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仮想戦記(仮 作者:ロックウッド
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1942エル・アラメイン砲撃戦1

 今日もいつもの夢だった。実際にその光景を見てから、既に半年近くが過ぎていたはずだが、アルフォンソ伍長は未だにその時のことを細部まで忘れることはなかった。毎日同じ光景を夢で見ていたからだ。
 ただし、その光景が、実際にあったものかどうかは、もうよくわからなくなっていた。所詮は夢なのだから、それも当然なのだが、アルフォンソ伍長の都合のいいように記憶が変わっていく様子だけはなかった。
 その夢の始まりは、日によってばらばらだったが、終わりだけはいつも同じだった。だから、そのシーンだけは正確なはずだった。


 それは兄、ヴィジリオ・カンパニョーラの葬儀の日の事だった。
 その頃はまだアルフォンソ伍長は、現在の第17パヴィア歩兵師団ではなく、新編成の精鋭部隊である空挺部隊に所属していた。ただし、アルフォンソ伍長は、イタリアの参戦に前後して、規模を拡大して師団編成となった空挺部隊の原隊が駐留する駐屯地から遠く離れた故郷の街にいた。
 もちろん、アルフォンソ伍長が原隊を脱走したわけではなかった。

 昨年度、まだ1個連隊規模でしかなかった空挺部隊は、ギリシャ戦線において、長距離偵察や主隊に先行しての要地奪取などといった特殊任務についていた。そのギリシャ戦線終結頃に、アルフォンソ伍長は戦闘によって負傷していた。
 それで、負傷と戦闘時の活躍によって、アルフォンソ伍長は、下士官への昇進と共に戦功章と療養休暇を与えられて、原隊を離れていたのだ。

 しかし、戦功章はともかく、怪我の回復までに与えられた療養休暇は、アルフォンソ伍長にとって、あまりありがたくもない褒賞だった。農村地帯の田舎にある実家に帰っても、あまり愉快なことにはならない、そう分かっていたからだ。
 実際、戦功賞や下士官への昇任を知らせても、実家の家族はアルフォンソ伍長に対して、さして関心を抱かなかったようだった。もっともそれは今に始まったことではなかった。
 ずっと昔、まだ幼い子供だった頃から、アルフォンソ伍長はいつも優秀な兄ヴィジリオと比較されていた。


 兄ヴィジリオは、幼い頃から神童と周りから言われるほど良く出来た子供だった。また、スポーツマンで整った顔立ちをしていたから、同世代で憧れる女も少なくなかった。
 アルフォンソ伍長自身が、学校の成績や体格が特に悪いということはなかったのだが、よく出来た兄と比較されて、いつも周囲から疎まれている様な気がしていた。実際には周囲はアルフォンソ伍長に無関心なだけだったのだが、幼い子供の頃は、ちやほやされる兄と自分を比べていつも惨めに思っていたのだ。
 先祖代々の大地主の一族に生まれた兄弟の周りには、いつも大勢の人が居たが、本来の意味で同世代の子供たちの中心にいる兄と違って、アルフォンソ伍長は幼い頃から疎外感を感じていた。

 だが、不思議とアルフォンソ伍長が、兄ヴィジリオとの間に確執を感じたことはなかった。同世代の子供たちのリーダーでもあった兄は、幼かったアルフォンソ伍長にとってもよく出来た兄だったのだ。むしろ家族に対する不平不満を口に出すアルフォンソ伍長を、ふたりきりの時はよく兄は慰めてくれたものだった。
 だから、奇妙なことに兄と比較されて、強い疎外感を感じていたにも関わらず、アルフォンソ伍長は兄自身に対しては害意を抱くことが出来なかったのだ。


 久々に帰った実家でも、状況は変わらなかった。むしろ兄弟が成長したことで、家族が寄せる期待の差は、更に大きくなっていったのかもしれなかった。
 だが、徴兵されて、実家から離れてから二年も経っていなかったが、その間に兄弟に関する状況は変わらなくとも、随分と両親達は変わってしまったような気がしていた。
 まだ幼かったアルフォンソ伍長にとって、いつも厳格で、堂々と大地主の頭領として大勢の小作人達を差配していた父は、随分と老けこんでいるように見えていた。そのような印象を受けるのも当然だった。開戦に前後して新たに徴兵されたり、兵役期間の延長が行われるようになっていたから、単純に農村の労働力が不足、高齢化していたのだ。
 だから父も、急速に老けこむほど右往左往しながら、働いていたのだろう。熱心なファシスト党支持者であったカンパニョーラ家は、大勢の小作人の存在を前提とする典型的な大地主だったから、若年労働者の減少が、即座に操業体制に反映されてしまっていたのだ。

 疲れきった父に代わって、家内を切り盛りする母も変化が大きかった。ただし、こちらは家から独立して、軍で下士官にまでなったアルフォンソ伍長に余裕が出来たから、冷静な第三者の目で家族を見ることが出来るようになって、観測者自身が変化したといったほうが大きかったのかもしれない。
 美人だが、勝ち気な印象のあった母は、事あるごとに社会や国への不満を訴えるようになっていた。老け込み始めていたのは父と一緒だが、その理由は肉体的な衰えというよりも、精神的なものの方が強かったのではないのか。
 跡取りである兄ヴィジリオの不在が、母から精神的な余裕を奪っていたのかもしれなかった。


 その時兄は、首都ローマの大学を卒業して、黒シャツ隊、国防義勇軍に士官として入隊していた。ただし、大学を卒業したことで士官として黒シャツ隊に入隊したものの、兄が国防義勇軍に永久服役する軍人になるとは思えなかった。いずれは除隊して父のあとを継いで、カンパニョーラ家の頭領におさまるつもりではなのだろう。
 黒シャツ隊の隊員となったのには、除隊後に退役軍人、しかも元士官としてのコネクションや肩書が、カンパニョーラ一族の繁栄に役立つと思ったからではないのか。
 もちろん、それが兄一人の考えであったとは思えない。実際には一族の総意であったのだろう。

 兄ヴィジリオが、そのようにいずれ退役するつもりとは言え、士官として軍人となったものだから、徴兵された中から軍功を評価されて、選抜された下士官に昇任したとしても、アルフォンソ伍長が家族から評価されるはずもなかったのだ。
 もちろん、兄が黒シャツ隊に入るまで軍とは何の関わりも持とうとしていなかった家族達が、アルフォンソ伍長に与えられた戦功章の価値や、新たに設立された空挺部隊が最精鋭部隊として優秀な兵を選抜していたこと、それに黒シャツ隊こと国防義勇軍が、正規の軍人から戦意の低さや質のばらつきなどから嫌悪されていることなど知る由もなかった。

 だが、兄が正規の黒シャツ隊士官として入隊した頃は、すでに黒シャツ隊は、そのようなコネクション作りとして利用できるような安穏なものではなくなっていた。
 すでにスペイン内戦への派遣でその傾向は現れていたはずなのだが、国防義勇軍として、陸海空軍と警察軍カラビニエリに続く第5の軍となった黒シャツ隊は、正規の陸軍師団に編入されて頻繁に戦地に派遣されるようになっていたのだ。
 そして、アルフォンソ伍長が帰郷した頃、兄ヴィジリオが所属する部隊も、ロシア派遣軍に編入されて、独ソが対峙する東部戦線へと送られていた。


 実家にいる間のアルフォンソ伍長は、家族や周囲のものから半ば放置されていた。父や母の関心はもっぱら一族の農園や、ロシアに派遣された兄のことに向いていた。
 何人かの知り合いが、ギリシャ戦線の様子を聞いてきたが、あきらかに興味本位の質問のようだったのでアルフォンソ伍長は無視していた。

 表向きは、ギリシャ戦線を含むバルカン半島の戦闘は、イタリア軍の大勝利ということになっていた。おそらく質問者たちも、戦地では連戦連勝したというイタリア軍にとって景気の良い話を、聞きに来たのではないのか。
 だが、アルフォンソ伍長の知る限り、ギリシャ戦線は苦戦が続いていたはずだった。まだ規模が小さく、長距離偵察などの特殊任務についていた空挺部隊では詳しいことはよく分からなかったが、それでも一般の歩兵師団を中核とした派遣軍全体では、戦死者だけで一万人を上回るという大きな損害を受けていたことは知っていた。
 それに、ギリシャの国土は寒冷な山岳地帯が連続する厳しい地形だったから、碌な冬季戦用装備もないままに投入された多くの部隊では、戦闘以外の理由で戦力外となる将兵も少なくなかった。

 だが、温暖な農村地帯であるこの土地から出たことのない人間、それも切実な理由も無しにただ景気の良い話が聞きたいだけの質問者達に、何度説明しても戦地の厳しい状況が理解できるとは思えなかった。
 大地主で、地元の名士でもある父親の影響のせいか、この基礎自治体、コームネはファシスト党支持者が多かった。ファシスト党が主体となって行っているらしい検閲を通した報道による情報と、アルフォンソ伍長が実際に経験していた戦地での実情との矛盾点を指摘しても、おそらく彼らがその事実を受け入れることはないだろう。
 それがわかっているものだからアルフォンソ伍長は何も言わなかったのだ。

 何人かの人間は、それでもしつこくアルフォンソ伍長を訪ねてきたが、伍長が何も言う気がないのに気がついたのか、次第に彼らもあきらめて遠ざかっていった。
 兵役を戦地で終えた何人かの男たちは、おおよその事情を理解しているのか、意味ありげな、同情とも付かない視線を、負傷した足をかばうようにして歩くアルフォンソ伍長に向けることもあったが、彼らが何かを言うことはなかった。
 父親同様に、労働力の減少した農園を維持するという日々の生活を守るのに必至な彼らが、アルフォンソ伍長に構っていられるほど余裕は無かったからだ。

 結局、アルフォンソ伍長は、人生の大半を過ごしたはずの故郷で、孤独を味わう事になった。すでに負傷した足もほぼ完治していた。一刻も早く原隊に復帰したかったが、情報の限られた故郷のコームネからでは原隊がどうなっているのかはよく分からなかった。
 空挺部隊は設立されてから、極短時間のうちに急速に部隊規模を拡大させていた。アルフォンソ伍長が原隊を離れてからも、その傾向は続いていたようだったから、場合によっては復帰する原隊そのものが、伍長が所属していた時とは姿を変えている可能性も低くはなかった。
 だから、場合によっては、空挺部隊ではなく、別の部隊に転属するかもしれなかった。だが、それでも故郷であるはずのこのコームネで、鬱屈した日々を送るよりもははるかにましなはずだった。
 そう考えて、負傷休暇を自己判断で切り上げて、さっさと軍管区本部に出頭しようとアルフォンソ伍長は企んでいた。負傷休暇には医者の判断が必要なはずだったが、延長ではなく、自ら短縮しようというのだから文句を言われることもないだろう。そう考えていた。


 兄ヴィジリオの戦死通知が届いたのは、その時だった。
 何の変哲もない封書で届けられた戦死通知を、最初に目にしたのは、母親だった。だが、母はその通知の文面を見るなり卒倒していた。その母に気がついた父が大騒ぎしたことで、アルフォンソ伍長もその戦死通知を見ることとなった。
 暫くの間は、母は半狂乱になっていたし、父親は呆然として、何も手に付かない様子だった。だから、軍管区本部などの当局への問い合わせはアルフォンソ伍長がやるしか無かった。

 戦死通知は、兄が戦死した場所や状況を何一つ書いていなかった。そのような具体的な情報がないものだから、何かの間違いかも知れない。家族達は、そう考えていたのようなのだが、2,3日してから正式な軍による戦死通知を追う形で、遺品と隊の上官からの手紙が届いた。公的な戦死通知に比べて、遺品や私的と言っても良い手紙の配送が遅れたのは、検閲を受けたからではないのか。
 一度開封されたあとのある封筒を見ながら、アルフォンソ伍長はぼんやりとそう考えていた。

 兄の葬儀が行われたのはそれからすぐの事だった。ひどく気落ちした様子の父親はともかく、戦死通知の配達からずっと泣き崩れていた母親は、何の役にも立ちそうもなかった。
 結局、コームネへの連絡や葬儀の手続きなどは、ほとんどアルフォンソ伍長が一人で行うこととなった。もっともその作業自体は苦痛ではなかった。何か作業をしていないと、両親のように兄の死に耐えられなかったかもしれないからだ。


 毎晩の夢は、兄の葬儀が始まった頃から始まっていた。
 兄の葬儀は壮大なものだった。まるで、たいして大きくもないコームネの住人すべてが参列していたかのようだった。それに、参列者の多くが、心から悲しんでいるのがアルフォンソ伍長にも感じられた。
 優秀な成績で、地方のコームネから首都ローマの有名な大学へと進学した兄は、家族からだけではなく、一族すべてが期待する存在だったのだ。気落ちして役に立たない両親に代わって、葬儀の準備や参列者、牧師などへの挨拶で忙しく走り回りながら、あらためてそのことに気が付かされていた。
 同時に、忙しい中に唐突に現れる暇な時間に、もし自分がギリシャ戦線で戦死していたのならば、このように盛大な葬式になったのだろうか、アルフォンソ伍長はふとそのようなことも考えてしまっていた。


 その女の存在に気がついたのは、葬儀も半ばまで済んだ頃だった。女は、忙しく働くアルフォンソ伍長を鋭い目で睨みつけていた。喪服を見るまでもなく、葬儀の参列者なのは間違いないが、親族ではなかった。
 年の頃はアルフォンソ伍長と対して変わらないようだが、女はまだ少女と言ってもおかしくないような、幼い顔立ちをしていた。それが女性として成長した体つきと合わさるとひどくアンバランスだった。
 最も実際のところはどうだったのかはよく思い出せなかった。そのような認識は、アルフォンソ伍長の主観に過ぎなかった。何度も見た夢の中で女の姿がアンバランスに変わっていったのかもしれなかった。
 つまりは、アルフォンソ伍長にとって、その女がまるで駄々をこねる幼児のように、幼く見えていたのではないのか。


 女の只ならぬ様子に戸惑いながら、アルフォンソ伍長は動きを止めて、女を見つめていた。しばらくしてから、女が幼馴染といっても良いアデーレであることに気がついた。
 アデーレの年は、アルフォンソ伍長とほとんど変わらないくらいだったが、もう何年も顔を見ていなかった。兵役年齢が来るまで、ずっと故郷のコームネから出ていなったアルフォンソ伍長と違って、アデーレは、兄の後を追うように、都会の高校に入学して、ローマに行ったはずだ。ちっぽけなこのコームネには高校はなかった。

 あれから5年近く過ぎているから、いまは5年制の高校を卒業した頃ではないのか。
 アデーレの家は、アルフォンソ伍長の実家ほどではないにせよ、裕福な地主の家だったから、女性としては珍しく、大学に行くのではないかと思っていた。

 だが、5年というブランクを抜いたとしても、アルフォンソ伍長は、あまり年との近いアデーレと親しく話をした記憶はなかった。相手が高校や大学に行くほどの才女ということもあったが、アデーレのほうが、同年齢のアルフォンソ伍長よりも兄のほうと親しくしていたからだ。
 ローマに行ってからのことはよくわからないが、兄とアデーレは付き合っているのではないのか、そんな噂も聞いたことがあったような気がした。どのみち自分には関係ないと思っていたから大して興味もなかったのだが、考えてみれば兄とアデーレでは、家柄やお互いの年齢から言って釣り合った相手かもしれなかった。


 そのアデーレの険しい視線に、圧倒されたというわけではないのだが、アルフォンソ伍長は戸惑って彼女を見つめ返していた。アデーレはしばらくしてから、ささやくような声で何かを言った。聞こえなかったアルフォンソ伍長が首を傾げていると、今度は大きな声でいった。
「どうして彼が死んで、あなたが生きているの?」

 アルフォンソ伍長はぎょっとして周囲を見渡していた。二人のただならぬ気配を察したのか、他の参列者が怪訝そうな顔でこちらを見ていたが、アデーレの声を聞いて、何人かは凍りついたような顔をしていた。
 愕然としながらも、アルフォンソ伍長は無理やり笑みを浮かべながら言った。アデーレの言ったことは冗談に違いない。そう思い込みながら言った。
「俺だってギリシャじゃ死にそうな目にあったんだぜ。実際負傷して戦功章も貰った。仲間だって失った。俺だって戦ったんだ」

 アルフォンソ伍長は、言葉を連ねている間に、段々と興奮しているのに気が付かなかった。実際に戦場に出たこともない人間が、何故自分たちを批判することが出来るのか。そう考え始めていた。そして脳裏には死んでいった仲間たちの姿が浮かんでいた。
 ギリシャ戦線での短時間での激しい戦闘と、その直後の故郷での何事もない空白とも言える時間という環境の急激な変化によって、アルフォンソ伍長には戦闘ストレス反応が発病した徴候があったのだが、その時には本人も含めて、誰も気がついていなかった。

 アデーレは、アルフォンソ伍長がしゃべっている間に、それまで彼から感じたこともなかった剣呑な雰囲気に気がついたのか、怖気づくかのように眉をひそめたが、しばらくして意を決したように言った。
「でもあなたは生きているわ」
 そう言うと、アデーレは、おそらくは無意識にもう完治しかけているアルフォンソ伍長の足に目を向けた。だが、ローマにいたはずの彼女は、下手をすればアルフォンソ伍長が負傷していたことすら知らなかったかもしれなかった。
 アルフォンソ伍長の視界に、異様な気配の二人に気がついて、慌てて近づいてくる中年の男が見えていた。いかにも苦労人らしい男は、アデーレの父親だった。本人は娘と違って、高級教育は受けていないが、温厚で面倒見のいい親父だったのは覚えていた。
 おそらく、勝ち気な娘のただならぬ様子に気がついて止めに来たのだろう。

 だが、結果的にアデーレを止めることは出来なかった。彼女は父親が近づいていることに気がつく前にこういったからだ。
「彼じゃなくて、あなたが死ねばよかったのよ」
 アデーレの台詞は衝撃的だった。だが、アルフォンソ伍長は、アデーレよりも妙に背後に生じた息を呑んだ様な気配が気にかかって、勢い良く振り返っていた。
 いつの間にか後ろにいた両親の顔に浮かんだ表情は、アルフォンソ伍長にとって忘れることの出来ないものとなった。そちらのほうが、感情の赴くままにいったアデーレよりも、大きな衝撃を与えていたからだ。

 両親は、聞こえてしまったアデーレの言葉に、反応していた。そう、彼女の台詞のとおりに、戦死したのがアルフォンソ伍長のほうであればよかったのに、言葉には出さなかったが、両親の表情がそう考えてしまっていたことを物語っていた。


 この後、アデーレは、温厚な父親が珍しく怒った顔になって引っ叩かれて、地面に倒れこんでいた。だが、アルフォンソ伍長はそのことはよく覚えていなかった。
 確かなのは、葬儀の後、早々と荷物をまとめると、家族や周囲にろくな挨拶もせずにコームネを旅立って軍管区本部へ向かったことだけだった。両親や、他の人間がアルフォンソ伍長を引き止めた記憶はなかった。
 そして原隊である空挺部隊が、新たに第185フォルゴーレ空挺師団として再編成を行っていたために、アルフォンソ伍長は現在のアフリカ駐留の第17パヴィア歩兵師団に配属となっていた。
 それから半年近く、毎晩のように繰り返される光景にアルフォンソ伍長は嫌気が差していた。


 だが、今日はアルフォンソ伍長に取っての悪夢は、アデーレが倒れこむ前に、唐突に終わっていた。同時にがくりと体が何かに引きずり込まれるような感覚があった。
 慌ててアルフォンソ伍長が跳ね起きるのと、爆発音がしたのはほぼ同時だったような気がした。アルフォンソ伍長の周囲では、何とか砂漠の凍える夜で眠りにつこうと、陣地の中で毛布をかぶっていたはずの兵たちが、不安そうな顔を見合わせていた。
 何かが地雷を踏んだらしい。誰かがささやくように言った声が聞こえていた。アルフォンソ伍長は、無言のままそっと起き上がっていた。あの悪夢を終わらせてくれた相手は何なのか、それを確かめなければならなかった。
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