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仮想戦記(仮 作者:ロックウッド
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1942エル・アラメイン砲撃戦10

 デム軍曹達第27戦闘航空団の飛行中隊が前線を一時離脱してから補給の後、北上を続けるアフリカ軍団の援護に再度出撃するまで、数時間しか経っていなかったが、その間にも戦線は大きく北方に移動しているようだった。
 作戦前のブリーフィングで説明された話では、今回の攻勢作戦の目的は、海岸線近くを目指して進出するドイツアフリカ軍団の目的は、この戦線に展開する国際連盟軍全部隊を指揮していると思われる英国第8軍司令部の無力化か、前線陣地に布陣する敵部隊と後方のアレクサンドリアとの連絡線を遮断することらしかった。

 敵司令部は、こちらの進出を警戒して車両を用いて退避することもできるが、移動中やその準備中は、各隊から司令部直属の通信隊との連絡が難しくなるし、情報伝達速度が極端に低下するから、敵司令部を捕捉殲滅出来なかったとしても、敵司令官達が事前に退避を前提とした計画を各級部隊に徹底していない限り、かなりの時間は国際連盟軍全軍に混乱をもたらすことが出来るはずだ。
 その間に枢軸軍は、増援のフランス軍部隊などの補充を受け入れて、前線陣地の強化を行うことが出来るのではないのか。

 もし敵司令部を捕捉できなかったとしても、後方連絡線の遮断は不可能ではないはずだ。
 北アフリカの海岸線近くには、比較的整備されたバルディア街道と、単線ではあるが輸送コストに低い鉄道があるから、国際連盟軍、枢軸軍双方とも海岸線近くに補給路を設定していた。
 ここを短時間でも占拠できれば、策源地であるアレクサンドリアから前線へとつながる補給路を遮断し、敵前線部隊に混乱を巻き起こす事ができるはずだ。
 彼我の戦力差を考えればだいぶ難しくはあるが、高速の機甲師団を用いて敵主力部隊を包囲することに成功したフランス侵攻戦初期に生じたダンケルクの戦いの勝利を再現することも、運が良ければ出来るのではないのか。
 地上の陸軍ではそう考えてもいるようだった。


 だが、フランス戦にも参加していたデム軍曹には、その考えは甘いのではないのかと考えていた。
 あの当時は、英仏軍主力は最前線に展開していたから、少数の機甲師団が側面を無防備に晒しながら海岸線に向けて進撃していても、大規模な予備軍がパリなどから投入されることはなかった。
 しかし、ここ北アフリカ戦線では、国際連盟軍には英仏などのアジア植民地や、日本から続々と戦力がアレクサンドリアに移送されているはずだ。特に前大戦にも参戦していた日本帝国は、軍団規模の戦力を北アフリカ戦線に派遣しているということだった。
 それらの戦力が、包囲網の中の前線陣地ではなく、策源地アレクサンドリア周辺で予備兵力として待機していた場合は、機動力に優れた機甲師団であっても、脆弱な側面を突かれて、逆に包囲される可能性もあるのではないのか。

 あるいは、アフリカ軍団司令部では、日本軍が既に最前線に配置されているという確証でもあるのかもしれないが、空軍の一搭乗員でしか無いデム軍曹には事情はよくわからなかった。
 今はともかく敵機を一機でも多く撃破して、制空権を確保することが重要だった。進撃速度を重視したアフリカ軍団は、いつもの様に鈍重な砲兵火力に乏しいから、その代替となる急降下爆撃航空団などが十分に活動できるようにしなければならなかったからだ。


 戦場上空に到着したデム軍曹は、既に混戦になっていた航空戦闘を高空から見つめていた。一撃離脱戦闘を得意とするBf109を有効に使いこなすためには、事前に狙いをつける相手を慎重に見定める必要があったからだ。
 撃墜経験はないにしても、デム軍曹は歴戦の搭乗員だった。だから、補給を終えて取って返す前との戦場の違いを敏感に感じ取っていた。

 まず、友軍機の中で地上攻撃を行う部隊が、Ju87などの急降下爆撃機を装備した急降下爆撃航空団から、Bf109などの戦闘機を爆装させた戦闘爆撃機や、重火力と装甲を兼ね備えた数少ない地上攻撃機などを装備する地上攻撃航空団に切り替わっているようだった。
 中高度から、デム軍曹達のように、地上の目標を見定めているJu87急降下爆撃機は、極端に数を減らしていた。その代わりに、高高度からでは通常の戦闘機と見分けがつかないような飛行を続ける戦闘爆撃機の姿が増えていた。
 もっとも、戦闘爆撃機とはいっても、実際には対地攻撃を専門に習得した搭乗員が乗り込んでいるというだけで、使用機材は対戦闘機、対爆撃機戦闘を実施する戦闘航空団の装備する純然たる戦闘機と殆ど変わりはなかった。
 戦闘爆撃機は、地上攻撃用の爆弾やロケット弾を吊り下げるための爆弾架を追加搭載している場合もあるが、純粋な戦闘機型との違いはそれくらいのものだった。

 最近では、ドイツ空軍が数にまさる敵航空部隊に対して制空権を確立するのは難しくなっているから、敵戦闘機に対して脆弱な急降下爆撃機よりも、爆装さえしなければ、戦闘機と同様の機動性を発揮することも出来る戦闘爆撃機の方が、生存率は高いらしい。
 初期の頃は、地上攻撃航空団に配備された戦闘爆撃機は、独自の目立つ塗装を施していたが、集中して狙われた東部戦線での戦訓から、現在は地上攻撃航空団の機体でも、戦闘航空団とほとんど変わらない塗装になっていたから、遠目では戦闘爆撃機と通常の戦闘機との違いを見つけるのは難しかった。

 それに対して、少数機が投入された地上攻撃機Hs129は、戦闘機や急降下爆撃機を見慣れた目には異様な機体に見えていた。Bf109やJu87のような単発機ではなく、中央胴体から左右に伸びた両翼にエンジンを搭載した双発機だったが、搭載されたエンジンは空冷の非力なものだったから、双発機と言っても合計エンジンパワーはさほど高くはなく、最高速度も低かった。
 その代わりに20ミリ機関砲を2門というこのクラスとしては強力な兵装を有しており、主に対戦車戦闘に用いられることになっていた。
 Hs129は、在フランス企業のグノーム・ローヌ社製のエンジンが砂漠地帯と相性が悪かったのか、稼働率は低いと聞いていたが、対戦車戦闘の切り札として、戦闘に投入されたようだった。

 ――Hs129や戦闘爆撃機が大挙して投入されたということは、相手が代わったということか……
 デム軍曹は、そう考えて、地上の様子に目を向けていた。軍曹が考えていたとおり、地上の敵部隊は急降下爆撃機が得意とする不動の陣地から、高機動の戦闘爆撃機向けの戦車部隊に変化していた。
 固有の陣地ではなく、機動力のある戦車部隊が戦場に現れたということは、予備兵力をアフリカ軍団迎撃のために投入してきたのではないのか。

 だが、上空から見る限りでは、敵戦車部隊は砂煙を上げながら東方へと走り去ろうとしているようだった。高高度からでもわかるほど激しい砲火を放ちながらではあったが、移動方向は明らかだった。追撃戦に入ろうとはしていないから、味方の装甲師団に損害が出ているかは、はっきりとはしないが、戦闘後の再編成が終われば、さらに北方に向かうのではないのか。
 上空から見る限りでは、地上戦の事はよくわからないが、そろそろ海岸線に出るはずだから、敵部隊の行動は単なる遅滞行動にしかならなかったのではないのか。

 ただし、地上での戦闘は収まりつつあるようだが、航空戦はまだ続いていた。陸軍に代わって敵戦車部隊に追撃をかけようとする地上攻撃航空団と、それを援護しようとする戦闘航空団、そしてそれらを阻止しようとする敵戦闘機部隊との間には、激しい空中戦が行われていた。


 しばらく戦場の様子を把握していたデム軍曹は、新たに空域に進入してきた奇妙な機体を見つけて首を傾げていた。中高度を飛行していたのは、恐ろしく旧式に見える複葉の機体だった。
 機体色は独英機などの砂漠迷彩や日本軍の褐色一色ではなく、何故か濃い緑色をしていた。その複葉機が何者かは分からないが、胴体下部に巨大な何かを吊り下げているのだけは間違いなかった。
 ――複葉のソードフィッシュの改造型かなにかか
 デム軍曹は首を傾げながらも、二番機に合図をしていた。今のところあの複葉機に気がついたのは、じっくりと品定めをしていたデム軍曹たちの編隊だけのようだった。
 友軍の機体はいずれも敵機との空中戦に突入しているようだった。
 今度も血気にはやるマイザー少尉をなだめるようにしながら、デム軍曹は慎重にその複葉機への襲撃機動を開始していた。

 複葉機の正体に気がついたのは、接近してからの事だった。敵機は三座のソードフィッシュではなく、複座の機体だった。それに機体寸法も一回り小さいようだった。
 さらにエンジン出力もソードフィッシュよりも高いのか、それとも機体が軽いのか、速力も予想よりも速かった。
 胴体下部に吊り下げていると思っていたのも、予想とは違って、爆弾などではなく、機体構造の一部と言っても良い巨大なフロートだった。
 つまり、敵機は複座の水上偵察機だったのだ。機体色が他と違うのも当然だった。独英、日いずれの機体も砂漠地帯での迷彩効果を期待して褐色系統の塗装色を採用しているのだが、この機体は水上偵察機なのだから、洋上での迷彩効果を最大限考慮した機体色を塗っているはずだ。
 機体の国籍標識は赤い丸だから日本海軍の機体なのだろう。


 だが、複葉機の正体に気がついたあともデム軍曹は首を傾げていた。一体何故こんなところに日本海軍の機体と思われる複座水上偵察機が姿を表したのかがよくわからなかったからだ。
 兎にも角にも、これが敵機であることには代わりはない、そう考えてデム軍曹は襲撃軌道を取りながら敵機近くまで接近してから射撃を開始したのだが、意外と高性能だった機体に翻弄されたのか、それとも正体に気がついたことによる逡巡があったのか、Bf109から放たれた射弾は、微妙に敵機をそれていた。
 しかも、デム軍曹の射撃で気がついたのか、複葉水上偵察機は、素早い切り込みで翼を翻して回避行動に移っていた。Bf109は上空から降下して増速していたまま、高速で敵偵察機とすれ違っていた。

 デム軍曹は、後方に振り返って、眉をしかめていた。相変わらず狭苦しい視界の中で、マイザー少尉が機首を強引に複座水上偵察機に向けようとしているのが見えたからだ。
 おそらくマイザー少尉は、デム軍曹が仕留め損なった複座水上偵察機に向かって発砲するつもりなのだろう。だが高速飛行中にそんな無理矢理な機動を行った上で発砲しても射弾が安定するはずはなかった。
 それどころか飛行速度を大きく低下させて、デム軍曹に追随できなくなるだけではないのか。

 慌てて、デム軍曹は無線でマイザー少尉を止めようとしたが、口に出したのは警告だった。
 マイザー少尉のBf109の後方から、複座水上偵察機と同じような濃緑色に塗装された空冷エンジン機が、低空から突き上げるように、姿を表していたからだ。
 機体の全体的な印象は一式戦闘機に似ていないこともなかったが、搭載されたエンジンはもっと大出力のものなのか、エンジンカウリングは一式戦闘機のそれよりも大口径であるように見えた。
 もしかすると少数が投入されているという二式戦闘機という迎撃戦闘機かとも思ったが、塗装は日本陸軍のものとは異なっていた。それに識別表の二式戦闘機のイラストや写真とは形状が異なっていた。

 これまで直接目にしたことはなかったが、濃緑色の塗装からして、この戦闘機はおそらくは日本海軍が運用する零式戦闘機だった。たしか最近の識別表でエンジンを換装した改良型が出現したと書かれていたはずだが、これまで北アフリカ戦線の最前線で勃発する地上戦闘に日本海軍が介入した例は少なかったから、デム軍曹がその新型零式戦闘機を見たことはなかったのだ。
 これまでの零式戦闘機と比べると、エンジン出力が上昇している他、翼端形状などが異なっており、高速化した重戦闘機よりの機体らしい。しかも出力の割には軽量な空冷エンジンを搭載しているから、上昇率は高いと注意書きが識別表には記載されていた。

 マイザー少尉もデム軍曹の警告は聞こえたはずだが、死角となる後方下面から接近されていたから、最後まで零式戦闘機に気が付かなかったようだった。マイザー少尉のBf109と上昇してくる零式戦闘機が発砲を開始したのはほぼ同時だった。
 双方ともに無理な姿勢からの銃撃だったが、実際にはどちらも命中弾を得ていた。デム軍曹は、目を見開いて複座水上偵察機を見つめていた。マイザー少尉の13ミリ機銃による射弾は、回避行動をとっていた複座水上偵察機の翼面を切り裂くように穴を開けていた。
 さらに、機銃と同時に発射していた20ミリ機関砲は翼面を切り裂いてから胴体と主フロートの接合面に命中していた。20ミリ機関砲弾の威力はさすがに凄まじく、着水の衝撃に耐えるために頑丈に作られているはずの主フロート接合部は連続した弾着によって、穴だらけにして、主フロートを脱落させていた。
 急旋回中に抵抗源である主フロートを唐突に喪失し、また片翼側から着弾による破損によって揚力を急速に減少させた複座水上偵察機は、急旋回の勢いもそのままに、即座に異常な錐揉みを開始しながら墜落していった。


 だが、困難な姿勢からエクスペルテンの技量である見越し射撃を命中させたマイザー少尉は、その成功を喜ぶことは出来なかった。上昇を続ける零式戦闘機からの射弾も同時にBf109に命中していたからだ。
 識別表の記載の通り、新型零式戦闘機は左右の主翼前面から20ミリと13ミリの2丁の機銃を放っていた。主翼前縁を発砲炎で真っ赤に染めながら、零式戦闘機は上昇の勢いもそのままに、マイザー少尉のBf109の脇をすり抜けるようにして飛び去っていった。
 次の瞬間、エンジンから尾翼付近まで、胴体を満遍なく破壊されたBf109がぐらりと機体を傾けると、複座水上偵察機を追いかけるように、構造材を四散させながら真っ逆さまに落ちていった。

 デム軍曹は、ほんの僅かの間に発生した2機の墜落に、思わず後悔しながらも、手足は自然と機を操っていた。
 よく考えればわかることだった。こんなに激しい空中戦が続いている空域に、日本軍が水上偵察機のような脆弱な機体を単機で投入するはずはないのだ。マイザー少尉を撃ち落とした零式戦闘機は、あの偵察機の護衛任務に付いていた機なのではないのか。
 マイザー少尉の戦死は、それに気が付かずに、護衛機の存在を見逃したまま攻撃機動にうつってしまった長機であるデム軍曹の過失だった。マイザー少尉が最後の瞬間に見せた、見越し射撃の技量が、逆にデム軍曹には悔しかった。
 それだけの技量を持った大きく成長する可能性のあった若者を死なせてしまったのではないのか、そう考えたからだ。


 無意識のうちに退避行動を続けていたデム軍曹が、違和感に気がついたのはその瞬間だった。
 ――まてよ……態々護衛機を付けて日本海軍は水上偵察機を航空戦の真ん中に投入してきたのか……
 北アフリカ戦線では、今も少なくない数の偵察専用機が、敵味方双方で運用されていた。ただし、それらの偵察機の任務は、あくまでも敵陸上部隊の捜索にあった。この砂漠地帯では内陸部を大きく迂回する機動戦術が多用されていたから、神出鬼没の敵機動部隊の位置や意図を把握するには航空偵察が必要不可欠だったのだ。

 しかし、偵察機が必要なのは、敵機動部隊の居所が不明なときだけだった。ついさっきまで、敵味方の装甲部隊が近接戦闘を行っていたのだし、その上空ではいまも空中戦が続いているのだから、危険を犯して、しかも陸地上空では目立つことこの上ない海軍の水上機が飛行する必要性は極めて薄かった
 デム軍曹は、眉をしかめながら、考え込んでいた。
 ――通常の偵察機ではないということは……あの機体は偵察機ではなくて、着弾観測を行う観測機なのではないのか。
 そこまで気がついてから、デム軍曹は戦慄しながら、Bf109の大して広いと言えないコクピットの視界から、必至で目を全天に向けた。探していたものはすぐに見つかった。

 それは、ついさっきマイザー少尉が撃墜した水上観測機と同一の機体だった。観測機は一機だけではなかったのだ。複数の機体が予備も兼ねて出撃しているのではないのか。小型の巡洋艦クラスならともかく、戦艦クラスであれば複数の観測機を搭載しているのが普通だった。
 もしかすると戦闘艦ではなく、水上機母艦も出撃しているのかもしれないし、アレクサンドリアから出撃することも出来るはずだった。

 ドイツ海軍の場合は、通商破壊作戦などを考慮して、広域偵察も実施出来るある種の万能機を好んでいたが、日本軍の場合は、純粋な観測機として軽快な機体を艦載水上機として好んでいるようだ。
 機動性は高いようだから、熟練した搭乗員が乗り込んだ場合は、撃墜はかなり難しいのではないのか。
 しかも、マイザー少尉を撃墜した零式戦闘機のように、護衛機もかなりの数が随伴しているはずだ。とてもではないが、僚機を失って単機となったデム軍曹にどうにかなるとは思えなかった。


 翼を翻して退避機動を取りながら、デム軍曹は無線を飛行隊長につなげようとしていた。下士官搭乗員でしか無い自分が何かを言っても聞き入れられるとは思えないが、歴戦の第27戦闘航空団の飛行隊長からの警告であれば、各隊も耳を傾けるのではないのか、そう考えたからだ。
 今は、敵戦闘機よりも、あの水上観測機を無力化するのは先だった。友軍戦闘機部隊が集中してかかれば、敵観測機を抑えこむのは不可能ではないはずだった。

 だが、デム軍曹が無線機を操作し終える前に、唐突に地上の友軍装甲師団の鼻先で、巨大な爆発が発生した。はやくも、榴弾らしき砲弾が巻き上げた巨大な砂煙が、着弾点周辺を覆っていた。
 砂煙が収まりかけて、地上まで視界が通るようになると、爆風の煽りをくらったのか、偵察部隊の装輪装甲車らしき車両が、車体をかしげながら横倒しになっているのが見えた。
 装輪車両とはいえ、重装甲の偵察車両は確か十トン近くの車重があったはずだ。その重車両を至近弾の爆風で吹き飛ばす程の巨砲が、味方装甲師団を射撃しようとしていた。

 おそらくは、今のは試射に過ぎないはずだ。着弾したのは一発か、二発に過ぎないが、上空の観測機が無事であれば、直ちに着弾修正を行って、全門を用いた全力砲撃に移るのではないのか。
 デム軍曹は、苦々しい顔で地上の様子を見つめていた。間違いなかった。この砲撃は敵戦艦による艦砲射撃だった。ここは既に敵戦艦の射程内に入っていた。しかも、射撃を行っているのは戦艦だけではないようだった。
 戦艦の着弾が再び発生するよりも早く、矢継ぎ早に戦艦の主砲よりもやや軽いが、それでも陸軍の重砲くらいはありそうな爆発が連続して発生していた。おそらく戦艦と重巡洋艦がコンビを組んで艦砲射撃を実施しているのではないのか。もちろん双方に個別の観測機がついて着弾修正を支援しているはずだ。

 これまで、厳重に防護された海岸陣地に対して艦砲射撃が行われた例はあったが、機動力のある装甲師団に対して実施された例はないはずだ。常識的に考えれば相当近距離に落着した至近弾で無い限りは重装甲の戦車部隊に致命的な損害が生じることはないと思うが、軽装甲の装輪装甲車や兵員輸送用の半装軌車では、榴弾破片でも、破壊される可能性は高いはずだった。
 少なくとも、海岸線近くへの進出は断念せざるをえないのではないのか。デム軍曹は暗澹とした表情でそう考えていた。
零式艦上戦闘機(33型)の設定は下記アドレスで公開中です
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