?」
よくぞ聞いてくれました!!と言わんばかりの視線が空に向けられる。
「勇者ごっこ☆」
「へー…楽しそうだな。でもなんで?」
「気分☆」
一樹は昔から気分屋だった。
だから空も秀秋も慣れ…というものがあって、イチイチ気にもしていなかった。
「今朝、こいつの悪ノリに付き合ってトモに攻撃したんだよ。したら…今朝からずっとこの調子で…」
はぁー…と深いため息をつく。一方一樹はニコニコとご機嫌な様子だ。
「何言ってんの、攻撃はヒデが自分でしたんだろ。でもさ〜、第3はやりすぎじゃない?トモヤかわいそ〜…」
「第3の術!?いってぇ〜」
顔を青くさせながら空は叫ぶ。第3の術【零八】とは、一点集中攻撃で体の一部のどこかをおもいっきり刺激する。いわゆるツボ押しの強いバージョン。
打ちどころによっては、トモヤみたいに気絶(悶絶?)してしまうことがある。また、ぜんぜんダメージを受けない場合もある。まれに自分がダメージを受けてしまう場合もある。
だからあまりやらない。
「だって…ムカついたんだよ」
実際、本気で焦っている秀秋に対してトモヤが心の中で笑っていたと思うと、ムカムカと、知らず知らずのうちに拳を握り締めていたりしていた。
そして気付けば、戦闘体制は整っていた。
「で?今からどこ行くの?」
「「保健室」」
「俺もついてこーっと♪」
「空は仲間にしてほしそうな目で見ています。仲間にしますか?」
一樹は楽しそうにいい、秀秋はキッパリと
「無理!!」と手でバツマークまでつくったりもしたが、それで空が退くハズもなく、勇者パーティは3人になった。 |