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仮想戦記(仮 作者:ロックウッド
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1940タラント防空戦3

 戦闘の開始は唐突だった。
 少なくともヴィットリオ・ヴェネトの艦橋にいたものの中で、いきなり飛び込んできた照明弾の閃光に目を焼かれる前に、攻撃の前兆を掴んでいたものはいなかったはずだ。
 砲撃が敵予想方向の前方からからではなく、左舷後方よりから行われたからだった。


 その時、ヴィットリオ・ヴェネト乗組員の注意は前方へと向けられていた。
 視界の利かない夜間に、タラントへ向かった攻撃隊を発艦させた敵空母をいち早く発見しなければならなかったからだ。
 夜が明ければ、ヴィットリオ・ヴェネトに搭載された三機のメリジオナリRo.43水上偵察機を使用して広域偵察を行うことも可能だった。
 しかし、艦載機を展開させることができるのは敵空母も同様だった。
 その頃にはタラントを攻撃した部隊も帰還しているだろうから、油断すれば、純粋な水上砲戦部隊であるこちらが先手を取られて空襲を受ける可能性もある。

 それに戦闘機部隊を展開させて我が偵察機を妨害するのも難しくないはずだった。
 だから、出来れば艦載機の発着艦が難しい夜間の間に敵空母を補足して撃沈してしまえればそれが最善だった。

 しかし、いくら地中海が狭いとはいえ、敵空母を探しだすのは常識的に言って非常に難しかった。
 ここまで哨戒網に引っかからなかったことを考えると、敵艦隊が大規模なものであるとは考えづらかった。
 敵空母一隻のみの単艦行動である可能性すら低くはなかった。

 しかし、ボンディーノ大佐は、敵空母の発見に関しては楽観視していた。
 少なくとも敵空母が攻撃隊を発艦させた海域は、予想とさほどかわりないはずだった。
 攻撃隊の機体は、複葉機のソードフィッシュかアルバコアだった。おそらくは、未だ英国海軍で主力攻撃機であるソードフィッシュであるはずだった。
 ソードフィッシュは五年ほど前の戦前に就役が開始された機体だったから、その性能もかなり把握されている。
 その航続距離や攻撃時の燃料消費、それに加えて、ヴィットリオ・ヴェネトと敵攻撃隊が遭遇する前の予想航路をたどれば、敵空母の位置を類推するのは難しくない。
 発進後に移動することも予想されるが、夜間飛行を強いられる敵攻撃隊の航法の困難さを考えれば、それほど複雑な機動はできないはずだった。
 もしも大きくイタリア半島から離れるような航路を選択すれば、敵攻撃隊と邂逅することは格段に難しくなるだろうからだった。

 問題があるとすれば、敵攻撃隊から、警報が発せられていた場合だった。
 ヴィットリオ・ヴェネトの通信室からは、先ほどの不期遭遇直後に何らかの通信波を傍受していたから、その可能性は高かった。
 ただし、その場合も状況は大して変わらない。
 どのみち、攻撃隊を発進させた敵空母が取りうる機動余地は、攻撃隊を回収するという前提がある以上たいしてないはずだ。


 しかし、予想外に、敵艦隊が現れたのは、敵空母の予想位置である南方からではなく、敵空母を求めて南下していたヴィットリオ・ヴェネトの左舷側となる西方からだった。
 突然、ヴィットリオ・ヴェネトの周囲を橙色の、夕焼けにも似た色で周囲を照らす照明弾の弾子が現れた瞬間、ヴィットリオ・ヴェネト乗員の大半が呆然としてしまっていた。
 いち早く立ち直ったボンディーノ大佐が、左舷見張り員に声をかけるよりも早く、海面を伝っておどろおどろしい砲声が聞こえてきていた。
 思わず獣のような唸り声を上げると、ボンディーノ大佐は、素早く艦橋内に響き渡るように声をあげた。
「左、対水上戦闘、主砲確認取れ次第敵一番艦を射撃、副砲同じく確認取れ次第敵二番艦を射撃、舵そのまま、速力そのまま…左見張り員、敵勢どうか」
 最後は怒鳴りつけるような大声となった。

 それに答えるかのように、主砲指揮所や副砲指揮所から復唱が帰ってくるよりも早く、左舷見張り員からの報告が上がってきた。
 もっとも、報告よりも早く、ボンディーノ大佐はその内容を把握していた。
 左舷見張り員と同じように、双眼鏡を左舷の敵艦隊がいるであろう方向に向けていたからだ。
 それは間違いなく、敵艦の発砲だった。
 彼方に赤白い閃光がいくつも発生していた。

「八時から九時の方角、敵艦…三隻、発砲炎から連装砲塔四基、クイーンエリザベス乃至ロイアル・サブリン級とみとむ」
 見張り員からの報告が聞こえると、艦橋内に緊張が走った。あるいは、恐慌の前触れであったかもしれなかった。
 相手が、クイーンエリザベスにせよ、ロイアル・サブリン級にせよ、旧式ではあったが、共に15インチ主砲八門を持つ未だ有力な戦艦だった。
 砲身長こそ42口径とヴィットリオ・ヴェネトの50口径砲よりも短いため、初速では劣るが、砲弾重量は同程度はあるはずだった。
 それが三隻ともなれば、苦戦は免れなかった。

 しかし、ボンディーノ大佐は、報告を無視するように、主砲指揮所につながる電話を取り上げて、砲術長を呼び出した。
 砲術長が電話に出るよりも早く、左舷見張り員からの悲鳴のような報告が聞こえた。
「敵艦再度発砲、一斉射撃に移行した模様」
 慌てて電話に出た様子の砲術長が出ると、ボンディーノ大佐は、一度はんと馬鹿にしたような声を上げると、砲術長だけではなく、わざと艦橋要員に聞こえるように大声で言った。
「敵艦の種別を間違えるな、相手は悪くて重巡洋艦、おそらく軽巡洋艦だろう」
 ボンディーノ大佐の目線は、艦橋内に設置された時計、その秒針に固定されていた。
 敵艦の発砲間隔は十秒程度しかなかった。戦艦や重巡洋艦クラスの主砲が取りうる発射速度ではありえなかった。
「こっちも照明弾を撃とう。12センチ砲はとにかく照明弾を打ち上げてくれ。相手が軽巡なら距離は一万程度のところにいる筈だから12センチ砲でも照明弾なら届くだろう。ともかく相手を照らしださんことには何時までも幽霊を怖がるようになっちまうぞ」
 砲術長が復唱するのを確認して、電話機を伝令に返すと、ボンディーノ大佐は、弾着に備えた。
 計算が正しければ、すぐに弾着があるはずだった。

 ヴィットリオ・ヴェネトの前後方向に弾着による水柱が上がったのは次の瞬間だった。
 ボンディーノ大佐は、複雑な表情でそれを見ていた。
 艦の前後にほぼ同時に水柱が上がっているが、着弾点の距離からして夾叉されているとは思えなかった。
 おそらく、三隻の敵艦がほぼ同時に発砲しているから、そう見えるだけで、ヴィットリオ・ヴェネトとそれぞれの着弾点との距離はかなり大きかった。
 そこだけ見れば、敵艦の照準が大きくずれているとしか思えなかった。
 しかし、ヴィットリオ・ヴェネトの前後方向はともかく、左右舷方向のずれは小さかった。
 次弾も、測角のズレは同程度だった。
 というよりもこれだけの急斉射では、着弾観測よりも早く発砲しているはずだ。
 このような射法からみても、手数で攻める巡洋艦であることは間違いなさそうだった。

 ―――すでに英海軍ではレーダー射撃が実用化されているというのか…
 着弾による水柱を見ながら、ボンディーノ大佐は、眉をしかめてそう考えていた。
 英海軍の大型艦艇にレーダーが搭載されるつあるらしいという噂は聞いていた。
 それにレーダーは、測距よりも測角の方が精度が荒くなるらしい。
 だから、敵艦から見て距離は正確なのに、角度が悪いということになるのではないのか。

 その頃になって、ようやくヴィットリオ・ヴェネトからも発砲が開始された。
 ただし、それは敵艦を狙ったものではなかった。
 というよりも、現状では敵艦を照準できるほどの数値が揃わないだろう。
 だから、最初に発砲したのは、照明弾を発射した礼砲を兼ねる12センチ砲だった。

 そして、12センチ砲の発砲にやや遅れて、敵艦の第三斉射の着弾が発生した。
 しかし、着弾点は海上ではなかった。
 最初の発砲と同様に、ヴィットリオ・ヴェネト周囲をまばゆい明かりが照らし出していた。
 やはり第一斉射と同様に照明弾が発射されたようだった。
 眩しい光に、すこしばかり目を細めながら、ボンディーノ大佐は、先ほどの考えを改めていた。
 英海軍がレーダーを運用し始めたのは事実のようだったが、その信頼性はさほど高くはないのではないのか。
 測角値が大きくずれていることを見ても、レーダーによる観測のみでは、射撃管制に用いることが出来るほど精度の高いデータを得ることはできないのだろう。
 だから、照明弾を用いた光学観測を併用せざるをえないのではないのか。

 英国海軍のレーダ照準技術が未だ光学併用のものであるのならば、光学観測のみに頼るイタリア海軍であっても対抗することは出来るのではないのか。
 確かに測距に限るとはいえ、レーダーによる正確な観測は可能であるようだったが、光学観測であればより大型の測距儀を使用することのできるヴィットリオ・ヴェネトの方が、英海軍の軽巡洋艦よりも精度が高いはずだった。

 それに、いまだ敵艦隊との正確な距離はわからないが、発砲炎と着弾、それに発砲音とのずれからすると、ヴィットリオ・ヴェネトと敵艦は、距離一万程度で同航しつつあるようだった。
 おそらく、自艦の主砲の実用射程距離や、正確なレーダ測距が可能となる距離から、一万程度を砲戦距離に選んだのではないのか。
 だが、この距離であれば、ヴィットリオ・ヴェネトは主砲に加えて、副砲である15.2センチ砲も使用出来た。
 敵艦隊主力が軽巡洋艦であれば、この副砲でも相手の主砲とほぼ同様の威力を発揮できた。
 この副砲はルイージ・ディ・サヴォイア・デュカ・デリ・アブルッツィ級軽巡洋艦の主砲と同じ砲なのだからそれも当然だった。

 ヴィットリオ・ヴェネトに搭載されている副砲のうち片舷に指向できるのは三連装砲塔二基、計六門だから相手よりも手数には劣るだろうが、戦艦という安定したプラットフォームからの砲撃というメリットもあるから、命中率で言えばそう大した違いはないはずだった。
 それに、この距離であれば、旧式の12センチ砲でも、大雑把な照準ですむ照明弾ならば十分敵艦を照らし出すことができるはずだった。
 だから、わざわざ主砲を用いて照明弾を放つ英国艦隊よりも優位に立てるかもしれない。
 主砲威力や装甲防御では当然こちらのほうが圧倒的に優位なのだから、ボンディーノ大佐はそう考えていた。
 軽巡洋艦が有する魚雷発射の兆候を事前に察知し、回避することさえできるのであれば、一対三であっても勝利することは難しくないはずだった。


 だが、ボンディーノ大佐がそのように楽観的でいられたのも、実際に12センチ砲から放たれた照明弾が敵艦付近で輝き出すまでだった。
 ―――敵艦が…いないだと
 各部署に指示を出す合間に、着弾時間にあわせて双眼鏡を敵艦に向けていたボンディーノ大佐は、一瞬唖然としてしまっていた。
 しかし、左舷の見張り員からの報告は違っていた。
「敵艦視認…巡洋艦3,うち前方2隻…集合煙突ありリアンダー級とみとむ、後方は二本煙突、同改型と思われる」
 ボンディーノ大佐はまゆをしかめていた。

 どうやら大型で視野の明るい双眼鏡を使用する見張り員はなんとか正確な敵勢を把握することができたようだった。
 リアンダー級軽巡洋艦の特徴である集合煙突など敵艦の形状まで把握している以上、見張り員の報告は信頼できそうだった。
 ただし、12センチ砲の照明弾では、手持ちの双眼鏡では十分な観測ができないほどの光量でしかないことは事実だった。
 これでは、主砲や副砲の照準は困難なのではないのか。

 砲術長からの報告はなかったが、実際主砲の発砲は、照明弾の弾着からかなり時間をかけていた。
 おそらく限定された光量で行う測距の結果に自信が持てなかったのだろう。
 副砲の発砲開始は、主砲よりも更に遅れていた。
 照明弾は概ね敵一番艦に向けられていたから、更に光量の劣る敵二番艦を狙う副砲長は、砲術長よりもより慎重になっていたのだろう。

 そのようになかなか実弾の発砲に移行できないヴィットリオ・ヴェネトをあざ笑うかのように、照明弾の斉射をおりまぜた敵艦からの砲撃は、次々と連続して着弾していた。
 しかも、時間が経つに連れて、敵艦の照準は正確になりつつあった。
 弾着のたびに、ヴィットリオ・ヴェネトと、敵弾による水柱との距離は狭まりつつあった。
 夾叉されて、命中弾が出るのも時間の問題だろう。
 一度そのような状態になれば、軽巡洋艦級の発射速度の高い主砲弾が次々と着弾する最悪の結果が待っているはずだった。

 これに対してヴィットリオ・ヴェネトの2門の12センチ砲も次々と照明弾を放ってはいるのだが、その光量は弱々しいままだった。
 発射速度は同等なのだが、門数も、口径も敵艦に比べ劣っているために投射される砲弾重量が小さかったのだ。
 さらに三隻の敵艦が照らし出すのはヴィットリオ・ヴェネトただ一隻で済むのに対して、こちらは二隻を照らし出さないと主砲と副砲で異なる敵艦を射撃するのは不可能だったのだ。

 そして、ヴィットリオ・ヴェネトからの主砲と副砲からの弾着が発生した。


 ボンディーノ大佐の悪い予感はあたったようだった。
 砲術長や副砲長の腕が悪いとは思えないが、主砲も、副砲も散布界は正常の範囲内だったが、着弾点と敵艦とのずれは大きかった。
 しかも、敵艦と違って、測角に加えて、測距値も誤差が大きいようだった。
 主砲指揮所からの全弾遠と、次弾修正を告げる報告を聞きながら、ボンディーノ大佐は、再び砲術長を呼び出していた。

 さすがに電話に出た砲術長の声は、戦闘中であるにもかかわらず、沈んでいた。
 申し訳なさそうに、次弾は近づけてみせると言い切る砲術長を遮って、ボンディーノ大佐はいった。
「砲術長、このままでは命中弾を得る前にこっちが滅茶苦茶にされてしまう。こちらも副砲で照明弾を一番艦に向けて放とう。別に一度に全門を撃つ必要もないから、常に敵艦を照らし出せるはずだ。とにかく敵艦を明るくしなくては、こっちは照準できんうちに一方的に叩かれるぞ」
 砲術長からの返答は遅れた。
 その間にヴィットリオ・ヴェネトは、主砲を一斉射していた。その作業で電話どころではなかったらしい。
 そして、その短時間の間に砲術長の声は落ち着いていた。
 しかし、ボンディーノ大佐は、砲術長が声ほどには冷静ではないと感じていた。

「主砲のみで一番艦を狙っていては二番艦以降に一方的に叩かれてしまいます。副砲はあくまでも二番艦以降を狙うべきです。確かに光量は不足気味ですが、照準は不可能ではありません。今は確かにずれちょりますが、今度は当てて見せます」
 自信のあるような言い方だったが、ボンディーノ大佐は判断がつかなかった。
 やがて主砲弾が着弾した。
 確かに照準のずれは測距、測角とも小さくはなっているが、まだ敵艦と着弾点は遠かった。
 これでは着弾修正にはまだ時間がかかるのではないのか。

 それに、もしも狙われていると知った敵艦が回避機動を取れば、照準は一からやり直すはめになる。
 相手が戦艦ではなく、機動性の高い巡洋艦である以上その可能性も否定出来なかった。
 英艦隊にしてみれば、無理をして戦艦と砲撃戦を繰り返す必要はないはずだった。
 敵艦の目的は、タラントに攻撃隊を発進させた敵空母を無事に逃がすための時間を稼ぐことにあるはずだった。
 そうであれば、無理をして砲撃を行うよりも、ヴィットリオ・ヴェネトをこちらに無駄に引き付ければ作戦は成功となるはずだ。
 極端な話、無理をして砲撃戦を継続するよりも、魚雷発射のタイミングを伺うような機動を継続するだけでも、十分な護衛艦艇のいないヴィットリオ・ヴェネトは回避と牽制砲撃を余儀なくされてしまうかもしれない。
 ボンディーノ大佐としては、こちらの正体や戦力を掴みかねているのであろう敵艦が漫然と砲撃を繰り返している間に、できるだけ早く敵艦を葬り去って置きたかった。

 だが、この状況でも砲術長はまだ強気だった。あるいは、ただ意固地になっていただけだったかもしれないが。
「艦長…探照灯の使用を許可できませんか。本艦の大型探照灯であれば、この距離でも攻撃力を落とすことなく、十分な光量で連続して敵艦を照らし出すことができるはずです」
「それは…」
 珍しく、ボンディーノ大佐は詰まってしまっていた。
 確かに、探照灯を用いれば、照準に十分な光量が得られるはずだった。
 しかし、同時にその照射を始めれば、ただでさえ照明弾の明かりで浮かび上がっているヴィットリオ・ヴェネトの姿をこれ以上ないくらいに明るく照らし出す諸刃の剣となるだろう。

 ボンディーノ大佐が、わずかに躊躇しているうちに、ヴィットリオ・ヴェネトに、生涯初めての命中弾が発生した。
 艦橋の後方で起こった突発音に、考えを妨げられたかのように、ボンディーノ大佐は振り返っていた。
「着弾か、被害報告急げ」
 ボンディーノ大佐の命令を伝えるてしばらくしてから、後部応急指揮所からの報告を伝令が読みあげた。
「後部カタパルト付近に着弾…搭載機全損、及び燃料に着火、現在消火活動中」
 ぎょっとしてボンディーノ大佐が、ヴィットリオ・ヴェネトの後方へと向き直ると、確かに照明弾の橙色の光とは明らかに異なる赤い色が艦橋からでも見えていた。
 思わずボンディーノ大佐は唸り声を上げかかっていた。
 火災の発生は、ヴィットリオ・ヴェネトの姿を闇夜から明るく映しだしてしまうし、偵察機の喪失は、夜が開けてからの広域哨戒が不可能となったということでもあった。

 一瞬だけ搭載機から燃料を抜いておかなかった自分を戒めると、ボンディーノ大佐は、応急指揮官の副長に消火急げと命じた。
 回線をつないだままだった主砲指揮所への電話から、諦めのこもった声で砲術長が言った。
「どのみち本艦の姿は照らしだされてしまったようですね…艦長、こうなっては探照灯の仕様をためらう理由はなくなったかと思いますが」
 ボンディーノ大佐は、しかしそこで結論を出すのをためらっていた。
 確かに搭載機の火災によって照らしだされていはいるが、消火に成功すればその明かりも消え失せるはずだ。
 他に光源となるような火災が発生なければ、まだ自らを光源とする探照灯の使用は危険だと考えていた。

 だが、ボンディーノ大佐が答えるよりも早く、艦橋の外にまばゆいばかりの光が走っていた。
 闇を切り裂く光の筋は、明らかに探照灯の閃光だった。
 命令を待たずして探照灯を使用したのか、ボンディーノ大佐は、慌てて何かを命じる前に違和感を感じて艦橋の窓へと顔を押し付けるようにして光源を確かめようとした。
 ヴィットリオ・ヴェネトの探照灯からにしては閃光の位置が奇妙に見える気がしていた。
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