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フェバル保管庫2 作者:レスト

剣と魔法の町『サークリス』 後編

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間話7「焦点の惑星エラネル」

 とある世界。金髪の青年は、針の森と呼ばれる場所を歩いていた。
 彼の周りには、一見すると色形ともに針葉樹のように見えるものが、無数に生えている。実のところ、それらは全てある金属の結晶であった。
 その金属は、ラスピスと呼ばれていた。
 大地をもくまなくラスピスが覆うこの場所は、通常の生物が生存するにはおよそ適さない。これを食べて消化することの出来る好金属生物以外は一切存在しない、まさに死の森だった。
 ラスピスは非常に恐ろしい金属である。この世界に住む人間たちの技術では全く加工することが出来ない、いや加工してはならない代物だった。この金属は、直接触れた者やものを徐々に侵食していく性質を持っているからだ。

 こんな話がある。
 何も知らずにこの森に出かけた少年が、ラスピスのかけらを持ち帰る。翌日、彼の住む家はその住人ごとラスピスの塊と化していたという。こうなるともう、町全体に被害が及ぶ前に例の好金属生物に全て食べさせてしまうより他はない。実のところ、彼らがラスピスを食物としていることによって、森は一定の範囲を超えて広がらずに済んでいるのであった。

 こんな恐ろしい金属だらけの森に、無論この世界の住人はわざわざ近づくはずもない。だが、そんな何者も近寄らない場所だからこそ、ひっそりと暮らす異世界よりの旅人には最適な隠れ家となった。
 歩いている青年の名は、レンクス・スタンフィールド。ユウの友人であり、特殊能力【反逆】を持つフェバルである。
 彼は九年前にまだ幼いユウと交わした、いつかユウと再会するという約束を果たすために、星から星へと移動を続けていた。そして今は、この森に住むというあるフェバルを探している。
 宇宙船を使用したり、死亡すれば強制的に世界を転移するというフェバルの性質を逆手に取って、あえて自殺することで世界を渡ったり。そうして彼が通過した世界はもう十にもなるが、【星占い】のエーナによれば、このルートが最も早いとのことであった。

 惑星エラネル。
 魔力許容性が相当に高く、魔素に満ち溢れている星。魔法使用者にとっては、理想的な世界であるという。ユウは現在、その星のサークリスという町に暮らしていると彼は聞いていた。
 彼にとって、そこへ辿り着く方法は主に二つある。
 一つは、何らかのよって星間移動手段を持つ文明の存在する星まで行き、その移動手段によって直接エラネルへと到達すること。
 もう一つは、自らの能力【反逆】を使用することである。
 前者の方法は実直ではあるが、所要時間をエーナが占ったところ、今回は時間がかかり過ぎるため却下となった。後者の方法ならば、ギリギリで間に合うのではないかというのが、彼女の見立てだった。
 ここで言う間に合うというのは、惑星エラネル滅亡の可能性までのタイムリミットに対してである。
 現時点からあと二十時間以内で世界は滅びるかもしれないと、エーナの【星占い】は予言した。
 彼女の占いは、全てが正確にわかるわけではないが、あらゆることをある程度の確かさで占うことができ、その精度では決して外れることがない。
 ゆえに、レンクスは内心かなり焦っていた。
 彼は滅亡の要因に関しても彼女に占ってもらおうとしたが、彼女は占おうとしたところで残念そうに首を横に振った。ウィルに【干渉】をかけられているせいで、調べられないと。

 さて、【反逆】を使う場合、実は彼一人ではエラネルに行くことが出来ない。彼自身にエラネルへ行った経験がないためだ。彼には、そこへ行った経験のあるフェバルの協力者が必要だった。その協力者となり得る人物が、この場所にいるという。
 協力者さえいれば、やり方は簡単だった。
 フェバルの運命を支配する絶対の理、星脈。その脈動に従って、各々のフェバルは世界から世界へと流されていく。
 この流れに逆らう《世界逆行転移》を、レンクスはそのフェバルが行ったことのあるそれぞれの世界に対し、一度だけ使用することが出来る。
 彼はそれを用いて、協力者と共に惑星エラネルへと乗り込むつもりだった。

 やがてレンクスは、ついに探していた彼を見つけることに成功する。その人物は、容姿は二十代後半から三十代前半ほどに見える、黒髪短髪で筋骨隆々の大男だった。
 彼はレンクスが来ることを既に気で察知しており、いつぶりとなろうかという懐かしい再会に、頬を綻ばせた。


 少し時は遡り、また別のとある世界。アーフェラム大神殿。
 ウィルは、その世界で最も高名な巫女を脅し、水晶玉でエラネルの様子を映させていた。
 巫女は恐怖に震え、ほとんど言うことを聞くだけの人形のようになっている。
 彼はエデルが浮上していく様を眺め、退屈なあくびを噛み殺しながら、にやりと笑った。

「お。始まったか」

 彼の背後では、勇者ラルトが聖剣リヴェストを両手で持ち、猛然と彼に迫っていた。彼はそれを全く見向きもせずに、暢気に独り言を呟く。

「ユウ。お前がどこまでやれるか、お手並み拝見といこうか」
「はああっ!」

 勇者の最強剣技《グレイザッシュ》が炸裂する。かつて世界を恐怖の混沌に陥れた魔王を打ち倒したとき、いやそれ以上に充実した魔力と気力がこもった魔気融合の絶技であり、この世界でただ一人、勇者にしか使えないものだった。
 その威力は、現時点におけるユウが全力で《センクレイズ》を使ったとして、それの優に数倍はあるだろう。
 だが、勇者の剣がウィルの首筋を間違いなく捉えたとき、彼にはかすり傷一つさえも付かなかった。
 代わりに耐え切れなかったのは、剣の方だった。神より賜りし伝説の金属、レミリオンで出来ているはずの聖剣。その先が、なんとボロボロに欠けてしまったのだ。
 そこで初めて、ウィルは勇者に振り返る。

「さっきからうるさいなお前。もう少し静かにしろよ」

 勇者は、今すぐにでも殺されるかと思わせてしまうほどの、彼の凍るような冷たい目と、それとはひどく乖離した素っ気ない態度と台詞に、これまで対峙したどんな敵とも異質な恐怖を覚えた。
 何なんだこいつは。魔王など比ではない。この世にこんなとてつもない化け物が存在していたとは。一刻ごとに、その場から逃げ出してしまいたいような気分が込み上げてくる。
 それでもラルトは勇者である。決して臆することはなかった。

「貴様! 真面目に戦え!」

 ウィルはやれやれと呆れて肩をすくめた。

「戦い、ねえ。戦いなんてものは、ある程度レベルが近くなければ成立のしようがない。違うか?」

 ラルトは、何も言い返すことが出来なかった。彼には勇者としての、世界第一級の実力者としての自負があった。だが今や、そのどちらも無残に打ち砕かれようとしていた。
 目の前でつまらなさそうにしている、たった一人のイレギュラーによって。
 彼にはもはや、この世界に存在するその他大勢の無力な人間のように、ただ願うことばかりしか出来なかった。

「浮雲の巫女を、エリシアを返せ!」

 勇者と巫女は、婚約者同士であったのだ。それだけに、彼の彼女を取り戻そうという想いも必死だったのである。

「ああ。彼女か。そんなに望むなら、返してやるよ。もう用は済んだしな」

 ウィルは巫女を浮かび上がらせると、勢い良く勇者の方へ飛ばしてやった。勇者は慌てて剣を置き、彼女を受け止めようとする。
 だがそのとき、どういうわけか彼の手は、意志に反して勝手に動き出し――
 その手に持つ聖剣で、彼女の胸を刺し貫いてしまった。
 巫女は、勇者の胸に抱かれたまま絶命する。
 勇者は絶叫した。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーー!」

 ウィルはその光景をすこぶる退屈そうに眺めつつも、自らがエラネルに仕掛けたものを想って、少しだけ気分を良くした。
 もうこの場所に用はない。あとは、この邪魔な世界に対して、最後の一仕事をしてやるだけだ。
 本当なら丸ごと潰してしまうところなのだが、他にも壊すべき世界は、それこそ星の数ほどある。
 この世界については軽めで勘弁してやってもいいかと、気分の良い彼はそう考えた。

「僕は今機嫌が良い。だから、この世界に素晴らしい贈り物をしようと思う」
「何をするつもりだ!」

 最愛の人を失い、悲しみに身を震わせながら、それでも勇者であり続けようとする彼に、ウィルは愉しげに答えた。

「この世界には、二つの大陸がある。それぞれ人間と魔族が主に暮らしているらしいな。それで、勇者であるお前はよく言っていたそうじゃないか。人間も魔族もなく、世界が一つになればいいと。同感だ。一つにしようじゃないか」

 不敵な笑みを浮かべたウィルは、【干渉】の力を強めに振るった。この世界のような小さな星であれば、それは十分に可能だった。

《プレートモーション》

 直後、地が激しく揺れ始める。まるで、星全体が震えているようだった。

「貴様! 一体何をしたっ!」

 怒りを込めて悲痛な思いで叫ぶ勇者に、ウィルは何でもないことのようにさらりと言ってのけた。

「なに。マントルの流れを少し弄ってやっただけだ。じきに世界は一つになるさ。文字通りな」

 言われたことの意味が理解出来なかった勇者は、しかし全く止まない地響きに事の大きさだけは理解した。
 そして愕然とする。目の前の相手は、天災すら引き起こせるレベルだということに。あまりに圧倒的な格の違いに。

「さて。まあ僕が動くような事態にはならないと思うが、一応隣の世界までは行っておくか」

 その台詞の直後、ウィルはその場から忽然と姿を消してしまった。
 ただ一人残された勇者は、止むことなく揺れ続ける星で、絶望に膝を突くしかなかった。
 ウィルのいなくなった世界で、大地震と大噴火があらゆる場所で次々と起こり出す。それはまさに正しい意味で、この世の終わりのような光景だった。
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