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仮想戦記(仮 作者:ロックウッド
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1943アレクサンドリアーベルリン12

 英国本土で隼鷹型改装空母に対して行われた再改装工事の施工箇所は飛行甲板に集中していた。その殆どが発着艦能力の強化を狙って行われたものだった。元々隼鷹型は零式艦上戦闘機22型や九七式艦上攻撃機といった現在では旧式化した機体の運用を前提とした航空兵装が装備されていた。
 連合艦隊に配属された他の正規空母は新鋭機の就役に前後して制動装置などの更新を行ってきたが、再就役後は専ら船団護衛任務についていた隼鷹型では新鋭機の運用が行われてこなかったために、これまでは機材の更新が行われていなかったのだ。


 船団護衛任務では、船団を視認できるほど短距離の対潜哨戒や対潜攻撃には旧式化した単座の九六式艦上戦闘機が使用されており、機材の消耗にしたがって防空任務を兼ねて正規空母から転属した零式艦戦21形や22型に切り替わっていた。
 九六式艦上戦闘機は戦間期の平時に生産されていたから生産数はそれほど多くはなく、1線部隊から返納された機体などの余剰機も少なく、長距離船団護衛任務の間ずっと酷使される機体の損耗に数の上でも耐え切れなかったのだ。

 それに対して、やはり高出力エンジンに換装した新型機の搭乗で旧式化したとはいえ、零式艦戦21型や22型は艦上機としては勿論、急拡張された陸上基地隊にも配備された上に、戦時における損耗まで考慮されていたから単純に生産数も多く、消耗品も一部は現行の新型である33型などとも共有化されていたから予備部品の入手も容易だった。


 船団前方などの目視圏外となる長距離、長時間の捜索には三座の九七式艦攻が使用されていた。こちらも二式艦上攻撃機の制式化までは現役機として大量生産されていたから現在も使用している部隊は多く、予備部品の生産も終了してはいないから整備に問題はなかった。
 最近では正規空母の部隊でも鈍重で損害の大きい艦上攻撃機は機外搭載式で魚雷型形状の電波探信儀を搭載しての長距離哨戒任務が増えているらしい。

 最新式の対空捜索用の電波探信儀は正規空母部隊に優先して配備されてしまうらしいが、弱電機器の発展が急速に進んだ結果、旧式化したものであれば2線級の船団護衛部隊でも機外搭載式の電波探信儀を予備部品ごと入手するのは難しくなくなっていた。
 それに浮上した潜水艦の小さな艦橋でも発見できるという対水上電探や、敵潜の僅かな通信波に加えて搭載が確認されているという敵電探波も探知できるという逆探などは逆に優先的に船団護衛部隊に配備されていた。
 おそらく狭い地中海で敵艦隊と遭遇する確率の低い主力の遣欧艦隊よりも敵潜水艦の脅威に相対する船団護衛部隊の方が重要視されたのだろう。


 しかし、これらの対潜戦闘を主目的とした部隊であればそれ程多くの機体が必要というわけではなかった。いくら船団が大規模になったとしても級数的に展開範囲が拡大されるわけではないから、最近になって数が増えてきた船団護衛専門の海防空母でも十分にその任務を果たせるはずだった。
 三原型海防空母の搭載機数は20機程度でしか無いが、これまでの隼鷹型のように巨大船団に2隻が随伴して船団護衛部隊で計40機が運用できるとすれば十分な数になるはずだった。
 船団護衛任務ではその搭載機を一度にすべて発艦させる必要性は薄いから、搭載機数がさほど多くなかったとしても輪番制をとれば少ない機数でも十分に護衛任務に活用できるはずだった。

 これに対して日本最大の大型豪華客船となるはずだった橿原丸型を原型とした隼鷹型改装空母は、戦時標準規格船の貨物船形式を現設計とした三原型海防空母よりも格段に船体が大きいために、客船としての上甲板の上に設けられた格納庫や飛行甲板の面積も大きく取れたことから、空母に改装後の搭載機数も多かった。
 隔壁の少なさなどからなる損害復旧能力や速力などに劣る点はあるものの、航空機搭載機数では中型空母である蒼龍型に匹敵するというのは決して誇張した話ではなかったのだ。

 独空軍機によって撃沈された龍驤と赤城の代替として遣欧艦隊に編入されたのも、日本本土の造船所から海防空母が続々と就役し始めているために船団護衛用の空母の数が足りてきているという事情があったとはいえ、改装空母としては高い隼鷹型の能力を評価された面もあったのではないのか。
 大重量の新鋭機でも発着艦が可能であるように航空兵装の更新が行われたのも、遣欧艦隊に配属されている他の正規空母と列伍して戦うには、同様の機体を運用できなければならないと判断されたためではないのだろうか。


 ただし、大重量の新鋭機を新たに装備された射出機や着艦制動装置を用いて発着艦させることが出来たとしても、隼鷹型が単純にそれらの機体の運用能力を獲得できたという訳ではなかった。
 格納庫や飛行甲板面積で中型空母の蒼龍型と同格とはいっても、原形が客船である隼鷹型の速力が低いために、航空機運用能力、特に大規模な攻撃隊の出撃には限界があったからだ。

 マルタ島沖攻防戦の戦訓などから、陸上基地に対する攻撃でも敵機動部隊への攻撃と同様に大規模な編隊による同時多方位からの攻撃が必要不可欠であると考えられるようになっていた。
 特にドイツ軍の陸上機地は空軍に所属する部隊が運用する多数の高角砲や機銃座で重点的に防護されている上に、最近の電探関連技術の進捗から攻撃隊の接近が遠距離から察知されて迎撃戦闘機の出撃を許してしまう事が少なくなかったからだ。

 これに対抗するには敵捜索電探や射撃管制電探を妨害するための電子戦を実施するための特殊機や、敵迎撃機の発進や針路を正確に把握し味方護衛戦闘機の管制を実施する捜索電探を搭載した空中指揮官機とでも言うべき艦攻の随伴といった攻撃編隊の防御手段とともに、同時に他方位から攻撃を行うことで敵対空砲火を分散させるのが効率的とされていた。
 しかし、これには攻撃隊規模の増大は必須であり、空母部隊には各艦からの出撃時期の調整と、単艦ごとからの同時出撃機数の可能な限りの増大が求められることになった。


 だが、同時出撃機数の点では隼鷹型は艦体規模の上では同格のはずの蒼龍型に対して大きく劣ってしまっていた。客船時代と同じく燃料消費率などを重視した民間用の蒸気タービンを搭載した隼鷹型が、大出力の軍用機関を搭載した蒼龍型よりも低速であったためだった。
 空母から攻撃隊を可能なかぎり短時間で発艦させるには、飛行甲板に予め発艦時の重量や離陸速度から算出されている滑走距離を考慮して艦首から軽い順に発艦機を並べて、艦首方向の機体から発艦していくのが一番効率的だった。
 現在の空母の大半は飛行甲板の一部を切り欠く形で格納庫に繋がるエレベーターを設けているために、発艦作業中に格納庫から攻撃隊に参加する機体を飛行甲板に上げるのが困難なためだった。
 勿論滑走距離は機種や搭載兵装の重量で異なってくるが、蒼龍型空母の場合は艦首から100メートル程下がった位置から艦戦を並べ、その後150メートル程度から艦爆、180メートル程度から艦攻の発艦待機位置とする場合が多かった。

 しかし、攻撃隊発艦時の離陸速度とは飛行甲板前端までの滑走時に発艦機が自力で獲得する速度と母艦が風上に向かって最大速度で航行する速度とその時点での風速、これらの合成に他ならなかった。
 つまり、その時の気象条件は除いたとしても、発艦機の性能に加えて母艦の性能が攻撃隊の構成に及ぼす影響は大きかったのだ。

 母艦の航行速度が遅い場合はそれに反比例して滑走距離が長くなってしまうから、攻撃隊の同時発艦機数は少なくなるし、場合によっては重量のある雷装を施した艦攻などは発艦できない場合も出てくる。
 そこまで行かなくとも母艦の性能が低いせいで高性能の最新鋭艦載機であっても搭載重量などに制限が掛けられる可能性があったのだ。


 勿論母艦の飛行甲板の全長や全幅も無視できない要素の一つだった。全幅が大きければ横に発艦機を数多く並べられるし、極端なことを言えば十分な滑走距離を確保さえ出来る全長さえあれば母艦が風上に向かって航行する必要性すら無いからだ。

 母艦の速力も大きな要因だが、艦体寸法も発艦だけではなく、着艦にも大きな影響をおよぼすことになる。
 大型空母であれば着艦に必要な艦尾からの滑走距離に加えて着艦事故機を受け止める滑走制止装置を設けても、そこから艦首まで広大な着艦機収容区画を設けることが出来るから、着艦機を迅速に前部エレベーターを使用して格納庫に収容することが出来るからだ。


 だが、このような問題が生じるのは主に雷爆装した上に増槽まで装備しなければならないために大重量になり、また多数機からなる攻撃隊を一斉に発艦させなければならない場合に限られると言ってよかった。

 例えば、就役しつつある三原型海防空母は、構造が単純化されているために生産性こそ優れているものの、鈍足で性能的には見るべきところのない戦時標準規格船の貨物船を原型としていたから、その速力は隼鷹型よりも更に低い16ノット程度にすぎない上に全長も140メートル程でしか無かった。
 飛行甲板の全長や速力から言えば三原型海防空母から自力で発艦できるのは身軽な艦上戦闘機だけだし、その場合も機体側の条件から算出される滑走距離と艦の全長にさほどの差異がないことから同時に発艦できる機体数も限られてくることになる。
 着艦は強力な抵抗力を持つ制動装置で無理矢理に行うことが出来るとしても、発艦には強力な自然風力がなければならないほどの大幅な制限があることになってしまうはずだった。

 しかし実際には三原型海防空母は艦上戦闘機に加えて対潜、電探哨戒装備の艦上攻撃機の運用が可能だった。
 艦体の小さな海防空母でも大容量の射出機さえあれば重装備の艦上攻撃機をも発艦させることが出来たからだ。身軽な艦上戦闘機は自力で発艦させてもいいし、増槽や爆装で発艦重量が増えている場合はやはり射出機を使用することも出来た。

 最新の射出機であれば、過荷重状態では5トン程度は優に超える重量になっている攻撃機でも、飛行甲板前端部の極短い距離で発艦速度にまで加速させるだけの性能を有していた。
 勿論今回の改装工事で隼鷹型に追加装備された射出機も同程度の性能を持つから、飛行甲板前端近くから機体側の滑走距離に関わりなしに新鋭の大型、大重量の雷装状態の二式艦上攻撃機でも発艦させることが可能だった。


 今回の改装工事で隼鷹型2隻に搭載された射出機の発艦可能重量は大きく、従来の艦載機の推力による自力発艦に比べれば瞬時とすら言っても良い短時間で発艦できたが、この射出機の能力がそのまま攻撃隊の発艦に活かせるとは限らなかった。

 確かに射出機単体の能力は優れてはいたのだが、現在の射出機では連続射出能力に限界があったからだ。
 現在、空母用にかぎらず一部の潜水艦や多くの巡洋艦などで採用されている射出機は航空機を押し出す圧力源によって分類が可能で、隼鷹型や三原型海防空母などに搭載された油圧式の他に空気式や火薬式があった。

 この内巡洋艦などに搭載されている火薬式の射出機は、射出される航空機が載せられた滑走車ごと射出機基部に設けられた薬室内に装填された火薬の爆発によって発艦に必要な速度まで加速させるものだった。
 火薬式射出機は文字通り爆発的な勢いで短距離のレールを用いて急加速させるものだから、機体や搭乗員に掛ける負担は大きかった。それに原理的に大砲と対して変わらない火薬式射出機は構造が簡易である代わりに射出ごとに火薬缶を装填しなおさなければならなかった。
 だから搭載機数が少なく、航空兵装にさほどの重量が掛けられない巡洋艦などで採用されていた。

 空気式と油圧式は圧力源が異なるものの原理的には同様で、油圧、空気圧シリンダー内に向けられた圧力源が膨張しようとする力をワイヤーや歯車を介して射出される機体と接続された飛行甲板上の滑走車に伝えて、高速で艦首方向へと押し出すというものだった。
 この方式は飛行甲板に埋め込まれたレールを滑走車が走る際に受ける圧力が一定となるために、銃砲のように作動開始直後に最大圧力が発生する火薬式に比べれば射出される機体にかかる負担は少なくて済むし、圧力源の再充填さえ済めば消耗材が尽きないかぎり何度でも使用が可能だった。

 だが、この圧力源の再充填にかかる時間が攻撃隊の発進時には無視できない因子となって働いていた。
 航空母艦への最初の改装工事の際に射出機の搭載を前提としていなかった隼鷹型において、今回の改装工事では搭載予定区画に収まる中で最大出力の油圧ポンプを装備したものの、一度油圧式射出機を使用した後は油圧シリンダーへの再充填に最短でも一分程度の時間が必要だった。
 これが自力発艦であれば一分間で四機程度は発艦できるから、攻撃隊の出撃などの連続発艦には射出機の連続射出能力では全く不十分だったのだ。


 これが対潜戦闘が主となる船団護衛の場合は連続射出能力がさほど問題になることはなかった。対潜装備の艦攻の重量は大きいから射出機の使用は必至だったが、輪番制の哨戒機の発艦が連続することは通常は考えられなかったし、敵哨戒機などに対する緊急発艦の可能性は少なくないが戦闘機であれば自力発艦を組み合わせれば複数機を短時間で発艦させることは難しくなかったからだ。
 仮に大重量機の発艦が連続したとしても、海防空母の搭載機は少ないから全機を発艦させたとしてもかかる時間はしれていた。

 だが、大雑把に言って射出機だけで搭載機の多い隼鷹型が攻撃隊を出撃させると仮定した場合は、蒼龍型が同程度の数を発艦させる際のそれと比べて倍以上の時間がかかってしまうから、複数の空母で連合攻撃隊を編成するような状況では隼鷹型のみ出撃機数を極端に減少させるか、他の空母から出撃した機体には隼鷹から全ての攻撃隊が発艦するまで長時間の空中待機を強いることになってしまうことになる。

 しかも射出機の信頼性は新型ほど向上してはいたが、万が一射出機が故障してしまった場合は、射出発艦を前提として過荷重状態の大重量となったために自力発艦出来ない雷爆装機が飛行甲板を専有してしまうことになるのだ。


 もっともこのような問題は隼鷹型の改装工事前からわかっていたことだった。射出機の能力に限界がある以上は他の正規空母と同様に隼鷹型を艦隊で運用しようとすれば射出機か母艦自身の運用方法に工夫を凝らすしか無かった。
 そして、すでに隼鷹型には英国での再改装工事の際に、この問題に対処するための施工が施されていた。

 石井一飛曹は飛行甲板に顕著な姿を見せているその工夫を施したという箇所をうんざりしながら見つめていた。その艦橋左舷の飛行甲板から外舷側に大きく張り出した飛行甲板の拡張部分こそが、今現在一飛曹に奇妙なやり方の着艦を試みさせようとする原因でもあったからだった。
隼鷹型空母の設定は下記アドレスで公開中です
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/cvjyunyou.html
零式艦上戦闘機(11型~22型)の設定は下記アドレスで公開中です
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零式艦上戦闘機(33型)の設定は下記アドレスで公開中です
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零式艦上戦闘機(44型)の設定は下記アドレスで公開中です
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二式艦上爆撃機彗星の設定は下記アドレスで公開中です
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二式艦上攻撃機天山の設定は下記アドレスで公開中です
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三原型海防空母の設定は下記アドレスで公開中です
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