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仮想戦記(仮 作者:ロックウッド
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1943アレクサンドリアーベルリン10

 ―――やはり妙な姿勢になっているな……
 新たに自分たちの母艦となった飛鷹の周囲を着艦に備えた最後の第4旋回を続けながら、石井一飛曹はそう考えていた。
 やはり新たな愛機となった零式艦上戦闘機44型のエンジンは好調だった。第1旋回に入ってからは着艦に備えてエンジン出力を細かく操作していたが、零式艦戦44型が装備するマーリンエンジンは石井一飛曹のスロットルレバーの動きに忠実にしたがってエンジン出力を加減していた。


 石井一飛曹が零式艦戦44型への機種転換訓練を行ってからさほどの時間は経っていなかったが、少なくとも搭載されたマーリンエンジンの調子はすぐに判断することが出来た。
 零式艦戦44型への機種転換以前に石井一飛曹達の航空隊に配備されていた二式水上戦闘機は、水上機でありながら艦上戦闘機を原型とした純然たる戦闘機であるという、まるで先の欧州大戦時の戦闘飛行艇に先祖返りしたような異様な機体だったが、その原型となっていたのは水冷エンジンであるマーリンエンジンを搭載した零式艦戦44型だった。
 開発当初はそれ以前の空冷エンジンの栄を搭載した11型か22型を原型としていたらしいのだが、大出力の金星エンジンを搭載した33型及びマーリンエンジンを搭載した44型が同時期に開発が進んでいたことから、より高速の発展型を原型機に切り替えていたらしい。
 マーリンエンジンを搭載した44型が原型に選ばれたのは、空冷エンジンよりも水冷エンジンの方が水上機にとって致命的になりかねない開口部が少ないためか、あるいは同時期に英国でもマーリンエンジンを搭載したスピットファイアの水上戦闘機型の試作が進められていたからかも知れなかった。

 しかし、制式採用された機体の改良型とはいえ、開発中の機体を原型とした二式水戦の完成度はお世辞にも高いとはいえなかった。
 搭載されたエンジンは愛知時計電機でライセンス生産された実績のあるマーリンエンジンだったから機体との組み合わせを除けば大きな問題は生じないはずだった。
 その組み合わせも実際には原型である零式艦戦44型で試されてはいるから、二式水戦としての設計変更点は突き詰めれば機体の水密性や浮力を与えるためのフロート部分などの水上機としての機能に集約されていると言っても良かった。
 もっとも、石井一飛曹達操縦員にとって二式水戦の問題点は機体構造やエンジンなどの技術面にあるのではなかった。水上戦闘機の設計開発は確かに難題ではあるのだろうが、むしろ問題は運用の方にあると考えるべきだった。


 そもそも搭乗員たちですら二式水戦が一体何を目的として開発された機体なのかが全くわからなかった。
 太平洋上での島嶼戦において航空基地建設までの期間の防空戦闘を実施するために開発されたという噂もあったが、それならば設営隊の作業中の間だけ近接する海域に航空母艦を配置すればいいだけではないのか。無理に艦上戦闘機よりも性能の劣る水上戦闘機を配置する必要は薄いはずだ。
 あるいは敵性海域に近すぎて頻繁に空襲を受けるために空母部隊がその海域を確保できない場合もあるが、そんな場所に無理に航空基地を建設するほうが戦術上誤っているのではないのか。
 少なくとも機械化された設営隊が、陸上機を運用する航空基地を建設するだけの短時間の間ぐらいも周辺海域の制海権を確保できないのであれば、その作戦は失敗したも同然であり、そんな危機的な状況に艦上、陸上機に比べて性能の劣る水上戦闘機を配備したところで大した役にも立たないのではないのか。

 石井一飛曹はそのように考えていたのだが、その程度のことは海軍の上層部でも想定していたはずだ。
 そもそも航空技術の急速な発展によって水上機は急速にその活動範囲を狭めていた。最近ではプロペラを使用しない噴進機関の開発も本土では進んでいるらしい。そのような高速機の前では重荷となるフロートを抱えた水上機など早々に無力化されていたはずだ。
 あるいは以前に石井一飛曹が乗り込んでいた二式水戦のように片翼の機銃を廃止して射撃管制用の短距離電探を装備した夜間水上戦闘機なる奇妙な派生形が誕生していたのも、海軍内でも水上戦闘機の運用が定まっていなかったからかも知れなかった。


 石井一飛曹らが乗り込んでいた水上機母艦日進でもマルタ島攻防戦の頃は限定的ながら二式水戦を防空戦闘に使用し、その後はマルタ島守備隊に配置換えとなっていたが、航空機材の緊急輸送やその後の継続的な補給体制の確立によって急速に島内に点在する飛行場に展開していた陸上機の航空隊の戦力が回復すると、二式水戦部隊はマルタ島守備の任から離れていた。
 結局は陸上機の数が揃えば性能に劣る水上戦闘機を無理に使用することはないし、水上機基地の係留箇所や整備場も限られているのだから、周辺海域の広域哨戒に不可欠な大型飛行艇や短距離の哨戒や連絡、救難活動などにも使用できる使い勝手の良い複座や三座の水上偵察機が優先して配備されるのも当然だった。

 だが、航空隊の隊員たちが納得しているわけではなかった。
 当初は高速の水上機母艦に搭載される水上戦闘機部隊だというから、正規の航空母艦に準ずる機動部隊として主力部隊の補助として、助攻部隊の防空任務などを行うのではないかと考えていたのだが、実際には単なる高速輸送艦として運用され始めた水上機母艦からは追い出され、最前線に駐留してみればそこももう十分だと言われたようなものだったからだ。
 これではくさらない方がおかしいのではないのか。二式水戦を配備する実戦部隊としては唯一の部隊として編制されていた航空隊の士気が低下していくのも当然のことだった。

 これが彼我の航空戦力の根拠地が近接しあう地中海ではなく、お互いに距離のある島嶼が連続する太平洋が戦域となるのであれば航空基地の建設は用地確保という点からしても格段に難しくなるだろうから、限定的ながらも戦闘能力を持つ水上戦闘機部隊が活躍する余地もあったかもしれないが、欧州に展開する現状の日本海軍の状況では水上戦闘機部隊を運用しなければならない状況はごく限られた特殊な環境におかれた短時間のものだけだったのだ。
 しかし、日本海軍の過半数の戦力を与えられたと言っても過言ではない遣欧艦隊とはいえども航空部隊の数が余っているわけではなかった。現状で使い道のない水上戦闘機部隊にいつまでも高度に訓練された航空部隊の要員を多数配置し続けられるほどの余裕はなかった。
 新型機の配備と機種転換訓練、更にはそれに伴う再編成が行われたのも当然のことだった。


 二式水戦に変えて石井一飛曹達の新たな愛機となったのは零式艦戦44型だった。その決定を聞いた後、航空隊要員の少なくない数が面白くもなさそうな顔をしていたのを石井一飛曹は思い出していた。
 おそらく彼らは零式艦戦44型が二式水戦の原形となっていたのを思い出していたのではないのか、何の事はない、自分たちは採用当時は最新鋭機であった零式艦戦44型を配備される前に余計に水上戦闘機などという胡乱げなものを運用させられただけではないのか、そう考えてしまったのだろう。

 だが、水上機の操縦経験の長い石井一飛曹は彼らの意見には安易に同調は出来なかった。最近では水上機そのものの需要が減少したおかげで陸上、艦上機に転科する部隊が増えているらしいが、水上機に慣れてしまった自分がそう簡単に艦上戦闘機などの操縦ができるとは思えなかった。
 そういう意味では曖昧な存在に終わってしまったが、単座の水上戦闘機の経験が今後に生きてくるのではないのか、そう考えていたからだ。
 少なくとも航空隊に二式水戦の運用経験があったおかげで、部隊に新たに配備された零式艦戦44型にも搭載されているマーリンエンジンの操作や整備に支障は生じていなかった。

 これがマーリンエンジンを搭載した零式艦戦44型ではなく、金星エンジンを搭載した零式艦戦33型への機種転換ということになれば、エンジンの特性から細かな操作法まで変わってくるから訓練期間は長期に渡ることになってしまっていたはずだ。
 逆に言えば二式水戦でマーリンエンジンの扱いに慣れた石井一飛曹達は他の部隊よりも零式艦戦44型への機種転換には適していたといえるだろう。水上機から艦上機への短時間の訓練だけで済んでいたからだ。


 石井一飛曹は栄系列の空冷エンジンを搭載した零式艦戦21型や22型から44型に機種転換を行った部隊での評判が芳しくないことを聞いていた。性能的には栄系列よりも大出力のマーリンエンジンを搭載した零式艦戦44型は航続距離や格闘性能はともかく、最近の陸上戦闘機には必須の高速性能では従来機を圧倒していたはずなのにだった。

 零式艦戦44型は同じマーリンエンジンを搭載した陸軍の三式戦闘機に対して性能面で劣るとの評価もあった。確かに原形が空冷エンジン搭載型である零式艦戦44型よりも当初から水冷エンジンを搭載するために開発されていた三式戦闘機の方がより設計が最適化されているだろうから、同じエンジンを搭載していても性能面で劣る面があるのは否めないはずだ。
 ただし、この予想外の低評価の影には、これまで空冷エンジン搭載機ばかりを運用していた搭乗員や整備員が、高性能ではあっても構造や性能特性が根本的に異なる水冷エンジンを扱いかねているという面も少なからずあったのではないのか。

 それに対して石井一飛曹達は水上機としては高性能だった二式水戦がマーリンエンジンを搭載していた故ということは理解していたから、自然と水冷エンジンには慣れるしか無いと考えていたから、整備にせよ搭乗員による機上操作にせよその運用法も確立されていた。
 だから零式艦戦44型に対してもより冷静な視点で評価を下すこともできるし、運用法に戸惑いうことも少ないはずだった。
 もっとも石井一飛曹もそうとでも思わなければやっていられないと考えていたのかも知れなかった。


 水上戦闘機から艦上戦闘機に機種転換をしたとはいえ、石井一飛曹達はこの航空隊は陸上戦闘機を運用する基地航空隊として再編成されるのだと考えていた。元々の母艦である日進から離れて久しかったし、零式艦戦44型は主に陸上戦闘機として運用されていたからだ。

 日本海軍が現在航空母艦に搭載している機体はその多くが空冷エンジンを搭載していた。当然のことながら数の限られる空母乗り込みの整備兵も空冷エンジンの教育を受けたものが大半であるために、水冷エンジン機の受け入れは難しい状況だった。
 実際、空母部隊の主力は戦闘機は空冷の金星エンジンを搭載した零式艦戦33型が配備されていたし、攻撃機も九七式艦攻から新鋭の二式艦攻天山に切り替わっていたがエンジンは空冷の火星系列だった。

 また艦上爆撃機は一度水冷のマーリン系列を搭載した二式艦爆彗星11型、12型が空母配備となっていたが、現在ではこれも火星系列に変換した二式艦爆彗星33型に切り替わっていた。
 二式艦爆は性能表の上では、水冷エンジンを搭載した12型の方がわずかとはいえ33型よりも上回るらしいから、このエンジンの切替は使い勝手や整備性の向上、エンジンの統一による航空戦隊への補給の容易性などを目的としたものだったのだろう。
 零式艦戦22型も九七式艦攻と同型のエンジンを搭載したことから艦上での整備や予備部品の確保を容易にさせていたから、この艦上航空隊の機種選定も同型や同社製のエンジンに統一することで整備性を向上させようとしていたのだろう。
 このような状況だったから、当然マーリンエンジンを搭載した零式艦戦44型を装備した石井一飛曹達も陸上基地航空隊となるのだろうと考えてたのだ。


 しかし、予想に反して再編成と機種転換訓練を一通り終えた航空隊の配備先は航空母艦の飛行隊を示すものだった。日本海軍主力の一翼を担うと言われている空母部隊への配属に喜色を示した隊員は少なくなかったが、不振がるものも多かった。
 最近では母艦と飛行隊を特定のものとせずに航空部隊を基地や母艦と切り離す空地分離方式が取られているから分かりづらくなってはいたが、零式艦戦44型は陸上基地から運用される部隊にばかり配属されていると聞いていたし、この部隊は石井一飛曹ら元水上機乗りを中核に補充の新兵や最近になって解隊された陸攻隊からなどの他隊の転属者といった雑多な要員をかき集めて再編成された部隊だったから、純粋な母艦乗り組みの搭乗員も欠いていたからだ。

 だが、正式にこの航空隊が乗組となる母艦が判明した時点でそのような疑問も一応は氷解していった。石井一飛曹達の新たな母艦となったのは、商船改造空母である飛鷹だったからだ。
隼鷹型空母の設定は下記アドレスで公開中です
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/cvjyunyou.html
零式艦上戦闘機(11型~22型)の設定は下記アドレスで公開中です
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/a6.html
零式艦上戦闘機(33型)の設定は下記アドレスで公開中です
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/a6m4.html
零式艦上戦闘機(44型)の設定は下記アドレスで公開中です
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/a6m5.html
二式艦上爆撃機彗星の設定は下記アドレスで公開中です
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/d4y.html
二式艦上攻撃機天山の設定は下記アドレスで公開中です
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/b6n.html
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