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仮想戦記(仮 作者:ロックウッド
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1943ローマ降下戦27

 接近する大型機の編隊に対して、ハーミーズ飛行隊の戦闘機隊が接触できるかどうかは怪しかった。確かに編隊はK部隊に向けて接近しつつあるものの、飛行高度が高かったからだ。

 元々ハーミーズから発艦した戦闘機、マートレットMkⅡは日本から供与された零式艦上戦闘機22型の英国仕様とでも言うべき機体だった。当初から艦上戦闘機として設計された機体だったから、零式艦戦は航続距離や銃兵装は充実していたもの、高々度性能はそれほど高くはなかった。
 原型である11型、21型と比べればエンジンと共に過給器の能力も向上していたが、すでに艦上戦闘機としては旧式化した機体だったから、大出力エンジンに換装した現行の33型や44型と比べると上昇率は低いはずだった。


 それでも時間が経つにつれて詳細が判明していった。接近した戦闘機隊による目視確認もあったが、敵編隊が接近したことで対空捜索レーダーの解像度でも編隊の構成が判明していったのだ。
 状況は戦闘機隊にとって不利だった。実際には敵編隊が2群に分かれていることが判明していたからだ。
 この2群は上下にやや別れて飛行していた。レーダーによって発見された当初は、それでK部隊から見かけ上は一直線に並ぶ形となって1群として認識されてしまっていたらしい。

 このうちより高々度を飛行していたのが当初の予想通りの大型の爆撃機だった。機種はDo17あるいはDo217であるらしい。どちらもドイツ空軍の主力爆撃機で、ドルニエ社の開発した大型の双発爆撃機だった。
 Do217はDo17の発展型であるらしいから識別が難しいのも当然かもしれなかった。

 だが、編隊は爆撃機だけではなかった。その下方にはBf109で構成された戦闘機隊が随伴していたのだ。Bf109は今次大戦開戦前に制式採用された機体だったが、相次ぐ改良によって現在でもドイツ空軍戦闘機隊主力の一翼を担っていた。
 やはりBf109の型式は不明だったが、マートレットMkⅡよりも旧式の型式を引っ張り出してきたとは思えなかった。しかもBf109隊の方に上空を抑えられている上に数上も不利だった。
 ハーミーズ飛行隊はこの時点で無力化されたと言ってよかったのではないのか。


 ただし、マートレットMkⅡの編隊はともかく、敵編隊の構成を見る限りではK部隊主力に対する脅威はそれほど大きく無かった。
 重爆撃機の水平爆撃は自在に機動する艦隊への命中率は低いし、Bf109は小柄な機体構成故に搭載量はそれほど大きくなかったはずだから、対艦兵装は搭載していないのではないのか。
 もちろん艦隊各艦はこれから回避行動を取らなければならないからアンソン固有の乗員は緊張した様子を隠せなかったが、司令部要員には状況を楽観視したようなものが少なくなかったようだった。

 笠原大尉は妙な胸騒ぎを感じてアンソン艦橋脇から敵編隊の方向を見つめていた。だが、そこにいたのは大尉だけではなかった。いつのまにか艦隊司令官のカナンシュ少将も不機嫌そうな表情で上空を仰ぎ見ていた。
 そろそろ目視でも編隊を確認できるはずだった。

 最初に確認されたのは曳光弾らしき煌めきだった。どうやら上昇したマートレットとBf109との間で戦闘機同士の戦闘が開始されたらしい。
 機数はドイツ軍のほうが多いのだから、技量によほどの差でもない限りマートレット隊は敵戦闘機隊を突破できずに、手付かずのままの重爆撃機隊に艦隊上空まで侵入されてしまうのではないのか。


 やがて重爆撃機隊も確認されていた。重爆撃機隊は積極的な防御機銃の発砲を避けていた。
 マートレットとBf109が交戦中であったためだろうが、友軍機への誤射を恐れたというよりも、少数のマートレット隊に対して有利な位置を占めていた友軍戦闘機部隊が優位にあった為に、防御機銃を放つほどの脅威とならなかったのではないのか。

 激しい戦闘を繰り広げている様子の戦闘機隊と比べると、海上からでは静々と進入してくるようにみえる重爆撃機隊の標的となったのは、K部隊主力ではなかった。確認された飛行針路からして、艦載機の離着艦作業のために本隊からやや離れて航行していたハーミーズと直援の駆逐艦群が標的のようだった。
 重爆撃機隊が上空から見て、ハーミーズ群の方が艦隊主力よりも自隊に近かったのだろう。それとも高々度からではやはりハーミーズが立派な正規空母に見えたのかもしれない。


 何れにせよ、重爆撃機隊は一直線にハーミーズに向かっていた。それに対して、護衛の駆逐艦を従えたハーミーズもまるで敵機群の存在に気が付かないかのように同じように直進を継続していた。
 艦首尾波の盛り上がりや周囲の駆逐艦の動きを見る限りハーミーズは最大速力の25ノットに近い高速で航行しているようだった。

 もちろん、ハーミーズや周囲の駆逐艦群が上空で自分たちを狙っている重爆撃機隊の存在に気が付いていないはずはなかった。おそらく直援艦も併せて指揮を執るハーミーズの艦長は回避の機会を伺っているのではないのか。
 早々と回避行動を行うのは得策ではなかった。転舵によって速力は少なからず低下するし、回避が早すぎれば上空の重爆撃機隊もそれに対応して照準をやり直すだろうからだ。
 もっとも実際に爆撃の回避を試みる艦長にかかる重圧は大きかった。回避行動が遅すぎれば仮に命中弾が無かったとしても着弾点の散布界に囲まれて至近弾の爆発による衝撃で損害を被るのは必至だったからだ。

 しかし、ハーミーズの動きに迷いは感じられなかった。むしろ周囲の駆逐艦の方が針路をふらつかせているほどだった。よほどハーミーズの艦長が豪胆なのか、あるいは自艦のことを信頼しているのではないのか。
 確かにハーミーズは老朽化した旧式艦だったが、それだけに艦のことを知り尽くした熟練の乗員には事欠かないはずだ。それに艦長も自艦の挙動を把握しきっているのではないのか。おそらくそれがハーミーズの迷いのない行動に現れているのだろう。


 やがて、見張員から敵重爆撃機による投弾が告げられていた。アンソンの位置からではまだ敵重爆撃隊とハーミーズとの間には距離があるように見えるが、実際には投弾された直後の爆弾は重爆撃機と同じ運動量を有していた。
 そこから重力に引かれながら爆弾は落下していくが、更にその軌道は風向きや風力などによっても捻じ曲げられた。しかも海面から当弾された高々度まではそれらの影響を与える風向きなども一様とは限らないから、高々度からの水平爆撃は意外なほど遠距離に着弾することもあって命中率が低かったのだ。

 そして、やはりハーミーズの艦長は豪胆かつ慎重な性格のようだった。敵重爆撃機隊の投弾の直後にハーミーズは急角度の転舵を行っていたのだ。
 直援の駆逐艦群と緻密な陣形を保ちつつ行動していたにしては危険過ぎるほどだった。下手をすれば回避行動をとるハーミーズの挙動に追いつけずに僚艦と接触する艦も出てくるのではないのか。
 だが、笠原大尉の心配は杞憂だった。乗員の練度が低いのか、中には危うげな動きをするものもあったが、いずれの直援艦もハーミーズを中心とした陣形を何とか保ちながら転舵を開始していた。

 ―――この爆撃は回避される。
 笠原大尉はそう確信しながら敵重爆撃機隊を仰ぎ見ていた。違和感を覚えたのはハーミーズに向けていた視線を爆撃隊に戻したその瞬間だった。
 爆撃隊の周囲に爆煙が生じていた。アンソンを始めとするK部隊主隊からはまだ距離があったから、おそらくハーミーズ自身によるものか護衛の駆逐艦によるものだった。


 だが、ハーミーズも直援に就いたJ級、L級駆逐艦のいずれも対空火力は貧弱だった。ハーミーズに備えられているのは10.2センチ高角砲だった。性能的にも簡便な代わりに突出したところのないものだったが、それ以上に単装砲架3基という装備数は小型空母であることを差し引いても少なすぎるものだった。
 ハーミーズは空母としては初期に建造された艦だから、水上砲戦を意識して平射砲を備えていた。それによって十分な対空火器を装備する空間も重量も無かったのではないのか。
 それに装備されたのは防盾や雨避けすら無いむき出しの砲架式のものだったから、甲板上に爆風や破片が飛び交うこともある熾烈な戦闘の中で対空射撃がどこまで継続できるかも不明だった。

 今次大戦開戦前の計画艦で、開戦前後に就役したJ級、L級駆逐艦もハーミーズ以上に対空火力は低かった。開戦前の英国海軍では航空機による脅威が低く見積もられていたのか、J級に至っては就役時に装備された高射砲は皆無だった。
 一応は主砲の12センチ砲は大仰角での射撃が可能な対空兼用砲という触れ込みだったが、秋月型以前の日本海軍の艦隊型駆逐艦が装備していた12.7センチ砲と同様に基本的な構造は平射砲だったから、連続した装填作業の困難さなどから長時間の対空射撃には難があった。
 開戦以降に戦訓により魚雷発射管を廃して対空砲を増備した艦もあるらしいが、ハーミーズに続航するJ級駆逐艦がその種の改装を受けているかは笠原大尉は確認していなかった。
 仮に対空砲を搭載していたとしても、その数は10.2センチ高角砲1基でしか無かった。これは就役時のL級駆逐艦も同じだったから、抜本的な強化とはいえなかったのではないか。


 つまり、ハーミーズと直援駆逐艦3隻を合わせても対空砲火として有効に使用できるのは、最大で10.2センチ高角砲が合計6門に過ぎなかったのだ。
 この数はあまりにも貧弱だった。日本海軍の防空駆逐艦である秋月型駆逐艦は長砲身の10センチ砲連装砲塔を前後2群で2基づつ、計8門を備えていたから、ハーミーズと直援艦の対空砲火は射撃指揮能力などを割引いたとしても同型駆逐艦1隻分にも満たない数でしか無かった。
 他には各艦に対空機銃座などが備えられていたが、これらの対空機関銃は射高が低いから高々度を飛来する重爆撃機には無力な存在だった。

 対空砲火がそのような状態にあったせいか、敵重爆撃機隊への脅威はそれほど高くなさそうだった。高角砲弾の炸裂によって発生する爆煙は小さく迫力に乏しかった。
 砲弾の口径が小さく、砲身もそれほど長いものではなかったから炸裂によって発生した高射砲弾の破片密度や散開速度は高くは無かったはずだ。
 しかも適切な高射装置が備えられていないのか、それとも急角度の転舵によって照準が難しかったのかは分からなかったが、砲弾が炸裂した高度も角度も敵重爆撃機隊の進路とは大きくずれているようだった。
 発砲した艦から確認するのは難しいかもしれないが、距離を取ったアンソンの艦橋からではそれが容易に見て取れたのだ。


 しかし、対空火力が幾ら貧弱だったとしても、敵重爆撃機隊の挙動は奇妙なものだった。投弾後も直進を継続していたのだ。
 すでに投下された爆弾は慣性と重力に引かれて、放物線を描きながらハーミーズの未来位置へと向かっているのだから、水平爆撃を終えた爆撃機は退避行動に移っているはずだった。
 しかも直進しているのは敵重爆撃隊の全機ではなかった。一部の機体だけが直進を続けて対空砲の射程まで入り込んでいるようだった。他の重爆撃機はまるで高みの見物を決め込むように周囲をゆっくりと旋回していた。
 もしかすると、直進する機体だけが投弾を終えており、旋回して待機している機体は未だに爆弾を抱えたままなのかもしれない。重爆撃機隊を繰り出して主隊を無視してハーミーズ群に攻撃を集中したのかと思ったのだが、実際には余力を残しているのではないのか。

 だが、すぐに笠原大尉は幾つかの矛盾に気が付いていた。投弾を終えた機体がいくら対空砲火が貧弱とは言え、無防備に高角砲の射程内に入り込む理由には説明がつかなかったのだ。
 それに爆弾の着弾点によって生じる散布界で目標艦を包む込むように爆撃を行う公算爆撃にしては一度に投弾を行った機体が少なすぎる気がしていた。これでは着弾する爆弾の密度が低すぎるから命中弾が発生する確率は限りなく低くなってしまうのではないのか。

 それだけではなかった。すでにハーミーズと護衛の駆逐艦群は急角度の回頭を終えていた。急回頭によって船速は低下していたが、今は舵を中央に戻して増速している気配があった。
 回頭によってすでにハーミーズと駆逐艦群は、重爆撃機隊が投弾した爆弾の照準から外れているはずだった。それに直進に戻ったから今度はこちらの対空射撃の精度も向上してくるのではないのか。

 理屈の上から言えば、敵重爆撃機隊の水平爆撃は中途半端なもので終わるはずだった。運が良ければ被害が皆無の可能性も高いだろう。
 そう考えながらも、奇妙な敵重爆撃機隊の挙動に得も言われぬ不安を感じて笠原大尉はハーミーズを見つめていた。着弾まであと少しだった。
零式艦上戦闘機(22型)の設定は下記アドレスで公開中です。
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/a6.html
零式艦上戦闘機(33型)の設定は下記アドレスで公開中です。
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/a6m4.html
零式艦上戦闘機(44型)の設定は下記アドレスで公開中です。
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/a6m5.html
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