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仮想戦記(仮 作者:ロックウッド
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1942プロエスティ爆撃作戦7

 荘口大佐は、苦い顔で一式陸攻隊を観察していた。
 この作戦に参加した一式陸攻隊は、2個航空隊が投入されていた。その2個航空隊はやや距離を置きながらも2群の編隊を維持していたが、それぞれの編隊を構成する機数は、あきらかに海軍航空隊の定数よりも少なかった。
 とても飛行第35,36戦隊と同数の兵力とは思えなかった。
 ただし、数を減らしながらも一式陸攻隊はプロエスティ油田地帯への進攻を諦めていなかった。

 もちろん枢軸軍の指揮官もそのことには気がついているはずだ。
 対空列車が無防備な態勢で移動を急いでいたのも当然だった。彼らは比較的手薄なプロエスティ油田地帯の防空戦力を増強するために急遽派遣されてきたのだろう。


 一式陸攻の2群の編隊は何処かまばらで、隙間が開いていた。おそらく、その隙間を飛行していた機体は撃墜されたか、損害を被って脱落したのだろう。もちろん夜間戦闘機が跋扈する状況では、脱落した機体が単独で帰還出来るとは思えないから、損失したものと考えざるをえないだろう。
 ただし、その損害が夜間戦闘機によるものだけだとは思えなかった。Bf110は大口径の機関砲を機首に集中装備して火力を高めているが、一式陸攻も20ミリの大口径機関銃を装備している。むざむざと撃墜されることはないはずだ。
 それに、見たところ一式陸攻に相対するBf110は数も少なく、被弾したのか、それとも操縦士の技量が劣るのか、飛行姿勢にはさほどの軽快さを感じさせなかった。
 これまでプロエスティ油田地帯は、日本海軍による参戦直後の初撃を除いて攻撃を受けたことがなかった。
 だから配備されている部隊も二線級なのかもしれない。特に機材の確保と要員の育成が困難な夜間戦闘機部隊であればその傾向は強いのではないのか。あるいは産油地帯であるプロエスティ油田地帯で、豊富な燃料を使って錬成中の部隊なのかもしれなかった。

 夜間戦闘機のせいではないとすれば、一式陸攻隊は対空陣地の直上に迷い込んでしまったのではないのか。
 プロエスティ油田地帯には、有力な対空陣地は確認されていないというが、ここはルーマニア王国首都ブカレストからさほど離れていないのだ。首都防空のために精鋭部隊が配置されていたとしても不思議ではなかった。
 事情は良くは分からないが、一式陸攻隊は航法の誤りか何かで間違った針路をとってしまったのではないのか。そしてその進路変更によるものと対空砲火によってプロエスティ油田地帯上空への到達が遅れ、また損害を被ったのではないのか。
 そういえば高度をとったことで、ブカレストのある南方に黒煙が上がっているのが見えたような気がした。


 荘口大佐は一度頭を左右に振って気を沈めた。今は原因を考えている場合ではなかった。
 投弾予定の地域まで間もないのだから、自隊の爆撃にまずは集中すべきだった。このように予定とは大きく異なってしまったのだから、指揮官のとっさの判断によって状況は大きく変わってしまうはずだった。

 高度を上げたことでプロエスティ油田地帯周辺の地上の様子を確認することが出来るようになっていた。プロエスティ油田地帯には有力な対空陣地は存在しないとの話だったが、その情報には不備があるようだった。
 朝焼けの澄んだ大気状態のなか地上を念入りに観測していくと、線路の上に対空砲らしい黒い影を幾つか発見していたからだ。
 やはりあの対空列車はプロエスティ油田地帯への増援部隊だったのだろう。しかも対空列車はあの一編成だけではなかった。すでにプロエスティ油田地帯には複数編成が展開しているようだった。


 それまで盛んに一式陸攻隊の周辺に群がるように襲撃を欠けていたBf110が、何かに怯えるように一斉に離脱していったのは、対空列車を発見してからすぐだった。
 荘口大佐は次に何が起こるかすぐに分かったが、自分には何も出来ないもどかしさに唇を噛み締めていた。
 そして、高射砲による対空砲撃が開始された。


 発砲を開始した対空陣地は、プロエスティ油田地帯の最外縁部に構築されたもののようだった。発砲炎が観測されてからしばらくしてから、一式陸攻隊の近くで砲弾が炸裂した。
 だが、初弾は一式陸攻隊の針路前方で炸裂したものの、その砲弾が何らかの損害を与えるとは思わなかった。一式陸攻が飛行している高度よりもずっと下方で砲弾が炸裂していたからだ。あれではほとんどの爆散した砲弾の破片は、一式陸攻の飛行高度にまで達することはないだろう。あったとしても現実的に破片は損害を与えるほどの密度とはならないはずだ。
 荘口大佐はわずかに安堵の溜息を付いた。やはりこの周辺には、さほど練度の高い部隊は展開していないようだ。ドイツはすでに高精度の地上設置型電波警戒機を運用しているらしいが、プロエスティ油田地帯には配備されていないようだった。

 距離をとった飛行第35,36戦隊の位置からでは、測高精度が低いそのような状況が手に取るように分かった。だが、実際に発砲した対空陣地からでは状況が正確に把握できるとは思えなかった。
 自身が放った砲弾の爆散によって正確な観測が阻害されてしまうからだ。それに対空陣地からでは砲弾と一式陸攻が一直線に見えるはずだから、視線方向の距離観測精度は爆散し破片や硝煙がなくとも低いものになるはずだ。
 実際に、初弾に続いて炸裂した次弾も同じように高度が足りていなかった。やはり一式陸攻隊は爆圧によって僅かに機位を揺らがせたようだが、その針路はまっすぐにプロエスティ油田地帯へと向かっていた。
 この様子ならば、この陣地は無傷で突破できるのではないのか。

 だが、次の瞬間に荘口大佐は、目を剥いた。一式陸攻隊の針路の間近で高射砲弾が炸裂したからだ。
 状況から考えてこれまで発砲していた砲によるものだとは思えなかった。測高精度が上がっていたからだ。おそらく至近距離で爆散した砲弾の破片は、複数の一式陸攻に無視できない損害を与えるはずだ。
 砲測での測距にしては、炸裂高度の設定が正確すぎるような気がした。それに砲弾が炸裂した空域は、一式陸攻隊の針路にほぼ重なっていた。
 どうやら、かなり精度の高い高射指揮装置を備えた中枢がプロエスティ油田地帯周辺に配置されているようだ。しかも、ある程度の角度を持って砲と敵機を観測できる位置に高射指揮装置は配置されているようだ。
 そう考えなければ最初に発砲した高射砲と、今炸裂した砲弾を発射した高射砲の精度が異なる理由が説明つかなかった。

 発射された高射砲弾は、もちろん一発や二発ではなかった。複数の高射砲が発砲を開始しているようだった。一式陸攻隊が飛行する位置で次々と高射砲弾が炸裂し始めていた。海軍機のことはよくは知らないが、双発機の一式陸攻が、四発の一式重爆撃機よりも防護力が高いとは思えない。
 あれではかなりの損害を被ってしまうのではないのか。

 予想が正しかったことは、それからすぐに証明された。
 最初に被弾したのは、編隊の中ほどを飛行していた機体だった。唐突にその機体の目の前で砲弾が炸裂したのだ。一式陸攻が回避する余裕はまるで無かった。自分から飛び込むように、目の前に出現した砲弾の炸裂による爆散円を通過していった。
 爆散円を通過した一式陸攻は、それでもしばらくはそのまま飛び続けた。だが、至近距離で爆散した砲弾の破片をくぐり抜けて無事で済むわけはなかった。おそらく複数の破片が命中しているはずだった。
 ただ、その損害がわかりづらかっただけのようだった。飛行を続けていたその一式陸攻は、しばらくしてから、がくりと態勢を崩した。飛行姿勢が不安定になってはいたが、飛行高度には余裕があるから、操作系統に損傷がなければ機体を立て直すことは可能であるはずだった。
 だが、飛行姿勢を正そうとする試みは最後まで見られなかった。おそらく、機体正面で炸裂した砲弾の破片で、操縦士が人事不省に陥ってしまったのだろう。
 一式陸攻は、蛇行するように不安定な飛行を続けていたが、やがて方向舵を妙な角度で押し曲げて横滑りしながら、ゆっくりと墜落していった。


 その機体が墜落する前に、次の被弾が発生した。最初の被弾機とは別の編隊の機体だった。今度は、機体正面ではなくやや左舷側で砲弾が炸裂した。一式陸攻のさほど強靭でもない主翼構造には、その一撃だけで致命傷となっていたようだった。
 砲弾の破片で主翼構造は外皮を引き裂かれたようだった。しかもエンジンにも被弾したらしく、異様な火炎がエンジンカウリングの隙間からあがっていた。そしてエンジンに被弾したということは、その後方の燃料槽にも被弾した可能性が高かった。
 一式陸攻の主燃料槽は主翼の全面にわたって配置されていた。機体容積に限界がある双発機で長大な航続距離を要求されたものだから、そのような構造になったらしい。

 一式重爆撃機でも胴体部だけでは容積が不足するから、主翼に燃料槽が装備されてはいるが、常用するのは内翼部の防護されたものだけだった。長距離飛行となる今回の作戦では、特別装備である主翼外翼部の燃料槽も使用していたが、陸軍では外翼の燃料槽はほとんど増槽扱いだったから、真っ先に使用されて行程の半分を終えた今では、どの機体も空になっているはずだった。
 だが、一式陸攻の主翼燃料槽にはまだ十分に燃料が残っていたようだった。対空砲弾の破片で作られた亀裂から漏れだした燃料が、薄く機体後方に流れ出していた。
 そしてエンジンから漏れだした火炎が、漏れだした燃料へと引火した。

 エンジンカウリングからちょろちょろと漏れだしていた火炎が、燃料に引火したことで一気に膨れ上がっていた。しかも漏れだした燃料を伝って火炎は燃料槽内部に入り込もうとしていた。
 次の瞬間に火炎が、一式陸攻の翼端から翼付根までを覆うように更に広がった。
 海軍機のことはよくわからないが、どうやら一式陸攻の主翼燃料槽には漏洩防止装置や消火装置が搭載されていないようだった。
 一瞬で膨れ上がった火炎は、すぐに消え失せていた。おそらく燃焼する物がなくなってしまったからだろう。一部始終を観察していた荘口大佐は、思わず目を疑ってしまった。火災をおこした一式陸攻の左翼が、巨人に断ち切られたかのように醜い傷跡を残して消え失せていたからだ。
 もちろんそんな状態で飛び続けていられるはずはなかった。一瞬で左右舷の揚力に著しい差を生じさせた一式陸攻は、すぐさま回復不能な錐揉みを起こしながら、最初に被弾した機体を追い抜かす勢いで墜落していった。


 その様子を見ていたのは荘口大佐だけではなかったようだ。また一機やられた。そのような声が機内通話装置から流れてきた。
 皮肉なことに、二機の脱落機の存在が、それ以上の損害を防いだようだった。各編隊が脱落した機体との空中衝突を避けるためにばらけてしまったからだ。それが編隊を狙って集中して放たれた高射砲弾から、各機の損害を最小限に抑える事につながったのだ。
 だが、構成機がばらけ、また機数も減少した一式陸攻隊が有効な爆撃を行えるとは思えなかった。あるいは、いまの高射砲の攻撃は、編隊の拡散を狙ったものかもしれなかった。
 そうだとすると、この攻撃は成功したといってよかっただろう。僅かな時間で二機を撃墜し、編隊を拡散させていたからだ。

 荘口大佐が高みの見物を続けていられたのはそこまでだった。一式重爆撃機の周囲にも高射砲弾が炸裂し始めていたからだ。
 どうやら飛行第35,36戦隊もすでに敵対空部隊に発見されていたようだ。高度を上げたことで直接視認されたか、対空電波警戒機で探知されたのだろう。
 あるいは撃滅した対空列車が、プロエスティ油田地帯へ通告したのかもしれなかった。

 一式陸攻とは機体寸法も巡航速度も異なる一式重爆撃機に幻惑されているのか、測距精度は低かった。一式重爆撃機から遠く離れた場所で砲弾は炸裂していた。
 だが、実質的な損害が無かったとしても対空射撃を無視はできなかった。今は測距精度は低くとも時間をかければ正確な照準になるかもしれないし、射撃を受け続けて平静でいられる人間は少なかなった。
 高射砲撃を回避するつもりはなかった。旋回によって速度は落ちてしまうし、嵩にかかった敵対空部隊はそこへ猛烈な射撃を加えてくるだろう。


 荘口大佐が結論を出すよりも早く、上部機銃座の松澤伍長が戸惑ったような、緊迫感のあまり感じられない声を上げた。このままでは衝突するのではないのか。
 その声に荘口大佐だけではなく、目の前の副操縦士も慌てたように視線を左舷側を飛行する一式陸攻隊に向けた。編隊がばらけ始めて間隔が空いたことでで、逆に一式陸攻隊が占める空域は広がっていた。
 荘口大佐は震える声で航法士にいった。詳細は航法士もわかっているはずだ。
「計算しろ、このまま進めば交差するか」
 航法士の方は、一式陸攻隊がばらけ始まった時から、予めその質問が来ることを予想していたのかもしれない。すぐに声は帰ってきた。地図上で確認していたのだろう。航法士は震える声で言った。
「このまま進めば、我が隊と一式陸攻隊は…交差してしまいます」
 荘口大佐はため息を付いた。どうやら高射砲の砲撃によって針路をねじ曲げられ、また編隊がばらけてしまった一式陸攻隊と飛行第35,36戦隊は衝突コースに入ってしまったようだった。
 このままでは、一式陸攻と衝突してしまう機体が出てくるかもしれなかった。相手の編隊はばらけているから可能性は高くはないが、ありえないとは思えなかった。

 衝突を避ける手段はひとつしか無かった。最初から一式陸攻隊に避けてもらうことは諦めていた。どちらの編隊も先頭機を失っているらしく正規の指揮官が居るとは思えない。代理指揮官では急な要請を実施しても統制が取れなくなるだけだろう。
 それに爆撃目標までほど近いこんな距離で、損害を受けた一式陸攻隊を変針させれば、編隊は取り返しがつかないほど大きくばらけてしまうだろう。下手をすれば編隊内で衝突してしまうかもしれなかった。
 飛行第35,36戦隊の方が一式陸攻隊を避けるしか無いが、左右への変針はやはり危険だった。緻密な編隊をここまで維持してきた一式重爆撃機だが、各機の間隔が狭いだけに、不意の変針はやはり衝突の危険があった。

 荘口大佐は、最終的な決断を下す前に、正副操縦士の隙間から乗り出すようにして爆撃手席を覗き込みながらいった。機内通話装置があるから別に話したい人間を直接視認する必要は何処にもないのだが、これだけ重要な話をする以上は本人の様子を見ておきたかったのだ。
「爆撃手、これから動力降下しながら高速で目標上空を航過する場合、照準は可能か」
 それから荘口大佐が告げた予想高度と速度は破天荒なものだった。爆撃計画よりも大分高度は低いし、降下によって増速した機速は最高速度に近かった。爆撃倉扉の開閉によって多少は機速は落ちるだろうが、それでも無茶な速度に変わりはなかった。
 だが、爆撃手は、荘口大佐の視線を感じたのか、後ろに振り返ると、力強く頷いてみせた。
「訓練ではその程度の条件でも爆撃を成功させています。全機の爆撃手にその程度の技量はあるはずです」

 荘口大佐はそれに頷きながら、無線機を指揮官用のものに合わせた。そこで飛行第36戦隊長と短く打ち合わせを終えると、今度は隊内に無線を切り替えさせてからいった。
「飛行第35戦隊長より各機へ、これより海軍機編隊を回避するため、第35,36戦隊は戦隊ごとに分離したうえで各戦隊長機に従い降下増速する。爆撃も低高度、高速度で実施する。各機爆撃手は長機の行動に留意せよ。機銃手は可能な限り地上を掃射して爆撃を援護せよ」

 最終的な爆撃目標が異なるから、2個戦隊はプロエスティ油田地帯上空で一度分離してから、復路で再度合流する予定だった。
 作戦計画ではもう少し後になってから分離する予定だったが、この地点で分離してもさほど問題は出ないはずだ。分離を前提に、編隊は飛行第35戦隊の最後尾の直後に、飛行第36戦隊の先導機を配置しているから変針量を最小限に抑えれば、分離による混乱は最小限で済むはずだった。


 荘口大佐は無線を終えると、やれとだけ短くいった。操縦士はそれを聞くなり昇降舵を操作していた。それと同時に方向舵も操作していたのだが、そちらは僅かなものだったから、すぐにはその結果は出てこなかった。エンジン出力をそのままに機首を下げた一式重爆撃機は、自重によって急速に速度を上げながら降下を始めた。
 尾部機銃座についている兵から後続機も降下に入っていることが報告されていた。飛行第35戦隊は戦隊ごと降下を開始していた。上空から見るものがあれば、一式重爆撃機の群れが、一度上昇してからすぐに降下を開始したように見えたはずだ。

 その間も高射砲による砲撃は続いていたが、急激な降下とそれともなう増速に敵対空部隊は追随出来なかったようだった。高射砲弾の炸裂は続いているのだが、照準の補正が追いつかないのか、高射砲弾の爆散円は虚しく編隊の後方に広がるばかりだった。
 高射砲弾の炸裂痕を置き去りしながら一式重爆撃機は高速で降下を続けていた。

 予定の高度に到達する時にはすでに一式重爆撃機は2群にわかれていた。僅かに操作されていた方向舵が、降下によって増速するに連れて効果を発揮し始めていたのだ。再び昇降舵を操作して、一式重爆撃機が水平飛行に移った時には、すでに明確に2個飛行戦隊の針路はそれぞれの目標に向けて分かれていた。
 降下によって得られた速度をさらに上げながら、一式重爆撃機は高速で目標へと向かって突進していった。


 一式重爆撃機の周囲にはもう高射砲弾の炸裂は見られなかった。一式重爆撃機の飛行高度が低すぎて射撃ができないのだろう。低空飛行を続ける一式重爆撃機に対して、至近距離で重量のある高射砲で捕捉するのは困難だし、たとえ照準が出来たとしても信管の調整など出来ないだろう。もし無理に発射しても、爆散しきらないまとまった破片が地上に落下して、大惨事になってしまうはずだ。
 その代わりに、大小の対空機銃が発砲してきたが、先程の高射砲に比べて対空機銃による弾幕の密度はさほど高くないようだった。この方面が、対大型機戦闘を重視して、高射砲の配備を対空機銃座よりも優先させているのか、こちらの速度に対応できないのだろう。
 それに、対空機銃座は積極的な射撃ができるような状態ではなかった。先ほど交戦した対空列車のように、一式重爆撃機の防御機銃座から20ミリと12.7ミリ銃砲弾が周囲の対空機銃座に向けて勢い良く放たれていたからだ。
 一式重爆撃機も高速で飛行しているから射撃精度は大して高くはないが、のべつ幕なしに打ち込まれる銃砲弾で対空機銃座は制圧されているようだった。
 活火山のように対空機銃の曳光弾を周囲にばらまきながら、一式重爆撃機の群れは高速で爆撃目標へと向かっていた。

 荘口大佐は、ちらりと上空に目を向けた。一式重爆撃機が高度を下げ、速度を上げたものだから、一式陸攻隊と衝突する可能性はなくなっているはずだ。
 そして、数を減らし、編隊をばらけさせながらも、一式陸攻隊は進攻をやめていなかった。気のせいか、一式陸攻隊の周辺で炸裂する高射砲弾の数も精度も下がっているような気がした。
 全く異なる高度や速度で接近する一式重爆撃機と一式陸攻に対しては、対空射撃の諸元も種別もことなってくるから、もしかすると対空射撃を管制する指揮中枢が混乱しているのかもしれない。
 ―――あの一式陸攻隊がうまくいくかはわからない。だが、我が戦隊の爆撃は成功するはずだ。
 防御機銃座の頼もしさすら感じさせる発砲音を聞きながら、荘口大佐はそう確信を抱いていた。
+注意+
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