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仮想戦記(仮 作者:ロックウッド
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1942シチリア海峡海戦9

 船団上空に飛来したのは、北アフリカ戦線に展開していたイタリア海軍独立戦闘飛行群、正確には第一独立戦闘飛行群と現在は呼称されている最初に編成された飛行群だった。
 その指揮官には、タラント艦隊航空参謀の任についていたはずの、編成された当時の司令が舞い戻っていた。

 独立戦闘飛行群は、元々洋上で艦隊防空を実施するために編成された部隊で、艦隊に随伴するために、改装水上機母艦ファルコを母艦としていた。だが、マタパン岬沖海戦において、ファルコが撃沈されてしまった後は、艦隊防空ではなく、海軍基地の要地防空任務を行う陸上部隊に再編成されていた。
 海軍としては、本音を言えば建造中の正規空母に搭載する航空隊か、その母体として独立戦闘飛行群を転用したかったのだが、いつ就役するかもわからない空母に載せるための航空隊として、有力な戦闘機部隊を遊ばせておくほど戦局に余裕はなかったのだ。
 そして、戦域の拡大に呼応するように、現在では複数の飛行群が海軍内に新たに編成されており、元々独立戦闘飛行群と呼称されていた第一独立戦闘飛行群は、その中でも古参の最精鋭部隊として北アフリカ戦線に抽出されていた。

 防空戦闘機を装備した戦闘飛行群が複数も編制されている現在でも、上級司令部となる海軍航空隊独自の航空団が組織される動きはなかった。イタリア空軍の通常編制では、1個航空団は2個飛行群で構成されるから、独立戦闘飛行群を束ねる航空団の編制は、組織の規模から言えば当然あり得た。
 だが、規模が拡大した後も、独自の航空団は編成されずに、戦闘飛行群から独立の言葉が消されることはなかった。

 もちろん、理由がないわけではなかった。戦闘飛行群が駐留する海軍の基地はそれぞれかなりの距離を持って配置されており、一箇所の防空にあたっている部隊が、他の海軍基地が襲撃されていたとしても、増援に赴くのはあまり現実的ではなかった。
 だから上級司令部の航空団が存在していたとしても、戦力を有機的に運用することは出来ないと考えられたのだろう。
 そのせいかどうかは分からないが、独立戦闘飛行群が何処に派遣されているのか、実施部隊のレベルでは正確に把握しているものは少なかった。ボンディーノ大佐は、南東方面艦隊隷下のヴィットリオ・ヴェネト艦長として、タラント駐留時期が長かったから、同じくタラントに展開していた独立戦闘飛行群とも付き合いが長く、現在の司令ともお互いにタラントを離れた後も連絡を欠かさなかったのだろう。
 ボンディーノ大佐は、その伝手を頼って、北アフリカ戦線に展開していた独立戦闘飛行群の出撃を、シチリア島から要請していたようだった。


 飛来した部隊は、見慣れない水冷エンジンを装備した機体を使用していた。
 ルティーニ中佐が最後に見た時から、使用機材の性能や構造は変わっているようだが、主翼の翼端ではなく、尾翼ではあるが、軽薄なほど真っ赤に塗装された指揮官機に率いられた部隊は、間違いなくかつて見慣れていた独立戦闘飛行群のものだった。
 おそらく、尾翼を赤く塗装された機体は、独立戦闘飛行群の司令専用機であるはずだった。編制当初から、飛行群の司令は愛機を赤く塗装しようとしていた。
 海軍に移籍する前の、空軍時代からそれがトレードマークだったらしいのだが、地上からの識別用に機体を派手に塗装することが必要だったかつての大戦時ならばともかく、現在では軍用航空機の塗装は細かな規定が設けられていたし、機体の全面を赤く塗装するなど目立って仕方がなかった。
 ルティーニ中佐も噂でしか知らないが、結局は全身が真っ赤な目立つ機体が一機でもあれば、編隊すべてが早期に目視発見されてしまうからと、飛行群の大勢から諌められてしまったらしい。
 あの群司令ならば、敵機に発見されればこれ幸いと相手取ってしまうのかもしれないが、かつての大戦時と比べて、現在では戦闘中も緊密な編隊を組んで飛行することが多いのだから、さすがに個性の塊のようなあの男も諦めざるを得なかったようだ。
 その代わりに、群司令用の識別として翼端のみは赤く塗装されていたはずだった。

 だが、本来であれば、群司令が飛行隊を上空で直率する必要などそもそも無いはずだった。司令としてのデスクワークも多いのだから、部下の飛行隊長に戦闘指揮を任せるのが普通だった。
 実際、マダパン岬沖海戦で戦死した二代目の独立戦闘飛行群司令であるフェラーリン大佐は、戦闘飛行群が母艦であるファルコを中核とした航空戦隊の一部に組み込まれていたとはいえ、艦上から指揮をとっていた。司令専用機も一応は用意されていたし、搭乗員資格も更新していたはずだが、専用機は陸上の倉庫に補用機として保管されたままだったらしい。
 だが、現在飛行群司令に返り咲いたあの男は、独自の嗅覚でも持っているのか、空中で指揮を取りながら自分でも戦闘機を駆って出撃するのを当然としていた。
 マダパン岬沖海戦でも艦隊航空参謀であったはずなのに、無理やりヴィットリオ・ヴェネトに搭載させていた愛機で出撃していたのだから、あの男を地上や艦上にとどめておくのは、誰にもできないのかもしれなかった。

 司令専用機に実際に搭乗しているのが誰なのかは、尾翼の赤い塗装を確認するまでもなかった。
 海面近くを進撃するボーファイターに向かって、独立戦闘飛行群の機体が次々とダイブしながら射点につこうと機動していたが、その中で、尾翼が赤い一機だけが、翼端から糸のような雲を引きながら、他の機体よりも鋭い機動で、下降していくのが見えていたからだ。
 あの機体は、明らかにフロートなどを持たずに、陸上から運用される機体のようだが、水上機を操っていた時と、腕は全く変わっていないようだった。ルティーニ中佐は、一体どうやって狭いコクピットに収まっているのかがよくわからない独立戦闘飛行群司令の肥満体を思い出しながら、安堵を覚えていた。
 状況は好転していた。船団を襲撃しようとしていた敵編隊は、今度は逆に独立戦闘飛行群から襲撃を受けて、右往左往しているように見えていた。
 あの非常識な独立戦闘飛行群司令とボンディーノ大佐が組めば、戦術的には敗北することなどあり得ない。全く何の根拠もなかったが、ルティーニ中佐はそう確信していた。


 だが、現実に引き戻すかのように、ルティーニ中佐の耳に、艦橋左舷の見張り員が上げた声が入ってきた。
「敵編隊近づく、目標は……本艦……」
 慌ててルティーニ中佐は左舷に目を向けていた。見張り員の報告通り、ボルツァーノの左舷側から突入しようとするボーファイターの編隊が見えていた。中佐は、その編隊を見た瞬間、嫌な予感がしていた。
 しばらく観察してから、その理由に気がついていた。その編隊は、異様なほど飛行高度が低いくせに、機体の姿勢は嫌になるほど微動だにせずに安定していた。おそらく、襲撃をかけてきたボーファイター隊の中でも手練の搭乗員が乗り込んでいるのだろう。
 飛行高度が海面すれすれなほど低いのは、単にレーダー波の覆域から逃れるためだけだとは思えなかった。ここまで近づいてしまえば、目視でも確認できるのだから、レーダーからだけ逃れてもしょうがない。

 おそらく、限界まで高度を下げているのは、上空からダイブしながら銃撃してくる独立戦闘飛行群の戦闘機に対抗するためだ。
 より高い高度を飛行している戦闘機が、ボーファイターを銃撃するには、まっすぐにボーファイターに向かって降下するか、同高度まで降下して後方から追尾する他無いが、降下中の銃撃は、敵機の高度が低い場合、機首引き起こしのタイミングを誤ると、海面に自機も墜落してしまう可能性もあった。
 それに海面高度で襲撃機動を行うのは、現実的には難しかった。照準のために少しでも旋回しようとすれば、たちまち翼面を海面に叩きつけてしまうことになりかねなかった。

 だが、いくら襲撃をためらわせる効果があるのだとしても、実際に海面高度近くまで降下するのには、かなりの技量と、それ以上の胆力が必要だった。離れたボルツァーノの艦橋からでも、そのボーファイター編隊が、プロペラが海面を叩くほどの低高度を飛行しているのが見えたが、その程度の高度では、ほんの僅かに操縦桿を傾けただけでも、機体のバランスを失って一気に海面に墜落してしまうのではないのか。
 おそらく、上空からでは、ほぼ横一列に並んで突入してくるボーファイター編隊の後方に、プロペラ後流によって巻き上げられた波飛沫が、船の航跡のように跡を残しているのがよく見えるはずだった。
 それに海面近くでは、気象状況によっては主翼の揚力の発生具合も上空とは顕著に変わってくるはずだし、濃密な大気による抵抗で、燃費も低下しているはずだった。長時間そのような飛行を行うのは、燃料消費量や、エンジンの耐久性からしても現実的とは思えなかった。
 ただし、戦闘機からの襲撃や、対空砲火を無効化するために、機体を知り尽くしている搭乗員であれば、襲撃機動の間だけ超低空を飛行することは出来るはずだった。

 見張り員の報告通りに、低空を迫るボーファイター編隊は、船団前方を航行するボルツァーノに向かってまっすぐに飛来していた。船団から突出しているボルツァーノを艦隊旗艦と見定めて指揮系統への一撃を狙ったのか、それとも単に周囲から離れて航行しているように見えるから、容易に襲撃できると判断したのかは分からなかった。
 何にせよ、目標がボルツァーノであることは間違いなさそうだった。

 厄介なことに、ボルツァーノに向かっているのは、敵ボーファイター編隊だけではなかった。ボーファイターの後方から、友軍の戦闘機が追撃しているのが見えていた。
 ただし、その友軍戦闘機の技量は大して高くはなさそうだった。機体の性能で言えば、ボーファイターよりも友軍機の方が圧倒しているはずなのに、その高性能を活かしてはいないようだった。飛行姿勢も漫然としているし、まばらに銃撃を行うだけで、積極的に阻止行動に出る様子もなかった。
 おそらく、急角度での銃撃によって、引き起こしが間に合わなくてそのまま海面に墜落する危険性を、不必要なほど高く見積もってしまっているのだろう。その機動には、群司令機のような鋭さはまったく感じられなかった。
 だが、その機体以外に、急接近するボーファイター編隊に対応できそうな友軍機はいないようだった。遥か彼方で尾翼が真っ赤な機体が、別のボーファイターを追い掛け回しているのが見えていたが、あの位置からではとても間に合いそうになかった。

 友軍戦闘機の存在は、ボーファイター編隊の剣呑さを増すことにしかならなかった。敵後方上空を、同一の針路をたどりながら友軍機が飛行しているものだから、ボルツァーノ側では誤射を恐れて対空砲火を上げることが困難だったのだ。
 急な敵機の襲撃に動揺したのか、船団や護衛艦隊の配置もばらけていたから、ボルツァーノを援護出来る位置を航行する護衛艦艇もなかった。

 しかし、ボンディーノ大佐は、先ほど発砲を禁止したことなど忘れているかのように、平然と伝令を押しのけるようにして、艦内電話で射撃指揮所に陣取っているはずの砲術長を直接呼び出していた。
「主砲発射用意、ただし俯角を大きくとって海面に落とせ、あのパイロットは新米だな……それで逃げ出してくれるだろう」
 誤射があってもそれは事故だと言わんばかりの態度だった。さすがにルティーニ中佐はボンディーノ大佐を止めようとしたが、それよりも早く待ちかねていたかのように、ボルツァーノが発砲を開始していた。
ボルツァーノ級航空重巡洋艦の設定は下記アドレスで公開中です
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/cabolzano.html
レッジアーネ Re2000、Re2000Pの設定は下記アドレスで公開中です
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/re2000.html
空母ファルコの設定は下記アドレスで公開中です
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/cvfalco.html
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