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敗者の勝点
作:百合茶


 俺とテルは昔から仲が良かった。小学生の頃から二人してサッカー部に入り、中学では2年間同じクラスだ。おまけに去年テルが同じアパートの2階に引越してきた。お互い物凄く縁があって、『運命』ってヤツに引き寄せられているんじゃないか?とさえ思う。

──そんなある日

 朝のミーティングの時間。先生の前で弧を描く3年生達の後ろで、俺とテルはこそこそ喋っていた。
「テル、マネージャーの谷口さん、辞めたらしいぜ。」
「あぁ。やっぱり坂下先輩目当てだったんだな。」
「俺なら一発OKだけどなぁ。…谷口さん、けっこう良かったのに。」
「あっちゃん面食いだな。俺はそう言うの、あんまり…。」
「なんだよ、それ。」
 他にも何か言いたかったが、周りのざわめきが引いてきたのに気付き、そこで会話を止めた。
「スタメン発表するぞ。」
 先生が皆を見回して、ひと呼吸おいてから名前を読み上げる。
「ツートップは坂下と加藤…」
――さすが坂下先輩、そりゃモテるよなぁ。
 心の中で呟く。
――目の前に気になっていた人がいたのに、谷口さんは坂下さんしか見えてなくて、坂下さんは…? ってちょっと待て!俺が…気になっていた!? 好みの一例としてではなくて、『谷口里美さん』が気になっていた!?
 はぁ…。
 スタメン発表時に、ため息ついてがっくり頭を垂れている俺は、生意気な後輩に映るだろう。
――そんな事より、目の前から消えてしまった後で自分の気持ちが分かる…。こういうのを何と言うのだろう?谷口さんの気持ちが分かって『失恋』とすべきか、坂下さんがフってくれて『ファイト』を燃やすべきか…?
 俺が独りで葛藤している間に、スタメン発表から控えメンバーの発表に移っていた。まぁ、よほど上手くない限り、2年が登録メンバーなんて入りっこないんだけど。
 が、しかし…
「…森口、佐川、平中もだ。」
――うそ?
 隣のテルと顔を見合わせる。
「テル、俺たち!」
「やったぜ!あっちゃん!」
 先生がまだ喋っているのもお構いなしに、ガッツポーズやらVサインやらをキメまくる。
――谷口さん!やりました!俺、森口敦と、相方の平中輝光は…
「あぁ、当たり前だが、"森口"は3年の"森口博人"の事だ。」
 途端にどっと笑いが起き、俺は今度こそ本当にがっくり頭を垂れた。
 テルだけは、相変わらず飛び跳ねていて、一緒に控え入りした佐川に親指を立てていた。


 俺とテルは今まで、お互い物凄く縁があって、『運命』ってヤツに引き寄せられているんじゃないか?とさえ思っていた。それがこのメンバー発表で、俺とテルを引き付けるのは『運命』から『宿命』に変わった。テルとは親友と同時に宿敵で、ずっと対等だったのにテルに離された。負けた。同じようにしてきた中で俺は今、『対等』ではなく『敗者』の側にいる。
――なんで、俺だけ…

 部活の合間の休憩時間。ドリブル勝負をしているテルを遠巻きに、芝生の緩やかな斜面に寝転がる。
――恋も部活も、俺は敗者…。
「ねぇ、生きてる?」
 究極に気持ちが沈んでいると、死顔に見えるらしい。天から声が降ってきた。
「なんか幻聴がする…神様が迎えに来たのかな?」
 本当に救いの女神が来たような気分になり、それをそのまま冗談で返しながら、ひょいと体を起こした。クラスメイトの石井梨乃が隣に座っていた。
「あっちゃんが元気ないなんて、らしくないよ。」
「俺だって落ち込む時くらいあるさ。」
「じゃあ、仲間だね。」
「仲間?」
 梨乃が瞬きと同時に頷く。彼女のまつげは濡れていて、恥じるようにグスッと鼻をすすった。
「あたしね、外されちゃった。女バレって人数少ないでしょ?だからって訳じゃないけど、あたしリベロで先輩達と試合してきたんだよ?なのに、5月に捻挫して戻ってきたらメンバー外されてさぁ。なんで先輩達との最後の大会、やらしてくれないんだろうって…。」
「そっか…。」
 また泣き出しそうな梨乃の顔がまともに見れずに、そっけない返事を返した。
 それ以上お互い何も言わず、暫く遠くを眺めていると、二人して同じものを見ている事に気付いた。
――テル。
 凄く遠くに感じる。センターラインが勝敗を分けているような気さえする。俺と梨乃は『敗者』、テルや坂下さんは『勝者』と言う風に。
「…え?あっちゃん今何ていったの?」
 俺は無意識に何か口にしていたようだ。多分、さっきから頭の中で廻る、『敗者』の事だろう。俺は梨乃と似たような境遇と、敗者である事を話した。
「…俺、このままずっと負けるのかなぁ。」
「そんな事ないよ。あっちゃん、敗者のメリット教えてあげる。」
 梨乃は左肩にかけていたタオルで綺麗に顔を拭いて、にっこり笑った。
「負けていたらね、これ以上負けらんない。ってファイト湧くじゃん?それに、敗者は勝者になる事だってあるんだから。」
「いつか勝つという点…敗者の勝点か。」
 頭の後ろで腕を組んで、またごろりと寝転ぶ。背中をチクチク刺すのは芝生。胸元の汗を乾かしてくれるのは風。空が急に陰ったのは…
「なっ!?」
 梨乃の顔が近付いて、頭の下から手を引き出す前に、頬に接触する。微かにレモンライムの匂いがした。
「あっちゃん、あたしあっちゃんが…好き。」
 梨乃はタオルをきつく握り締めながら、ゆっくり話す。
「でも、あっちゃんがマネージャーさんの事好きだ。って分かっちゃったから…。」
 最後に俺の目をしっかり捕え、小さく、でもはっきりとこう宣言した。
「今は敗者だけど、いつかあっちゃんがあたしを見てくれたら…それまで唇だけは奪わないでおいてあげる。…絶対負けないからね。」 

 休憩終了の合図とともに梨乃に手を振って、俺はテルの所へ駆け出した。いつかそろってゴールがキメれるように…。


初のラブストーリー?
最後の『ゴール』は、梨乃(または谷口さん?)とのゴールインも、テルとゴール(シュート)をキメる事も、敗者から勝者になる(ゴールする)事も、いろいろの意味でのゴールです。
最後までありがとうございました。
尚、テルが主人公の『そのままの君で』も一ヶ月遅れで投稿しました。













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