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仮想戦記(仮 作者:ロックウッド
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1943シチリア上陸戦12

 通信指揮所から伝令が持ち込んだ用紙を素早く読み終えた南雲中将は、加来参謀長に用紙を渡しながら指揮所内の他の参謀たちにも聞こえるように口を開いていた。
「英地中海艦隊のサイフレット中将から要請があった。フランス艦隊迎撃のために、遊撃部隊であるK部隊を本隊から分派してシチリア海峡を通過してティレニア海に進出させるとのことだが、主力H部隊所属の空母は動かせない。そこで我が艦隊に上空直掩機の派遣を要請するとのことだ」
 それを聞くなり加来参謀長は眉をしかめながら電文用紙に目を落としていた。


 どうやら英地中海艦隊司令長官であるサイフレット中将は、主力であるH部隊はそのまま上陸支援を続行し、フランス艦隊同様に編成内に空母を持たない純粋な水上砲戦部隊であるK部隊のみを派遣するつもりのようだった。

 だが、それも無理はなかった。大西洋において独海軍潜水艦隊と激戦を繰り広げている英海軍は、貴重な正規空母を船団護衛部隊にも割かなければならなかった。これまでの戦闘で撃沈された空母もあったから、地中海艦隊に配属されていたのは3隻だけだった。
 正規の艦隊型空母である防御力の高いイラストリアス級空母ばかり3隻を集中配備したのは、英国海軍本部が地中海方面を重要視しているという見方もできたが、イラストリアス級空母は分厚い装甲による強靭さを持つ一方で、重心の上昇を避けるために従来の英空母の二段式格納庫を単段式に改めていたものだからその搭載機はかなり少なかった。

 最近では日本海軍でも急降下爆撃機の攻撃に耐久しうる装甲空母を建造していたが、日本海軍初の装甲空母となる翔鶴型ではイラストリアス級同様に格納庫を単段式としつつも、英国のように防御甲板を航空機格納庫全周に配置するのではなく飛行甲板を集中して防御する構造であったことや、塩害対策の実施による露天繋止機の増大によって搭載機数を確保していた。

 英国海軍の場合は船渠寸法の限界から空母だけではなく、大型戦闘艦の水線長が制限されていたのも無視できなかった。これは日本海軍のように単に本国の建造船渠の大型化を図れば良いというものではなかった。
 世界各地に広がる植民地に展開しなければならない英国海軍では、アジア圏などの彼らにとっての僻地においての造修能力も制限の一つだったからだ。
 日本海軍の場合、今次大戦の開戦後に急遽建造された多数の浮き船渠を用いて強引に前線での修理を行っていたが、規模の大きさが災いしてか予算不足の英国海軍が平時にそのような態勢は取れなかったはずだ。


 結果的に世界初の装甲空母となったイラストリアス級空母の搭載数は30機程度と小型の商船改装空母並の数値でしかなかった。
 地中海艦隊に配備されたインドミタブル、フォーミダブル、ヴィクトリアスの内、4番艦であるインドミタブルは側面装甲の減厚による軽量化と格納庫の一部二段化によって搭載機数を増大させていたがそれでも50機程度でしかない。
 結局3隻合計しても地中海艦隊の艦隊航空戦力は100機にも満たないのだ。これは計4個を投入した日本海軍航空戦隊の1個分にも劣る数でしかなかった。
 対峙するシチリア島の航空戦力はドイツ空軍の有力な航空艦隊が含まれていたから、これでは日本海軍以上に戦闘機の定数を増して艦隊の上空直援任務に専念するほかなかったのではないのか。
 当然のことながら主力から離れて前進する遊撃部隊であるK部隊に対して直掩機を分派させることは搭載機の数や性能の面からも、空母の数の上でも不可能とサイフレット中将は判断したのではないのか。

 これに対して日本海軍は大型空母の大半を第1航空艦隊に配属させていたから、搭載機数では英国海軍を圧倒していた。
 それに日本軍が上陸を担当するシチリア島南西岸のほうが、北アフリカからの中継地ともなるマルタ島からも近いから、陸軍機の支援を受けるのもより容易であるはずだった。


 確かに現在の第1航空艦隊ならば自艦隊と揚陸中の陸軍部隊に加えて、フランス艦隊の迎撃を行う水上砲戦部隊の上空直援をこなすだけの能力は備わっていると言えた。
 ただしそれには条件が一つあった。艦隊航空戦力を防空任務に専念させるのだ。攻撃機は電探による長距離哨戒で1mでも遠距離から敵機を発見し、戦闘機隊はこれを阻止することになる。

 もちろん敵艦隊への先制攻撃を実施することなど不可能だった。いくら第1航空艦隊の航空戦力が充実しているとはいえ、多方面の防空と攻撃を同時に行うことは虻蜂取らずになりかねなかった。
 戦力が足りずに敵艦隊に軽微な損傷しか与えられない程度ならいいが、航空攻撃実施時に手薄になった艦隊を襲われたら本末転倒だろう。

 おそらく加来参謀長もそのくらいのことは理解しているはずだ。村松少佐はそう思いながらそっと眉をしかめながら電文用紙を回した参謀長の顔を盗み見ていた。
 加来参謀長は日本海軍航空将校の古株だった。それだけに近年の航空機の急速な発展による打撃力の強化を誰よりも理解しているはずだ。もちろん打撃力が強まったのは味方だけではないのだ。ここは本腰を入れてかからなければ敵航空戦力によって艦隊に大きな損害が出るかもしれないのだ。


 南雲中将は指揮所内の参謀全員に電文用紙が回されたのを確認すると、強い視線を周囲に向けながら口を開いていた。
「サイフレット中将に要請を受諾した旨連絡してくれ。航空参謀はK部隊及び我が方の迎撃部隊の防空計画を策定のこと。詳細は航空参謀と分艦隊司令官に任せるが、艦隊上空から直掩機を絶やさないように注意してくれ。確かK部隊には連絡将校が派遣されていたな……その連絡将校と連絡を密に取り合うように通信参謀と図ってくれ」
 人事異動で第1航空艦隊に転属となったばかりの航空参謀は頷きながらも、南雲中将と加来参謀長の顔色をうかがうように視線を向けながら恐る恐る尋ねていた。
「その……攻撃隊の編成にはとりかからなくても良いのでしょうか。この距離ではシチリア島からの反撃に対して艦隊防空に戦闘機隊を割かれたとしてもフランス艦隊に一撃を加える事は可能かと思いますが」

 おそらく先ほどのやり取りは航空参謀も聞いていたのだろう。新任の航空参謀が司令長官に逆らう訳にはいかないが、加来参謀長に通じる航空主兵論者としては、防空戦闘に専念するとしても航空機による先制攻撃の機会を伺いたいのではないのか。
 あるいは、シチリア島に点在していた独伊空軍の航空基地に対する陸軍が主導となって行われた航空撃滅戦の戦果を高く評価して、敵航空部隊の戦力を低く見積もっているのかもしれない。

 だが、南雲中将は間髪を容れずに鋭い視線を航空参謀に向けながらいった。
「未明にパレルモを襲撃した陸軍重爆撃隊は夜間戦闘機の迎撃を受けたと報告していたのではなかったかな。陸軍の航空撃滅戦の戦果を疑うわけではないが、敵軍の損害を過剰に見積もるのは危険だと言わざるを得ない。ドイツ空軍は機械化された設営部隊を用意していたはずだ。今現在も滑走路等の修復を行っているのではないか。
 それに我が方はシチリア島の航空基地を上陸部隊が占拠しても、修復機材も不満足ならば、敵火砲の射程内にあることを考えれば後方からの戦力補充が困難であるのに対して、独伊空軍はいくらでもイタリア本土から戦力を補充することが可能だと考えるべきだ。
 それと……」

 南雲中将は僅かに口を濁らせて、海図の方に視線を向けながら続けた。
「それと、今日の航空戦では、敵空軍の主力はシチリア島ではなく、サルディーニャ島である可能性もあるのではないのか……村松少佐の、遣欧艦隊司令部が把握しているのはイタリア国内の情勢だったな」

 村松少佐が要領を得ない様子で頷くのをみて南雲中将は更に続けた。
「この出撃が、ヴィシー・フランス独自の行動であるとすれば、この艦隊の航空援護を実施するのもヴィシー・フランス空軍の担当なのではないのか。サルディーニャ島はイタリア領ではあるが、北方のコルシカ島はヴィシー・フランス領のままだから、ヴィシー・フランス空軍が戦力を転移させるのは容易では無いのか。
 それにサルディーニャ島の航空基地は、これまで北アフリカ戦線に積極的に介入してこなかったから、英国空軍からも、ましてや自由フランス軍もほとんど手を出していなかったはずだ。
 陸軍の司令部偵察機が定期的に警戒を行ってはいるはずだが、実際には手付かず同然なのではないかな。
 しかし、この艦隊は厄介だな。仮にサルディーニャ島の防空圏内に留まったとしても、上陸岸まで最高速度で突っ走られたら目も当てられん。早急に無力化しなければなるまい」


 ほとんど最後は愚痴になっていた南雲中将に、表情を固くした陸軍参謀が口を挟むようにしていった。
「提督は……上陸支援を中止させるおつもりですか、今回の作戦では砲兵情報連隊の一部がすでに上陸して艦砲射撃の着弾観測を実施する予定となっています。
 遣欧第2軍の第5師団と海軍陸戦師団の主力は上陸できましたが、独混11旅他の第2軍支援部隊は上陸を終えていませんし、主力の遣欧第1軍の上陸はまだこれからです。
 第2軍の上陸が遅滞なく進んだのも、イタリア軍の沿岸防衛部隊が予想以上に士気が低く弱体であったためと推測されますが、水際防御から内陸での防御に転じた敵軍がどの時点で逆襲部隊を上陸部隊に向けてくるのかは定かではありません。
 フランス艦隊の脅威は理解しますが、陸軍としては少なくとも滑走路の占拠及び重砲兵連隊の射撃態勢が整うまでは戦艦の支援を頂きたいのですが」

 何人かの参謀は居心地の悪そうな陸軍参謀を睨んでいたが、南雲中将は平然とした表情で頷きながらいった。
「当然だ。主力は敵艦隊迎撃に回すが、何隻かは沿岸に残す。戦艦2、重巡4は艦砲射撃群、周辺海域の制圧は輸送分艦隊の5水戦に任せる。
 ああ、航空参謀、言い忘れていたが第13航空戦隊に下命して水上偵察機も出すように調整してくれ。サルディーニャ島に展開する敵戦闘機から妨害が予想されるから、第1航空艦隊からも接触機を追加出撃させる旨を遣欧艦隊司令部に連絡しておくように」


 村松少佐をはじめ、何人かの参謀は首を傾げていた。戦艦2隻はともかく沿岸に残す重巡洋艦4隻は具体的にどれを指すのかわからなかったからだ。この時期の第1航空艦隊には、戦艦分艦隊に2隻、巡洋分艦隊に3隻の重巡洋艦が配属されていた。

 このうち巡洋分艦隊には第5戦隊に摩耶、羽黒、足柄の条約型重巡洋艦が集中していた。高雄型重巡洋艦摩耶は巡洋分艦隊の旗艦に指定されており、その僚艦である羽黒、足柄は妙高型の生き残りだった。
 元は同型艦4隻ずつに分かれて第4、5戦隊に分かれていたのだが、マルタ島沖海戦で2隻ずつが撃沈されて、鳥海も艦隊旗艦に指定されたものだから、残存する3隻で戦隊を再編成していたのだ。

 対する戦艦分艦隊配属の巡洋艦部隊である第7戦隊もマルタ島沖海戦で同型艦を喪失した艦を再編成したものだった。配属された艦艇は4隻と第5戦隊よりも多かったが、その内訳は最上型軽巡洋艦の残存する鈴谷、熊野の2隻とやはり同型艦を喪失した重巡洋艦伊吹、それに新鋭の石鎚型重巡洋艦の石鎚だった。
 最上型は15.5センチ砲を3連装5基計15門も備えた重装備の大型巡洋艦だったが、備砲口径からすれば軽巡洋艦でしかなかった。

 南雲中将の言う4隻の重巡洋艦とはどのような構成なのか、村松少佐はそれが気になって身を乗り出しながら、南雲中将の次の言葉を待っていた。その編成によって迎撃部隊の指揮官や構成がわかるはずだったからだ。
 だが、ふと気になって村松少佐は加来参謀長の方を見ると、参謀長は何かに気がついたのか、苦虫を噛み潰したような顔になっていた。


 南雲中将は周囲のそんな反応に気がついているのかいないのか、こともなげに言った。
「角田少将に艦砲射撃群の指揮を任せる。海岸に残す部隊は第5戦隊と戦艦分艦隊から第3戦隊を配属させる。上陸部隊を下ろした一等輸送艦も近接支援に残って欲しいが……詳細は西村君と上陸部隊の伊原少将に任せる。
 迎撃部隊の指揮は高橋中将に一任する。戦艦分艦隊指揮下に第2戦隊、第10戦隊と第7戦隊それと巡洋分艦隊から第2、4水雷戦隊を抽出する。航海参謀と戦務参謀は燃料の手当を行うように。やはり詳細は高橋中将に任せるが、K部隊は駆逐艦が少ない。水雷戦隊をK部隊の支援に回すことも考えるように伝えておいてくれ」

 村松少佐は首を傾げていた。巡洋分艦隊の司令官である角田少将が指揮する艦砲射撃部隊の数はさほど多くはなかった。戦艦は第3戦隊の金剛、比叡の2隻だけだし、残る第5戦隊も条約型重巡洋艦3隻しかない。
 ただし、大威力で長射程の艦砲が必要な局面では駆逐艦の主砲では不足しているし、場合によっては海岸近くまで移動して上陸部隊に近接する目標を砲撃することもあるが、その場合も松型駆逐艦や一等輸送艦の主砲でも対応できるから、水雷戦隊に所属する高速で大型の駆逐艦を使うのは効率が悪かった。
 フランス艦隊の戦力の大きさや2群に部隊を分けていることを考慮すれば、戦艦分艦隊司令官の高橋中将の元に、戦艦4隻、重巡と軽巡各2隻に2個水雷戦隊を配属させて迎撃部隊に振り向けるのは妥当なところなのではないのか。

 だが、先ほど南雲中将は重巡4隻を艦砲射撃群に配属すると説明していたが、第5戦隊に所属する重巡洋艦は3隻しかない。残り1隻はどこにいるというのか。
 そこまで考えたところで、村松少佐は我に返っていた。大威力、長射程の20.3センチ砲を搭載した重巡洋艦ならばここに1隻残っているではないのか。
「今回の作戦は欧州への反攻作戦の第一歩となる重要なものだ。各自も決戦と心得るように。戦力の出し惜しみもなしだ。砲術参謀は艦長に本艦の残弾と弾種を確認して角田少将に連絡しておくように。鳥海も海岸に接近させるぞ」
 どことなく楽しげな様子の南雲中将になんと返せばいいのわからずに、周囲の参謀たちは困惑した顔をお互いに向けていた。
翔鶴型空母の設定は下記アドレスで公開中です
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/cvsyoukaku.html
伊吹型重巡洋艦の設定は下記アドレスで公開中です
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/caibuki.html
石鎚型重巡洋艦の設定は下記アドレスで公開中です
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/caisiduti.html
高雄型重巡洋艦鳥海の設定は下記アドレスで公開中です
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/cachokai1943.html
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