第1章 第39.3話 ~番外編 ・ 妹の本音~
こんにちは。
今回は第1章終了後の番外編的な物語となります。
本編では主人公とやり取りしたメールの文面しか出てこない義妹視点でのお話になります。
はたしてこの義妹が本編の方で主人公に絡んでくることは今後あるのでしょうか?
私には歳の離れた兄が居る。
兄といっても、本当の兄ではない。
私がまだ幼かった頃に母が再婚して出来た、新しい父の連れ子だ。
あれは私がまだ幼稚園に通い始めたばかりの4歳の時、母が再婚相手の男性の自宅に私を連れて行ったのが、義兄との最初の出会いだった。
義兄はその時すでに16歳の高校生で、初めて合ったばかりの幼かった私に、優しく手を差し伸べてくれたのを今でもハッキリと覚えている。
そして幼かった私は、そんな優しい義兄によく懐き、毎日のように甘えては喜んでいた。
今にして思えば、あれが幼心に芽生えた初恋だったのかもしれない。
あの当時から、義兄にはオタクっぽい趣味がありアニメやゲームにやたらと詳しかった。
幼かった私も、子供だったためそういった娯楽を喜んで受け入れ、義兄と一緒に楽しんでいた。
そう・・・
私はアニメやゲームを嫌ったりはしていなかったはずなのだ。
あの時までは・・・
義兄は高校を卒業して大学生になると、義父から譲り受けたクルマの中にパソコンを持ち込み、私に隠れてこっそりとゲームをすることが多くなった。
私はまだ7歳で、小学1年生。
まだまだ義兄に甘えたい盛りだったのだが、クルマで出かけたり、車に篭ったりすることが多くなった義兄を見て、だんだんクルマに義兄を取られたような気分を募らせていった。
そして義兄が就職の内定を決めた大学4年生で、私が10歳の小学4年生だった夏、義兄との関係が壊れる決定的な出来事が起こってしまった。
初めて母と一緒になって作った夕食。
義兄に食べて欲しくて、喜んで欲しくて、駐車場のクルマの中でゲームをしていた義兄を呼びに行った。
そこで見てしまったのだ・・・。
パソコンの画面に映ったゲームの中の女の子にデレデレしていた義兄の姿を。
今にして思えば、あれが私の初めての嫉妬だったのかもしれない。
そんな義兄の姿を見て、つい言ってしまったのだ。
「ゲームの女の子になんかデレデレしていてキモイ!」
と・・・
「そんなおにいちゃんなんか大っ嫌い!」
と・・・
あの時、私に「キモイ!」「大っ嫌い!」と言われてショックを受けていた義兄の表情は今でも忘れられない。
ただあの当時の私は、義兄にそんな表情をさせられたことに優越感を覚えてしまっていたのだ。
〝まだおにいちゃんは私のことが好きだからショックを受けてくれたのだと〟・・・
〝嫌ったフリをしていれば、おにいちゃんはきっと私のところに戻ってきてくれると〟・・・
ああ・・・
あの頃の自分に出会えるなら、なぜそんな妄想を抱いたのかと、小一時間問い詰めたい。
その頃から、やや天の邪鬼な性格になり始めていた私は、あの一言をきっかけにして義兄に対して素直になれなくなってしまい、気が付けば心にも無い義兄への悪口を条件反射的に返してしまうほどに、この捻くれた性格を拗らせてしまっていた。
ここ数年などは、家の中で義兄が私に声をかけてきても、条件反射で「話しかけるな、キモイ」と返してしまっているほどだ。
本当は、声をかけてもらって嬉しいのにもかかわらず・・・。
「はぁ・・・
なんでこんな性格になっちゃったんだろう・・・」
現在18歳で高校3年生の私は、大学受験に備えた勉強を毎日深夜までやっているのだが、ここ最近は義兄との仲直り方法ばかり考えてしまい、肝心の勉強がまったくはかどっていない。
義兄は、一週間の有給休暇をとって、友人らと遊ぶために泊りがけで車で出かけている。
同じ屋根の下に義兄がおらず、この数日顔を見ていないのも、私の精神状態が不安定な理由にもなっている。
義兄と顔を合わせれば「こっち見んな、キモイ」とか言っているくせに、自分のことながらなんて身勝手なやつなんだろうと思ってしまう。
なんなことを考えながら何度目かも分からないため息をついていると、私のスマートフォンにその義兄からのメール着信を知らせる表示が点った。
時計を見てみると、もう朝の5時になろうとしていた。
うわぁぁ、今日は授業中居眠りしちゃうかも。
とりあえず寝る前に、義兄から届いたメールを見ることにした。
そのメールは、兄の遊び仲間に宛てたグループ送信と一緒に、私にもBCCで送られてきたものだった。
そしてその内容を読んで、私の頭の中は混乱してしまった。
『丑三つ時に山道走っていたら、悪霊に出会って、気が付けば異世界。なのでBBQオフに食材届けられなくなった。スマン。』
「お兄ちゃん、いったいどうしちゃったの?」
この独り言が、私が何年かぶりに発した〝お兄ちゃん〟という素直な呼び方だった。
翌日・・・というかその日の学校での私は、今朝義兄から届いたメールの内容が気になって、居眠りどころではなくなっていた。
もちろん授業を受けるどころでもなく、授業中は完全に上の空たっだ。
今日の授業内容が明日テストに出たら、0点を取る自信があると断言する。
義兄は子供のようにはしゃいで遊ぶところがあるが、あのような悪戯メールを送って友人らを困らせるようなことは絶対にしない性格だ。
ましてやバーベキューの食材調達を任されていたのであれば、必要以上に力を入れて食材をそろえ、友人らを楽しませようとする人だ。
その義兄が、バーベキューの会場に行くことすら出来なくなったというのは、途中何かトラブルが起きたに違いないのだが・・・メールに書かれていた〝丑三つ時に山道走っていたら、悪霊に出会って、気が付けば異世界〟の部分がまったく分からない。
そんなことを考えていると、また義兄からのメールが届いた。
今度も兄の遊び仲間に宛てたグループ送信と一緒にBCCで送られてきている。
そのメールには『これで異世界信じてもらえる?』とだけ書かれており、動画投稿サイトのURLが記載されていた。
今すぐその動画を見たい衝動に駆られたが、今は授業中。
さすがに動画はマズイ。
なので私は挙手をして先生に声をかけ、「気分が悪いので保健室に行きます」と告げて、教室から出て行った。
嘘は言っていない。
寝不足で眩暈がするほど気分が悪いのは事実だし、先生も「顔が真っ青だけど一人で歩けるか?」と心配してくれたほど、私の顔色は最悪だったようだ。
とりあえず付き添いは断り、一人で保健室まで来た。
ここまでの間に、階段とかで遭難しかけたが、何とかたどり着けた。
保健室に入ると、保険医が「とりあえず寝ていなさい!」と言うほどに私の見た目はひどい事になっていたようだ。
問答無用で保健室のベッドに寝かせられたが、今はまだ寝るわけにはいかない。
私はシーツを頭までかぶりスマートフォンを隠して動画を再生した。
そこには義兄が大切にしているあのクルマが、光ながら形を変える様子が映し出されていた。
さらには義兄やクルマの周囲を、身長40センチくらいの可愛い女の子が飛び回っていた。
あれ?
最初のメールに書かれていた異世界って、本当に別世界の異世界のことなの?
お兄ちゃんは、もう私の手の届かないところに行っちゃったの?
そう思った途端、スマートフォンを握る手が震えだして、強烈な吐き気が襲ってきた。
視界も、貧血の徴候のように広くなったり狭くなったりを繰り返している。
「これはヤバイ」と思っていた時、スマートフォンにまた義兄からのメールが届いた。
今度は私だけに宛てたメールだ。
どうやら義兄は、先の2通のメールをBCCで私にも送っていたことに気が付いていないようで、先の動画のURLなどと一緒に異世界に行ってしまった経緯が詳しく書かれていた。
「もうお兄ちゃんに二度と会えない?」
そう思い呟いてしまった瞬間、私の視界は貧血でホワイトアウトし、そして意識を失った。
目を開けると、そこに見えたのは見慣れた自分の部屋の天井だった。
どうやら私は、自分の部屋のベッドに寝ているようだ。
ベッドの脇に常に置いてあるデジタルカレンダータイプの目覚まし時計を見ると、保健室での出来事から2日が経っていた。
かなりの疲労がたまっていたのだろう・・・
私は丸1日以上寝ていたことになる。
時計の表示は13時を少し過ぎたところだった。
空腹感を感じ、ベッドから起き上がると、食べ物を求めて1階のリビングへと向かった。
そこには母が居て、私が一昨日学校で倒れて家に連絡があったこと。
義父がクルマで迎えに行って、家まで運んでくれたことを説明してくれた。
そういえば、昔は私が学校で具合が悪くなると迎えに来てくれるのは義兄の役割だった。
天邪鬼な私は、内心は喜びながら、迎えに来てくれた義兄に文句ばかりを言っていた。
それなのに義兄は、いつもニコニコ笑っていたっけ。
母が作ってくれた胃にやさしい食事を食べながら、そんな義兄の優しさと、その義兄にもう会えないのかもしれない状況を思い出し、私の瞳からポロポロと涙がこぼれた。
母はそんな私を見て「どうしたの? 何があったの?」と訊ねてくるが、〝義兄が異世界に行ってしまった〟という内容があまりにも突拍子もなく、私はその事を母に話すことはできなかった。
心配する母に何も話せないまま食事を終えた私は、自分の部屋に戻ってベッドに横になった。
少しはまともに思考することが出来るようになった頭で、義兄の事を整理してみる。
今のところ義兄が異世界にってしまったという具体的な証拠は無い。
唯一それらしいものがあるとすれば、常識的にはありえない様子が映し出されていた動画投稿サイトの映像だが、あれだって義兄が皆を驚かせるために以前から準備していた映像の可能性だってある。
まぁ・・・その場合、義兄が私にまでそんなドッキリを仕掛ける理由が見当たらないし、そもそも義兄が友人らとのバーベーキューの約束を台無しにしてまで、そんな悪戯をすることの方がありえないのだが・・・。
結局、そんな答えの出ない憶測を考えているうちにまた寝てしまったようで、夕飯を告げる母親の声で目が覚めたときには、時計の針は午後8時を過ぎていた。
受験ノイローゼではないかと疑い始めた母や義父に「大丈夫だから、心配しないで」と告げながら食べた夕食を終えて部屋に戻ると、ベッドの上に置いていたスマートフォンにメールの着信を告げる表示が出ていた。
手にとって見ると、それは義兄からのもので、今度は画像の添付ファイルが付いているみたいだった。
義兄が異世界に行ってしまったことを裏付ける証拠が増えてしまったらどうしよう・・・。
そんな心配をしながら、恐る恐るメールを開き添付ファイルを表示させると、そこには10歳前後の可愛らしい女の子3人(しかも下着姿)と一緒にベッドの上で横たわっている義兄の姿が映し出されていた。
しかもメールに書かれていたのは『異世界で幼女ヘブン♪ 人間、ネコミミ、エルフ、精霊に囲まれたハーレムなう!』という、実にふざけた文面のみ。
これを見た時、私の中で何かが切れる音が聞こえたのは間違いないと思う。
私がこんなにも義兄の事で頭を悩ませているのに、当の義兄は異世界とやらで可愛らしい女の子らとイチャイチャしていた事に、もの凄い怒りがこみ上げてきた。
文句の一言でも言ってやりたくなり、すぐに義兄の携帯に電話をかけたが、「お掛けになった電話番号は電波の届かないところか、電源が・・・」という自動メッセージが流れてくるだけで繋がらない。
『バカ兄貴の変態。死ね!』
怒りに任せて指が自然に打ち込んだ文面を送信した後、私の頭は急に冷静になって先ほどの添付画像を眺めていた。
「これって・・・本物じゃないよ・・・ね?」
そう呟いて見ている画像には、金髪の美少女と一緒に、耳のとがった薄緑色の髪をもつ少女(この子がエルフ?)や頭にネコ耳が生えているこげ茶のショートヘアーの少女(この子がネコミミ?)、そして先日の動画にも映っていた身長40センチくらいの人形のような女の子(精霊?)といった、あきらかに人間とは違った特徴を持つ女の子が映っていた。
いろいろと訊きたい事が多かったが、怒りに任せて罵詈雑言な内容のメールを送ってしまった直後だけに、素直に聞くのも躊躇われてしまい、結局は放置する事にした。
どのみち義兄の有給休暇は明日までだ。
明後日になれば会社に行くために帰ってくるはず・・・。
私は自分にそう言い聞かせて、その日は体調を整えるために何も考えずに眠る事にした。
それが問題を先送りにする、現実逃避と分かっていながら・・・。
翌日、学校を休んでまで自宅の駐車場を見張り、さらには翌朝の新聞配達が始まる深夜まで義兄が家に戻ってくるのを待っていたが、結局義兄が家に帰ってくる事は無かった。
翌日の朝食時に顔を合わせた母や義父は「直接会社にでも行ったかな?」などと気楽に考えていたようだったが、すでに私の心の中には「やっぱり義兄は異世界に・・・」という絶望感が大きく膨らみ始めていた。
義兄の事が気になって勉強どころではなかったが、すでに学校を3日連続で休んでしまった事もあり、素直に登校することにした。
どのみち自宅に居ても思考が悪循環するだけで、できる事など無いのだ。
であれば、学校に行ってクラスメイトらとおしゃべりでもしていた方が気分転換にもなると考えた。
きっと夕飯の時には、旅行から帰ってきた義兄が家に居るはずだと自分に言い聞かせた。
そんな淡い期待は、昼休みに母から届いたメールで打ち砕かれた。
母からのメールには、義兄と電話連絡が取れず、会社に出社していないと勤務先から連絡があった事が書かれていた。
兄は無断欠勤をするような性格ではない事を母も知っているため、もしかしたら交通事故にでもあったのではないかとかなり心配をしている様子だった。
私もすぐに義兄の携帯に電話をしてみるが、相変わらず機械的な不通メッセージが流れるだけ。
ただ、今までもメールだけは義兄に繋がっていたため、とりあえずこっちの事情と、母が心配している事を伝えることにしてみた。
『バカ兄貴へ
家に兄貴の勤め先から電話があって、兄貴が出勤してこないと言われたって、母さんからメールがあった。
もしかして、まだ異世界ごっことかしているの?
いい加減にしないと怒るよ』
最後の2行は、〝兄は異世界になんか行っていない〟という、私の淡い期待も込められている。
しかし、その兄からの返信は・・・
『久美は信じないかもしれないが、本当にクルマごと異世界にいるんだよ。
ネットだけは繋がる状態だから、信じてもらえないかもしれないけれど。
とりあえず明日の夜にでも親父たちに俺の捜索願でも出すように言っておいてくれ』
という、私の期待を裏切る内容だった。
昼休み時間に、突然泣き出した私に、慌てだす周囲の友人たち。
泣いている理由を聞かれても、それに答えられるわけもなく、私は「気分が優れない」とだけ担任教師に伝え、午後の授業を早退した。
「もうこれで受験ノイローゼ扱いになるのは確実だろうな・・・」
そんなことを考えながら自宅に帰ると、そこには母からの連絡を受けて帰宅していた義父の姿もあった。
消息不明になっている義兄をめぐり、家庭内が騒然となってしまった今となっては、もはや義兄から受け取っていた正気を疑うようなメッセージの数々を黙っているわけにはいかず、私は母と義父にその内容を全て打ち明けた。
義兄の消息に関連した私の告白が、あまりにも突拍子もなく、常識を疑うような内容だったため、その内容を聞き終わった母と義父はかなり戸惑っている様子だった。
しかしながら、義兄の性格を考えればこのような悪戯をする人間ではない事から、血の繋がるのある義父は半信半疑ではありながらも、無理やり納得しようとしている感じだった。
「とりあえず、明日警察に行って、薫の捜索願を出してくる」
義父はそう言って立ち上がると、「ちょっと近所を歩いて頭を冷やしてくる」と玄関に向かって歩いていった。
途中私の方を振り向き「さっきの異世界云々の部分は、今は警察には黙っていようと思う」と告げ、我が家の番犬である〝ケンタ〟を連れて散歩に出かけてしまった。
残された母は、「とりあえずメールは繋がるという事は、薫ちゃんは生きている証拠よね」と言い、こっちも夕食材料の買出しに出かけてしまった。
二人とも、現実逃避が露骨過ぎるよ・・・。
まぁ、私も人のことは言えないんだけどね。
その日の夜、今までに義兄から届いたメールを全て読み直し、兄を奪った犯人(元凶)がこの世界の神様(女神)と、あのクルマに宿った八百万の神(レガ子)である事を再認識した。
「私、今から物理学が有名な大学に志望変更する」
夕飯の時に一方的にそう宣言した私に、母も義父も目を白黒させていたが、私はすでに自分がやるべき事を決めていた。
受験勉強のために買い揃えていた参考書の横に、今日買ってきた一冊の本が置いてある。
それは「リサ・ランドール異次元は存在する」という理論物理学の本で、異世界の存在を数式の上で肯定している本だった。
本当に異世界があって、そこに義兄が居るのであれば、私はそこから義兄を取り戻すだけだ。
私は壁に貼っていた受験目標が書かれた色紙をはがし、そこに新たな目標を書いた色紙2枚を並べた。
そこには・・・
〝打倒、女神!〟
〝打倒、レガ子!〟
の文字が大きく書かれていた。
レガ子「あっ、久美さまのお話なのっ」
作者「この子の話しは、以前からちょっと書きたかったのよね」
レガ子「まさか、久美さままでもがライバルだったとは思わなかったのっ。
いつも薫さまの事をボロクソに言っていたから安全牌だと思い込んでいたの」
作者「まぁ・・・この件は薫君にはナイショでなっ」
レガ子「わかっているのっ。
これ以上競争相手は増やしたくないのっ」