第3章 第01話(第88話) ~忙しくも、平穏な日々(前篇)
職場で役員へと昇格してしまい、仕事の忙しさから執筆活動がなかなかできなくなってしまっていました。
第2章の終了から、かなり(2年ほど)投稿の間が空いてしまいましたね(汗。
なかなか以前のようなペースでは執筆できないとはおもいますが、少しづつお話を進めていきたいとおもいます。
とりあえず今回のお話からが第3章となります。
かつてこの世界で高度な文明を誇っていた天使族。
その彼らが残した遺跡の入り口を覆い隠すために、リーゼが女神の力で巨大な建物をその上にクリエイトしてから2週間が経とうとしていた。
その後、ここを拠点として腰を落ち着けていた自分たちのもとに、この地に新たな街を作るために覇権されたフローリアス王国の工兵部隊が合流し、すでに街づくりがスタートしていた。
第5騎士団からこの地に派遣されていたハンスさんをはじめとする新生竜騎兵の面々は、すでに騎士団の本拠地であるロイドに帰っており、今はこの地へ戻るために転属の準備に追われているらしい。
その理由は以前クリスが予想したとおりだった。
ロイドには竜騎兵の部隊施設を新たに建設する土地が無く、ワイバーンの飼育には普段の運動で使用する広大な敷地も必要なため、こちらに竜騎兵の本拠地を置くことが決まったそうだ。
ちなみにロイドでは今、ハンスさんらが乗っていった4匹のワイバーンのために駐屯用の宿舎を建築中とのことだった。
俺も本来であれば旅を再開して、子供たちを生まれ故郷である村々に送り届け、彼女らのご両親に挨拶と重要な報告をしていなければならないはずだったのだが・・・工兵部隊による街づくりが始まってしまったことで事務仕事が急激に増えてしまい、その手伝いで未だにこの地を旅立てないでいた。
・・・・・決して彼女らのご両親に会うのが怖くて、旅を先延ばしにしているわけじゃないんだからなっ。
「カオル様、街役場なる施設の修正図面が上がってきましたので、チェックをお願いします」
リーゼが建てた拠点施設の3階に急きょ設置された俺の執務室。
そこに図面をもった工兵部隊隊長のアヴァロさんが入室してきた。
俺の隣で書類つくりのサポートをしてくれているクリスは一瞬だけ顔を上げたが、アヴァロさんの姿を確認すると、その視線を書類へと戻してしまった。
俺は女神であるリーゼがくれた加護のおかげでこの世界の文字や言葉は理解する事ができるのだが、文字や文章を書くことが全くできない。
そのためクリスが書類作成のサポート・・・というか手書き作業の全般を一手に引き受けてくれていた。
ちなみにアヴァロさんと数人の部下は、隣の部屋に作られた臨時の工兵部隊用オフィスで、リーゼから俺の世界の現代建築式図面の描き方や知識を教わりながら、これから建設する街の施設を考案する作業に従事していたりもする。
「おっ、もう修正が終わったのか?」
「リーゼ様の指導が上手なおかげですね」
「リーゼに人に教える才能があった事には驚いたが・・・アレがちゃんと仕事をしているようで安心したよ」
「あははは・・・毎朝遅刻してくるのと、ちょっと目を離すとお酒を飲んでいることを除けば、実に優秀な女性だと思いますよ」
「あの駄女神・・・。
だらしないところがある助手で申し訳ない」
リーゼの正体が女神だという事は重要秘密事項であり、対外的には魔導器製作者である俺の助手ということにしてある。
もっともこの国のお姫様で、リーゼの正体を知っているクリス曰く「あまりにポンコツで、寝穢く、さらに酒にだらしなすぎるため、とてもじゃないがリーゼ殿のことを創造神様だとは公表できん・・・」とのこと。
まぁそうだよね。
あのポンコツがこの世界を管理している神様だなんてバレたら、国民の信仰心が揺らぎかねないよねぇ。
「いやいや、自分の部下らに比べれば可愛いもんですよ」
俺の謝罪にそう答えながら苦笑いを浮かべるアヴァロさん。
この人も癖が強い職人気質の人間が部下に多いから、結構苦労していそうだよなぁ。
「でこちらが街役場の最終図面になります」
応接セットのテーブルに図面が広げられたので、自分も事務机からそちらへと移動する。
すでに俺の机の上は事務処理を待つ書類で山のように埋め尽くされており、図面を広げるようなスペースなど無くなっている。
そのため最近の打ち合わせは応接セットで行うのが通例となっていた。
「左右対称に部屋を配置したこの独特な間取りにも驚きましたが、訪れる住民の内容によって窓口となる部屋を分けるという発想は考えもしませんでした」
そうなのだ。
この世界の役場というのは、住民登録から苦情や相談ごとの雑事まで、ずべてを一つの部署で受け付けているのが一般的なのだという。
そのため、どこの町でも役場は混雑がすごいらしく、役人の対応も殺伐としたものになってしまうらしい。
なので、この場所に作る街では役場の部屋を組織ごとにいくつかに分割し、それぞれの部署ごとに住民からの相談窓口を設けることにした。
「たしか・・・右の入り口横が住民登録に関連する部屋で、左の入り口横が商人や職人への業務許可や、一時滞在する業者などの登録をする部屋じゃったな」
広げられた図面に興味を示したクリスが、書類作成をやめて俺の隣に座るようにソファーへと腰かけた。
「まぁその二つは逆でもいいんだけどね。
そして左上の部屋が、主に工兵部隊の事務方が使うことになる土木関連の部署。
右上の部屋は、税金や雑務などを扱う庶務関連の部署だな」
「上の方にある4つの部屋は会議室という事でしたが・・・」
「街が動き出したら、部署を跨いでの打ち合わせも必要になるでしょう。
それに外から偉い人とかが来た時に応対する部屋も必要ですし」
「ほう、右の二つの会議室は可動壁で仕切られているのじゃな」
「大人数での会議が必要な時に、部屋の間にある壁を畳めば大部屋にできるからね」
「この畳める壁の仕組み、この建物で現物を拝見させていただいた時、目からうろこが落ちる思いでした」
そう言ったアヴァロさんの顔は、執務室の斜向かいにある大部屋へと向いていた。
その大部屋には先程彼が口にした可動式の仕切壁が備えられている。
俺がいた元の世界だと、この手の仕切り壁はホテルやイベント会場で一般的にみられる仕組みなんだけど、どうやらこの世界ではこういった仕掛けは考えられていなかったようだ。
「しかし、ずいぶんと廊下のスペースを大きくとったのぅ」
見取り図を見ながら、クリスが眉間にしわを寄せて唸っている。
こっちの役場は業務をこなすための最低限のスペースがあればいいという考えがほとんどらしいからな。
それに住人が快適に利用できる施設という発想もないらしい。
「役場は住民が快適に利用できる施設じゃないとダメだと思うんだよ。
ましてやここに造る街は、まだどこの国にもないような最先端の技術や考え方を取り入れて広めようと思っているわけだから、まずは役場とかの公共施設からその手本を示して行かないとね」
「それでこんなにも多くのソファーが、中庭を見れる窓際に置かれているのじゃな?」
「利用時に飲食を禁止したりのルール作りは必要だけど、役場が住民らの憩いの場にもなればいいと思っているからね」
「となると・・・上手く回すためには、思考の柔らかい役人を探して連れてこなければならないかのう・・・」
俺の運用方針を聞いて、クリスの表情が一層難しいものへと変わった。
どうもこの国の役人というのは頭の固い選民意識の強い人物が多く、こういった運用方法に難癖をつけてくる可能性が高いらしい。
その理由は、役人の大半が貴族の師弟縁者で、既存の過価値観や仕組みを変える事を嫌っているかららしい。
さらに役人の偉い人となると、ほぼ100%貴族の関係者で、既得権を守ることしか考えていない輩も多いそうだ。
まぁ、別に既存の役人を引き抜かなくてもいいけどね。
どうせ役場のシステムそのものを一から作り直すつもりなので、読み書きや計算が出来る人間を庶民からに雇ったっていいだろうし。
俺がそんな事を考えてクリスに伝えていると、アヴァロさんが新しい図面を広げはじめた。
「あとこちらがリーゼ様に描いてもらった、役場の完成予想図になります」
「いや~まさかリーゼ様にこのような緻密な絵を描く才能があるとは」
「あはははは・・・」
本当はリーゼの私室にあるパソコンもどきで3D図面を作って、それをプリントアウトしているだけなんだけどね。
さすがにこの世界の人たちにパソコンを見せるわけにはいかないから、リーゼには部屋に籠って描いている・・・ということにしてもらっている。
まぁ、リーゼも部屋で仕事をしている時はお酒を飲みながら作業ができるとあって、喜んで引き受けているようだけど・・・。
「この鳥瞰図や外観パース図のおかげで、今建築中の騎士団庁舎の現場でも職人たちのミスや思い違いが減って助かっています」
「そういえば、その騎士団庁舎は今どれくらいまで出来上がっているんだ?」
「現在は主な骨組みを組み終えて、屋根や外壁下時の施工を行っている段階ですね」
そう言いながらアヴァロさんは騎士団庁舎の図面を新たに広げ、現在行っている作業カ所を指し示しながら説明を始めた。
「建物の左側1階部分が2階までの吹き抜けで、その1階部分が馬屋も兼ねた作りになっているため、少ない柱で大きな空間を支えられる柱や梁を用意するのに時間がかかってしまいました」
この世界の建物に使われている柱や梁の素材は、森から切り出してきた木材を加工したものだが、この世界特有の加工方法によって、俺がいた世界の木造建築物よりも長い柱や梁、そして少ない柱で建物を支えることを可能にしていた。
それは柱や梁となる木材を魔法によって加工・接合・強化することで、鉄骨並みの強度を持たせることができることを意味していた。
そのためこの世界の大工という職人には強化魔法を使える人が多いらしい。
ただ、木材の強化措置には半日くらいかけて術式をほどこさないとならないそうで、1日に作れる柱や梁の数がかなり制限されてしまうという難点があるそうだ。
「それでもこの短期間で骨組みに必要な木材を作り終えたのですから、さすがですね」
「まぁ、うちは人数だけはいますからね・・・。
隊員らを総動員されば、これくらいはこなせないと話になりませんよ」
そうは言うが、200人近くもいる隊員のほどんどが強化魔法を使えるという点でアヴァロさんが指揮する第3工兵部隊の練度の高さが窺えるというもの。
こんな精鋭部隊をこの街の専属職人として引っこ抜いちゃって本当に大丈夫なのか?
そんな心配を胸にクリスの方を見るが、彼女は「気にするな」と言うかのようにニヤリと笑みを浮かべるだけだった。
「あと、近隣の森から切りだした木材の運搬でレガ子様が大活躍してくれていますからね。
木材運搬に割く人員を大幅に減らすことが出来て助かっています」
そういえばレガ子の奴は、自身の本体であるレガシィを自律運転モードで使って、切りだした木材を乗せた台車を引っ張りながら走り回っているんだったな。
毎日のように自由に車体を動かすことが出来て、さらに走行距離という経験値も稼ぐことが出来ているため、ここ最近のレガ子はやたらと機嫌がいい。
つい先日も「某マッ〇GOのように丸鋸が車体前方から飛び出てくるギミックがあると、木材確保が捗るのっ!」などと物騒なことを言っていたな。
「このペースなら、内装や外壁に必要な板材の確保も問題ないはずです」
レガ子の働きっぷりに助けられているためか、いつの間にかアヴァロさんの表情が柔らかいものになっていた。
「ジョニー隊長からも騎士団の寝床となる庁舎は急かされていますから、おそらくハンス殿たちがロイドから戻ってくる頃には完成させることが出来ると思います」
「そういえばハンスさんらはいつ頃戻ってくるんだ?」
ロイドにいる騎士団長のマロウさんと毎晩のように通信用魔導器で連絡を取っているクリスに直近の情報を訊いてみる。
「竜騎兵候補となる騎士の選定に手間取っているようじゃな・・・」
そう言いながらクリスはこの部屋の窓から見える外の風景に視線を移した。
そこには、きれいに隊列を組んで、建物の周囲を行進をしている10匹のワイバーンの姿が見える。
その先頭にいるのはミャウが契約したワイバーンで、その背中にははしゃぐミャウの姿も見えた。
「騎士団の皆は、いずれも足を地に付けて戦ってきた者ばかりじゃからなぁ。
それが空の上で戦うとなると、転職に戸惑う者も多いようじゃな。
皆がミャウ殿のように適合できれば楽なんじゃがなぁ・・・」
「いやいや・・・ミャウのケースは特殊だって・・・」
「昨晩の伯父上からの報告だと、選定を終えて、候補者らを引き連れてロイドを出発するには、あと2週間くらいかかりそうな感じじゃったな」
「となるとハンスさんらがここに戻ってくるのは、早くても3週間後以降か・・・」
「それであれば、騎士団庁舎は問題なく完成していますね。
竜騎兵専用庁舎については、まだハンス殿らと詰めなければならない部分がいくつも残っていますので、彼らの到着後に図面を作る感じですかね」
「騎士団庁舎が次完成した後は、この街役場の建築でも始めるか?」
「それも徐々に行いますが、現時点では役場の必要性が急務ではないので、以前カオル殿が提案した公衆トイレなるものを試作してみようかと・・・。
どのみち作業員やココに居る騎士たちの排泄物処理に必要になりますので」
そう言ってアヴァロさんが取り出したのは、数日前に図面が完成した公衆トイレの図面だった。
「青い外壁のが男性用で、赤い外壁が女性用だったかのう」
「まぁな・・・異性が立ち入るのを禁止するなどの運用面でのルールの浸透が必要なんだよなぁ」
「そのあたりの慣例づくりだけでなく、今後街の随所に配置していくにあたってのテスト運用をしてみようかと思っています」
この世界にあるトイレは男女共用で、汚物処理用の黒スライムを閉じ込めた地下の空間に排泄物を落とす「落下式便所」が主流だそうだ。
ただ密閉した空間に黒スライムを閉じ込めているため、黒スライムがやがて窒息死してしまい、数年ごとに黒スライムを追加投入する欠点を抱えていた。
(どうやらこの世界には窒息死の概念がなかった模様)
かつての日本で普及していた汲み取り式便所に比べれば利便性は高いが、便槽との間が直下管でつながっているため、臭いを遮断するためのU字型トラップがないという共通の欠点も抱えていた。
そこでかつての汲み取り式便所にみられた煙突式の臭突を改良した装置を便槽に繋げて黒スライムの窒息死を防止し、さらに水の魔石を利用した水洗トイレを設置することで室内側への匂いの逆流をも防ぐ新しい方式のトイレを提案したのが一週間ほど前のことだった。
「黒スライムの繁殖は上手くいっているのか?」
「リーゼ様の助言を実行してみたところ、黒スライムだけでなく白スライムも物凄い勢いで増えています。
ただ・・・この繁殖方法が普及すると、黒スライムの価格が暴落するかもしれません」
「あ~、いきなり価値が暴落すると、黒スライムの取引で生計を立てている者らが困るじゃろう。
となれば、この養殖方法は徐々に公表した方がいいかもしれないのぅ」
「はい、姫様のおっしゃる通り、情報の公開は徐々に行ったほうがよろしいかと」
「むぅ・・・我の事はクリスで構わんと言っておるのに・・・まったくアヴァロ殿は堅物じゃのう。
少しはジョニーの奴を見習ったらどうじゃ」
「ジョニー隊長のアレは姫様とは兄妹のように育った幼馴染ゆえ許されているのです。
普通の騎士が姫様のことをそのように呼んだら、たとえ部隊長といえどマロウ騎士団長の鉄拳制裁が飛ぶのが普通です」
「伯父上は少しばかり脳筋過ぎるのじゃ!」
「なぁ・・・今更だけど、俺も『クリス様』とか『クラリス様』とか呼んだ方がいいのかな?」
「カオル殿にまでそのような他人行儀な呼び方をされたら、我は泣くぞっ!」
そう叫んだクリスの瞳には少しばかり涙が浮かんでいた。
クリスの事をいぢりすぎると、機嫌を損ねて書類仕事を手伝ってくれなくなるかもしれないので、この辺でやめておいた方がいいだろう。
なにせ俺は、この世界の文字はなんとなく読めても、文章はまったく書けないのだから・・・
「で、公衆トイレのテスト設置場所はどこに?」
「遺跡西側にある工兵隊の仮宿舎の近くにしようかと」
「なるほど・・・であれば水洗便座や洗面水栓などの魔導器を量産しておいた方がいいな。
明日からしばらくの間、リーゼをこっちの作業で借りても構わないか?」
「必要だとおもわれる事は一通りご教授いただいたので、こちらは問題ありません。
あと水の魔石についても、騎士団の騎士たちが水辺での魔物退治でそれなりの数を採取していますので、心配はないかと思います」
「むぅ・・・カオル殿はこの書類の山から逃げるつもりじゃな?」
「ぐっ・・・」
でも俺この世界の文字で文章とか書けない役立たずだし・・・という言葉が出かかったが、この場に俺の素性を知らないアヴァロさんが居ることを思い出して、あわてて言葉を飲み込んだ。
「それであれば姫様、あとの事務仕事は我々が引き受けます。
それに、赴任地での建設物に関する書類は、もともと我々の仕事なのですから」
そうだった。
そもそも俺らが書類仕事を引き受けることになったのは、アヴァロさんをはじめとした一部の隊員らがリーゼからこの世界にはない建築学を学ぶための時間を作るため、彼らの雑務を減らすことが目的だったっけ。
ということは、この2週間余りでリーゼ先生の講義はあらかた終了したということだろう。
「リーゼ様からご教授いただいた知識は、建築に関する基礎レベルという事でしたが、それでも我々が知らなかった知識や技術、アイデアが詰まっていました。
いましばらくは、この新しい知識を部隊の中で共有し、技を極めてみたいと思います。
そこから先の知識の講義は、カオル様らがこの地に正式赴任した後にお願いできればと・・・」
「うむ、では明日からの書類作成はアヴァロ殿たちに頼むとしよう。
ということでカオル殿、明日からの魔導器錬成には、我も同行するからの」
瞳を輝かせながら俺の方を見て、そう宣言するクリス。
クリエイト中の作業風景ってやたらと地味で面白いものなんてないと思うのだが、なぜかクリスは俺が行うクリエイトの現場に同席したがるんだよなぁ。
この辺りの好奇心の強さが、幼いながらに『賢者』の異名を彼女が持つことになったゆえんなのかもしれないな。
俺が使うクリエイトのスキルは、素材となる物質を高次空間に放り込んでマナへと一度分解し、全ての異世界の源でもある世界樹が持つ創造プログラムの一部を借りてこれから作ろうとする物体の設計図を作り、それを元にマナから物体へと再構築しなおす技だ。
素材となる物質が必要なのは、その素材が持つ設計図の部分を補う事で、創造プログラム使用時の俺の脳への負担を減らすためらしい。
ちなみに世界樹と共に生まれ育ったリーゼであれば、全くの無からマナだけでいろいろな物体を創造することができる(なおリーゼの複製体であるシスターズの娘っ子らも、規模は小さいが無からの創造が可能だ)。
まぁ俺に設定された制約は、創造神らと同じ力を人間に持たせないためにリーゼが施した安全策じゃないかと思っているけどね。
それに、俺もそんな強大な力はいらないしな。
ただ俺が魔導器などをクリエイトする為には、本来はレガシィに設置されているイベントリを経由して世界樹が持つ創造プログラムにアクセスする必要がある。
が、今そのレガシィは木材運搬のためにレガ子がフルタイムで使っているので、俺が自由に使うことが出来ない。
実は数日前にも似たような状況に直面して困ってしまったことがあった。
この時、リーゼが女神のチカラで俺をサポートすることで、レガシィ抜きで世界樹へのアクセスを可能にしてくれたのだ。
その時の共同作業で作ったのが、現在建築中の騎士団庁舎の現場に納品されている便器や洗面水栓設備、魔力暖炉だったりもする。
「まぁ、あと3日もすれば伯父上が来てしまうからのう。
落ち着いて魔導器を作るなら、明日と明後日が勝負じゃぞ」
「へっ?
ちょっと待てクリス、その情報は今初めて聞いたんだが?
マロウさんはロイドにいるんじゃないのか?」
「おや・・・言ってなかったか?
伯父上は昨日、早駆けの馬をかっ飛ばして単身ロイドを出立したそうじゃ」
「いったい何のために?」
「ロイドを4日ほど前に出発した護送部隊を追いかけているそうじゃ」
「なんで?」
「ここで捕虜にしているデルバート殿を早く見たいと言いておったな」
あの人はいったい何を考えているんだぁ!
護送部隊って、デルバートさんをロイドへと移送するためにここに向かっている部隊だよな。
4日分の移動距離の差があるのに、まさか昼夜馬を飛ばして追いつくつもりなのか?
だいたい騎士団を束ねる総責任者が、仕事を放り投げて単身で飛び出すとかダメだろう。
クリスから初めて聞かされた衝撃の事実に、大きなため息を漏らしてしまう。
「あきらめろ、伯父上は脳筋ゆえジッとしているのが苦手なのじゃ。
きっと今頃はロイドの騎士団本部でも、副団長らがカオル殿と同じようにため息をついていることじゃろうて」
「あはははは・・・、はぁぁ」
応接テーブルに両手をついて、ガックリとうなだれる。
そんな俺を無視してアヴァロさんはクリスに今の話しの確認を取っていた。
「騎士団長殿がこちらにいらっしゃるとなれば・・・こうしてはおれません、自分は建築現場を回って部下らに発破をかけてきます。
申し訳ありませんが、カオル様には今の情報を妻・・・副隊長にも伝えていただけませんでしょうか?」
「ああ、了解した。
たしかキスニルさんはアリシアと一緒に遺跡の内部を見学中だったな」
アヴァロさんやキスニルさんらに立ち入りを解禁したのは、遺跡地下1階の居住エリアまで。
セキュリティがさらに強固となっている物資貯蔵庫より先は、まだ立ち入り禁止にしてある。
であればそろそろ見学を終えて出てきてもいい頃合だろう。
先に退室したアヴァロさんを追うように部屋を出た俺とクリスは、先に2階のプライベートスペースに行き、そこで自室に引き籠って缶ビールを飲んでいたリーゼをピックアップして、そのまま1階の階段横にある部屋・・・遺跡の入り口を隠しているスペースへと移動した。
ここは建物の中であるにもかかわらず、床の部分はもともとあった地面がむき出しになっており、部屋の中央部に遺跡の入り口が元々の状態で置かれている。
遺跡入り口の扉は閉まったままだが、扉の横にある承認キーを兼ねたパネルの表示は、遺跡内に人が居ることを示す淡いブルーの発光色に変わっていた。
遺跡を調査しているうちに分かった事だが、このパネルは俺やアリシアなどの生命体が遺跡内に入っている場合は淡いブルーに、内部が無人で高密度マナが空間に充填されている時は淡いピンクに光ることが分かっている。
で、今のところこの遺跡のパネル認証が可能な人間は俺とアリシアの二人しかいないため、パネルの発光色でアリシアが中に居ることが分かるというわけだ。
「薫さ~ん、アリシアちゃんはまだ中みたいだけど、どうします~」
缶ビールをチビチビと飲みながら、リーゼが遺跡の中に入るかどうか訊いてきた。
まったくこの女神様は、ほんとうに酒好きなんだから・・・。
「たぶんもう少し待てば出てくるだろうから、そこらへんに置かれているベンチにでも座って待とう。
というか、そのビール・・・アリシアに見つかったら、また説教が始まるから早く飲んでしまった方がいいぞ」
「あわわわわ、そうでした。
最近のアリシアちゃんは飲酒量の管理がお母さんのようにうるさいのでしたぁ~」
「いやいや、リーゼに親とか居ないでしょうが・・・」
慌てて缶ビールの中身を喉に流し込み始めたリーゼに、冷静なツッコミを入れる。
もしリーゼに親となる存在が居るとすれば、この世界がある世界樹の種を産み落とした別の世界樹という事になるが・・・それは果たして親と呼べるのだろうか?
「そもそもリーゼ殿に対してお小言が多いのは、アリシア殿よりもコリーゼ殿らの方ではないのか?」
俺の隣、リーゼとは反対側に腰かけたクリスが口にした問いを聞いて、リーゼの表情が暗くなった。
「そうなんですよぉ~~、聞いてください、あの子たちったら酷いんですよぉ~~。
昨夜も私の部屋に現れたと思ったら、『霊脈の管理がなっていません』とか2時間もお説教をしていったんですよぉ~~」
いやいや、それはあなたが世界樹の管理を数千、数万年単位でさぼってきたことに対する正当な愚痴で、完全な自業自得ですから。
ただ最近のあの娘たちを見ていると、リーゼの尻拭いでストレスが溜まっているようにも見えるからなぁ・・・。
ここを離れたら、早い段階で慰労会をしてあげた方がいいかもしれない。
以前、シスターズの2号・・・2番目の娘っ子に当たるコリーゼと交わした「今度シスターズの全員に美味い食事でも作ってやる」という約束を思い出し、そんな事を考えた。
「前々から訊こうと思っておったのじゃが、なんでシスターズの娘らはリーゼ殿の『妹』なんじゃ?
リーゼ殿が生み出した子らであれば『娘』ではないのか?」
「いやだなぁ~クリスちゃんはぁ~~。
わたしはまだ未婚のうら若き乙女ですよぉ~~。
娘なんかいるわけないじゃないですかぁ~~」
齢300億歳を超える年齢を「うら若き乙女」と呼んでいいものなのだろうか・・・。
「そ、そうか・・・それはすまなかったの・・・」
そう返事を返すクリスの表情が若干引きつっていた。
まぁ、気持ちはわかる。
そんな馬鹿話をしていると、遺跡の入り口が開いて、中からアリシアとキスニルさんが出てきた。
二人とも見た目が美しいハーフエルフということもあるが、大人の色香を漂わせる美女のキスニルさんと、幼い美少女という見た目のアリシアが並ぶと、思わず拝みたくなってしまう有難さがあるな。
「あれ? お兄ちゃん、どうしたの?」
遺跡の出口近くでくつろいでいた俺たちを見つけ、アリシアが小走りで近づいてきた。
その後ろをキスニルさんがゆっくりと歩いてくる。
アヴァロさんに頼まれていた「騎士団長が3日後に来訪予定」という情報を伝えると、キスニルさんは「団長が来る前に準備をしないと」と言い残して外へと駆けだして行ってしまった。
う~ん・・・
マロウさんって、そんなに気を遣わないといけないような印象の人じゃないかったんだけどなぁ・・・。
ただまぁ、騎士団長という役職だけでなく、この国の姫様であるクリスの伯父にあたるわけだし、やはり対外的な体裁は必要という事なのだろうか?
貴族とかの身分制度に馴染みがない俺には、ちょっとわからない世界だよなぁ。
考え事をしながらキスニルさんが走り去った部屋の出口を眺めていると、アリシアが俺の服・・・肩の部分の布を引っ張ていることに気が付いた。
「どうかしたのか?」
「あのねお兄ちゃん・・・なんかわたし・・・大きくなったみたいなの・・・」
「ほぅ・・・」
そう答えながら、平たんな中にもわずかな膨らみがみられるアリシアの胸に目を移す。
今日のアリシアの服装は薄手のノースリーブワンピース。
なのでじっくりと観察すればその大きさやカタチを服の上からでも読み取る事は不可能ではない。
すると俺の視線に気が付いたアリシアが「お兄ちゃんのバカッ、エッチ!」と叫びながら腕で胸を隠して後ろを向いてしまった。
それと同時に、左右の女性陣が俺の足を思いっきり踏みつけ、殺気にも似た視線を飛ばしてくる。
えっ、今のって俺が悪いのか?
あの会話だと、そう誤解しても不思議じゃないよね?
「そうじゃなくてね・・・
お胸じゃなくて、背中の突起が成長しているみたいなの・・・」
「へっ?」
背中の・・って、あの先祖返りの証だよな。
それが成長って、どういうことなんだ?
レガ子「もう私達のことなんか忘れられたと思っていたのっ!」
作者「ごめん・・・」
レガ子「これからはちゃんと書いてほしいのっ!」
作者「仕事と両立できるように頑張りたいと思います・・・(汗)」
レガ子「ところで、なんで今回のお話にはレガ子のセリフが全くないのか問い詰めたいのっ」
作者「大丈夫、お前だけじゃなくて、ミャウにもセリフが無かったから♪」
ミャウ「作者のおじちゃんを、このゴブリンの斧で縦割りにしていいかにゃ?」
作者(汗・・・・)
コリーゼ「次回は私にもセリフをください。でないと・・・お姉さまをいぢめてストレスを発散しますよ」
作者「リーゼをいじめるのは一向にかまわないが・・・たぶん後編は全員出番があるはずだから・・・」
リーゼ「しくしくしく・・・」