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フェバル保管庫2 作者:レスト

人工生命の星『エルンティア』

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14「ヒュミテ王救出作戦会議 2」

「第八街区四番地にある、ディースナトゥラ第一刑務所。そこのどこかにテオは囚われている。刑務所は地上四階、地下三階の収容施設がメインで、他にグラウンドや囚人が労働作業をする工場などが付属している。周囲は、脱獄防止用の高圧電流が流れる高い塀に囲まれている。残念ながら内部の詳しい見取り図はないが、綿密な情報収集によって、ある程度の構造は判明している。五ページに載っているのがそれだ」
「へへ。オイラも頑張ったんだぜ~」

 リュートが得意気に言った。
 私は五ページにざっと目を通した。特筆すべきは、地下三階にある特別収容区画と書いてある部分だろうか。ヒュミテの王ほどの重要人物ともなれば、警備も厳重だろうし、ここに収監されている可能性が高いかな。
 そう考えていたら、やはりウィリアムも同様の見解を示す発言をした。

「しかし、そうと見せかけて別の場所にってこともあり得るぜ」

 ロレンツが、自己紹介のときとは違って真面目な顔でコメントした。
 彼だけでなく、全員が真剣だった。初対面からこれまでずっとマイペースだったアスティも、今は見違うほど集中して話に耳を傾けている。
 マイナがロレンツの意見を否定した。

「いえ、その可能性は低いでしょう。わざわざ奇をてらうなんてことをしなくても、絶対に破られないという自負と実績が奴らにはあるわ。何たって、これまで特別収容区画まで辿り着けた者も、そこから脱獄出来た者も誰一人いないのだから」
「確かにな。連中にとって一番安全な場所を、わざわざ外すこともないか」

 彼がやれやれと肩をすくめる横で、デビッドがやや苦い顔で言った。

「向こうの体制は万全で、戦力も向こうが上。わかっちゃいたが、圧倒的に不利だな。まあ一つオレたちに有利な点があるとすれば、オレたちがここへ侵入したことはまだ知られてないということくらいか」

 ラスラがデビッドに同意するように頷く。

「そこは細心の注意を払ったからな。まさか奴らも我々が直接ここへ乗り込んで来ているとは思うまい。まず奇襲はかけられるだろう。どの道少しも経てば増援が来て、実質正面突破になるがな……」
「スピードが命になるな」

 デスクの奥でどっしりと構えて話を聞いていたネルソンが、空気を裂くように鋭く呟いた。
 その通りだと思う。少数精鋭で突破するにあたっては、何よりもフットワークの軽さを生かした目立たない迅速な行動がカギとなる。もたもたしていれば、当然ディーレバッツを始めとした増援がわらわらとやって来る。それまでにテオを助け出し、逃げ切らなければ、到底勝ち目はない。
 一通り意見が出たところで、ウィリアムがまとめる。

「うむ。今作戦においては、何よりも我々の素早く的確な行動が命綱となる。ディーレバッツが揃う前に、勝負を決めてしまわなければならない。奇襲及び先行はラスラ、デビッド、それからユウ、君に任せたい。やってくれるか」
「大丈夫。任せて」

 私はしっかりと彼の目を見て返事をした。

「収容所内部での援護と陽動は私とネルソン、ロレンツで行おう。外部脱出ルートの確保及び都市部での陽動は、アスティとマイナ、それとこの地に詳しいリュート、キブル、アムダに頼みたい」
「アイアイサー」
「おう。バッチリやるよ」

 アスティが元気よく敬礼を決める。リュートを始め、三人の幹部が頷いた。

「敵の動き、特にディーレバッツの動きを捉え、無線で我々に伝える役はクディンとレミにお願いする」
「承知しました」
「すまないな。僕らはあまり役に立てなくて」
「下手に大勢で動き回った方が、リスクが上がるからな。それに、考えようによっては一番重要な役目だ。誰もが得意不得意があるのだから、それぞれが出来るそれぞれの役割を果たせばいいさ」
「そうだな。僕たちは後方支援をしっかりと務めることにしよう」

 クディンが意気込んだところで、ウィリアムは続けた。

「無事テオを救出出来たなら、その後はここギースナトゥラより、我々ルナトープがここまで来たルートを逆に辿ってルオンヒュミテを目指す。実質エルン大陸を抜けるまでが勝負となるだろう」
「ディーレバッツとの命を懸けた追いかけっこの始まりってわけですねー」

 アスティがしれっと言ったが、目は笑っていなかった。
 それから、さらに作戦の詳細を話し合った。具体的な動きだとか、状況別の立ち回りだとかを綿密に打ち合わせていった。

「以上で議論すべきことは大体終わりだ。何か言いたいことがある者はいるか?」

 しっかりと話し合ったので、みんな疑問点などはないようだ。誰も手を上げる者はいなかった。
 ただ、私には少し言っておきたいことがあったので、遠慮なくこの場で言うことにした。

「そうだ。先に言っておくよ。私は今回、敵対した相手を殺すという方法は極力取らない」
「なっ!? 貴様、本気で言ってるのか?」

 ラスラが、呆れるような非難するような口調で息巻いた。私は彼女の目を見て、はっきりと告げた。

「本気も本気。本当なら、ヒュミテとナトゥラが対立してるっていうこの現状も好きじゃないの」

 ここまで眺めてきた限り、ヒュミテもナトゥラも、大抵は普通の良識を持った普通の者たちだ。歴史問題とか種の違いとかが、色々と状況をややこしくしてしまってはいるけれど、両者は本質的にわかり合えない者同士ではないはず。現にこうして、共通の目的の下にみんなが協力している光景を見て、なおさらそう思った。ならば、一時の敵対で余計な犠牲者は増やすべきじゃない。

「確かに私としても、いつか両者が手を取り合う未来が来ればとは思うが……理想では現実は語れんぞ」

 ウィリアムの指摘も、もっともだった。十代の私ならきっと反発しただろうけど、私だって別の世界で戦争に身を投じた経験があるし、人を殺したこともないわけじゃない。その辺はもう十分に身に染みてる。

「もちろん、綺麗事だけではいかないというのはわかってる。向こうだって本気で命を狙ってくるだろうしね。だからこれは、あくまで私個人のポリシー。私だって仕方なければ殺るときは殺るし、あなたたちが勝手に殺し合う分には止めたりしないよ」

 本当の理想としては、敵味方関係なしに、殺しなんて止められるものなら全部止めたい。だが、そこにこだわってみんなの足を引っ張っては、為すべきことも為せなくなる。まあそれでもあまりに見かねることがあれば止めると思うけど、少なくともこの人たちは、必要以上の殺戮はしないような気がするから。

「ただ、私自身は、殺しには積極的に手を貸さないというだけ。私が力を貸すのは、あくまでテオって人の救出。だからそのつもりでよろしくね」

 周りはシーンとしていた。私の言ったことが意外で、言葉が出てこないようだった。
 殺し合いが当たり前なこの世界の常識からすれば、私は相当異端な考えの持ち主なのかもしれないとは思う。それでも、私は平和な日本で育った呑気な価値観を持つ一人の人間としての筋を通した。なるべく本心のままに行動したいから。
 やがて、最初に口を開いたのはリュートだった。リュートはにっと笑って、私に同意してくれた。

「オイラはユウの考え、素敵だと思うよ。お互い嫌い合ってるのなんて、悲しいもんな」

 続いて、アスティが楽しそうにウインクを向けてきた。

「あたしも構わないよー。ユウちゃんって本当に面白いんだね」
「こんな甘い奴、初めて見た」

 ラスラはすっかり呆れて果てていた。もう非難するような感じではなかった。

「どこでどういう教わり方をしたらそうなるんだよ……」

 そう言ったロレンツを始め、大抵は呆れ顔を見せていた。

「ふっ。すまないが、私も少し驚いたよ。だが君のような考えが、もしかするとこの世界には真に必要なのかもしれんな」

 ウィリアムは、どこか達観した口ぶりだった。

「よし。他に言いたいことがある者はいないか――――いないようだな。では、作戦会議は以上だ。これから一週間は、休養及び合同演習に充てることとする。我々の長旅の疲れを取るのと、お互い連携に慣れる必要があるからな。時間はないが、焦りは禁物だ。万全の状態で臨み、必ずテオを助け出すぞ!」

 みんなが力強く頷いた。

 やがて、各自バラバラと席を立ち始めた。長いこと座っていたので、うんと伸びをするとすっきりした。
 一通りみんなと話をしておこうかな。
 そう思った私は、誰かに話しかけようととりあえず歩き始めた。そのとき、背後からちょんちょんと肩をつつかれた。

「はい?」

 振り返ると、ロレンツだった。彼はへらへらと笑いながら調子よく話しかけてきた。

「ユウ。お前にちょっと聞きたいことがあんだよな」
「なに?」

 彼は怪しい笑みを浮かべると、顔を耳に寄せてひそひそ声で言ってきた。

「お前さ、半分は男なんだろ」
「うん」
「生まれつき変身出来たのか?」
「いや。途中からだけど」
「へえ。じゃあ元はどっちなんだ」
「一応男だけど、それがどうしたの?」
「そうか。よし。なら別にいいよな」

 こいつはとんでもないことを言ってきた。

「なあ、俺に一発やらせてくれねーか?」
「は!?」

 私はドン引きして、思い切り後ずさった。

「な、何言ってんの!?」

 彼は懲りずに、心底きもい笑みを浮かべながら、ゆっくり近寄ってくる。

「別にいいだろ? いつでも変身出来るなら、減るもんじゃねえし。実はさあ、俺長旅で結構溜まってんだよ。でもうちの女子、みんなガード硬いからなあ。ハハ。お前も男ならわかるだろ?」

 確かに全くわからないわけじゃないけど、でもそれで言うことがやらせろって……! ふざけんな。こっちの気持ちも考えてよ!

「見た目俺好みでかわいいし、この際半分男ってことには目を瞑る! ってわけでさ、今夜どうよ? 一緒に気持ちよくなろうぜ。へへへ」

 私は全身に身の毛がよだった。
 最悪。あり得ない。きもい! しね! しんでしまえ!
 一緒に聞いていた「私」も、完全に同調していた。

『ちょっと私にも一言言わせて!』

 私は、図々しく肩に手を伸ばしてくるこいつの腹に、一発ボディーブローをぶち込んだ。

「ぐはっ!」

 腹を押さえて呻くこのゲス野郎に、私は言ってやった。

「私には私なりの心があるの。あんまりふざけたこと言ってるとシメるぞ。この腐れチ●ポ」

 するとこいつは、なぜかなすべきことをやり切って満足したような、妙に嬉しそうな顔をした。

「いいパンチだ。き、気に入った……ぜ……」

 がっくりと膝を付いた彼を、冷たい目で見下ろしながら、私は思った。
 やっぱりこいつも変態だったと。
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