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フェバル保管庫2 作者:レスト

二つの世界と二つの身体

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19「フォートアイランド調査 1」

 数日の休養期間を経て、あれから結局砂漠巨大ワームと戦うことになった。シルがああいう系のにょろにょろした生き物が特に苦手らしく(にょろにょろという次元を超えている気もするが)、泣き付かれてしまったのでやるしかなかった。砂漠はパワーレスエリアではなくて、普通に魔法が使えるので、退屈していたユイを連れて行ったら、まあひどいことになった。うん。
 ユイがしたことは単純だ。地に手を付けて、そこら中の砂を土魔法で強引に掘り起こしたのである。凄まじい力技だ。
 地響きがどこまでも続き、目に見える範囲全ての砂が巻き上がった。まるで天変地異だ。これをユイが起こしているというのか。
 そして、たまらずワームがもがき苦しんで出てきたところで、極大の風魔法が猛威の竜巻となって襲いかかった。
 巨大ワームは全身を巻き込まれて、ずたずたのミンチにされてしまった。一切の誇張はない。バラバラのミンチである。
 あっさりとまあ。えげつない。ユイは笑顔でえげつない。
 許容性が馬鹿みたいに高いと、魔法の自由自在っぷりが半端じゃないということを改めて知った。この世界だとユイの方が総合的には強いかもな。
 俺だったら――うーん。パワーを込めて《気断掌》を使えば、同じように辺り一帯の砂を消し飛ばすことが出来てしまいそうで怖い。フェバルの力ってやばいな。これで弱い方だって言うんだから信じられない。
 二度に渡るランドシルの依頼で多額の報酬を得た俺たちは、そのお金でもう十分人を雇えるようになったわけだが、しかしまだ適当な候補者は見つかっていなかった。そのうち大々的に募集をかけてみても良いかもしれない。

 さて、俺とユイは今、さる依頼でレジンバーク近海の観光地にやってきている。かなり変わった「地面」を持つ小島だ。この島の話をする前に、周辺の地理について少しばかり語っておこう。
 未開区ミッドオールと先進区フロンタイムを断絶する、魔のガーム海域。荒れ狂う海と巨大な海獣たちが、そこを通らんとする全ての船を容赦なく水底に沈めてきたという。無論泳いで渡った者は未だかつておらず、あの剣麗レオンでさえ、自ら武を示すために聖剣フォースレイダーをもって海を割り、巨大なイカの如き海獣ヌヴァードンを倒して帰還するに留まったという。まあずっと海を割れるわけにはいかないだろうからね。それにしても眉唾かと思うくらいのとんでもない伝説だ。この世界がぶっ壊れた許容性を持っていなければ、信じなかっただろう。
 現在二つのエリアを繋ぐものは、ただ一つエディン大橋だけである。このとてつもなく長大な橋は、一体誰がいつ打ち立てたのか全くの謎であるという。とにかく、今を生きる全ての者が生まれる遥か以前よりそれは存在し、材質は極めて頑丈で決して風化することなく、人や物を繋ぎ続けているのだ。
 海は恐ろしいというのがこの世界の一般常識であるが、全ての海が脅威というわけではない。ミッドオールとフロンタイムの近海に限っては比較的穏やかであり、漁業も盛んに行われている。レジンバークの貿易額の約一割は、水産業によるものである。

 レジンバークの船着き場から小舟で一時間半ほどの距離に浮かぶ、小さな島がある。フォートアイランドという島だ。
 つまり今俺たちが来ているこの島のことだが、ここはとにかくふわふわと柔らかい地面で有名である。どのくらいかというと、あまり力を入れ過ぎると足からずぶずぶと沈んでいってしまう程度には柔らかい。稀に窒息事故も発生するため、気を抜くのは禁物である。
 なぜこんな島が人気なのかというと、なんと信じがたいことに、ここの地面は適切な加工を施せば、そのまま食べられてしまうのだ! 味はほんのりと甘くクリーミーで、栄養もミネラルも豊富。ここの土で作ったパックは、美容にも最高なのだとか。幸いなことに、徐々に地面が噴き出してくる活山があるため、資源に事欠くことはない。
 食べられる島、フォートアイランド。その物珍しさと、美食や美容目的にと、世界中から連日多くの観光客が訪れる。柔らかい地面も、天然のアトラクションとして子供たちに大人気である。
 ところが近年、この島に異変が起き始めているという。通によく言われているのが、土の質が劣化したということだ。従来の甘くてクリーミーな土に混じって、食うに値しないまずい土が混じり始めたのである。そいつを何とかしろというわけではないが、危険な活山に赴いて、指定の数カ所から湧き立ての地面を採取してきてくれないかというのが今回の依頼だった。採取した地面は成分調査に用いて、今後の収穫の参考とするらしい。依頼主はフォートアイランド観光協会、報酬は一万ジットである。

 一歩足を踏み入れた途端、噂に聞く以上の柔らかい感触に驚いた。まるでプリンの上にでも立っているかのようだ。
 周りを見ると、その辺から土を掬って食べようとするはしたない者がちらほらといた。さすがにその辺のは多くの人が踏んだりしてるだろうから、止めた方がいいと思うんだけど。
 それにしても、どこを見ても真珠のように白くて、本当においしそうだ。とてもただの土とは思えない。つい涎が出そうになる。そう言えばそろそろ昼だし、お腹も空いてきたな。

「別に急ぎの依頼でもないし、まずは腹ごしらえといこうか」
「賛成。名物のおいしい土、楽しみだね」

 島で人気の定食屋に向かう。この島の建物は、普通に建てると即沈んでいってしまうため、魔法で土台に補強をかけているらしい。
 売上げ一番のメニューを尋ねて「土で出来たおいしいシチュー」を頼むと、待つこと十五分、コトコト煮込まれた美味しそうなシチューがやってきた。
 見事だ。見事なクリームシチューだ。このソースが土で出来ているとは、見た目では到底わからない。

「「いただきます」」

 一口入れた瞬間、ふわっと舌に広がる優しい甘みが、脳天を突き抜けていった。

「「おいしい!」」

 同時に目を見開く俺とユイ。舌にじんわりと残る心地良い味覚の余韻が、頬を蕩けさせる。

「これはうちのメニューにもぜひ加えたい一品だね」
「今回の依頼が済んだら、少しでも安く仕入れられないか交渉してみよう」

 よく味わったのは最初の三口ほどで、後はあまりのおいしさにいっぺんに平らげてしまった。これは名物になるのも頷ける。最初に土なんか食べようと思った変人は天才だな。

 お腹も一杯になったところで、俺とユイはこの島に一つだけそびえる活山へ向かうことにした。島の面積の約半分を占めており、二千メートル級の標高がある。用があるのは「土口」付近だが、途中までは登山道が整備されていて、ハイキング気分で登ることが出来た。
 しばらく道なりに進んでいると、

「あ。あれ」

 ユイが何気なく指さしたので、そちらの方を見てみれば――

 レンクスが、埋まっていた。

 腰から上にかけ、頭から半身を突っ込んで。見事に埋まっていた。
 両足だけが、逆さに地面から突き出している。
 そのうち来るとは思ってたけど、この出会い方はさすがに予想外だぞ。
 俺たちの視線に気付いた瞬間、彼は懸命に足をじたばたさせて、自己主張を始めた。ユイはまるで他人事のように、

「なんかばたばたしてるよ」
「君に助けて欲しいんじゃないか?」

 だがユイは、素っ気なくスルーする。
 しばらく二人して黙って様子を眺めていると、彼は埋まったまま、しきりにもがいて空しいアピールを続けていたが、やがて両足ともに力なく投げ出して、ぱったりと動かなくなった。

「あ。ぐったりした」
「なあ。そろそろ助けてあげた方がいいんじゃないか」
「えー。行きたいなら行けば?」
「うーん……そうするよ。なんか可哀想になってきたし」

 正直自分で出られるはずだから出てこいよとは思うが、そこまで執念深く意地を張られると、俺はもう負けてあげてもいいかなと思った。
 しょんぼり凹んでいる彼の足を掴んで、やや乱暴にひっこ抜いてやる。そのくらいの扱いでいいだろう。だってレンクスだし。
 逆さ宙ぶらりんになって出て来たのは、果たして見慣れた金髪の残念なイケメン、レンクス・スタンフィールドその人であった。

「ぷはあっ! もう少しで死ぬかと思ったぜ!」
「よう。レンクス」
「よう。ユウ! くう~、やっぱりお前は優しいなあ。それに比べて、女のユウと来た、ら……?」

 彼女の姿を認めた途端、レンクスの目が面白いように点になった。
 わけもわからず、ぱちくりと瞬いて。俺とユイが別々で立っている姿を交互に見つめて。
 その事実を認識した瞬間。彼の足を掴んでいた俺の手は、空気を握っていた。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーっ!」

 テンションマックスで、一直線にユイへ跳び掛かるレンクス! しかし、その手が彼女の身体へ届く前に――
 げし。
 ユイの鋭い左蹴りが、彼の顔面に容赦なくめり込んだ。

「久しぶり。レンクス」
「……おう、久しぶり。やっぱ挨拶はこれに限るぜ」

 顔を思い切り足蹴にされながら、幸せそうににやけるレンクス。変態もここまで行くと大したものである。

「で、どうしたって二人に分かれているんだ?」
「まずはそこだよね。普通」

 ユイの声は、いつにも増して冷ややかである。しかし本心では嬉しいのもわかっている。『心の世界』は嘘を吐かない。

「疑問よりも先に身体が動いちゃったんだね」
「いやあ。そりゃあもうな。へっへっへ」

 だらしなく笑うレンクス。お前のユイを求める本能は凄まじいな。

 とりあえずレンクスに対し、この世界に来てから何がどうして今に至るかをじっくりと話した。理由はわからないが、なぜか身体が二つに分かれてしまったことも含めて。

「どうして私たち、分かれちゃったんだと思う?」
「何か原因は推測出来るか。レンクス」
「うーむ」

 神妙な面持ちになって考え込む彼。シリアスな雰囲気を出しているときのこの人は期待出来る。実際何度も助けられてきたからな。
 二人でじっと待っていると、やがて顔を上げた彼は、きっぱりと断言した。

「さっぱりわからん!」

 がくっ。期待して損した。レンクスでもわからないことがあるんだな。

「いやよ。そもそも俺もな。この世界に来るとき、星脈が急におかしくなって。あんなことは、長い旅の中でも初めてだった。で、気付いたら」
「埋まっていたと」
「そう。埋まっていた」

 黄昏るレンクス。いや、そこで良い顔しても何も出ないからね。

「この世界が何かおかしいっていうお前たちの予想は、俺もまず間違いないと思う」
「やっぱりか」「絶対おかしいもんね」
「二人がこうして分かれている事実、異常なほど高い許容性、針を指さない世界計、パワーレスエリアとかいうおかしな空間、そこに空いたという奇妙な穴。どれもこれも、普通の世界じゃあり得ないことだ。マジ謎だらけだな」
「出来ればレンクスの手も借りて、可能な範囲で世界のことを調べたいと思うんだけど」
「ああ。もちろん協力するぜ。ただ、こいつは難航するかもしれねえな。手がかりがなさ過ぎる」
「そこはまあ、おいおいやっていけばいいんじゃない? 家もあるし、ね」
「お、住んでもいいのか! 助かった。サンキュー」
「「だって」」

 ねえ、と俺とユイは見合わせる。

「「レンクスって、ほっとくとすぐ悲惨な生活を始めるからな(ね)」」

 この男の生存力には目を見張るものがあるが、生活力のなさは、はっきり言ってバカだ。勝手にさせておくと、どんどん文明人と呼べるものから乖離していく。ぐうたらごろ寝してその辺の野草に生で齧り付いてるレンクスとか、さすがに見ていられないからな。

「悪かったな。で、ともかくだ。色々わからないことはあるが、一つだけ確実に言えることがある」

 ごくりと喉を鳴らす。
 キリっと真面目な顔をしていたレンクスは――そこで一気に崩れて、アヘ顔スマイルになった。

「ユイを好きなだけ愛でられるとか、最高だよな!」

 うわあ。言いやがった。いつか絶対言うと思ってたけど、もうはっきり言いやがった。
 ユイがさっと身を固めた。もうこれ以上ないくらいどん引きしている。
 俺は分かれているからあまり関係ないけど、ユイ単体となれば、ますます変態に磨きがかかるのは間違いない。どんまいだ。どんまい過ぎるよ。
 同情的な目でユイを見つめる俺に、レンクスはふと微笑みかけてきた。

「おっと。そんなに寂しがらなくてもいいぞ、ユウ。俺はお前のこともちゃんと愛してるからな」

 そう言って、子供のときよくそうされたように、頭をぽんぽんと撫でられた。
 俺はもう子供じゃないんだけどなあ。まあいいか。永い時を生きるこいつにとっては、高々二十年なんてあってないようなものなんだろうし。

「よっしゃ! 土の調査とやらだったな。張り切って行こうぜ!」

 ユイと一緒にぐいと引き寄せられて、後ろからがっちり肩を組まれた。背の一つ高いレンクスが、上から頬をすり寄せてくる。彼を真ん中に、三人とも頬がくっつく形になった。
 かなり暑苦しいスキンシップをかまして、レンクスがしみじみと呟く。

「両手にユナの子とか、幸せか」
「もう。一々にやけるな」
「はは。いつにも増して楽しそうだね」

 こうして、一人強力な助っ人が加わって、わいわい調査は続くのだった。
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