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俺と糞ゲーⅡ ~2周目はじめました~  作者: ピウス
第2章の2 【暗殺者】
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会議は踊る

 アルマリル王宮奥深く。一般の人はもとより、貴族ですら滅多に立ち入ることの出来ない一室。

 王国の最高会議が開かれるその学校の体育館ほどもある部屋には、大きな丸いテーブルが設えてあった。

 数十人は座れるんじゃないかという立派なものだ。艶々とやたらと高そうな光沢がある。

 丸い形になっているのは、身分にかかわり無く自由に発言できるよにつー配慮だそうだ。

 ぶっちゃけ、丸かろうが四角だろうがこんな場で自由に発言なんぞができるわけ無いと思うのだが……。

  

 俺は今その部屋で後ろに家宰さんとシンシアさんを後ろに従えて座っていた。

 アリどもの侵攻を撃退した日から3日。

 王国から、魔物の侵攻について詳しい説明をするようにと要請を受けたのだ。

 家宰さんは礼儀作法と詳しい説明のために同席してもらっている。

 シンシアさんは他の貴族さんたちの解説役だ。俺たちの世界で言うところの紋章官という役回り。

 貴族ってのはいろいろ面倒なのだ。この部屋に入室する順番一つにしても暗黙の了解があったりする。

 テーブルに座る位置だって貴族の位や役職、さらには家格や出席者が当主か代理かで概ね決まっているのだ。

 俺たちの世界の映画なんかの最後にでる出演者のテロップの順番が、俳優の格や芸歴で決まっているようなもんだろうか。

 とてもじゃないけどそんなことを一々覚えるのは無理です。

 本来はルーグ家にもそんなことを担当していた人がいたらしいけど、例によって討ち死にしているので王都の暮らしが長いシンシアさんがその代理というわけだ。

 他の参加者達の後ろにも1人か2人、そういった役割の人が立っている。


 テーブルはほぼ満席。

 宰相さんをはじめとした宮廷貴族や俺のような辺境伯が一堂に会している。

 今回開かれる会議は王国の最高会議、通称【円卓会議】というやつらしく、独自の兵力を持っている辺境伯と、要職についている宮廷貴族には出席義務があるとのことだ。

 ワールの領主、あの筋肉ジーさんも後ろに賢そうな奴隷を一人立たせて出席していた。

 おおかた出席者は揃っているものの、王様待ちらしく方々で「お久しぶりですな」とか「ご息女が嫁がれたとか?」つー雑談なんかが行なわれている。


「シノノメ様。あちらがウルドの当主です」


 ものめずらしげにあたりを見ていた俺の耳元で、家宰さんがそうささやくのでチラチラと様子を見る。

 ウルドの当主は、年のころは50過ぎだろうか。ワカメみたいな髪をしたちょっと小太りの温和そうな人だ。なんか予想していたよりもショボイなーとか思う。

 だが、しばらく観察してて俺は違和感を覚えた。

 いや、この人なぜか笑顔なんだけれどさ。その笑顔が全然変化しないでやんの。

 お面みたいなもんだ。

 正直すげーこええです。

 若い頃やんちゃして年取って丸くなったヤクザの親分的な威圧感がある。

 道で歩いてて反対側からこの人が歩いてきたら俺は絶対にわき道にそれると思います。


 俺がそんな感想を持ってなおもチラチラとウルドの当主を見ていると、大きな鐘の音と共に王様が数人のお供を引きつれ部屋にはいってきた。

 やたらと立派な鎧に身を包んだ近衛の騎士数名と、なぜか数日前にメリルにやってきて魔物の調査をしていった魔法学院の教授さんもいる。

 いっせいに立ち上がり、皆で王様に一礼した後に着席。王様はメンドそうに手を掲げてそれに答えた。


「ではルーグ卿。今回の魔物の侵攻について説明をお願いします」


 王様が偉そうに豪勢な椅子に腰をかけ、会議室がシーンと静まり返る中、そう宰相さんに促されて俺は立ち上がる。

 今回の会議の主役は俺なのだ。

 高そうな服を着た、偉そうな出席者に気合負けしないようにお腹にぐっと力を込めて俺は口を開いた。


「えーこのたびは……」

「宰相殿。黒の英雄殿は今だルーグの名をついではおらんと思うのだが?」


 説明しようと口を開いたところで遮られた。

 目を閉じたまま独り言のような声でそういったのはウルドの当主さん。


「……これは失礼。ウルド宮廷伯殿。こたびの武勲は目覚しいとは申せ、たしかにルーグの名を正式には継いでおりませんな。では次期ルーグ卿殿、説明をお願いします」


 宰相さんは顔色一つかえないでちょっと当主に会釈する。

 双方とも表情には出さないものの、なんというか言葉にとげがあるんですが……。

 事前に家宰さんが話してくれたんだけど、二人は政敵なんだって話だ。

 この宰相さんは王族よりの派閥……国王派というらしい、の長で、武のウルド家に次ぐ権勢を誇るんだと。

 王様の信頼厚い重臣らしい。

 因みに言うとだ。なぜか俺もこの王族よりの派閥に近いと見られているとか。

 騎士叙任の経緯からそう見られているんだろう。ただ、俺の騎士叙任の際にはほとんどの貴族は出席してないからな。国王派はかなり劣勢らしい。

 まっ、日和見している連中も多いらしいから影ではかなり激しい政争が繰り広げられているんだとか。

 まあ、どーでもいい話です。

 てゆーかだ。

 ……やめろよ。

 お前ら俺をダシにしてケンカすんなよ……。

 俺の関係ないところで好きにやってくれ。


 物凄く険悪な雰囲気の中、俺はそれでも気を取り直して立ち上がる。

 まだアリは残っている。遠征でもしてもう一匹の女王アリを討伐してもらわないといけないのだ。

 こんなことでメゲてはいられない。


「まず、先の侵攻の折の皆様のご支援感謝いたします。幸い、城外に待機させておいた騎士の奇襲により事なきを得ましたが、兵糧、物資の援助かたじけなく」


 王様に向かって一つ頭を下げてから言葉を継いだ。

 騎士を城外に待機させていたとかは大嘘だけど、家宰さんからそう言えとあらかじめ言われていたからちょっと話を盛ってみた。


「さて、先の魔物の侵攻の折、我らルーグ家はアリに襲われ集落を追われた大湿地に住まうカエル人を保護いたしました。そのものたちの情報によれば、我らを襲った魔物は大湿地の迷宮より湧き出でたジャイアントアントという種族のようです。戦闘力は率直に言って兵隊アリですら騎士団の兵士と同等。近衛のアリにいたっては、かつてのアルマリル大迷宮の深層に住まう魔物と遜色ありませんでした」


 そこで言葉を区切り列席者を見回してみる。

 反応は様々だが、中には「大げさに言いやがって」的な視線を俺におくってくる貴族もいる。

 ウルドの当主は居眠りしているような姿勢のまま微動だにしていない。筋肉ジーさんは全然興味がなさそうだ。なんかねむそーな表情を浮かべている。


「さらにです。そのカエル人の情報によれば、この魔物は一年に一回新たな女王を生むそうなのです。今年生まれたと思しき幼い女王アリは討ち取りましたが、大湿地にはその女王アリを生んだ母アリが居るとのこと。アリの生態から一年以内の討伐軍の派遣を要請いたします」


 俺が着席すると同時に線の細そうな、貴族然としたおっさんが俺に顔を向けた。

 先ほどジト目を俺に向けていた貴族のうちの一人だ。


「シノノメ殿。つまるところメリルの防衛のために王国直属の騎士団に遠征せよと? そもそも貴公がルーグを治めるいきさつはまさにこのような場面に備えてのことでは? なればメリル単独で当たるのが筋ではないでしょうか?」


 何人か貴族さんが「いかにもその通り」とばかりにうなずいている。

 ウルドの当主さんをチラ見するが彼は腕を組み目を閉じているからなにを考えているかよー分からん。


(彼はサジタリア宮廷伯です。ウルドの息のかかった貴族です)

 耳元で解説するシンシアさん。


「サジタリア宮廷伯殿。おっしゃることは分かりますが、これはメリルの地に限ったことではございません。カエル人の話ではかのアリが現れてのち、1年と経たないうちに大湿地の獲物は激減したそうです。そのような悪食のアリが1年に1度新たな女王を生む。速やかに倒さねば取り返しのつかぬ事になります。メリルが落ちればワール。次々に街が襲われるのは確実だと考えますがいかがでしょうか?

 我らルーグの青蛇騎士団は押し寄せた1000のアリのうち半数を追撃戦にて討ち取っております。魔物の戦力の落ちている今こそが討伐の好機ではないでしょうか」


 俺の言葉に押し黙るサジタリア宮廷伯。

 

「……1年に1回新たな女王を生む……のう。黒殿。これは確かな情報であるのかな?」


 賢そうな奴隷を後ろに立たせ、全然興味なさそうな表情だった筋肉ジーさんが腕を組み、仕切りと首をひねりながらそう唸った。

 

「それにつきましては王立大学から魔物の生態研究をしておられるファブル殿にお越しいただいております。ファブル殿にはメリルに赴きアリの死骸等の調査をお願いしておりましたので、その報告を」


 筋肉ジーさんの言葉に俺が再度発言しようと立ち上がりかけると、それを制するように宰相さんが王様の脇に座る魔法大学院のジーさんを手で示す。

 

「魔法大学院のファブルと申します。専門は魔物学。まあ、魔物の生態調査ですな。40年ほど研究しております」


 ペコリと頭を下げた老人が意外とはっきりとした口調で説明を始めた。


「先日現地調査いたしましたが、メリルを襲った魔物はジャイアントアント。それに間違いはございません。また、体内に魔石を持つことから迷宮より湧き出た魔物であることも間違いありません」

「ジャイアントアント程度であれば問題ないのではないのかの? ……しかし妙じゃの。迷宮からの侵攻が、単一の魔物で構成されているという話はトンと聞かぬが」


 筋肉ジーさんのそんな疑問の言葉になぜか嬉しそうな表情を浮かべるファブル教授。


「そうなのです。はい。気がかりな点もいくつかございます。まずこのアリは体液が非常に強い酸性でございました。鉄や鋼といった金属製の武器ではおそらく破損は免れますまい。何より驚きましたのはその大きさです。兵隊アリでは通常の5割り増しでございました。近衛のアリにいたっては2倍を超えております」

「ふむ」

「さらに言えば女王アリは通常は芋虫のごとき姿なのですが……この女王アリはなんといいますか、人の形を模しておりました。頭部を割りましたが、脳みその大きさから推察して、知能もおそらくは人並み程度は保有していたと考えられます。コレは非常に興味深い……」

「それでファブル殿の見解はどうなのですかな? なぜアリのみが迷宮より湧き出でたのか、そこのところをお聞かせ願いたい」


 宰相さんがちょっと焦れたように言葉を挟んだ。

 脱線しそうな話を元に戻すためだろう。


「今だ調査不足ではあるので断定は致しかねます。……ただ、これは私の個人的な意見ですが、おそらくこの女王アリの母アリが迷宮の心臓と融合しているのではないかと」

「融合?」

「はい。まったくないことではありません。過去にも何例か報告がございます。何らかの原因で心臓と魔物が融合しますとその迷宮は単一の魔物で構成される。また、魔物の戦闘力も跳ね上がる……文献ではそう書かれておりますな。ジャイアントアントは悪食の上、1年程度で新たな女王を生み巣わけを行ないます。由々しき事態であると申し上げてよいでしょう」


 ザワザワと会議室を喧騒が包んだ。

 それだけ異常事態だと認識されたということなのだろう。

 この教授さん中々優秀じゃないか。究極鑑定でみたネムとかいうアリの女王のスキルの説明にも母アリが迷宮の心臓と融合していると書いてあったしな。伊達に教授をやってないな。


「よろしいかな?」


 ざわつく会議室内に、落ち着いた声がかかった。

 今まで目をつぶり彫刻のように身じろぎもしなかったウルドの当主が目を見開いた。

 途端にシーンと静まり返る会議室。ウルドの当主さんの権勢の凄さが分かるね。


「教授殿の言葉通り、1年ごとに新たな女王アリを生むとなればだ。10年経てば女王の数だけでも1000を超える。これは放置できる問題ではないと思う」

「まったくその通りですね」


 ウルドの当主さんに真っ先に賛意を示すサジタリア宮廷伯。

 野郎、さっきと言っている事が違うじゃねーか。


「さらに言えばルーグ家が500程度のアリを討ち取ったのであれば戦力も減少していよう。女王アリの繁殖速度がどの程度かにもよるだろうがな。そのあたりはどうなのだ?」

「はい。通常であればアリの繁殖は一月に200匹程度です。ただ、魔石と融合していた場合には……分かりかねるといいますか……」

「予想でよい」

「ならば。一般的に魔物といわず生物には知能やその力が強ければ強いほど一度に生む子供の数は少なくなる傾向がございます。例を挙げれば人は1人。……まあ双子ということもありますがね。それに引き換え、犬などは数匹ですし、魚などはそれこそ数万です。ならば、一月に200匹という数は上限だと考えても良いのではないかと」

「フム。アリントン殿。アリ1000……いえ多くみて1500。それを駆逐するのにいかほどの戦力が必要だと思われますかな?」


 当主さんは教授から筋肉ジーさんに視線を移すとそんな質問をした。

 筋肉ジーさんは王国一の騎士。こういった実戦の話では一番適切な判断ができるのだろう。


「そうさな。普通のアリであればそれこそワシの騎士団でお釣りが来るだろうが……黒殿の話じゃと大分と強化された個体のようじゃからの……」


 ひとしきり腕を組み考えるジーさん。


「まあ、同数の1000出せばかたいのではないかの?」

「1000ですと! それではわが国の直営騎士団の半分ではないか」

「それは出せん。そのような大遠征では国庫が持ちませんぬ」


 内政官っぽい大臣さん達から上がる悲鳴のような声。

 宰相さんも言葉には出さないけど引きつった表情だ。まあ、お金かかるもんな。


「じゃがのう。黒殿の話からして、兵隊アリといえど兵士と同等の戦闘力なんじゃろ? であればその程度は必要じゃわな」


 困ったもんだといわんばかりに、ひょいっと肩をすくめる筋肉ジーさん。


「さらに言わせて貰えば、付与師。後は鍛冶師も必要じゃの」


 そんな気楽な筋肉ジーさんの様子に、なおも反対の声をあげる大臣さんたち。

 そこに彼らの言葉を遮るように、ひときわ大きなウルドの当主の声が響き渡った。


「思うにだ。これがかの母なるミューのご神託にある災厄ではないのか。であればだ、本来であれば次期ルーグ卿であるシノノメをはじめとするメリルの戦力が中心となるべきであろう。だが、それが出来んというのであれば我がウルドが中心となろうではないか」


 いつの間にか立ち上がっていたウルドの当主さんがそういうと宰相さんを冷え冷えとする眼光で見据えた。つーかウルドの当主さんの狙いが透けて見えるんだけど……。

 ただまあ、先送りされたりするよりマシかな。


「のう宰相殿。これは恐ろしい事態だぞ。まさか戦費がだせんとは言うまいな?」


 じろりと見据えられ表情を引きつらせる宰相さん。

 助けを求めるように王様に視線を送る。んで、その視線からツイッと顔を背ける王様。

 うむ。役に立たないぞ王様。

 まあ、勝負アリだな。つーか、ある意味俺も負けてるんだけど。


「……コレはいささかマズイ流れでございますな」


 俺の後ろから家宰さんのそんな呟きが聞こえる。

 ウルドの当主さんの狙いとしては、遠征軍で女王アリを討伐してさ、メリルを守ることができるのは神託の英雄の俺ではなく、ウルドだと証明したいのだろう。

 その上で俺と姫様の婚約を破棄してウルド家から当主を送り込むつもりなんだろうね。 

 この会議の流れからしてウルド家中心の討伐軍が組まれることになるだろう。当主さんの言葉は正論だし、討伐軍が派遣されること自体はメリルにとってありがたいことではある。

 ならばだ。俺がすべきなのはその討伐軍でウルドが無視できない大きな武功をあげることだろう。

 我慢に我慢を重ね、コツコツと育ててきた姫様をだ、いまさら他の奴に取られてたまるかって話なのだ。 

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