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フェバル保管庫2 作者:レスト

人工生命の星『エルンティア』

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A-12「二人はユウを巡って」

「運命に【干渉】するだと?」
「そうだ。僕は星脈に手を加え、フェバルの運命を捻じ曲げるつもりだ」

 おいおい。なんてこった。腹を割って話そうとは言ったが、まさかお前の口からそんな台詞を聞くことになるとは思わなかったぜ。
 こいつは、とんでもなくスケールのでかいことをしでかそうとしている。

「なら、お前がしてきた遊びというのは」

 ウィルは静かに認めた。

「星脈は生命が存在する全ての世界に依存している。これに手を加えるならば、必然的に世界の破壊者となるしかない」
「なるほど。そういうことだったのか」

 こいつは、無秩序に世界を破壊して回っていたわけじゃなかった。破壊行為自体を愉しむ糞野郎ではあることには変わりないが、少なくともこいつなりの目的があって行動していたようだ。
 ウィルはさらに語り始める。

「世界には二種類ある。許容性が高い世界と低い世界だ。宇宙の星々は、それぞれ好き勝手な許容性を持って点在している。その実情はお前もよく知っているだろう?」
「ああ。本当に色んな世界があるよな」

 各世界で、許容性は何から何まで違う。それが世界に個性を生み出している。俺は弄れるからあまり関係ないが、ユウは振り回されっぱなしのはずだ。

「結論から言おう。各世界の許容性はもっと均一であるべきだった。そうであれば、何も問題は起こらなかった。だが現実に、許容性にはあまりにも大きなムラが存在する。宇宙の構造は酷く歪んでいる。それが何をもたらすか、わかるか」
「さあな。正直、初耳だぜ」

 許容性のムラなんてものは、考えてみたこともなかった。
 ウィルはそんな俺を見て、ふっと笑った。馬鹿にしているのだろう。

「簡単なことだ。歪みはさらなる歪みをもたらす。星脈もフェバルも、そうして生まれたようなものさ」

 宇宙の歪みがフェバルを生み出した。
 こいつはもしかして、フェバルの存在理由を知っているのか?
 そんな俺の考えを見透かすように、ウィルは小さく頷いてみせた。

「許容性の高い世界は、存在自体が罪なのだ。保有する莫大なエネルギーが、宇宙の構造に歪みを与え、星脈にも力を与えている。それを滅してやれば、その分だけ歪みは解消され、星脈は力を失うことになる」

 なるほど。少しは理屈がわかったぜ。だが、やっぱり気に入らねえな。

「その世界に住んでいる者たちはどうなる」
「一々そんなものを気にしてどうするんだ」
「お前は自分さえ良ければそれで良いのか?」
「何か問題でも?」

 俺は溜め息を吐いた。平行線だ。俺とこいつでは、やはり根本の価値観が違う。

「俺にわざわざこんな話をしたってことは、少しでも動かせる手駒が欲しいんだろう? ウィル」
「否定はしないさ。お前の【反逆】は役に立つ。どうだ。フェバルの運命に抗ってみないか」

 それは、あまりに手段を選ばないことを抜きにすれば、魅力的な提案に思えた。実際に、こいつについていく奴もいることだろう。
 ふと、その場の考えとは違う言葉が漏れる。これも何となく引っかかっていたことだった。

「最初に女のユウを痛めつけてから眠らせた理由が、ようやくわかったぜ」
「あの女には、おしおきをしてやる必要があった。セーフティが機能しなくなれば、少しは変わってくれるだろうと期待していたんだがな。結果は、期待外れも良いところだった」
「お前はユウの能力について、どこまで知っている」
「ほぼ全てさ。ユウのことなら、大体何でも知っている。知りたくもないがな」

 そう言ったこいつの顔は、実に忌々しげだった。ユウが嫌いだと言うのは、どうも本心のように思える。
 だったら、やはりなぜ積極的に関わるのか。
 利用価値だけの問題とは、どうしても思えないが。それをこいつは決して俺には答えようとしない。
 代わりに、ウィルはまた説明を始めた。

「つまるところユウの能力とは、世界をありのままに保管し、自在に活用することの出来るストレージだ。世界は混沌としているゆえに、ストレージである心の世界もその性質を反映する。ありのままの純粋さと混沌こそが、あいつの能力の本質に他ならない」

 ウィルは人さし指と中指を立てた。

「力を引き出してやる方法は、主に二つ存在すると考えられた」

 中指を折る。

「一つは、混沌で心を満たすことだ。これはさほど難しくない。能力を過度に使用させて、制御を失わせるだけで良い。だがこれでは弱い。混沌には、どこに向かう意志の力も存在しない。ただそこにあるだけだ」

 俺は黙って話を聞いていた。ウィルは人さし指を残したまま続ける。

「もう一つは、特定の方向に感情を強く誘導することだ。あいつの能力のパフォーマンスは、あいつ自身の心に根差している。お前も見て来たはずだ。ユウの心の状態によって、能力のあり方が自在に変わる様を」
「そうだな。確かにあいつは感情のままに力が発揮されてしまうところがある。良くも悪くもな」

 こいつの言いたいことはよくわかる。
 心の世界を優しさが満たせば、あいつは優しい力を発揮する。困難に立ち向かう懸命な勇気が、何度もあいつ自身に壁を打ち破る力を与えてきた。
 一方で、耐えられない悲しみが女のユウを生み出し、憎しみと怒りが身を包めば、親戚に仕返しをしたときのようにどこまでも残酷な力を発揮する。
 危ういんだ。ユウは。誰かが支えてやらなければならない。
 これまでの話を踏まえれば、こいつがエデルで何をしたかったのかも、もう予想が付いていた。

「どこまでも惰弱だったあいつには、憎しみと絶望を与えるのが一番手っ取り早かった。最も深く暗く、ゆえに強い感情の一つだ。その感情に支配されたとき、あいつは心に光なき漆黒のフェバルとして完成するはずだった。僕に匹敵する、いや上回るかもしれないオリジナルの破壊者にな。レンクス。お前が僕の邪魔をしなければ、大分近づけたはずだった」
「へっ。そんなことさせるわけないだろうが。てか、いいのかよ。そんなにべらべらと話してよ」
「少々事情が変わったのさ。新しい事実が発見出来たからな」
「ほう。聞かせてみろよ」

 促すと、彼は小さく肩を竦めてから続けた。

「レンクス。お前も薄々気付いていたはずだ。エデルで僕とお前が戦ったとき、ユウの仲間が、お前の【反逆】とジルフの【気の奥義】による強化効果を足し合わせただけでは、全く説明が付かないほどの能力の向上を見せていたことを」
「ああ。そうだな」

 心が繋がれば繋がるほど、大きな力を発揮する。そんなユウの能力の特性が垣間見えた戦いだった。効果はユウ本人だけに及ばない。繋がった相手に対しても、知らず知らずのうちに発揮されている。

「僕はその可能性を見極めようとした。あえてユウの仲間を殺さなかったのは、そんな程度の理由さ」
「そしてお前は、その可能性を見たわけだな」

 ウィルは、今度はやけに素直に頷いた。
 あんなに楽しそうに笑ってやがったからな。嫌でもわかるさ。

「男女融合体の発現。仮に『神性体』とでも呼ぶことにしよう。あいつは女の姿をも通して得た心の繋がりを最大限に活用して、心の世界の全要素を一時的にでも結び付けてみせたのさ。僕の想定とは違ったが、本来発揮するべき望ましいレベルの力を得た」
「だがあの状態のユウは、危険極まりなかった。偶然お前を止めるという意識が優先されていたから良かったものの、本来なら何をしでかすかわからなかったはずだ。どこまでも純粋過ぎるんだよ。完全に人間性を失っていた」
「くっくっく。僕がいなければ、あの世界を善意で滅茶苦茶にしていたのはあいつかもしれないな。結局のところ、黒か白か。その程度の違いでしかない。そして僕は、どちらでも構わない」
「やっぱりユウを仕立て上げようとしてるんじゃねえか」

 ウィルは、もうことさらに否定はしなかった。

「いずれにせよ、あいつが人間を超えようとするのなら、文字通り人間ではいられないということさ。紛い物の『神』にでも『破壊神』にでもなるしかない」

 ちくしょう。思った通りだぜ。こいつが素直にユウの味方になるはずがねえよな。

「これからどうするつもりだ」
「しばらくはこの下らないゲームを続けるさ」
「それで。ユウはどうなる」
「もうわかっているだろう。僕はあいつが嫌いなんだ。もしあいつが力を増してゆくその過程で壊れてしまうというのなら――」

 ウィルは、これまでで一番の凶悪な笑みを浮かべた。

「それはそれで構わない」

 俺は、躊躇なくこいつを睨み付けた。

「よくわかった。俺とお前は、結局どうしたって相容れないということがな。お前は、フェバルとしてのユウが大事なんだ。そうだろう」

 ウィルは、何も答えなかった。代わりに、不敵な面構えを浮かべている。

「けど、俺はな。人間としてのユウが好きなんだ。他の誰でもない、あの優しくてどこか抜けていて、時に弱くて、けど芯に折れないものを持っている、そんな人間のユウが好きなんだよ」

 だから。これが答えだ。ウィル。

「どんな事情があるにせよ。あいつを心の壊れた化け物にさせるわけにはいかないな」
「ふん。交渉決裂というわけか。そうなるだろうと思っていたよ」

 ウィルは、軽く舌打ちした。

「トーマス・グレイバーの奴もそうだ。傍観者とはよく言ってくれたものさ。僕は最初から破壊者だった。あいつはそれをよく知った上で、下らない嘘を話に混ぜ込んでユウに聴かせたんだ。素直なユウは、馬鹿みたいにそのまま信じたよ。嘘八百のお涙頂戴なストーリーをな。同情の余地を残してしまったんだ。あのお人好しのユウにそんな感情を与えてしまった時点で、エデルでの僕の計画は失敗に終わっていたのかもしれないな」

 そしてどこか諦めたように、溜め息を吐いた。俺は少し驚いた。こいつが溜め息を吐く姿なんて、見たことがなかったからだ。

「いいだろう。僕は僕の道を行く。お前はお前の道を行くがいいさ」
「ありがたくそうさせてもらうとするぜ」

 すると、ウィルは背後にある鼠色に濁った星、エルンティアにほんの少し目を向けて、にやりとほくそ笑んだ。

「そろそろか――せっかくだ。少しくらいこの星の話でもしようじゃないか」
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