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仮想戦記(仮 作者:ロックウッド
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1943北大西洋海戦2特設巡洋艦興国丸

 特設巡洋艦興国丸に新たに設けられた指揮所の機能は、古澤特務中尉がみたところでは画期的なものだと思えるものだった。確かに問題点は少なくないが、意思と不断の努力さえあれば解決は難しくないものばかりだった。
 少なくとも現在実運用により判明しているのは致命的な問題ではなく、技術的な問題も興国丸艦内でも工作できそうなものばかりだった。さすがに電子部品は艦内での自作は難しいらしいが、本土に戻れば補充はできるはずだ。

 むしろ問題は護衛されるべき船団の方にあった。規模が大きすぎて、船団の隊形の構築や航行時の進路変更などの作業に余りにも時間がかかりすぎていたのだ。そして船団規模による弊害は船団の航行時だけではなく、船団を編成する際にも生じていた。

 本来であれば、この船団がこの海域を通過するのは二週間ほど前になる予定だった。しかし、日本本土での船団の集結に時間がかかってしまったことで、航行計画は大きくな遅れを示していた。
 日本本土から出港した船団は、東南アジアの植民地諸国やインド、南アフリカなどでもまとまった数の輸送船が合流していたが、一番編成に遅れていたのは、やはり最多数の輸送船が出港した日本本土からのものだった。

 実際に能力不足を示したのは、輸送船が出発する港の荷役能力だった。現在の荷役業界の能力では、港にもよるが一万トン級の大型貨物船の船倉に貨物をいっぱいに搭載するには一週間近くも掛かっていたのだ。
 現在の貨物船の荷役方法は、形状や重量の全く異なる個々の貨物を船体全体のバランスを保ちながら積載していくものだから、大勢の熟練した労働者が必要だったからだ。

 戦時標準規格船の建造では、当初もっと大型の貨物船も建造が予定されていたと聞いていたが、実際には貨物船の大型化は輸送能力増大にはさほど寄与しないという試算結果が出て、結局は現状の一万トン級貨物船の大量建造に移行したらしい。
 その試算結果というものがどういったものだったのかは古澤特務中尉には分からないが、おそらく現状の荷役方法では実際には貨物の積み上げ下ろしの時間がかかり過ぎるから大型化しても待ち時間がかかり過ぎるというものだったのではないのか。
 つまり、現行の貨物船の船体寸法は船舶自体の輸送効率と荷役を行う港湾の能力との妥協から決定されたといっても良かった。


 しかし港湾の荷役能力から貨物線の積載量が決定されていたにもかかわらず、この船団を編成する際にはその荷役能力が破綻してしまった。あまりにも短時間に船団を構成する多数の貨物船の荷役作業が集中して行われたからだ。
 荷役能力の飽和自体は当初から予想されていたから、荷役を行う港は日本本土各地に分散されていた。そうでなければとても大規模な船団は構築できないからだ。
 だが、荷役能力に係る負担は事前の予想をはるかに超えていたようだった。

 おそらく船団を構成する輸送船に大型高速船ばかりを選抜したからだろう。船団の航行速度は最低でも10ノット以上が要求されていた。さらに超長距離を航行する船団の効率を考えれば積載量もできるだけ大であることが求められた。
 しかしそのような大型で高速の貨物船が接岸できる港は限られていた。その結果、結局は一部の大規模港に荷役が集中することになったようだ。
 沖合いで停泊している貨物船に艀などで貨物を輸送するというのならば対象港はもう少し増えるのだが、そんな効率の悪いやり方ではさらに時間がかかってしまうだろう。それによほど天候が良くなければ大型の艀を貨物船に接舷させ続けるのは見張り員の少ない民間船では難しいのではないのか。
 いくつかの港では接岸中の船に荷役を行う一方で沖合いに停泊させた次の船に小型船で貨物を輸送するという芸当じみたことまでやったらしいが、そこまで工夫しても荷役される貨物量自体はさほど変わらなかったはずだ。結局は荷役量を左右するのは熟練した労働者の数にかかっているからだ。

 荷役作業が集中する時だけ日雇い労働者を増やして対応することは出来るが、最終的な判断は熟練労働者がするしか無い以上はあまり効率は上がらない。それに最近では生産量の増大を求められた各種の工場でも労働者の需要が増えている上に、招集を受ける予備役兵もあるから、荷役を請け負う業者が手配師に求人を依頼しても中々作業員が集まらないらしい。
 現状では荷役能力の飛躍的な増大を図るのは難しかった。こればかりは、画期的な荷役方法でも考案されない限りは解決しそうもなかった。


 荷役能力の破綻による遅れを取り戻す為に、船団は予定の計画よりも高速で航行することになったのだが、それでも船団の航行計画は遅れ気味だった。
 船団を高速で航行させても敵船の存在が予想される海域で対潜之字航行をさせるためには、嫌でも針路を移行させなければならない。構成する貨物船が少数の船団ならばそれも容易なのだろうが、編隊航行になれていない民間船の船長たちが操る各種性能がばらばらな輸送船達は、経路変更のたびに船団隊形を崩して興国丸に座上する航海参謀をやきもきさせていた。

 さらに船団の中には日本船籍ではない船も少なくなかった。東南アジアやインドで合流した貨物船の他に、オーストラリアから英国本土に兵員を輸送するための客船も船団に組み入れられていた。

 兵員輸送船として徴用された客船の中には、常用航行速度が他船種よりも著しく高速であることから鈍足の貨物船と船団を組まずに単独航行するものも少なくなかった。
 大型の客船は、貨物船どころか巡航速度であれば大多数の軍用艦よりも早いものだから、下手に護衛艦艇をつけるよりも単独で高速航行したほうが低速の敵潜水艦の襲撃を回避することが出来たのだ。

 しかし、船団に組み込まれたその客船はそのような高速航行はもはや不可能になっていた。元々は英国資本の大手船会社キュナード・ラインが自社船として建造した北大西洋航路向けの客船で、先の欧州大戦時にも兵員輸送船として徴用されていたらしい。
いまの錆の浮かんだ船体の様子からは想像もつかないが、かつては大西洋横断航路の最速客船の印であるブルーリボン賞を受賞したこともあったらしい。

 だがルシタニアという船名のその客船は老朽化により北大西洋航路には使用できなくなり、キュナード・ラインからオーストラリアの船会社に中古船として売却されていた。
 当初はスクラップとして売却されたらしいが、さほど高速でなければアジア圏内ぐらいの人員輸送にはまだ使用できるとの判断から、豪華客船時代の老朽化はしたが豪華な内装を剥ぎ取られたみすぼらしい姿でオーストラリアとニュージランドやシンガポールなどを結ぶ不定期航路に就役していた。

 さすがに二線級航路用の客船としても使用限界に近づいていたから、そろそろ廃船も視野に入れられていたはずだが、今次大戦の開戦をうけて貨物船と同等程度の低速運用という条件で再度の徴用を受けたという。
 ルシタニア号は建造から半世紀近く過ぎた老朽船だったが、定期的な整備は欠かしていないから欧州までの長距離航路も耐えうるとの判断らしいが、さすがに単独行動が許されるほどの高速航行は不可能であるようだ。


 このような奇妙な経歴の老朽船から就役したばかりの戦時標準規格船まで入り乱れている船団なのだから、海軍艦艇のようにきれいな隊列を組んでいる方が異様なのではないのか。
 古澤特務中尉はなんとなくそう考えてしまっていた。
 ―――結局、現在の日本にはこれだけの大規模船団を完全に構築するだけの経験や技術がまだないということか。
 一応はそう結論づけたが、古澤特務中尉がこの状況に納得したわけではなかった。


 輸送効率や護衛艦艇の数量から算出される稼働率を考慮すれば、小規模な船団を多数送り込むよりも大規模船団を形成した方が効率はいいはずだ。これまでの戦訓により、船団規模を大きくしても必要な護衛艦艇の数はさほど増大しないことがわかっていた。
 だから、大規模な船団を構成するのを妨げる問題点を一つ一つ解決するしかないのだろう。

 例えば荷役能力の飽和に関しては、あらかじめ貨物を工場や集積所から発送する段階である程度の大きさにまとめてしまうことが考えられていた。行李のような容器を作製して、貨物は工場で詰め込んでから戦地で開放されるまで封鎖されることになる。
 その容器の大きさを規格化してしまえば、それに合わせて特化した荷役方法を開発してしまえばいいのだ。大勢の労働者が手で荷物を運ぶという現在の方式ではなく、港のクレーンや貨物船のデリックを今よりも活用して機械化を図れば、貨物の大きさを人間で運べないほど大きくしても作業は迅速に進むはずだ。
 そしてその規格化された貨物はあらかじめ重量を計算しておくのだ。そうすれば実際に船舶に貨物を積み込む前に船内配置の重量計算を済ませることが出来る。
 この新たな荷役方法が実現すれば、一隻あたりの荷役が完結する時間が飛躍的に短縮されるから、現行のものと比べて格段に大きな貨物船の実用化も進むのではないのか。

 勿論、これは古澤特務中尉の独案というわけではなかった。日本本土の鎮守府で事務をしている海兵団同期から聞いた噂だった。なんでも実際にこういった貨物の規格化に関する研究を英国と共同で研究しているらしいというのだ。
 その同期生は体を悪くして艦隊勤務から離れてずっと陸上勤務が続いていたから下士官達の情報網に強く、そういった噂を聞きつけてきたらしい。


 船団を構成する輸送船の性能のばらつきに関する問題はもっと解決は容易だった。というよりも問題の解決は実際に進んでいる所だった。
 戦前から計画されていた戦時標準規格船の大量建造がそれだった。この船団にも戦時標準規格船の貨物船型が何隻か参加していた。
 戦時標準規格船の建造計画の元となっているのは先の欧州大戦時の戦訓研究だったが、軍令部が主体となって行われたこの戦訓研究では、護送船団の効率のよい護衛方法や作戦に必要な艦船なども研究対象となっていたらしい。
 だから戦時標準規格船はこの戦訓を受けて戦時輸送を考慮して当初から自衛戦闘のための兵装を搭載するための空間なども予め設計段階から設けられていた。

 仮に船団を構成する貨物船がすべて戦時標準規格船になるとすれば、現在のように各船によってばらばらの性能に困らせられることもなくなるし、高速での航行も容易になるのではないのか。
 また戦時標準規格船の数が増えていけば、大規模な長距離船団は戦時標準規格船を中心として構成し、短距離船団は従来船で行うといったようなすみわけも出来るだろう。

 量産が開始されたのは護衛艦艇に関しても同様だった。やはり艦政本部が戦前から研究、設計を行っていた量産型駆逐艦である松型や航洋力型の護衛艦である鵜来型海防艦などが続々と建造が行われていた。
 これらの戦時量産艦艇はどれも工作の容易な直線や平面を多用した構造や組み立てに電気溶接を採用するといった特徴を持っていた。戦時標準規格船もそうなのだが、建造の容易さを最優先にして設計が行われていたのだ。
 それと同時に採用されたブロック型構造が基本設計や性能を保持したままでの多様性の確保を可能としていた。


 電気溶接とブロック工法という新しい手法は、この時期大鯨型潜水母艦の建造で技術が確立されていた。各種の戦時建造艦船もこの工法を用いることが出来なければ大きく計画が衰退していただろう。
 だがブロック工法の利点はそこだけではなかった。船体を構成するブロックに互換性を持たせておけば艦種の違ういわば準同型艦を容易に再設計することが出来るのだ。
 この船団にもそういった船が参加していた。松型駆逐艦の設計を流用、発展させた一等輸送艦だった。

 新たに輸送艦という種別を与えられた一等輸送艦は、艦首や艦橋までは松型駆逐艦と共通のブロックを使用していた。だがそれから後ろの船体は主機が半分に削られ、兵装も殆ど装備されていなかった。
 その代わり艦尾には揚陸艇である大発動艇を迅速に発進させる為のスロープが設けられていた。松型駆逐艦では主機や兵装がもうけてあった部分に搭載できる貨物は260トン程度と専門の貨物船ほど大きくは無いのだが、それでも20ノットを超える高速輸送艦としての能力は十分に魅力的だった。
 スロープに搭載された大発動艇は兵員輸送も可能だから、一等輸送艦一隻で一個中隊程度の兵員を急速に上陸させることも可能だった。その場合、松型駆逐艦にやや劣る程度の一等輸送艦の砲力で艦砲射撃による援護を行うことも出来た。

 それに松型駆逐艦の前半部を流用していることから自衛戦闘であれば十分可能であるし、スロープを小改造すれば対潜戦闘に特化した鵜来型海防艦の定数以上の爆雷を搭載して対潜戦闘を行うことも可能だった。
 船団に参加している一等輸送艦の多くも爆雷を搭載して対潜護衛艦として使用されていた。それも優秀な聴音機や探信儀を搭載した松型駆逐艦の前半部を流用しているからだった。

 戦時標準規格船になると派生型はさらに豊富だった。貨物船型が標準型となるなのだが、ハンモックを吊る止め具や厠を増設した人員輸送船、内部に仕切りを設けて貨油移送ポンプなどを増設した油槽船、船底構造を強化して重デリックを装備した戦車輸送船などが建造されていた。他にも変わりものとしては、たった三隻しかない明石型工作艦を補助する為に建造された工作船型などの特設艦もあった。

 しかし1943年初頭現在の船団ではそれらの新型船や新機構はまだまだ完全に従来艦を置き換える所まではいかなかった。
 今あるのは従来艦と新型艦を混合した船団に過ぎなかった。
鵜来型海防艦の設定は下記アドレスで公開中です
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/esukuru.html
松型駆逐艦の設定は下記アドレスで公開中です
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/ddmatu.html
特設巡洋艦興国丸の設定は下記アドレスで公開中です
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/hskkoukokumaru.html
戦時標準規格船の設定は下記アドレスで公開中です
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/senji2.html
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