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フェバル保管庫2 作者:レスト

二つの世界と二つの身体

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26「白熱! 魔法料理コンテスト! 2」

 めでたく解説席に座ることになってしまった俺は、隣で受付のお姉さんがルール説明をするのを黙って聞いていた。
 制限時間は四時間。テーマはずばり、港町ナーベイで獲れる魚介類を使用した海鮮料理である。勝敗は、純粋に参加客による投票で決められる。誰の料理が一番良かったかを投じ、最も多くの票を獲得した者が優勝者となる。同票が複数出た場合は、複数同時優勝となる。
 出場者にとって公平であるように、料理に必要な材料は全て主催者側で揃えてある。ただし、必要な人数分より多く用意されており、魚の目利きは出場者自身で行う。同じ魚は二つとないため、おいしいものは早い者勝ちというわけである。
 今、向こうのテーブルには、種類ごとに魚介類が所狭しと積まれていた。番組の生収録っぽくて、中々にわくわくする光景である。
 お姉さんがマイクを手に取って猛る。

「さあ出場者、ずらりと横並びになった!」

 演出なのか、八人全員が同じように腕組みした状態で一直線に並んでいる。

「嵐の前の静けさか。会場は波が止まったような静けさと緊張感に包まれております」

 お姉さんの身の入った実況に、会場は実際期待と緊張に包まれていた。いやこれ、ただの町の料理コンテストなんだけど。世界大会みたいだよ。

「そろそろ始めましょう。泣いても笑っても、今から制限時間は四時間。ぜひ皆さん素晴らしい料理を作って下さいね。では、スタートおおおおおおおお!」
「「うおおおおおおおおお!」」

 パァン、と空砲が炸裂するよような音が風魔法で鳴らされる。選手たちは動き出した。

「スタートの合図と同時に、一斉に飛び出していきます!」
「早い者勝ちですからねえ。皆さん必死ですよ」

 黙っていてもあれなので、適当に解説を入れる。こうなったらもうノリで押し切るしかない。みんなに楽しんでもらうためにも。

「ミティが一番乗りですぅ!」

 ミティが笑顔を振りまきながら先頭をひた走る。周りと比べても頭一つ抜け出る格好となった。

「おーっと、ミティアナ選手、速いです! 足が速い!」

 お姉さんの実況に合わせて、会場からも楽しげな声が上がる。

「か弱そうな町娘にも、意外な特技があったということでしょうか」
「いやはや、驚きです。ここでミティアナ選手のプロフィールをちらっと確認しましょう――おや、ミティと呼んで下さいということですね。ではそう呼ぶことにいたしましょう! ミティ選手は――ふむふむ、宿屋ミティのオーナーですぅ。皆さんのご利用お待ちしておりますぅ、ということですね。みなさん、宿屋ミティですよ! あんな可愛い子に会えますよ! 料理もおいしいですよ! よーしお姉さん、ばっちり宣伝しましたからね!」

 会場からちょっと笑い声が上がった。でも少しは宣伝になっただろう。良かったねミティ。

「こ・れ・ですぅ!」

 ミティがすぐに、旬の魚セブルを両手で掴み上げた。鮭を抱えてるみたいだ。

「ミティ選手! 見かけによらず豪快です! 一発で魚を掴み上げました!」
「女の直感でしょうか」
「さて、やや遅れて全者テーブルに――おや、意外や意外! ユイ選手、スタート地点から一歩も動いておりません!」

 とっくにわかっていたのに、今初めて気が付いたように説明するお姉さんは、中々の盛り上げ上手である。

「解説のユウさん。あれは何をしているのでしょうか」
「えー、あれはですね。成分解析魔法で目利きをしているんです。遠くからでもおいしい魚が一発で判定出来てしまいますよ」
「うわああ、なんということでしょう! 目利き泣かせとはこのことか! もはやずるいという言葉しか浮かびません!」

 会場からも、ざわざわと同意の声が上がる。

「ミティ選手、ランアンドカムバック。次々と食材をお持ち帰りしています。直感戦術は果たして吉と出るのか。一方アモン選手は、普通に慎重に魚の目利きをしていますね」
「実直なやり方も忘れてはいけません。あの方は信頼出来る職人のようですね」

 すると、全ての食材の山が一斉にぶわっと浮き上がった。
 どよめく観客たち。
 そんな真似を仕出かしたのは、自身に満ちた顔で手をかざすユイだった。ユイは、浮かび上がった食材から、自分の使うものだけを選び取って引き寄せる。残りはまた風魔法でそっと置き戻した。

「なんと、ピンポイントで必要な食材を吸い寄せたああああああ!?」
「この大会は『魔法』料理コンテスト。ならば魔法で一気に調達することは、何もおかしなことではありません」
「これはうかつでした。魔法を使った勝負は、調理前から既に始まっていたということですね!」
「そういうことです」

 他の選手に動揺が広がるも、すぐに気を取り直して勝負は再開される。
 さて、他が食材調達に地道を上げる中で、既に次のステージに移ろうとしている者が二名いた。
 全ての食材を感で選び取ったミティと、魔法で一気に巻き上げたユイである。

「ミティ選手とユイ選手、もう調理に取り掛かろうとしています」
「限られた時間を調理にしっかり充てようということでしょう。作戦ですね」
「ミティ選手は、フリルの付いた可愛らしい水玉エプロンに身を包んでいます。ユイ選手は、正統派のシェフらしき格好ですね。見た目対照的なこの二名ですが……ユウさん、ここからの勝負はどうなると見ますか」
「二人とも普段それぞれの構える場所で料理を提供している身ですから、経験値は十分でしょう。一発勝負場でいかに実力を出し切れるかが、勝負の分かれ目ではないでしょうか」
「ほう! ここからのバトルに、お姉さん目が離せません!」

 一週間宿に泊まっていたので、二人の実力差はよく知っているわけであるが、あえて知らないふりをして答えた。そっちの方が盛り上がるしね。
 ユイはよし、と気を引き締めると、『心の世界』から包丁を取り出した。
 ディアさん直伝の早業で、きっちりと三枚に下していく。
 その美技に、観客は酔いしれた。

「はやいはやい! まるでプロのようだ! 素晴らしい業前です!」
「姉ちゃんはプロの料理人の下でみっちり料理修行に励んだ経験がありますからね。免許皆伝も受けています。あのくらいは当然でしょう」

 もちろんくっついてた俺もだけどな。
 すると、お姉さんはにやにやした。

「惚気ます。この男、惚気ていきます!」

 会場からひやかすような声が飛んできて、恥ずかしくなった。やっちゃったかな。

「ところでユウさん。実の姉との熱愛が一部で噂になっていますが」
「そのような事実は一切ありません」

 ブーブーとブーイングが上がる。特に一部から強く上がっている。なぜ。

「あーそうだったら面白かったのに! では、シスコンでしょうか」
「それは……そうかもしれません」

 ヒューヒューともてはやされる。ユイもちらっと見て照れなくていいから。喜ばなくていいから。
 君もほんと俺のこと好きだよな。頑張ったら、後でよしよしあげるよ。

『約束だよ』
『はいはい』

 ちゃんと聞いてたのか。心通信便利怖いな。

 一層気合いの入ったユイは、左右の手で火魔法と水魔法を使い分ける。火魔法で調理器具に火種を与えつつ、水魔法で魚を丁寧に洗っていく。

《フォッセキュート》

 ミティもミティで、手慣れた感じで水魔法を詠唱し、魚を水洗いしていく。ルール上、調理器具は使えず、全て魔法で処理しなければならない。
 この世界オリジナルの魔法体系、精霊魔法の一種か。
 ユイも勉強して試しに色々使ってみたんだけど、どうも同じ魔力消費だと元々覚えていた魔素魔法の方がずっと強いらしいことがわかったから、もう使ってないんだよね。推測される理由としては、魔素魔法が直接魔素を魔法に変換するのに対し、精霊魔法は「よくわからない精霊のようなもの」(本当に精霊なのかどうか怪しいとユイは言っていた)を介して魔法を発現しているため、その分余計なプロセスが入ってロスが生じて、かなり威力が落ちるようだ。最初に勉強したサークリスの魔素魔法、実は相当強力な魔法体系だったらしい。

 しばらくの間、下ごしらえは続く。地味な時間が続くので、俺はお姉さんと協力してトークを盛り上げた。実際無茶振りにしてはよくやってると思わないか? ……誰に言ってるんだ。

 そろそろ、他の選手もようやく調理に取りかかったところだった。
 二人は下ごしらえが終わったようだ。
 ミティは楽しそうな表情で、調味料置き場に手を伸ばした。そして、掴んだそれを鍋にどぼどぼ注いでいく。

「あれは、油ですね。油です!」

《クレリファイ》

 火魔法でじっくり油の温度を上げてから、

「ぱぁーん!」

 ミティがこれ見よがしにあちってポーズを取りながら、油に魚を放っていった。
 あざといとわかっていても、一部の男子はやられている。

「ほお。揚げ物ですか」
「家庭的なところを見せたいのでしょう」
「ユイ選手は、ムニを大根や小豆と一緒に茹でています! ムニと小豆、合うのでしょうか?」

 お姉さんはさっぱり首を傾げていた。
 ムニはタコに似た生き物だ。大根と小豆は偶然ほぼ一緒のものがあったので、自動で翻訳されているのだろう。

「ああすることで柔らかく仕上がります。俺の故郷で桜煮と言うのですよ」
「うへえ、サクラニ! 聞いたこともないテクニックです! ユイ選手、引き出しが尽きない!」

 そこからは、見ているだけで楽しい派手な料理シーンが続く。実況解説が楽になった。ユイがワインを使って豪快に火を上げてみたり、芸術的な盛り付けをしてみたり、そんなことをするたびに、観客はうわあとわかりやすい感動の声を上げる。ユイもユイで、みんなの反応が面白くて、パフォーマンスにも余念がない。ミティも目立ちたがりなので、可愛らしいふるまいで女の子の料理を演じ続け、こちらはこちらで別の需要があった。
 そして――

「「出来ました!」」

 ミティとユイが同時に調理の完了を宣言した。二人とも、バチバチと視線を戦わせている。ミティもミティなりに自信があったようだ。
 しかし、出来上がったものに目が向いた途端。

 ミティはあんぐりと口を開けて、その場にへたれ込んだ。

 ミティのメインは、白身魚のフライである。いかにも家庭的だ。普通に美味しそうな料理だ。
 一方のユイは――海鮮フルコースだった。高級料亭に出て来そうな、本格的なやつである。
 見た目からしてもう、はっきりとレベルの差がわかってしまうレベルだった。
 大人と子供である。ユイさん容赦ない。
 それにしても本気出し過ぎじゃないか。まあディアさんの教えもあるし、勝負に手を抜かないのはわかっていたけどさ。
 あまりの凄まじさに、他の選手は半ば諦めの境地に達していた。明らかにテンションが燃え尽きている。かわいそうになってきた。

 もはや勝敗は決した。

 結論から言うと、得票は大差でユイに入り、同情票を除く95%という圧倒的な得票率でいとも容易く優勝を成し遂げた。高々町の料理コンテストに「一流のプロ」が参加した結果がこれである。
 もっと歯ごたえのある奴はいないのかという目をユイはしていたけど、そんなにいるわけないだろう。君が求める相手はもう世界にしかいないんじゃないかな。

 とにかく大盛況のうちに、魔法料理コンテストは幕を閉じた。受付のお姉さんは、後片付けがあるからとその場に残り、俺は長い長い重圧からようやく解放されたのである。無事に解説出来て本当に良かった。「ナイスファイトだったよ。ユウくん」の温かい一言が、何より報われたように感じた。

「お疲れ様。ユイ」
「ユウこそお疲れ様」

 ハイタッチを交わす。一仕事を終えた疲れも、これで一緒に吹き飛ぶような爽やかな気分だった。

「ああ楽しかったねえ」
「うん。無茶振りはきつかったけどね」
「頑張った頑張った。でも、惚気過ぎだよ」
「はは」

 ユイが、甘えるような仕草で頭を寄こす。
 そうだったな。約束だ。

「よしよし」
「……ん」

 そこに、声がかかる。

「その……あのう……ですぅ」

 ミティだ。彼女が何やら言いたそうにもじもじしている。
 負けたのが悔しかったのだろうか。
 いや、違う。そんなんじゃない。
 ミティの目は、キラキラと輝いていた。それはまるで恋のような。王子に憧れを抱いた少女のような。うっとりした乙女の顔である。どうしたことだろうか。
 とうとう、彼女は思いの丈を吐き出すように言った。いつものようにぶりっ子することもすっかり忘れて、素で。

「その圧倒的な料理の腕前! その圧倒的な料理知識と解説スキル! わたし、感動しましたっ! ほんっとうに、感動しました!」

 そして、とんでもないことを言い出したのである。 

「ユウさん! ユイさん! お二人をどうか……師匠! 師匠と呼ばせて下さい!」
「「……はい!?」」

 拝啓。イネア先生。
 俺たちも、ついに師匠と呼ばれるようになりました。
 初めての弟子が出来ました。料理です。
+注意+
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