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仮想戦記(仮 作者:ロックウッド
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1943ローマ降下戦29

 Bf109の狭苦しい操縦席から鋭い視線を周囲に向けながらも、デム軍曹は腹立たしい思いをしていた。自分だけが状況から取り残されているのではないのか。意味もなくそのような考えを抱いていたからだ。


 ドイツ空軍第27戦闘航空団に所属するデム軍曹が乗り込む今の愛機は、Bf109の中でも新鋭のG-6型だった。

 それ以前のF型が装備していたDB601から出力の向上したDB605にエンジンを換装したG型、その中でも完成形とされて大量生産が開始されているG-6型だったが、銃兵装こそ初期型から強化が図られていたものの、爆装重量はさほどでもなく250キロ爆弾の搭載が限界だった。
 今次大戦の開戦以前に制式採用されたBf109は、後継機種の開発に失敗したこともあって、エンジンの換装を含む幾度かの徹底的な改設計によって、未だに現役機に必要な性能を保っていた。
 その点では、同時期に制式化されながらも、やはり搭載エンジンの出力増加などによって性能を向上させていった英国空軍に配備されている宿敵スピットファイアと事情は似通っていたともいえた。

 ただし、スピットファイアは制式化された当初は門数は多いとは言え7.7ミリ機関銃しか装備していなかったが、現在では武装を集中した装備した主翼自体の換装によって20ミリ機関砲や12.7ミリ機関銃といった大口径機関銃を装備するようになっていた。
 開戦前後に発砲時間辺りの投射弾量の増大を狙った小口径機銃の多数装備が流行していた時期があったが、現在では戦訓から少数でも20ミリ程度の大口径機銃の装備に主流が移り変わっていた。
 単発単座の軽快な戦闘機でも搭乗員の消耗を避けるために消火装置や防弾板など防護装備が充実するようになっていたから、対大型機戦闘ばかりではなく、戦闘機を相手にするにしても大口径の機銃が必要とされていたからだ。


 だがBf109はそのような戦訓の反映による武装強化を行うにはスピットファイアよりも不利な点が少なくなかった。
 武装の強化が無視されていたわけではなかった。
 現にデム軍曹が乗り込むBf109G-6は原型よりも強化された20ミリ機関砲1門と13ミリ機銃2丁というものだったから、対戦闘機戦闘であれば格段に不利というわけではなかった。
 ただし、元々Bf109は小柄な機体に搭載可能な大出力エンジンを搭載するというコンセプトで開発された機体だったから、エンジン換装を行っても武装面では余裕のない機体だったのだ。

 Bf109の銃兵装は機首に集中していた。中空としたエンジンシャフト内に銃身を固定するモーターカノン式の20ミリ機関砲は当然だったが、13ミリ機銃も同調装置と連動させてプロペラ半径内の機首上部に装備されていた。
 英国空軍のスピットファイアが装備するマーリン・エンジンなどは、シリンダーを上部に設けた正立V型エンジンであった。正立エンジンを機首に搭載した場合、機首上部に幅のあるシリンダーヘッドが配置されることから、機銃を装備するのに必要な空間を機首に捻出することが難しかった。
 だからスピットファイアや同じようにマーリン・エンジンを搭載した日本陸軍の三式戦闘機などは、末端重量の増大などの原因でロール率や命中精度の悪化する機銃の翼内装備を行ったのではないのか。
 ただしBf109にとって、倒立エンジンを採用した故のこの銃兵装の機首集中配置は当初は利点が少なくなかったものの、発展余裕の無さの原因ともなったのではないのか、Bf109各型を乗り継いできた熟練の搭乗員でもあるデム軍曹はそう考えていた。


 これまで就役したBf109各型の中で武装強化が図られた型が無いというわけではなかった。例えば英国本土での航空決戦が行われていた頃の主力機であったBf109E型は機首上部と左右主翼の計4箇所に7.92ミリ機銃を備えていたが、後期生産型では翼内機銃を20ミリ機関砲に強化が図られていた。
 今デム軍曹が乗り込むBf109G型も、本来の固定武装に加えて左右の主翼に20ミリ機関砲を1門ずつ増備する武装強化型が並行して生産されていた。

 もっともそれらの重武装型がBf109生産型の主力となることはなかった。
 後に制式化されたFw190が、搭載した高々度性能に劣る空冷エンジンの特性故か戦闘爆撃機としても使用される一方で、Bf109は脚構造が脆弱なこともあって主に戦闘航空団に配備されていた。
 だからBf109の生産型主力ということは、言い換えれば制空部隊の主力という意味でもあった。

 Bf109各型の武装強化型は様々な理由から純粋な制空仕様とは言い難い部分が少なくなかった。
 確かにE型の後期生産型では他国の主力戦闘機のように翼内機銃を大口径化していたが、元々小型の機体と大出力エンジンの組み合わせによって構成されていたBf109の主翼は兵装を内蔵できるようには設計されていなかった。
 E型の前期生産型では何とか小さく薄い主翼内に空間を捻出して7.92ミリ機銃を追加搭載していたのだが、実際にはそれが限界だった。20ミリ機関砲を強引に搭載した後期生産型は翼内に機関部を完全に収めることは出来ずに、翼面下部に巨大な弾倉を搭載するバルジを突き出させていた。

 元々E型の武装強化仕様は実用化が遅れていたモーターカノン方式機関砲の代用という側面が強かったらしい。
 だからF型以降でモーターカノンが実用化された後は、一部の搭乗員から武装の弱体化を懸念する声があったものの、それまでの翼内機銃は廃止されていた。

 そして、G型などが主翼に装備する20ミリ機関砲は純粋な対空兵装とすら言い難いものだった。翼内機銃が廃止されたG型では、この20ミリ機関砲を主翼下部にガンポッド方式に外装していた。
 これはオプション兵装で、一応は形状は主翼と一体化するように流線型に整形されていたが、突出面積はE型で翼内装備していた機関砲のそれよりも大きかったから、機動性や最高速度に与える影響は大きかった。
 これでは鈍重で重装甲の重爆撃機に対する迎撃任務や対地攻撃であればともかく、俊敏な敵戦闘機との格闘戦は格段に不利だった。E型後期の翼内20ミリ機関砲でさえ動きが鈍るとして嫌った搭乗員も少なくなかったから、このガンポッドを制空部隊で進んで装備しようとするものは少なかった。

 G型では他にモーターカノンを20ミリ機関砲から30ミリ機関砲などのより大口径のものに換装することも計画されているらしいが、デム軍曹はこれがうまくいくとは思えなかった。
 少なくともE型でそうだったように実用化までには相当の困難があるのではないのか。
 すでにモーターカノン化には前例があるとは言え、エンジンプロペラ軸内に銃身を通さなければならないモーターカノンは、原理的に薄肉となってしまうプロペラシャフトの強度が低下する大口径化は難しいのではないのか、デム軍曹はそう考えていたのだ。


 武装強化による空気抵抗という意味ではBf109G-6の13ミリ機銃も決して褒められたものではなかった。倒立エンジンの装備で上部に空間が出来ていたとしても、やはり機首上部の空間はそれほど大きくはなかったからだ。
 元々7.92ミリ機銃の搭載を前提としていた場所に一回り大きい13ミリ機銃を押し込めたのだから無理が出ていた。機首からなだらかに操縦席まで続いていた流麗な形状のエンジンカウリングに無粋な突出部を設けて機銃機関部を収納するスペースを設ける羽目になっていたのだ。

 結局、可能な限り大出力エンジンを小型の機体に搭載して安価に高性能化を図るという当初のBf109の設計方針に無理があったものだから、このような木に竹を継ぎ足したようなつじつま合わせのような事になったのではないのか。
 F型のスムーズな機体形状が記憶に残っているだけにデム軍曹はそのように考えてしまっていた。


 もっとも、根本的な問題は激化する一方の今次大戦の様相に対応した後継機の開発に失敗してしまったことにあった。
 デム軍曹が下士官仲間の間に広がる噂として以前聞いた話をつなぎ合わせると、幾つかの航空機メーカーでは純粋な戦闘機としてのBf109後継を目指した新型機の開発が並行して進められていたらしかった。
 だが、Bf109と同格の戦闘機として開戦前後からこれまで本格的に量産されたのは、空冷エンジンを搭載したFw190だけと言っても良い状況だった。

 今年になってメッサーシュミット社の新型機であるMe410の部隊配備が開始されているらしいが、これは双発の重戦闘機であるBf110の後継だったから、デム軍曹達のように制空任務の単発戦闘機の代替とはなりそうもなかった。
 この機体も紆余曲折を経て採用されたものらしく、就役した頃にはBf110がそうであったように実際には鈍重な双発機では戦闘機として運用することは難しくなっていた。

 Me410は重戦闘機というよりも襲撃機、戦闘爆撃機として運用されていた。Bf110は友軍の重爆撃機を援護して長駆敵地に進攻して敵迎撃機と交戦する駆逐機として期待されていたが、Me410が就役する頃には軽快な単発戦闘機に対抗できないそのような概念は形骸化していたのだ。
 夜間戦闘機や重武装を活かした迎撃機として運用されている場合もあったが、爆撃地点によっては大容量の増槽を装備して航続距離を進捗させた敵戦闘機が護衛につく場合もあったから、対戦闘機戦闘では格段に不利な双発戦闘機が一方的に損害をこうむる場合もあるようだった。


 それに並行して生産されているFw190は、本来主力戦闘機であるBf109を補佐する存在として計画されていたものだった。脆弱な脚構造などからBf109は地上で破損する機体が少なくなかったが、Fw190は先行するBf109を研究して頑丈かつ野戦における整備性に考慮した機体だった。
 もっとも単純に戦闘機としての性能だけを取ればBf109とFw190は一長一短があり、どちらかに生産を絞るということは難しかった。それに水冷エンジンを搭載したBf109に対してFw190は空冷星型のBMW801を使用していたからエンジン生産の点で競合しないのも利点だった。
 Fw190は戦線に投入された当初の初期型が鮮やかなドーバー海峡上空での勝利をもたらしたが、その後もドイツ空軍と国際連盟軍は戦闘機の性能で争うように向上を図っていた。

 ただし、Bf109とは別の理由でFw190も抜本的な性能向上を図るのが難しいらしい。
 Fw190自体は頑丈な機体構造を持つから派生型の開発も容易であるらしく、兵装も13ミリあるいは7.92ミリ機銃2丁と20ミリ機関砲4門という重装備を施されていた。

 だが、搭載する空冷エンジンBMW801は高々度性能に劣る上に、複雑なエンジン制御装置が不具合を起こすことも少なくないらしいとデム軍曹は聞いていた。
 急降下爆撃機や重爆撃機以外の機体で対地攻撃を実施する地上攻撃飛行隊が、Bf109よりもFw190を多用する要因の一つも、そのような任務であれば高々度性能が影響してこないという事にあるのではないのか。
 それにすでにBMW801は発展の限界に達しているとも言われており、エンジン出力の抜本的な向上は難しいらしい。

 それにもかかわらず、Fw190は初期型から兵装や装甲板などの重量が増加して飛行性能の低下をきたしていた。
 そのせいでFw190を配備された制空任務の戦闘機部隊の中には、大出力エンジンの搭載で機動性を向上させてきた国際連盟軍機に対抗するために、外翼部の20ミリ機関砲を取り外してしまうものも少なくないらしいと聞いていた。
 結局、純粋な制空戦闘機として使用するのであれば、本来の仕様とは関わりなくBf109もFw190も現状は同程度の武装で使用されているということだった。


 あるいは、ドイツ空軍戦闘機の抜本的な火力向上が図られない理由は、もっと単純なものなのかもしれなかった。デム軍曹はDo217を見つめながら内心でため息をついていた。
 詳しい理由は知らないが、Do217は敵空母の真上に来るように直進していた。離陸直前のブリーフィングによれば命中精度の高い特殊爆弾を使用するらしい。
 機密度が高いのか、ブリーフィングでDo217を運用する第100爆撃航空団から派遣されてきた将校が行った機材に関する説明は慎重に詳細がぼかされていたが、今回の作戦で投入される機材が全く新しい概念の新兵器だということは分かっていたはずだ。

 だが、今Do217の直援位置についている第27戦闘航空団のBf109はデム軍曹達ごく少数の機体だけだった。残りのBf109は十分すぎるほどの数で敵戦闘機、マートレットに対峙していた。
 ―――結局、ドイツ空軍のパイロットは皆、戦闘と狩りの区別もついていないんだ。
 デム軍曹は半ば撃墜経験のない自分を卑下しながらもそう考えていた。
三式戦闘機の設定は下記アドレスで公開中です
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/3hf1.html
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