挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
仮想戦記(仮 作者:ロックウッド
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

207/293

1943シチリア海峡航空戦7

 改設計が行われる前の極光に似ていなくもない双発の爆撃機が撃墜されようとしているのを桑原中尉は面白くもなさそうな顔で眺めていた。


 死に体となった双発機に寄って集って銃撃を行っているのは、英空軍と日本陸軍を混ぜあわせたような塗装が施された日本陸軍最新鋭の単座戦闘機である三式戦闘機の群れだった。

 だが、三式戦闘機の所属はそのどちらでもなかった。
 本来日本陸軍機であれば日の丸、英国空軍や自治領軍であればラウンデルとかいう各色の同心円となる国籍標識が描かれているはずの胴体側面には、その代わりに三本線を重ねあわせた様な記号が白い丸の中に描かれていた。

 十字に一本付け足したようなその記号は元々はキリスト教徒だか大昔のフランス貴族が使ったものらしいが、桑原中尉はその由来や意味には大して興味がなかった。
 桑原中尉にとって重要だったのは、そのロレーヌ十字とかいう標識がドイツに降伏した本国から脱出して国際連盟軍側に亡命した自由フランス軍によって使用されているという事実だけだった。


 この空域に在空しているのは、撃墜されようとしている双発爆撃機を除けば、僚機を従えた桑原中尉の極光と1個小隊4機の三式戦闘機だけだった。
 事前の説明ではサルディーニャ島にはヴィシー・フランス空軍などの戦闘機隊が多数駐留しているはずだったが、その姿は近くには見えなかった。

 だが、それも無理は無いことかも知れなかった。敵電探波を感知してからは、この空域まで桑原中尉達の混成飛行隊は、電探による探知を避けるために水平線の影に隠れるように海面近くの低空飛行で密かに接近していたからだ。
 おそらく電探を搭載した哨戒機には桑原中尉達が突然現れたように見えたはずだから、緊急出撃した機体は作戦通り友軍の電子戦機によって誘引されたようだし、他の護衛機を呼び寄せる余裕もなかったのではないのか。

 ヴィシー・フランス空軍の機載電探はこちらのものに比べて性能的に劣る上に、その周波数帯も事前に確認されていたから、視界の悪い低空から接近したにも関わらず、桑原中尉達は極光に装備された逆探に誘導されるようにして正確に敵哨戒機まで接近することが出来たのだ。
 それに海面近くを飛行すると、海上で発生する波頭等によって電波の乱反射が発生することが知られていたから、水平線の影から出た後も肉眼ではともかく電探では桑原中尉達の編隊を明確に捉えることは出来なかったのではないのか。


 もっとも、極光に装備されているような日本や英国の最新機載電探に比べて、ヴィシー・フランス軍の装備する電探の性能が劣っているのは確かなようだが、国際連盟軍は決して敵電探搭載機を軽視はしていなかった。
 電探の性能自体が多少低かったとしても、基地に固定された身動きの取れない地上設置型に対して格段に機載型電探自体の機動性が高かったからだ。
 そうでなければこの時期に貴重な戦闘機群を無理な低空飛行や強引な部隊編成を行ってまで哨戒機を撃墜するためだけに投入するようなことはしなかったのではないのか。

 その一方で、桑原中尉にはどうしても海軍航空隊に所属する自分たちが乗り込む四三式夜間戦闘機、極光と自由フランス軍に配備された三式戦闘機という異様な組み合わせに、正規の部隊から弾かれた余り物同士で組み合わされたのではないのかという後ろ向きの考えから離れることができないでいた。


 桑原中尉達が乗り込む極光は、四三式夜間戦闘機という制式名称が示す通り、今年度に採用された新鋭の夜間戦闘機だった。
 最近になって国際連盟軍に参加する他国軍への航空機の譲渡や輸出が盛んになってきたことから、海陸軍を問わず日本製の航空機は皇暦ではなく西暦の下二桁で呼称されることになっていたが、極光はその新しい命名基準で制式化された初の機体となるらしい。

 だが、その命名基準一つとっても過渡期らしい新旧入り混じった曖昧さが見て取れるものだった。この命名基準が制定される以前のここ数年の間、海軍では制式化された年度ではなく、固有名を制式名称とする方針であったらしい。
 結局は陸軍との共同運用性などの観点から制式年度の入ったものが正式名称となっていたが、本来であれば「極光」や「天山」、「彗星」という機種によりそれぞれ山や星など関連するものと基準がそれぞれ定められた名称が書類上でも正式名称となるはずだったというのだ。


 極光はその正式名称基準の変遷に巻き込まれたせいか、試作機時代も含めると幾つもの名前で呼ばれる奇妙な機体になっていた。それに歪なのは極光だけではなかった。
 年度の間に海陸軍共通の命名基準が定められてしまった結果、同じ年度で採用されたにも関わらず、陸軍の単発戦闘機は「三式」で海軍の夜間戦闘機は「四三式」と呼称されるという奇妙な事態になってしまったのだ。

 それに、以前の名称基準に従って光の文字のついた極光という名称も用意されていたから、実際には陸軍機のように単なる愛称になってしまったものの、隊内では極光という呼び名が一般化していた。
 もっともいつの間にかこの奇妙な機体の操縦士になっていた桑原中尉には、この機体は極光よりもいっそ鵺とでも呼んだほうが良いような気がしていた。


 電探を空中線ごと収めた樹脂製の覆いで機首を囲われていることと、機首下部、内翼部から合計四本も大口径機銃の分厚い銃身が無造作に突き出されていることを除けば、極光の外観は撃墜されようとしているフランス軍の双発爆撃機と似たようなものだった。
 エンジンや尾翼の方式が異なったとしても、基本的な配置は同様と言っても良かった。言い換えればそれだけ常識的な構造をとっているということでもあった。

 胴体から力強く左右に伸びた細長い主翼の中ほどには大口径の空冷エンジンを収めた巨大なエンジンナセルが設けられていた。
 極光は、以前桑原中尉が乗り込んでいた九六式陸上攻撃機よりも一回り小さな機体だったが、搭載されたエンジンは逆に九六式陸攻の最終生産型に搭載されたものの倍は出力があった。
 そのおかげで、極光は空気抵抗の大きな双発機であるにもかかわらず、単発戦闘機並に時速600キロ程度の最高速度が出ており、これは一式陸攻よりも100キロ以上は速いことになるし、旧式化した九六式陸攻ではこの速度差が200キロ近くにもなるから、機種転換したばかりの桑原中尉は戸惑うことばかりだった。


 その極光に搭載されたエンジンは、極光の生産業者である中島飛行機が英国の企業から技術供与をうけて生産しているセントーラスエンジンだった。
 ドイツ空軍による爆撃やドイツ潜水艦隊による通商破壊で国内の生産体制が混乱している英国の軍用品生産を日本国内で肩代わりしているとも聞いていたが詳細は桑原中尉もよく知らなかったし、正直なところあまり興味もなかった。
 それに、実際には別口で開発が進められている単発戦闘機の艤装方針を確認するために新型エンジンを搭載する実験機として運用していたところ、極光の示した高性能に海軍が注目して夜間戦闘機として採用したとも聞いていたから、本来であれば実戦用の機体ではなかったのだろう。

 まるで双発爆撃機の派生型であるかのようだった極光だったが、実際には夜間戦闘機仕様が唯一の採用型だった。もっとも、原型までたどれば確かに双発爆撃機の開発計画から派生されたことは確かだった。
 電探を搭載した樹脂製の機首の覆いも、元々は爆撃手を兼ねた偵察員席であったらしい。つまり、原型は操縦、電信、偵察という最低限の乗員数ながらも長距離巡航を可能とする機体であったらしい。
 極光を受領して新規に編成されたこの航空隊が、他の夜間戦闘機隊から転出してきた乗員を中核としつつも、以前九六式陸攻を操縦していた桑原中尉のような他座機の乗員をかき集めてきたのもそのような経緯があるからと説明されていた。


 だが、桑原中尉はまだ別の感想を抱いていた。実際には、機体である極光にしても、操縦士である自分にしても、もはや海軍にとって不要となった陸上攻撃機の再利用に過ぎないのではないのか、そう考えていたのだ。


 現在極光と呼ばれている機体は、開発計画が開始された当時は十五試双発陸上爆撃機と呼称されていた。十五試とは昭和十五年、西暦で言えば1940年に計画が策定されたことを意味するから、今から三年前に開発が開始されたことになる。
 1940年といえば、現行の陸上攻撃機である一式陸上攻撃機が制式化される前年ということになるが、実際にはこの計画は一式陸攻の後継機開発をも内包するものであったらしい。

 海軍における「爆撃機」とは、単に爆撃を行う機体のことではなかった。陸軍とは異なり、攻撃機が雷撃に加えて水平爆撃を実施する機種であるのに対して、爆撃機とは命中率の高い代わりに高い機体強度が要求される急降下爆撃を実施する機種だったのだ。
 これまでの固有名称を使用する命名基準では爆撃機には彗星などのように星にちなんだ名称が与えられることになっており、十五試双発陸上爆撃機も試製銀河などと呼称されていた時期もあった。


 敵主力艦を対象に主に雷撃を実施する攻撃機と平行して、海軍が急降下爆撃機の整備を行っていたのには、爆撃では重装甲の主力艦を撃沈するのは難しいものの、急降下爆撃は命中精度に優れるために、敵主力艦隊に随伴して航空援護や索敵を実施する航空母艦の脆弱な飛行甲板を先制攻撃で使用不能にすることが出来ると考えていたからだ。

 また、軍縮条約における艦艇保有量制限において仮想敵である米国海軍に対して劣位にあった日本海軍は、航空兵力が軍縮条約の制限外にあることに注目して、主戦場が予想される太平洋の諸島群から出撃する大型機による航空攻撃を漸減邀撃戦術の一翼として考えていた。
 この戦術に従って索敵機兼攻撃機となる九七式、二式飛行艇と共に、陸上基地から魚雷を抱えて長駆敵艦隊まで進撃する長距離攻撃機として九六式、一式陸上攻撃機が開発されていた。
 軍縮条約では日本帝国の委任統治領となった南洋諸島などは基地化が禁止されていたが、有事の際に航空基地の急設が可能な機械化された設営隊の整備がこのような長大な滑走路を使用する陸上攻撃機による艦隊攻撃を可能としていたのだ。


 試製銀河となる十五試双発陸上爆撃機が計画されたのも、このような日本海軍独自の対艦長距離攻撃機開発の流れにそったものだった。
 同じ双発機とは言え、七人乗りの一式陸攻と最低限の三人まで乗員を絞り込んだ試製銀河では機体の性格がかなり違うようにも思えるが、これはエンジン馬力の飛躍的な向上が望めない中で、機体の小型化を図ることで航続距離と搭載量を確保するためだった。
 急降下爆撃を行うために強化された機体構造と大出力エンジンによる双発の組み合わせは、艦上爆撃機では搭載できない五百キロ以上の大重量爆弾を携行しての敵制空圏外からの先制攻撃を可能としていたし、一式陸攻と同等の航空魚雷による雷撃も可能だった。

 その上試製銀河は機体の小型化によって一式陸攻以上の速力を有してもいたから、三座という単発機である艦上攻撃機並の乗員配置からなる余裕の無さを割引いたとしても、実戦機として就役すれば一式陸攻に代わる陸上長距離攻撃機の主力として海軍航空隊内で大きな位置を占める機体になっていたはずだった。


 だが、結局は試製銀河は制式採用されることは無かった。
 今次大戦に日本帝国が正式参戦した直後に行われた2つの作戦、マルタ島沖海戦及びプロエスティ油田地帯への爆撃作戦において従来考えられていたほどには雷撃戦が有効ではなかったこと、日本海軍の長距離攻撃機が大きな搭載量、航続距離と引き換えに陸軍の重爆撃機と比べてひどく脆弱な機体であることが周知されてしまったからだった。

 これによって最新鋭の陸上攻撃機だった一式陸攻の生産数は削減されて、陸上攻撃機装備の航空隊も需要が急増していた船団護衛を援護する海上護衛航空隊に再編制される部隊が増えていた。
 既存の一式陸攻も乗員の多さからなる哨戒能力や搭載量、航続距離などを評価されて電探や磁探といった対潜機材を装備した対潜哨戒機として運用されることが多くなっていたようだった。

 あるいはそれ以前、軍縮条約の改定によって日本海軍の対米保有量が増大して、無理をしてまで打撃力に特化した水雷戦隊や長距離攻撃機の整備に注力する必要性が低下していた時点で次期陸上攻撃機計画は見直される必要があったのかも知れなかった。


 このような状況の中で三座の高速双発機である試製銀河は、配備先となる陸攻装備の基地航空隊そのものが減少したこともあって制式採用はされなかったようだ。
 本来であれば一式陸攻の後継機として就役するはずだったが、その立場には対潜哨戒機としての機能に特化した機体が計画されているらしいとも聞いていた。

 一式陸攻が増備する対潜機材は、本来は現在艦載機に改設計されて海防空母から運用されている哨戒機東海用に開発されたものが多かった。
 実は桑原中尉も以前そのような対潜機材の開発に付き合わされていたことがあったのだが、ある意味で現在の一式陸攻の後継機となる次期哨戒機では最初から専用に開発された機材を搭載することになるらしい。


 氷山空母という奇妙奇天烈を極める存在に乗艦して大西洋で対潜機材の開発を行わされていた時のことを思い出して、桑原中尉はげんなりとしながら首を振っていた。考えても見れば自分は元陸攻乗りとしてはまだましな方なのかも知れなかった。
 かつての陸攻部隊の多くは哨戒機運用に再編成されるか、陸戦を支援するために陸軍機である一式重爆撃機を装備していたからだ。
 それに比べれば、本来一式陸攻の後継機になるはずだった機体を再設計した夜間戦闘機である極光は、まだ日本海軍特有の長距離攻撃機としての性質を残していないとも言い切れなかったからだった。
四三式夜間戦闘機極光の設定は下記アドレスで公開中です。
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/p1y1.html
三式戦闘機の設定は下記アドレスで公開中です。
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/3hf1.html
二式飛行艇の設定は下記アドレスで公開中です。
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/h8k.html
一式重爆撃機の設定は下記アドレスで公開中です。
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/1hbb.html
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ