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仮想戦記(仮 作者:ロックウッド
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1943ローマ降下戦21

 ローマ市街地での戦闘は、特務遊撃隊にとって意に沿うものではなかった。当初の作戦計画では、特務遊撃隊や日本陸軍機動連隊などが配属されていた機動旅団は、空挺軍団本隊に先行してローマ郊外の空港を制圧するはずだったからだ。

 今回のローマ進攻作戦にあたって、日英混成となった空挺軍団の主力は英第一空挺師団と日本軍の挺進集団だった。これらの部隊はいずれも師団級の兵力だったから、空挺軍団主力は重火器の装備は少ないものの2個師団基幹の小規模な歩兵軍団相当と言えた。
 これに対して、先行する部隊も2個旅団と本隊と比べても部隊規模で言えば無視できない戦力であるように思えた。ただし、実際の兵員数には大きな差があった。機動旅団や英第77特殊旅団は所属する兵員数の少ない特殊戦部隊だったからだ。
 それらの部隊は本来破壊工作や遊撃戦に従事する為のものだったから、特殊な技能や装備を有していても、正面からの正規戦闘には向かなかった。それで本隊が降下する予定の空港の偵察や制圧を行うことになっていたのだ。


 先行する部隊には、この2個旅団の他に日本海軍の特務陸戦隊も含まれていた。各鎮守府などで編制される常設の特別陸戦隊を集成した海軍陸戦師団とは異なり、特務陸戦隊は海上からの奇襲上陸による破壊工作などを主目的とした特殊戦部隊だった。
 今回の作戦にあたっては空挺軍団に配属されてはいたものの、特務陸戦隊は他の同種特殊戦部隊とは異なり空中挺進は実施しなかった。日本海軍ではある意味において空中挺進よりも更に奇抜な輸送手段を有していたからだ。
 特務陸戦隊は、輸送用の潜水艦から密かに発進した特二式内火艇に乗り込んでいたのだ。陸上走行用の履帯と水上航行用のスクリューを兼ね備えた特二式内火艇は、実際には艇というよりも水陸両用車両だった。
 日本陸軍にはスキ車と呼称される別の水陸両用車両もあったが、スキ車が自動貨車を水陸両用としたような輸送用途の車両であったのに対して、特二式内火艇は兵装こそ重機関銃若干の取り付けが可能な程度とは言え、弾片防護程度の簡易な装甲を持つ装甲兵車に近い存在だった。

 ただし、特務陸戦隊も他の2個旅団も、先行した部隊は積極的な交戦は避けられるはずだった。空挺軍団本隊が到着する直前にイタリア国王の名で国際連盟軍とイタリアとの単独講和が公表される予定となっており、それまでは密かに潜入することさえできれば戦闘が起こる可能性は低いとされていたからだ。
 だが、実際にはローマでは空挺軍団主力の降下前から交戦が開始されていた。しかも戦闘は空挺軍団各隊の行動に呼応したものではなかった。
 ドイツ軍によるローマへの進攻と混乱しながらそれに反撃を加えるイタリア軍という形で戦闘が始まっていたものだから、厨川大尉達特務遊撃隊はむしろ蚊帳の外に置かれていたと言っても良かった。


 今回の作戦では、特務遊撃隊を含む機動旅団はローマ南部の飛行場を制圧する予定だった。同じく英第77特殊旅団はローマ北部の別の飛行場に向かっていた。
 ローマを囲むように点在する広大な飛行場に空挺軍団主力の日英2個師団の大規模空挺部隊が降下する予定だったのだ。
 残る日本海軍特務陸戦隊は沿岸部の偵察を行っているはずだった。こちらは空挺軍団がローマ周辺の要地を確保している間に上陸する予定の、国際連盟軍主力の上陸予定地点だったのだ。

 だが、機動旅団が確保するはずだった飛行場は、すでに有力なドイツ軍部隊が展開していた。ドイツ軍が空挺作戦を察知して先行して降下地点を制圧したというわけではなさそうだった。
 先行していた捜索隊によれば、単に駐屯していた地点からローマに進攻する際の拠点として広大な平地を有する飛行場を仕様しているといった様子であったらしい。

 至急代替降下地点を選定する必要があった。このまま手を拱いていれば挺進集団は有力なドイツ軍部隊が展開する地点に無防備に降下してしまう事になりかねなかったからだ。
 ローマまで接近してくれば、挺進集団を空輸する輸送機との通信も可能なはずだった。それまでに本来の降下地点の近くで代替地を見つけなければならなかった。
 このような状況に対して、機動旅団は日本陸軍の機動連隊と配属されたイタリア解放軍の将兵で代替地を確認する間に、特務遊撃隊とイラン王国陸軍空挺大隊にローマ市街地での戦闘に介入して陽動を行うことを命じていた。
 もっとも陽動と共にドイツ兵を捕虜として情報を入手することも命じられていたから、そちらの方が主目的であったかもしれなかった。


 状況はあまり良くはなかったが、特務遊撃隊の隊員たちに悲壮感は無かった。尚少佐や厨川大尉達を信頼しているのもあったが、仮に作戦が失敗に終わっても自分たちは生き延びられる、そう確信していたのではないのか。
 根拠が無いわけではなかった。シチリア島での作戦では彼らは敵司令部と前線との連絡を断つために単独で降下していたのだが、今回は英第77特殊旅団まで含めてもローマ周辺の狭い範囲に集中していた。
 連絡が取りやすい位置に友軍がいたし、その中には水陸両用車と輸送潜水艦という独自の撤退手段を有する特務陸戦隊が含まれていた。
 勿論特二式内火艇の乗員数は限られていたから先行部隊全員を収容することは難しいだろうが、嵩張る装備を投棄した上で短時間と限れば相当数の余剰兵員でも輸送潜水艦に乗艦することは出来るのではないのか。

 それに特務遊撃隊などの特殊戦部隊は敵地での生存術も取得していた。訓練を行っていた満州やシベリアに広がる見渡す限りの凍てついた荒野など比べれば、温暖なイタリア半島など彼らにしてみれば天国のようなものではないのか。
 シチリア島では周囲はすべて敵軍という状況だったが、イタリアの単独講和がなれば元捕虜で部隊に同行するイタリア兵を通じて現地民による支援も期待できるかもしれなかった。


 そのような状況下で特務遊撃隊はローマ市街地での戦闘に臨んでいた。すでに厨川大尉達は尚少佐率いる小隊と別れて行動していた。
 状況が把握出来るまでは厨川大尉は慎重に部隊を進めていた。相手が大兵力であれば密かにやり過ごしていた。捕虜をとるだけであれば少人数で先行する斥候部隊を捕捉すればいいだけだったからだ。
 市街地では野戦のように夜間に敵陣地から密かに捕虜を誘拐してくるというわけには行かないはずだった。

 だから、厨川大尉はイタリア軍の防衛部隊と交戦しているドイツ軍部隊の規模を確認してから、当初はやり過ごすつもりでいた。その部隊には火力支援の為に複数の戦車まで含まれていたからだ。
 下手に介入すれば少人数の大尉達など防衛部隊諸共吹き飛ばされてしまうのではないのか。
 シチリア上陸作戦に引き続いて通訳として大尉たちに同行していた元捕虜のアルフォンソ伍長がイタリア兵たちを見捨てることに気が引けるのか複雑そうな顔を向けていたが、眉をしかめながら厨川大尉は首をふろうとしていた。

 だが、それよりも早く興味深げな表情でドイツ軍部隊を観察していた美雨は、手信号を残すと素早く通りを横切って行ってしまっていた。弾薬手を押し付けられた申が慌ててそれを追いかけていくのを、唖然とした表情になりながらも厨川大尉は美雨が残した手信号の意味を振り返りながら見つめていた。
 ―――戦車を潰してくるだと……一体何のつもりだ


 厨川大尉は怒るよりも先に呆けてしまっていた。ドイツ軍が投入していたのは重装甲の四号戦車だった。配備が開始されてから長いから初期型の性能は把握されていたが、見る限りでは通りの先で防衛部隊に砲口を向けているのは一見すると初期型の四号戦車と同じ車両とは思えなかった。
 単に装甲が増強されているのにとどまらず、主砲も長砲身のものに換装されていた上に、砲塔や車体側面などに外装式の追加装甲らしき薄板が追加されていたからだ。
 詳しくは厨川大尉も知らないが、最新型の四号戦車は日本陸軍で最新鋭の三式中戦車と比べても互角以上に戦える性能を有しているのだという話もあった。とてもではないが旧式の対戦車銃一丁では相手にならないのではないのか。

 今回はすぐに火力に勝る空挺軍団本隊が降下してくるのだからと、シチリア島で使用した大威力の三式噴進砲を持ち込まなかったことを今更ながらに厨川大尉は後悔していた。
 それに敵は戦車だけではなかった。美雨と申が通りを横切り終えるのを待ち構えていたかのように、通りの先から新手のドイツ兵達が姿を見せていたのだ。

 思わず厨川大尉は舌打ちしかけていた。地形を見る限り、この部隊はイタリア軍の防衛部隊の無防備な側面を突くために正面を迂回しようとして機動中だったのではないのか。
 ただし、行軍中のこの部隊は慎重だった。防衛部隊に悟られずに機動するのを優先したのか、建物一つ一つを物音立てずに確認して遮蔽された状態で接近していた。
 そのせいで動物的な勘の持ち主である美雨も敵部隊の存在に気が付かずに通りを横切ってしまったのだろう。


 厨川大尉は部隊を物陰などに伏せさせながら思案に暮れていた。まだドイツ軍はこちらに気が付いてはいないようだった。特務遊撃隊の隊員達であれば彼らに気が付かれずに撤退するのは難しくなかった。
 だが、通りを横切って建物に入ってしまったのか、美雨と申の姿は見えなくなっていた。ここで後退した場合、厨川大尉達は無事でも美雨達の存在がドイツ軍の迂回部隊に察知される可能性があった。
 最終的な決断を下すにはまだ早かった。大通りの道幅でも小銃弾どころか射程の短い拳銃弾でも十分に援護射撃は可能なはずだった。だからドイツ軍迂回部隊の行動をもう少し観測する余地は残されているのではないのか。


 厨川大尉の目前でいきなり甲高い声が響いたのはそんな時だった。大尉は唖然とした表情で声の響いてきた方向を見つめていた。
 聞こえてきたのは明らかに子供の声だった。声の高さから女児かとおもったのだが、実際にはまだ声変わりもしていない少年のようだった。通りの何処かに隠れていたのか、ドイツ兵の目の前で手を振り回しながら防衛部隊の方に駆け出していた。

 厨川大尉は、次の瞬間に背筋が凍る思いをしていた。大尉の後方から殺気立った様子を感じ取ったのだ。勿論それは特務遊撃隊の隊員達のものだった。
 失策だった。路地の端にいて周囲を確認していた厨川大尉やアルフォンソ伍長達はともかく、路地の奥に潜んでいた隊員達は通りで今行われていることに関する状況を把握できていなかったのだ。
 それに語学促成教育を適当に済ませていた特務遊撃隊の隊員達は英語ならばともかくイタリア語はさっぱりわからなかったはずだ。それでも調子などから、少年の声が誰かに対する警告だということくらいはわかったのではないのか。
 厄介なことにその警告の対象となって発見されたのがドイツ兵ではなく自分たちだと勘違いしていたのではないのか。

 慌てて厨川大尉は振り返りながら必死に特務遊撃隊の隊員たちを手信号で抑えようとしていた。だから、ドイツ兵達が銃撃を開始した瞬間は大尉は目撃していなかった。
 脇にいたアルフォンソ伍長の声にならない悲鳴と共に、少年の声を遮るかのようにけたたましい銃声が聞こえていた。思わず厨川大尉は眉をひそめてしまっていた。


 状況は最悪だった。ドイツ兵達は攻勢発起点まで密かに迂回機動を行うつもりのはずだった。イタリア兵たちには悪いが、その場合は厨川大尉達や美雨に気が付かずに彼らが通りの先に達してしまうことも考えられた。
 だが、それももう不可能だった。彼らの位置をイタリア兵たちに教えてしまった少年を後ろから射殺したドイツ兵達は、その場で銃撃戦を開始してしまったからだ。
 彼らの思惑通りには事は進まなかったようだが、イタリア軍の防衛線側面を突いた効果は大きかった。慎重に前進を始めたドイツ部隊はいずれ厨川大尉達にも気が付くのではないのか。

 厨川大尉は覚悟を決めると無意識の内に腰の刀の鯉口を切っていた。
特二式内火艇の設定は下記アドレスで公開中です
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/02sl.html
水陸両用自動貨車スキ車の設定は下記アドレスで公開中です
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/sukisya.html
三式中戦車の設定は下記アドレスで公開中です
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/03tkm.html
三式噴進砲の設定は下記アドレスで公開中です
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/3atr.html
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