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仮想戦記(仮 作者:ロックウッド
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1941マダパン岬沖海戦1

 ―――こんなはずではなかったのに…
 イタリア海軍第一航空戦隊司令官のアルトゥーロ・フェラーリン大佐は、空母ファルコの見晴らしのいい艦橋から、その光景を凝視していた。
 フェラーリン大佐の目の前で、英国海軍空母から飛び立ったアルバコア攻撃機の編隊が、重巡洋艦ボルツァーノに向けて襲撃の最終行程に入るところだった。
 ボルツァーノと周囲の艦艇による対空砲火だけでそれを阻止するのは、すでに不可能だった。

 本来ソードフィッシュ編隊を阻止するはずだった空母ファルコの艦載機である水上戦闘機アストーレは、ボルツァーノより遥か彼方で敵戦闘機との格闘戦に巻き込まれていた。
 ―――こんなはずではなかった。
 再びその思いが沸き起こると共に、思わず唸り声をあげていたフェラーリン大佐は、わずか二日前の出来事を思い出していた。




 タラント軍港司令部本部ビルの会議室に入った瞬間に目に入ってきた光景に、フェラーリン大佐は思わず立ち止まってしまった。
 すぐ後についてきていた駆逐艦アルティリエーレ艦長のルティーニ中佐は、その背に当たりかけて、迷惑そうな顔でフェラーリン大佐の肩越しに会議室の窓際で話しあう二人の男の姿を見て、納得したような、あるいはうんざりしたような顔になった。
 タラント軍港の艦艇泊地がよく見渡せる会議室の窓際には、ヴィットリオ・ヴェネト艦長と、フェラーリン大佐の前任の航空戦隊司令官で、現在は南東方面艦隊航空参謀職に付いている二人の男が、物騒な顔で何やら相談事をしていた。
 片方は、フェラーリン大佐の昔なじみであるし、もう片方も知らぬ顔ではなかったが、同じように海軍の軍服を窮屈そうに着込んだ短躯の中年男が険しい目で話しあう所にはあまり近寄りたくなかった。
 しかし、航空参謀のほうがフェラーリン大佐とルティーニ中佐に気がついて、親しげに声をかけてきた。
 ルティーニ中佐と顔を見合わせたフェラーリン大佐は、いまにもため息を付きそうな顔で、窓際へと寄っていった。

 ヴィットリオ・ヴェネト艦長のボンディーノ大佐と航空参謀は、ひどく似通った背格好だった。
 少なくとも航空参謀の方は、フェラーリン大佐と空軍でお互いの技量を競い合っていた頃はスマートな体型だったはずだが、いつの間にかぶくぶくと太っていった。
 ボンディーノ大佐の方も、最近彼のトレードマークとなりつつある救命胴衣を着込んでしまうと、まん丸といっても良い格好になってしまうと言われていた。

 しかし、外見とは裏腹に、今のところこの二人は、海と空で英国海軍にもっとも大きな損害を与えたイタリア海軍きっての戦闘指揮官だった。
 昨年末に、ここタラントを襲った空襲において、当時はフェラーリン大佐の前任として独立戦闘飛行群司令職についていた航空参謀は、出撃態勢にあった機体を出撃させたのみならず、自らも出撃して、夜戦としては驚異的な戦果を挙げたらしい。
 フェラーリン大佐は、そのことを共に出撃して共同撃墜を果たしていたビスレーリ中尉から直に聞いていた。
 その短躯でよく今もコクピットにおさまるものだと感心したが、空軍時代のトップエースだった腕は今も錆び付いてはいないようだった。

 ボンディーノ大佐の方も剣呑さという意味では負けず劣らずだった。
 タラント沖会戦では、退避する英国空母の盾となるべく立ちふさがった三隻の軽巡洋艦と二隻の駆逐艦からなる英海軍部隊と渡り合っていた。
 その時は戦艦ヴィットリオ・ヴェネトと駆逐艦アルティリエーレのたった二隻の艦隊だったが、ボンディーノ大佐は、アルティリエーレの中破と引き合えに、英軽巡洋艦オライオン及び駆逐艦モホークの二隻を撃沈している。
 航空参謀のような派手さはなく、意外なほど堅実な指揮をとるという話だったが、いざとなれば積極果断な行動も躊躇わない豪胆なところもあるという噂だった。


 物騒な男達に近づくなり、フェラーリン大佐は先手を打つように言った。
「牡蠣だったのか」
 航空参謀とボンディーノ大佐は声を揃えていった。
「牡蠣だ。美味かった」

 一体この男達は何を言っているのだろうか。
 唖然としてフェラーリン大佐とルティーニ中佐は顔を見合わせた。

 ギリシャへの出撃を目前としたこの時期に、タラントから出撃する艦隊を指揮する南東方面艦隊司令部の人員が、食当たりで全滅したという話を聞いたのは、前日遅くのことだった。
 この会議室に呼び出される直前には、どうも出撃前の壮行会で出た牡蠣が原因らしいという話を聞いていた。

「サンソネッティ中将や参謀長はひどい食当たりで入院中と聞いていますが…」
 ルティーニ中佐がおずおずと尋ねた。
「ああ、ついさっき二人で見舞いに行ってきた。司令長官も参謀長も、他の参謀も嘔吐やら下痢やらで病室じゃなくて便所の間で列になってたからろくに話も出来なかった」
 航空参謀が迷惑そうな顔でいったが、よせばいいのに、ルティーニ中佐は二人の顔を当分に見ながら更に尋ねた。
「随分とひどい物にあたったようですが、お二人はその牡蠣は食べなかったのですか」
 ボンディーノ大佐が、やや首をかしげながら答えた。
「いや、私も航空参謀もその牡蠣は食べたぞ。他の司令部要員と同じくらいは食べたと思うんだがなぁ…」
「アイツらと俺達とでは鍛えたかたが違うんだと思うぞ。要は気合いだ。鍛え方と心の持ちよう一つであんなものはどうにかなるもんだ」
 なぜか二人共顔を見合わせるとにやにやと笑みを見せたが、フェラーリン大佐は白けた顔になっただけだった。

 ―――胃袋が鍛えられるものか、いや鍛えたとしても食当たりに効くとも思えん。お前らの場合は、豚みたいに何でも食うだけだろうが…
 そう一瞬思ったが、口には出さなかった。
 それよりも早く、フェラーリン大佐の脳内で豚に見立てた二人が、次の瞬間には凶暴な猪にしか見えなくなっていたからだ。
 嫌そうな顔で大きく頭を振って、馬鹿な想像図を脳裏から追い払うと、フェラーリン大佐は眉をしかめた生真面目な顔でいった。

「貴様らの胃の話はどうでもいい。貴様らが戦闘可能でさえあればな」
 二人共、当然だと言わんばかりに大きく頷いた。
 フェラーリン大佐もそんなことは気にしてもいなかった。
 この二人ならたとえ食当たりでも戦闘指揮を取りそうだったからだ。
「それで、サンソネッティ中将が指揮を執れないとすると…艦隊の指揮は誰がとるんだ。先任の司令官は確か3戦隊の…」
 考え込みながら言うフェラーリン大佐を、航空参謀が遮った。
「ああ、少将も駄目だ。一緒に牡蠣食ってあたっちまいやがった」

 そこで考え込んでいた様子のルティーニ中佐が、重々しそうな声で言った。
「そもそも生牡蠣をこんな時に食べたのがそもそもの間違いだったのではないでしょうか。やはりちゃんと加熱して加工してあれば」
 ルティーニ中佐が言い終わる前に、航空参謀と、ボンディーノ大佐が凄まじい気迫で睨みつけた。
 一歩後ずさりながら、ルティーニ中佐は、二人の男立ちの迫力たじろいでいた。
「馬鹿か貴様。牡蠣は生で食うのがいいんだろうが」
「加熱した牡蠣なんて邪道だぞルティーニ。士官学校時代にしこたま食わせてやっただろうが」
 ルティーニ中佐は、熱心に食を説く二人を唖然とした表情で見つめるだけだった。

 フェラーリン大佐は、そんな三人を冷ややかな目で見ながらいった。
「貴様らの胃の話はどうでもいいと言わなかったか。それで、艦隊の指揮は誰がとるんだ。3戦隊司令も駄目なら次の指揮官は…」
 その時になってフェラーリン大佐は、他の三人が自分を不思議そうな目で見ていることに気がついた。
 一瞬怪訝そうな顔になってから、フェラーリン大佐も気がついていた。

 元々アレキサンドリアからギリシャへの英国の補給路を遮断するために出撃する部隊のうち、タラントから出撃する部隊はそう多くはない。
 昨年末のタラント空襲後に、主力部隊の多くが安全な後方地帯であるナポリやラ・スペツィアに後退していたからだ。
 タラントから出撃する部隊は、旗艦ヴィットリオ・ヴェネトを除けば、第三戦隊と一個駆逐隊、それに空母ファルコを中核とする第一航空戦隊しかない。
 だから、艦隊の中で、第三戦隊司令官に次ぐ指揮官は、他ならぬ第一航空戦隊司令官のフェラーリン大佐だった。

 呆然とした表情になってから、フェラーリン大佐は慌てていった。
「いやいや、ちょっと待てよ。いくら何でも艦長経験がない奴が艦隊の指揮をとるのは無理だろう」
 航空参謀は深々と納得したように頷いたが、ボンディーノ大佐とルティーニ中佐は曖昧な苦笑いにも似た表情を浮かべていた。


 フェラーリン大佐も航空参謀も、空軍に一括してまとめられていた航空行政のうち、艦隊や基地の航空隊に関する権限を海軍に独立させるために空軍から引きぬかれた士官だった。
 元々二人共、さきの欧洲大戦ではイタリア空軍のエースパイロットであり、そしてファシストが政権を把握するにつれて、政権に擦り寄っていった空軍に居づらくなっていったリベラル派だった。
 だから、海軍士官学校での教育を受けた正規の海軍士官というわけではないから、海軍士官としての教育は最低限のものを受けただけだ。
 艦隊指揮どころか艦長資格さえなかった。
 その二人が航空参謀と航空戦隊司令官という戦闘部隊の重要な地位にいるのは、艦隊航空を最大限活かすための知識を買われてのことではあったが、同時に海軍内部に強力な支援者がいたからに他ならない。

 つまり、実際に先任の指揮官だったとしても、フェラーリン大佐が艦隊を指揮するのは能力的にも不可能だったのだ。
 あるいは有能な参謀たちが残っていれば、彼らの作戦案を承認するという形で指揮を行うことも出来たかも知れないが、残っているのがほとんど同じ立場の航空参謀のみではそれも不可能だった。
 第一、各艦の艦長達が、元空軍士官であるフェラーリン大佐の命令を素直に受け取れるとも思えなかった。
 たとえ反感や不審を抱いていなかったとしても、その命令を海軍士官としての身で吟味してから遂行しようとしてしまうのではないのか。


「俺では艦隊の指揮は取れそうもない。ボンディーノ大佐、先任艦長の貴官が指揮をとることはできないのか」
「私がですか…いや、ヴェネトの指揮をとりながら艦隊もというのは無理だな。戦隊指揮くらいなら先任艦長がとるケースもあるでしょうが、艦隊ともなれば、そりゃ無理だ」
 眉をしかめたフェラーリン大佐とボンディーノ大佐を不思議そうな顔で見ながら、そこで航空参謀が口を挟んだ。
「別に俺たち佐官がしゃしゃり出なくとも将官ならこのタラントに他にいるだろう」
 それを聞くなり、二人はぎょっとして航空参謀に向き直った。
 いずれそのような考えは出てくるとは二人共内心思ってはいたが、イタリア王立海軍士官としては、最後までその選択肢を言い出すことは出来なかった。

 あっさりとそのタブーを打ち破った航空参謀は、更に続けた。
「もうナポリから主力艦隊は出撃しとるんだから、俺たちがタラントから出撃せずに彼らを見捨てるわけにもいくまい。出撃までの時間を考えれば代わりの指揮官を呼び寄せる余裕はないし、俺たちの中で艦隊指揮をとれる人間がいるわけでもない。やむをえまいよ。
 あの人に空戦の技を仕込んだのは俺だ。海戦のことはよく分からんが、まぁイケるんじゃないのか。多分」
 無責任そうに航空参謀はそういった。
 他の三人は、なんとも言えずに顔を見合わせることしか出来なかった。

 しばらく四人無言でいたが、唐突に航空参謀が口を開いた。
 どうやら、沈黙に退屈していたらしい。
「そんなことよりフェラーリン、俺の航空戦隊の調子はどうだ」
「航空戦隊はお前の私物じゃないぞ」
 しかめっ面になって即座にそう返してから、フェラーリン大佐は続けた。
「とりあえず練度は維持し続けているつもりだ。少なくとも一個小隊三機ずつの編隊襲撃は、まぁそこそこだな」
 昔の自分や航空参謀の飛行を思い出しながらフェラーリン大佐はいった。
 あの時の自分達ほどではないにせよ、部下たちの技量は及第点には達している。
「だが、去年貴様がやったような夜間単独戦闘となると、少し怪しいな。ベテラン層はまぁ大丈夫だろうが。若いのはそうなったら待機させるしか無い」
「事故で機体ごと火葬されてもたまらんからな」
 航空参謀は肩をすくめた。
 今のところ自分が率いていた頃から練度が低下していないようなのを確認して満足したようだった。

 話が航空戦隊に移ってきた所で、ボンディーノ大佐が身を乗り出してきた。
「航空戦隊の技量は、今のところ問題は無いようだが、その…肝心の英国海軍の艦隊航空部隊とウチの航空戦隊では互角に張り合えるのか。ああ、もちろんこちらから仕掛けられるのかという意味ではないのだが」
 ボンディーノ大佐は、いつになくすこしばかり遠慮しがちな口調だった。


 第一航空戦隊は、イタリア海軍初の航空戦力を中核に据えた戦隊ではあったが、その能力はかなり限定されたものだった。
 旗艦であるファルコも、公式文書上では空母とされていたが、実質上は貨客船から改装された水上機母艦であるにすぎない。
 元々旧式化していた改装水上機母艦、ジュゼッペ・ミラーリアの代艦として取得されたものだったから、その性能はやや向上しているとは言え、ジュゼッペミラーリアからさほど変わったものではなかった。
 それを空母と呼称しているのも、各方面への見栄、あるいは欺瞞のためだったのだろう。

 もちろんその搭載機は水上機に限られている。
 つまり、他の巡洋艦などと基本的に搭載機は変わりはなかったから、それらを一括して運用する以上の役割は果たしていなかった。
 念願の専用機である水上戦闘機アストーレの配備で、ようやく第一航空戦隊は戦力化されたといっても良かった。
 もっとも、新鋭機であるアストーレも、不採用となった空軍向けの陸上戦闘機の改装機に過ぎないから、一応の爆装は可能とはいえ、その打撃力には全く期待できそうになかった。

 実際、昨年度のタラント空襲時に、英国海軍の駆逐艦一隻にアストーレが編隊で襲撃をかけていたが、その時も至近弾のみで直撃弾は得られていなかった。
 多少の損害は与えたらしいが、駆逐艦の速力が低下したような様子はなかったらしい。
 フロートの取り付けによる運動性や速力の低下もあるだろうが、それ以前にまともな爆撃照準装置がない単座機が爆撃を行った所で命中弾は得られないのではないのか。
 元々純粋な戦闘機であるアストーレに攻撃任務を与えるのが間違っているのだ。


 今のところ、アストーレを配備された第一航空戦隊は、防空任務専門に使うしかない中途半端な航空戦力しか保有していない。
 ボンディーノ大佐もそれは理解しているから、遠慮しがちな口調となっていたのだろう。
 ただし、ボンディーノ大佐が懸念するのはそれだけではなかった。
 アストーレは、陸上戦闘機にフロートを取り付けて水上戦闘機化したものだが、それだけに原型よりも重量があるぶんだけその性能は低下している。
 そのような制限のある機体で、車輪式の陸上機と変わらない性能を持つ純粋な艦上機とどこまで渡り合えるのか、ボンディーノ大佐でなくとも不安に思うのではないのか。

 だが、フェラーリン大佐は、あまり深刻そうな顔にはならなかった。
「相手が英国海軍の艦上機であれば、アストーレでも互角に戦うことは出来るはずだ。相手の攻撃機は複葉のソードフィッシュだから水上戦闘機でもカモに出来る」
 ルティーニ中佐が、興味深そうな顔で言った。
「ですが、英国海軍の空母部隊に最近新型の攻撃機が配備されたという噂がありますが」

 今度は、フェラーリン大佐が答える前に、航空参謀がフンと鼻を鳴らした。
「アルバコア…だな。こっちにも情報は入ってきてるがな、ありゃぁソードフィッシュとどっこいの複葉機だぞ。あんなもん、俺たちが現役時代の頃に乗ってた戦闘艇でも喰えるだろうよ。なぁフェラーリン」
 そう航空参謀に言われたフェラーリン大佐は、肩をすくめただけだったが、目は笑っていた。
「まぁ俺達の現役時代はともかく、ソードフィッシュと新型の性能は大差がないというのが情報部の見解だ。俺も同意見だな」

 だが、ボンディーノ大佐の表情はそれを聞いても晴れなかった。
「しかし、攻撃機自体が弱体であっても、我が方の迎撃機が敵護衛機を制圧できないことには撃墜は困難なのではないのか。アストーレが水上機としては高性能だという話は聞いているが、敵戦闘機を制圧することは可能なのかな」
 航空参謀とフェラーリン大佐は顔を見合わせた。
「それは…正直言って戦ってみないことには分からないというところだな。ただ、確かにアストーレには水上機というハンデはあるが、英国海軍の戦闘機は新型のフルマーが配備が始まっているという話だが、これも複座というハンデを抱えていることには代わりがない」
 慎重に言葉を選びながらフェラーリン大佐がそう言うと、ボンディーノ大佐は、達観したような表情で言った。
「つまりはハンデを抱えているのは相手も同じ、あとは搭乗員の腕と数次第…というところか」
 フェラーリン大佐は頷いていった。
「まぁこっちの迎撃機は別に敵の戦闘機と無理に戦う必要はないんだ。相手と同格の戦闘機が存在するというだけで英海軍の航空戦力はかなり制限を受けるはずだ。俺が言うのも何だが、艦隊防空に関しては、一定の効果は期待してくれて良い」




 だが、フェラーリン大佐や航空参謀の予想は間違っていた。

 英国海軍航空隊による空襲はいつの間にか終了していた。
 炎に包まれたボルツァーノの彼方に、敵空母に向かって去っていく攻撃隊と、よろよろと母艦に向けて帰還する自軍のアストーレの姿が見えた。
 損害を確認するまでもなかった。
 この距離からでもアストーレの数は半減していた。
 さらに、緊急時以外禁じられているフロートの投棄を行ったのか、やけにすっきりとした姿になっている機体も多かった。

 フェラーリン大佐は眉をしかめた。
 フロート投棄機能は、アストーレの禁止手ともいえる手段だった。
 複雑なうえ信頼性は低く、しかも事前に確認することも出来ない機能だが、いざという場合は、重量のある上に大きな空気抵抗となるフロートを投棄して、陸上戦闘機である原型機Re2000と同様の機動性を発揮することが出来る。
 ただし、フロートを失ったアストーレは当然だが、もう回収することは出来なかった。
 残りの滞空時間から判断して最寄りの陸地に向かうこともできないから、フロートを投棄した機体は、不時着水させて搭乗員だけ救出するしか無い。
 しかも、確実に安全に不時着水できる保証はどこにもなかった。
 最悪の場合は、機体と同時に長時間の訓練を施した搭乗員も失われてしまうだろう。

 帰還した機体の回収に関する命令を矢継ぎ早に命じながらも、フェラーリン大佐は、先ほどの戦闘を思い出していた。
 英国海軍航空隊の編制は、事前の予想と異なっていた。
 ボルツァーノを炎上させた攻撃機こそ複葉のアルバコアだったが、迎撃機であるアストーレを引き付け、そして圧倒したのは複葉のグラディエイターでもなければ複座のフルマーでも無かった。
 見慣れない敵戦闘機は明らかに単葉単発単座の恐ろしく機動性の高い戦闘機だった。
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