挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
仮想戦記(仮 作者:ロックウッド
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

167/290

1943シチリア上陸戦4

 ―――それにしても奇妙な戦闘が起こったものだ

 デム軍曹は暗やみの中に見える敵機の排気炎目掛けて愛機Bf109に装備された機銃を発射しながらも脳裏の片隅でそう考えていた。だが整備状態が良好で、エンジン出力を絞っていればエンジンの排気炎は殆ど見えなくなるし、お互いの飛行姿勢によっても全く見えなくなる。
 夜間だからほんの一瞬だけ見えた排気炎の位置を確認できるが、昼間ではおそらく間近でも確認することは出来なかったはずだ。

 僅かな月明かりしか無い状況では詳細まではよくわかなかったが、鋭い機動を続けている敵機はもはやおなじみとなっていた空冷エンジンを搭載した日本軍の主力戦闘機である一式戦闘機ではなさそうだった。
 機銃を発射した際に一瞬だけ煌めく敵機の銃口炎は一式戦闘機のように機首上部ではなく両翼から見えるような気がするし、その銃口炎によって僅かに照らしだされる敵機の機首は、大型で鋭角のスピナーからなだらかに胴体に繋がる開口部の目立たない液冷エンジン特有の形状であるように見えていた。
 ただし、銃口炎を光らせる機銃が全幅の半ばほどの位置に取り付けられた直線的なテーパーの掛けられた両翼は細長く伸びており、特徴的な楕円翼を採用した英国空軍のスピットファイアのそれとは形状が著しく異なっていた。

 それに英国空軍は四発の大型重爆撃機の編隊に対して、双発複座のボーファイターやモスキートの夜間戦闘機型ならばともかく、単発でおそらくは単座の軽快な戦闘機を随伴させる事はめったになかった。
 英国空軍の戦闘機は航続距離が短いから、飛行特性の異なる重爆撃機編隊の護衛任務についても全行程にわたって随伴するのが難しいのだろう。

 さらにいえば、時間も中途半端だった。敵編隊の飛行針路や現在時間からして、目標はシチリア島北西岸のパレルモ基地のはずだ。というよりも敵爆撃機編隊の規模は闇夜の中でもわかるほどの大規模なものだったが、それだけの大戦力を投入するほど価値のある航空基地はシチリア島に在地する独伊空軍主力が実質上集結したパレルモ以外あり得なかった。
 しかも黎明というにはまだ早いが、この編隊がパレルモに到着する頃には朝日がもう見える頃になっているのではないのか。払暁であってもレーダーによる早期警戒が常識化した現在では奇襲は成立し辛いから、強襲となってしまうはずだ。
 あるいは夜間戦闘機と昼間戦闘機部隊の任務引き継ぎの間の混乱を狙っているのかもしれないが、いずれにせよ効果的な迎撃の難しい暗闇の中で爆撃を終わらせてしまう夜間爆撃を好む英国空軍とは行動に違いが強かった。

 おそらく、いま闇夜の中でBf109、Fw190とお互いに盲目のまま撃ち合っている単発戦闘機は噂になっていた日本陸軍の新鋭戦闘機である三式戦闘機で、何事も無いかのように編隊を維持したまま悠々と飛行しているように見えるのも、同軍の一式重爆撃機隊なのだろう。
 厄介なことになったとデム軍曹は思わず眉をしかめていた。


 奇妙な状況で始まった戦闘だった。お互いにレーダーによる支援を受けて敵編隊を察知して戦闘に突入したにも関わらず、実質上の不起遭遇戦といえた。敵味方の編隊にとって相対しているのが本来の目標ではなかったからだ。

 パレルモに向かう敵爆撃機編隊は勿論、随伴する三式戦闘機らしい単発単座戦闘機も往路における爆撃隊の直援というよりも、夜が明けてからのパレルモ周辺空域での対戦闘機戦闘の方に注力しているのではないのか。
 ソ連軍では従来から戦闘機隊の任務を在地、空中に関わらず敵航空機を撃滅することにおいているらしいと聞くが、シベリアーロシア帝国と共に極東でソ連軍に対峙していた日本軍でも同様のドクトリンを確立している可能性は高かった。

 重爆撃機隊の直援が任務に含まれていないわけではないのだろうが、脆弱な英国空軍の爆撃機に比べて日本陸軍の重爆撃機は防御火力が充実している上に飛行速度も早いから、戦闘機隊にはより積極的な任務も与えられているのではないのか。
 つまり高速の重爆撃機が在地機を爆撃で破壊するとと同時に、護衛の戦闘機隊は迎撃のために出撃した敵戦闘機を空中で撃破するのだ。あるいはその長大な航続距離を活かして周辺空域に空中退避しているはずの機体を狙うこともありえた。
 地上撃破の場合は搭乗員は掩体などに隠れて難を逃れることが出来るが、空中ではそうは行かなかった。撃墜機から脱出できずに戦死したり負傷するものも少なくないから、搭乗員に与える損害という意味では空中撃破のほうがより効果的かもしれなかった。


 対するデム軍曹達第27戦闘航空団麾下の飛行隊の方も、本来はこの爆撃機編隊を迎撃するために出撃したわけではなかった。というよりもまだ日の出まで間のあるこの時間帯にレーダーを装備できない単発単座の戦闘機が満足に行動できるとは考えられていなかった。
 迎撃のための出撃ではなく、一時的に退避していたパレルモ航空基地から最前線となるはずのジェーラ航空基地に夜の間に密かに移動するのが本来の目的だったのだ。

 この数日の間にシチリア島全域の航空基地や道路、鉄道といった交通インフラ網、さらには司令部通信施設などの重要地点に対して国際連盟軍による上陸前の事前爆撃と思われる爆撃が開始されており、地中海に接するようにジェーラ郊外に設けられた航空基地も北アフリカから飛来したと思われる爆撃機編隊によって滑走路及び掩体などが破壊されていた。
 基地に駐留していた部隊も地上撃破されなかった機体はパレルモに脱出していたが、ジェーラに残留していた基地隊は陸軍工兵の協力を得てひそかに代替滑走路の修復を行っていた、らしい。

 現在の独伊空軍のパレルモ航空基地への集結は、航空隊だけではなく、それを援護するための防空部隊などを含めた戦力を一箇所に固めて防備を固めるという利点はあったが、国際連盟軍の上陸作戦が実際に決行された場合、彼らにとっての策源地となる北アフリカ沿岸から距離が近いために実際に揚陸が予想されるシチリア島南東、南西岸に対してパレルモからではやや距離があるために迅速な反撃を行うことが難しいのではないかという懸念が抱かれていた。

 そこで上陸第一波への阻止攻撃の実施を目的として、修復途中のジェーラに密かに一部の部隊を分派させるように第27戦闘航空団に命じられていたのだ。
 勿論ジェーラに移動するのは戦闘機隊だけではなかった。戦闘機だけ進出しても制空戦闘はできても対地、対艦攻撃は難しいからだ。だから第2地上攻撃航空団の一部も同時に移動を命じられていた。


 これまでのドイツ空軍の対地攻撃の主力は命中精度に優れる急降下爆撃機を装備する急降下爆撃航空団だった。
 しかし、今次大戦開戦前のスペイン内戦において初陣を飾ったドイツ空軍初の本格的な急降下爆撃機であるJu87は、制式化から5年以上が経過してすでに改良による性能向上が限界に達していた。
 その上、Ju87を代替する新型急降下爆撃機の開発状況も芳しくないことから、急降下爆撃航空団の装備は急速に陳腐化が進んでいた。
 対フランス戦などのいわゆる電撃戦では、鈍重な砲兵隊に代って急進撃を続ける地上部隊を支援する空飛ぶ砲兵として活躍したJu87であったが、枢軸軍が防衛に転じて彼我の制空権が流動的になっていた今では、鈍足で脆弱なJu87の活躍できる舞台は急速に狭まっていた。

 損耗が激しくなるJu87を装備する急降下爆撃航空団に代わって対地攻撃の主力となりつつあるのが、これまで影の薄かった地上攻撃航空団に新たに配備されたFw190だった。
 元々は高性能だが数の少ないBf109を補う補助戦闘機として開発されたはずのFw190だったが、大出力空冷エンジンを可能な限り小さく頑丈に設計された機体に据え付けるという設計方針が当たったのか、予想以上の性能を発揮して英国本土での航空戦が盛んだった一時期などは国際連盟軍側のあらゆる主力戦闘機を圧倒するほどだった。

 現在では国際連盟軍が装備する戦闘機の急速な性能向上もあって、Fw190の機体性能も一方的に有利なものではなくなってはいたが、未だに敵軍にとって侮りがたい戦力であることには代わりはなかった。
 しかも空冷エンジンを搭載したFw190は耐弾性にも優れていたことから、戦闘爆撃機として地上攻撃に転用されるようにもなっていた。その機構上Fw190はJu87のような急降下爆撃は不可能だったが、大出力空冷エンジンは小型機にもかかわらずJu87と同程度の搭載量は確保できたからだ。
 戦闘爆撃機として転用されたFw190は、爆装時の速度低下は少なくはないがそれでも旧式化したJu87に比べれば飛行速度はまだ高速であったし、爆撃後、あるいは爆弾を投棄すれば戦闘機として運用することも可能だった。

 実際には地上攻撃航空団に配属された搭乗員の多くは戦闘機搭乗員としての本格的な訓練を受けていないから積極的に純粋な戦闘機として地上攻撃航空団のFw190を運用するのは難しいが、最低限の自衛戦闘や退避行動は可能だった。
 日本陸軍の二式複座戦闘機やドイツ空軍のBf110など戦闘機として開発された双発複座機も、速度はともかく機動性に劣ることから最近では地上攻撃機などに転用される場合が多いようだったが、Fw190の方は未だ一線級の戦闘機としての性能を持っていたから重荷となる爆装さえなければより剣呑な存在であるはずだった。


 だが、デム軍曹は第27戦闘航空団と共にジェーラに進出していた途中の第2地上攻撃航空団の分遣隊がFw190を装備していたのが、シチリア島全域を管制している司令部が軍曹達の混成部隊に国際連盟軍の爆撃機編隊への迎撃命令を出した理由の一つではないかと疑っていた。

 最初にその編隊を発見したのは、シチリア島の南端となるパッセロ岬付近に布陣していたドイツ空軍の高射砲部隊とドイツ海軍沿岸砲兵、そしてそれらに付随するレーダー監視部隊だった。
 それまでの爆撃によって沿岸監視用に配備されていた捜索範囲の広い新型レーダーはすでに破壊されていたが、現地の部隊は目視や旧式化した従来型レーダーを隠蔽して継続的な監視を続けていたようだ。

 しかし、それらの部隊は爆撃機編隊を発見はしたものの砲撃には至らなかったらしい。シチリア島上空に差し掛かる前に編隊が上昇を開始した上に、部隊が展開する地域を避けるように針路をとったために射程内には終始入り込まなかったことが主な原因であったというが、昨日の午後から悪化し始めた悪天候の影響もあったかも知れなかった。


 この時、パレルモ基地には第2夜間戦闘航空団に所属する何機かのJu88が緊急出撃体制にあった。Ju88は高速爆撃機として開発された機体だったが、その高速性能と搭載量を活かして重爆撃機に対する迎撃などに使用するための重戦闘機型も生産されていた。
 第2夜間戦闘航空団に配備されていたJu88C-6はこの重戦闘機型からのさらなる派生型で、機首には機上レーダーが装備されていた本格的な夜間戦闘機型だった。

 Ju88C-6は爆撃機型からの改造ではなく、純粋な重戦闘機として新規に生産された初の型式で、前方固定式だけでも20ミリと7.92ミリの機銃を各三丁ずつという重装備を施されていた。
 ただし、同じJu88C-6でも夜間戦闘機型のみが装備する機上レーダーは最大で三千メートル程度の探知距離はあるものの、機首から突き出された太い針金を無造作に重ねあわせたようなアンテナが空気抵抗となって速度性能は大きく低下しているらしいとも聞いていた。
 あるいはこの夜間戦闘機の性能低下も、ジェーラへの進出途中であったデム軍曹たちに急遽重爆撃機編隊の迎撃命令がくだされた理由なのかも知れなかった。


 迎撃命令はデム軍曹たちにとっては唐突にくだされたものだった。命令の対象となったのはその時点でシチリア島中央部にまで達していたデム軍曹達、第27戦闘航空団だけではなかった。
 同行する第2地上攻撃航空団のFw190隊も装備していた爆装を投棄したうえで攻撃に参加するように命じられていた。

 だが、純粋な戦闘機部隊である第27戦闘航空団でさえ夜間戦闘用の装備に欠けているのに、空中戦闘の訓練さえ十分とはいえない地上攻撃航空団を慣れない夜間迎撃戦闘などに投入したところで戦果が期待できるとは思えなかった。
 それどころか事故や誤射によって喪失する機体も増えてしまうのではないのか。

 もしかすると迎撃命令を下した司令部は、第2地上攻撃航空団どころかデム軍曹たち第27戦闘航空団にも最初から戦果など求めてはいないのかもしれなかった。
 要するに自軍の夜間戦闘機の性能に不安があるものだから、夜間戦闘機隊が高速の敵重爆撃機編隊に確実に接敵できるように、それまで敵編隊を拘束させるのを目的として、探照灯や聴音部隊などの支援がないために戦果の期待できない昼間戦闘機隊を投入したのだろう。


 敵編隊の進撃速度さえ低下させれば、後は夜間戦闘機隊に任せれば良いはずだ。
 デム軍曹はそう結論付けると、銃撃もほどほどに逃げまわるように飛行し続けていた。残弾が多すぎれば戦意不足を咎められるかもしれないが、一応は敵機を見つけるたびに命中の可能性も考えずに発砲はしているからその可能性は低いはずだ。
 どのみち敵味方の識別の難しい夜間戦闘なのだから、誤射を恐れたとでもすれば言い分は立つはずだ。編隊どころか僚機ともはぐれてしまったものだから、デム軍曹はどこか投げやりにそう考えてしまっていた。
 それに戦闘が開始された直後から敵編隊に含まれていたらしい電子戦用の機体によるものか、無線通信用の波長には電波妨害が行われていたから少なくとも空中にいる間は誰からも文句を言われることもないはずだ。

 ―――レーダー搭載どころか単座の戦闘機を探照灯の支援もなしに夜間戦闘に投入することなど土台無理な話なのだ。
 そう考えるとデム軍曹は適当なタイミングで戦闘を切り上げてジェーラまでさっさと退避しようと考えていた。暗がりの中で本当に十分な修復が完了しているかどうかもわからない滑走路に着陸するのは危険だが、その時は明るくなるまで上空で待機すればいいだけだろう。

 妙なことに気がついたのは、その時だった。すでに戦闘に突入してから幾らか時間が経っていたのだが、それにも関わらず戦闘の気配は間遠になる様子はなかった。
 デム軍曹の予想通りであれば彼らの役割は敵編隊の拘束でしか無い。そうであれば適当なところで戦闘が切り上げられても不思議はないはずだった。
 不審に思ったデム軍曹は、ふと殺気を感じて咄嗟に操縦桿を倒していた。急横転を掛けたBf109のすぐ脇を剣呑な気配を漂わせた大口径機銃弾が通過していった。
 数発含まれていた曳光弾は恐ろしく眩しいほどに輝いて見えていた上に、射線は正確なものだった。おそらくそのまま飛行していればBf109はひとたまりもなく搭乗員のデム軍曹ごと機銃弾に撃ちぬかれていたはずだった。
一式戦闘機の設定は下記アドレスで公開中です
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/1lf2.html
三式戦闘機の設定は下記アドレスで公開中です
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/3hf1.html
二式複座戦闘機の設定は下記アドレスで公開中です
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/2tf.html
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ