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仮想戦記(仮 作者:ロックウッド
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1943ローマ降下戦25

 英国海軍地中海艦隊主力から分離したK部隊に日本海軍から連絡将校として派遣された笠原大尉は、K部隊が再編成された本当の理由はローマ進攻という今回の作戦の主作戦において英国海軍の存在感を示すためではないのか、そう疑っていた。
 K部隊の規模に対してその構成がどこか矛盾したものだったからだ。戦艦3隻を中核として編成されたK部隊は一見すると有力な艦隊だったが、航空戦力は脆弱なままだった。
 しかも、作戦計画では意外なほど長い間、他の有力な空母部隊から離れて行動しなければならなかった。


 K部隊の任務は全般的な上陸作戦の支援という曖昧なものだった。艦隊はイタリア王国の首都ローマに長駆進攻する大規模な空挺軍団に引き続いて、ローマ周辺海域まで進出する予定だった。
 その後は降下した空挺軍団を支援するための艦砲射撃や主力部隊上陸岸周辺の警戒にあたることとなっていたが、詳細な行動は状況をみて艦隊司令官の判断に委ねられる部分が大きかった。
 権限の移譲といえば聞こえは良いが、実際にはイタリア半島のつま先に当たるカラブリア州への上陸という助攻作戦支援に地中海艦隊本隊が注視していたために、ローマ周辺海域での行動は現地部隊に丸投げされていたというのに近かった。

 もっとも、実際には作戦行動中にK部隊の出番があるかどうかは分からなかった。
 イタリア王国の単独講和の発表は政府や軍の中枢にしか知られていないらしいから、先行して降下する空挺軍団の作戦行動は、ドイツ軍に対しては奇襲となるはずだった。
 現地のイタリア正規軍と無事に合流できればかなりの戦力になるはずだし、空挺軍団が首都ローマ周辺を確保し続けれている間に、シチリア島とサルディーニャ島から出撃した複数の機甲師団を含む日英仏、さらにはイタリア解放軍からなる主力部隊が同地に上陸するはずだった。
 もちろん両島から出撃するのは上陸部隊だけではなかった。これの護衛や上陸支援時の対地攻撃、更には輸送そのものを行うために日本海軍第1航空艦隊がほぼ全力出動を行うはずだった。


 だが、後続する第1航空艦隊とK部隊との距離はかなりあった。おそらく今日の昼を過ぎた頃にならないと第1航空艦隊所属艦、航空機による援護をK部隊は受けられないのではないのか。
 地中海艦隊司令部の思惑とは異なるこのような状況が生起した理由は、K部隊が旧式艦であっても最低25ノット程度は発揮可能な戦闘艦で構成されていたのに対して、第1航空艦隊は鈍足の輸送船団を伴っていたためだった。

 最もそのようなことは作戦立案段階からわかっていたはずだった。
 笠原大尉はそれに関連して気になる噂をきいていた。実際にはこの作戦の目標は当初はローマではなかったのではないのかというのだ。
 根拠はあった。出撃拠点であるシチリア島やサルディーニャ島はローマから見ればほぼ等間隔の位置にあったが、助攻作戦が行われているカラブリア州からは距離が有りすぎるのではないのか。
 これではローマに上陸した部隊がカラブリア州から北上する部隊と連絡を取り合うまでには、上陸そのものに成功してもかなりの時間がかかってしまうはずだった。

 常識的に考えれば、当初計画されていたという上陸地点はローマとシチリア島の中間、ナポリあたりでは無かったのか。
 ただし、降下部隊がローマを確保し続けているのであればローマへの上陸は不可能ではなかった。カラブリア州やナポリ周辺などに集中しているドイツ軍が戦略的な機動を行えない内に橋頭堡を確固たるものに出来るだけの戦力を送り込めれば良いのだ。

 だが、奇襲を狙った作戦であるから空挺軍団の出撃前に上陸部隊を乗船させた輸送船団をこれ見よがしに出港させることはできなかった。
 シチリア島から北上する船団はともかく、サルディーニャ島から出港する船団がローマに向かうかナポリに向かうかでは船団の針路にかなりの開きがあるはずだから、出撃から短時間で上陸岸の正確な特定がなされてしまうはずだった。


 このような事情による弊害をもっとも大きな形で受けることになったのが単独で進出したK部隊だったのではないのか。
 それでも当初の予定通り奇襲が成立したのであればK部隊に出番は無いはずだった。空挺軍団の支援はともかく、枢軸軍水上艦隊の脅威は低かったからだ。
 地中海に展開する枢軸各国の艦隊はこれまでの戦闘で大きな損害を受けていた。特に一時期複数の戦艦を含む大艦隊をこの方面に投入していたドイツ海軍の戦力は激減していた。

 マルタ島沖海戦で大損害を受けたドイツ海軍は、ジブラルタルを英国軍に奪還される直前に残存する艦艇の大多数を地中海から脱出させていた。
 いま地中海に残されたドイツ海軍の水上艦艇はタラントに停泊するテルピッツがあったが、同艦はマルタ島沖で受けた損害が大きく、修理中の痕跡はあるものの実質上稼動状態に無いと国際連盟軍では判定していた。

 昨年度新たに宣戦布告していたヴィシー・フランス海軍は、未だ無視できない大規模な戦力を残しているとは言え、先のシチリア海峡での戦闘で有力な艦艇多数が被害を受けていたはずだ。
 こちらは情報が少なくテルピッツのように稼働艦かどうか最終的に判定するには至っていないが、先日の戦闘からまだ日にちが経っていないから、本国からの増援や交代が可能な国際連盟軍と違って、英国空軍の爆撃下にあるフランス本国の造修能力を考慮すれば今回の作戦中に同国海軍の艦隊が出動できる可能性は低かった。

 そして、いま地中海に残された最後の有力な枢軸軍艦隊を有するイタリア艦隊は投降の道を選ぼうとしていた。
 予定ではタラントに向かった強襲分艦隊以下の日英混成艦隊と揚陸部隊が同地に展開する独伊海軍艦隊を制圧、接収する手筈になっていた。
 ナポリに集結していた残りのイタリア艦隊は、ローマへの上陸船団と入れ違いにシチリア島に向かってその地で投降する事になっていた。


 K部隊に残された脅威は水上艦艇ではなかった。それは航空機であり、潜水艦と考えられていた。
 今次大戦において活動が全体的に不活発なヴィシー・フランス海軍の潜水艦隊はともかく、ドイツ海軍の水上艦艇は地中海からほぼ撤退したものの、ジブラルタル奪還後もイタリア国内を根拠地とする若干のドイツ海軍潜水艦の活動は確認されていた。
 また、イタリアの降伏は同軍の末端まで伝わってはいないはずだから、通信の容易な水上艦艇はともかく、潜航中の潜水艦の場合は彼らの本国から送られる降伏の連絡を受け取れない艦があることも予想された。
 もちろん、イタリア半島には全域に渡って有力なドイツ空軍が展開していたから、これも大きな脅威となるはずだった。

 だが、K部隊に配属された乏しい航空戦力でこれら全てに対応するのは難しそうだった。何と言っても旧式化したハーミーズの搭載機数が少なかったからだ。
 現在のハーミーズの搭載機数は僅か12機と飛行中隊の定数を満たす程度でしかなかった。この程度の搭載機数では攻勢作戦への投入など積極的な運用は難しかった。
 他の正規空母と同時に運用するにしても機数が少ないから、日本海軍の大型空母で編成された航空戦隊であればこのような中途半端な搭載機数の正規空母など足手まといとしか判断されなかったのではないのか。

 もちろんその程度のことは英国海軍でも承知していた。今回の作戦に当たって、対潜及び防空任務に対処することを目的として、ハーミーズ搭載の飛行隊は艦隊同様に再編成が行われていた。
 もっとも笠原大尉の見る限りその措置は中途半端なものとしか思えなかった。


 元々、ハーミーズに搭載されていた飛行隊が装備していたのは三座攻撃機のソードフィッシュだった。複葉で固定脚かつ羽布張りという時代錯誤としかいいようのない構造の機種だったが、複葉機としては最後の世代として熟成されたためか、信頼性は複雑化した新鋭機よりも高かった。
 もっともすでに英国海軍にはソードフィッシュの後継機が存在していた。アルバコアとバラクーダだった。
 どちらも同じフェアリー社で設計された機体で、アルバコアは複葉固定脚とソードフィッシュと大して違わない機体構造ながら密閉式風防を採用しており、後続のバラクーダは単葉全金属、引き込み脚の近代的な機体だった。

 だが、ソードフィッシュから後継機への置き換えは簡単には行かなかったらしい。アルバコアは機体性能に大した違いがなかった上に信頼性が低かったものだから、旧式のソードフィッシュを装備した部隊よりもアルバコア装備部隊の方がバラクーダへの機種転換が優先されているようだった。
 最も生産開始まで手間取った結果、バラクーダの部隊配備は今年の頭頃からようやく始まったそうだから、アルバコアからの置き換えはまだ途上だったはずだ。
 そのような新鋭機不足を解消するために、代替として供与された二式艦上攻撃機天山がターポンの呼称で一部の英国海軍空母で運用されているほどだった。


 もっともハーミーズではアルバコアはともかく、バラクーダや二式艦上攻撃機を運用することは難しかった。航空艤装の更新が図られていない上に飛行甲板が短すぎて着陸速度の高い新型機の運用能力に欠けているからだ。
 結局、ハーミーズは従来搭載されていたソードフィッシュはそのままに、搭載機の半数に当たる6機を艦上戦闘機に入れ替えていた。勿論6機という数が中途半端なものであることは承知されていた。
 K部隊が単独で行動する時間に限れば、無いよりもは増しと考えられたのではないのか。

 しかもその艦上戦闘機も新鋭機とは言いがたかった。機種自体は日本海軍でも現役の機体である零式艦上戦闘機だった。正確にはその英国海軍仕様のマートレットだったが、型式は古かった。

 現在日本海軍の航空隊で運用されている零式艦戦は33型あるいは44型の二種類あった。
 型番だけを見れば新旧二種が混在しているようだったが、実際には空冷星型エンジンを搭載した33型と、基本設計は同じながら水冷V型エンジンを搭載した44型が並行して投入されていたのだ。
 このような事態になったのは、従来から空冷エンジン搭載機を主に運用していた空母部隊では整備部隊の手間を省くために同種のエンジンを搭載した機体を使用するとともに、陸上部隊向けに高速戦闘機向けの水冷エンジン搭載機が採用されたように運用法が異なっていたからだ。

 日本海軍の空母に零式艦戦44型を搭載したものがないわけではなかったが、そのような場合は同時に搭載する多座機も水冷エンジンを搭載した二式艦上爆撃機彗星12型として水冷エンジン搭載機運用艦を固定することで、エンジンの予備部品や整備兵の職種を限定することで対応していた。
 あくまでも日本海軍の空母航空隊で運用する艦上戦闘機の主力は空冷エンジンの33型だったのだ。
 だが、英国海軍の場合は同国製のマーリン・エンジンを主機としたためか、供与されたマートレットの主力は44型を原型としたマートレットMkⅢとなっていた。33型も審査はされていたが、制式化はされていなかったようだ。

 しかし、そのマートレットMkⅢをハーミーズに搭載するのは難しかった。33型以降の零式艦戦は高性能なドイツ軍機に対抗するために高速化が図られていたからだ。
 設計の変更点はエンジンの換装だけではなく機体構造にも及んでおり、防弾装備の充実と共に翼端の短縮によって旋回性能の強化も図られた全面的な改設計だったのだ。
 搭載されたエンジンこそ異なっていたものの、設計期間の短縮を図るために44型もエンジン搭載部分以外の設計は大部分を33型から流用した兄弟機といっても良い存在だった。

 だが、現行の零式艦戦33型、44型は高速性能と引き換えに、自重の増加や翼面荷重の低下などによって離着陸速度の上昇を招いていた。つまり離着艦時の距離も延長されていたのだ。
 大型の空母や陸上航空隊であれば問題はそれほど大きくならなかった。大型の正規空母であれば艦尾から着艦制止柵まで距離があるから十分な着艦距離が確保できるし、大規模な攻撃隊を一挙に発艦させる場合でも、発艦に備えて搭載機を揃える配列区画を大きくとれるから離艦も難しくないはずだった。
 それに海防空母でも最近になって就役しているものは射出機や強力な着艦制動索を備えているから、連続発艦でもない限り高速機の運用は不可能ではないはずだった。


 結局、小型の正規空母であるハーミーズに急遽搭載されたのは現在では旧式化したマートレットMkⅡだった。これは日本海軍の零式艦戦22型に相当する機体だったが、英国海軍での運用数はそれほど多くはなかった。
 当初供与された零式艦戦11型に相当するマートレットMkⅠからMkⅡに改編された時点で44型の開発が本格化していたために、MkⅡは繋ぎの役割しか期待されていなかったようだった。そのせいでMkⅠの損失分程度の数しか新規に納入された機体がなかったらしい。
 ハーミーズに搭載された機体の中には、マートレットMkⅢやシーファイアに改変された部隊から返納されたものを再整備したものもあるらしいと聞いていた。
 しかも本来であれば艦上戦闘機であるマートレット部隊は、今回はソードフィッシュと同じ飛行隊で特別に運用されていた。特設飛行隊ということになるが、実のところ、ハーミーズの狭い艦内で小規模とは言え指揮系統の異なる2つの飛行隊を収容するほどの余裕はなかったせいではないのか。


 航空戦力に不満はあったが、K部隊は他隊に先んじてローマ沖まで進出していた。それまでの航行で不安材料はなかった。これまでの所、数は少ないながらもハーミーズの特設飛行隊による哨戒飛行も順調に行われていた。
 だが、予定通りローマ沖まで進出したところでK部隊を予想外の事態が襲っていた。ローマ市街地では国際連盟軍の進攻前にすでに戦闘が開始されていたというのだ。
 降下した空挺軍団各隊もなし崩し的に戦闘に突入しているらしいが、K部隊には詳細は伝わってきていなかった。

 それにK部隊にとってローマで行われている市街戦以上に対処すべきと司令官が判断する事態があった。本来であれば国際連盟軍に投降するためにシチリア島に向かうはずだったイタリア艦隊主力がローマに向かって北上していたのだ。
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