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仮想戦記(仮 作者:ロックウッド
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1943シチリア海峡航空戦5

 プレー曹長達の目に最初に入ってきたのは単機で飛行する哨戒機仕様のアミオ359だった。


 アミオ359は、高速爆撃機仕様では、郵便機として開発されていた原型機が十年近く前に登場した時と変わらないような、卵を縦に引き伸ばしたような流麗な形状を保っていたのだが、哨戒機仕様では複雑に絡み合ったレーダーの空中線が無造作に胴体のあちらこちらから突き出されているものだから、プレー曹長にはまるで出来損ないの前衛芸術のように見えていた。
 そのアミオ359はサルディーニャ島の海岸線から少しばかり離れた空域でゆっくりと旋回を続けていた。

 アミオ359に搭載されたレーダーは、弱電関係の技術力が高くない現在のヴィシー・フランスの国産品で、生産、運用を無理なく行うために実積のある部品で構成された結果、前線での使用に足る信頼性を得たのと引き換えに機動性は全く無かった。
 だから限られた捜索範囲のレーダーで全周走査を行うためには機体自体を旋回させて行うしか無かったのだ。

 機体自体の飛行針路に関わりなく全周を捜索する為に強引に空中線自体を回転させるやり方もあった。実際、前線での目撃例はそれほど多くはないが、国際連盟軍の一部の電子戦機は機体上部に回転式の空中線を装備しているらしい。
 だが、その場合は可動部が増加して構造が複雑化する上に、高い精度と出力を兼ね備えたモーターを機内に装備する必要があるから双発高速爆撃機のアミオ359に搭載することは出来なかった。
 仮に全周走査可能なレーダーを搭載しても、現在のヴィシー・フランスの技術力では今度は精度や探知距離が犠牲となってしまうだろう。


 プレー曹長は、僅かに頭を傾けて小隊長のグローン中尉の機体を見ていた。先程からコクピット内の中尉が無線機を弄くっているのが見えたからだ。おそらく哨戒機から直接情報を貰おうとしているのではないのか。
 だが、本来であれば偵察機大隊の分遣隊に所属する哨戒機仕様のアミオ359と戦闘機大隊のプレー曹長達の間には直接の指揮系統は存在しなかった。通常は哨戒機からの情報は後方の指揮中枢である基地司令部で取捨選択されてから空中の戦闘機隊に伝達されるはずだった。

 しばらくしてから、グローン中尉の様子が変わると、唐突に小隊内通信に合わせていた無線機から中尉の声が雑音とともに聞こえてきていた。プレー曹長はすこしばかり首を傾げていた。
 哨戒機から得た情報を伝達すると考えれば、このタイミングでグローン中尉から無線が入ること自体は全く不自然ではないが。これだけ近距離にも関わらず無線機の雑音は大きかった。


 無線から聞こえてきたグローン中尉の声は、雑音越しでも苦り切った様子がうかがえそうなものだった。
 どうやらしばらく前から周辺で妨害電波が送信されているらしい。プレー曹長達が離陸した前後に無線機の送受信試験を行った時には特に不調は無かったから、どうやらサルディーニャ島に接近してきた敵重爆撃機編隊が迎撃機の襲来を予期して行われたものであるようだった。

 短距離の隊内通信はともかく、基地との連絡は雑音ばかりで難しいようだった。離陸してからそれほど時間が経ったわけではないから電信通信であれば連絡は可能なようだったが、単座の戦闘機では操縦しながら行う電信通信で満足な通信速度で連絡が取れるとは思えなかった。
 ただし、専用の無線士が乗り込んだ他座機では話は別だった。飛行中でも無線機の操作に専念できれば、基地の通信士とそれほど条件は変わらないから、高速で打鍵することは難しくなかった。
 実際に、アミオ359は基地との連絡をまだ保っているようだった。


 もっとも、実際には事態はもう少し複雑だった。国際連盟軍が妨害電波を発生させた理由が通信の妨害ではなく、レーダー潰しにあるようだったからだ。妨害電波の波長は無線用ではなくレーダーが使用する周波数帯に合わせられているようだったからだ。
 今のところ、アミオ359はレーダーの出力を上げて対応していたが、これ以上妨害電波の出力が上がるか電波源に接近された場合はレーダー走査そのものが不可能になるかも知れなかった。


 だが、プレー曹長はそれを聞いても疑問は完全には晴れなかった。国際連盟軍がこちらの技術力を過小評価しているのではないかと考えていたからだ。
 確かに電波妨害によってレーダー捜索は阻害されていたが、不可能になったわけではなかった。この程度の出力では完全に妨害することが出来なかったからだ。

 逆に、連続した観測によって妨害電波の発信源が既に特定されていた。やはり発信源となっているのはどうやらサルディーニャ島に向かって飛来する既知の大型機編隊であるらしい。
 巡航速度を保っているのか、飛行速度はそれほど高くはないが確かにこちらに向けて大型機の編隊が接近しているらしい。


 ―――敵は電子妨害機まで含む日本軍の重爆撃機編隊、か……
 プレー曹長は気を引き締めながらそう推測していた。日が沈むまでにはまだ間があったからだ。国際連盟軍は基本的に夜間爆撃は英国、昼間の爆撃は日本軍と分担していた。
 おそらく使用機材の特性や両国の航空部隊の基本戦術に由来するものであるようだから、この基本原則がここに来て揺らぐとは思えなかった。

 機上レーダーの無いドヴォアチヌD.525で夜間に英国のランカスターなどを相手にするのも難しいが、別の意味で日本軍の重爆撃機は厄介だった。
 英国空軍の爆撃機が搭載量を重視して防御兵装を射程、威力共に貧弱な7.7ミリ機銃で抑えていたのに対して、同じ機体規模であっても日本軍の重爆撃機は数こそ少ないものの、防御機銃は20ミリクラスの長射程、大威力のものが搭載されており、多数機で編隊を組んだ際に遠距離から放たれる防御砲火は強烈であり、軽快な戦闘機といえども無視できるものではなかった。


 その反面、日本軍の爆撃機は搭載量は下手をすれば単発の戦闘爆撃機並でしか無い小さなものだったが、これまでの戦闘でプレー曹長はその理由に気がついていた。
 確かに日本軍の重爆撃機が一度に投下する爆弾の総重量はそれほど大きくはないものの、爆弾倉自体はそれほど英国の爆撃機と寸法が変わるとは思えなかった。

 というよりも日英の航空技術は同程度なのだから、さほどエンジン出力の変わらない四発爆撃機である以上は、余程他の条件が変わらない限り離陸重量も似たようなものになるはずだったのだ。
 だから、投下される爆弾の重量に差異があるということは、それ以外の何かに両国の爆撃機で違いがあるということになるのではないのか。
 プレー曹長は、実際に交戦した際の経験からそれこそが日本軍の重爆撃機で充実した防御火力と防弾性能になるのではないかと考えていた。つまり英国空軍が攻撃力に重きを置いているのに対して、日本軍は簡単には撃墜されない撃たれ強さを重要視しているということなのではないか。


 それに、日本軍の重爆撃機は確かに搭載量は少ないものの、一度に投下する爆弾の数そのものは多かった。つまり、重量に比してより嵩張る小型軽量の爆弾を多数搭載するために、さして狭くもない爆弾倉が一杯になってしまうのではないのか。
 ただし、一発あたりの威力に劣る小型爆弾ではあっても、その効果は無視できなかった。単純な破壊力ではなく、着火性や燃焼の継続時間を重視した特殊爆弾であるようだったからだ。

 そして、日本軍の重爆撃機はそのような特殊爆弾をもって特に航空基地を襲撃してくることが多かった。つまり、多数の小型爆弾や集束爆弾による火網で待機中の列線を包み込むように爆撃することで在地する機体を根こそぎ破壊しようとしていたのだ。
 大型爆弾を使用することもあったが、その場合は特に滑走路を狙って爆撃してくることが多かった。しかも着発信管に加えて設定のまばらな時限信管を使用することも多かったから、不発弾との見分けがつかずに専用の工兵隊が安全に処理するまで滑走路が使用できなくなることもあった。


 おそらくは、日本陸軍の航空部隊は基本とする航空戦術が英国軍などとは異なっているのだろう。
 比較的狭い範囲に列強がひしめき合う欧州では、生産拠点であるとともに人口密集地でもある大都市間の距離も近いから、都市部への戦略爆撃には大きな効果があるはずだが、日本帝国の場合は事情が異なっていたはずだ。

 仮想敵であるソ連と米国は首都どころか目ぼしい大都市は全て友軍根拠地から遠くはなれているし、周囲はシベリア―ロシア帝国や満州共和国のような友邦に囲まれていたからだ。
 唯一、中華民国とはしばしば緊張した政治状況に陥った時もあるようだが、中華民国は共産党勢力との内戦で日本帝国からの兵器輸入や軍事顧問団の受け入れを行っていたから、本格的な対立が起きようもなかった。

 そのような情勢下で、太平洋を襲来する有力な米国艦隊を索敵攻撃するための長距離攻撃機を指向した日本海軍とは別に、日本陸軍は優勢なソ連軍航空勢力に対抗するために重爆撃機戦力を整備していた。
 それが在地している間に敵航空機を撃破するか、離陸不可能とするために滑走路を破壊する航空撃滅戦に特化した重爆撃機となったのではないのか。


 もっとも日本軍の爆撃機の基本戦術が英国軍と根本から異なっているのは確かだが、両者が連携を取っていないわけではなかった。むしろ国際連盟軍の主力たる日英軍は綿密な連絡を取り合って爆撃計画を策定しているはずだった。
 英国空軍の主力長距離爆撃機であるランカスターは多大な爆弾搭載量の代わりに防御力を犠牲としていたが、大陸を狙う日英の重爆撃機隊の根拠地となっている英国本土周辺では、それを補うように英夜間爆撃隊の爆撃対象周辺に存在するドイツ空軍の迎撃機が展開する航空基地を昼間の間に日本軍が制圧する場合が多いらしい。

 逆に日本軍の航空撃滅戦が行われた周辺の都市がその晩に狙われる可能性が高いということだから、夜間戦闘機隊を集結させて待ち構えることも出来るはずだが、場合によっては日本軍による航空撃滅戦そのものが陽動である場合もあるし、待機中の夜間戦闘機や滑走路自体が破壊されて戦力を消耗させてしまう場合もあるようだから、ドーバー海峡方面では一進一退の状況が続いているらしい。


 おそらくは、現在のサルディーニャ島で行われようとしている国際連盟軍の作戦も同じように推移するはずだった。
 重火力、重装甲の日本軍重爆撃機による航空基地への昼間精密爆撃の連続によってこちらの戦闘能力を削りとってから、搭載量の多い夜間爆撃によってとどめを刺すつもりではないのか。
 もちろん、今日一日ですべての戦闘が終わるとは限らなかった。
 こちらの戦力を撃滅するか、あるいは重爆撃機隊に損害が続出して国際連盟軍が攻勢を断念するまで激しい航空戦が連続するのではないのか。

 戦力に劣る上に本土を防衛するために肝心のイタリア軍が有力な部隊を引き上げてしまった状態で、枢軸軍が少しでも長く抵抗を続けるには手法は一つしか無いと判断されていた。相手の初撃に対して戦力を大々的に投入して出足をくじくのだ。
 サルディーニャ島に駐留する枢軸軍の夜間戦闘機隊は、ドイツ軍から派遣されてきた極小数の部隊しか無いから、昼間の戦闘で戦力を出し惜しみして貴重な夜間戦闘機隊を撃破されるわけには行かなかったのだ。

 それに、初日の戦闘から大きな損害を被ってしまえば、国際連盟軍も今後の攻勢に慎重になるのではないかという考えもあったのだろう。
 だから、敵重爆撃機編隊の侵入開始時に警戒態勢に入っていたプレー曹長達の小隊に対する期待は大きかったし、追って増援も到着するはずだった。
 日本軍の重爆撃機がどれだけ重装甲で防御機銃が充実していたとしても、遠距離からレーダー搭載機によって発見されて、身軽な戦闘機隊に集中して攻撃されればサルディーニャ島上空に侵入するまでに無視できない損害を受けることになるのではないのか。


 しかし、そのように大きな使命感を抱いていたプレー曹長たちはすぐに肩透かしを食らうことになった。哨戒機がレーダー探知した方角に飛行を続けたものの、重爆撃機の編隊を発見できなかったからだ。

 妙だった。分解能に劣る上に高度の測定もできないレーダーによる探知だったが、単機で飛来する偵察機ならばともかく、これまでは今回哨戒機が探知したような大規模な編隊を肉眼で確認できる距離まで戦闘機隊を誘導出来ないことはなかったのだ。
 単機であれば目視できる目標も小さいし、友軍機に気兼ねすることなく自由に機動が取れるから雲に隠れることも出来るはずだが、編隊の場合は空中衝突の危険もあるからそのようなことは出来なかった。
 そもそも、打撃力を極限まで活かすとともに、発見されたとしても僚機と連携を取ることで死角をなくして、さらに機銃座の火力を集中することで防御を向上させることが空中集合の手間を掛けてでも編隊を組む理由のはずだった。
 だから重爆撃機が単機で爆撃に来ることなどあり得ないはずなのだ。


 しばらく無為に飛行を続けてから、小隊長であるグローン中尉は一度引き返して再度索敵を行おうとしていた。プレー曹長の僚機に乗り込むコルコンブ軍曹が無線で声を上げたのは、引き返そうと旋回を始めた瞬間だった。
「もしかして……あれが敵機でしょうか」
 飛行隊の中でも若手のパイロットであるコルコンブ軍曹の声は、どこか自信なさげなものだった。そのせいか、軍曹の言った方向を確認するプレー曹長もあまり期待しては居なかった。
 その方向に大規模な編隊がいれば、他のものが既に気がついているはずだったからだ。

 だが、プレー曹長はすぐに絶句することになった。確かにコルコンブ軍曹の言った方向には敵機が飛行していたからだ。ただし、その姿はレーダー探知されたはずの大規模な編隊ではなく、単機で飛来する大型機のものだった。
アミオ359の設定は下記アドレスで公開中です。
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/amiot359.html
ドヴォアチヌD.525の設定は下記アドレスで公開中です。
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/d525.html
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