第六十七話 トゥル村
輪廻達は『試練の山』程度では、試練にはならなかった。Aランクの魔物が多いといえ、Sランク以上の魔物や魔人にも出会わなかったのだ。ステータスが強いだけの知性無き魔物では、輪廻達との差が大きすぎた。
四日目になり、ようやく『試練の山』を抜け出せた。もう少し歩けば、村に着くとメルアに聞いているので、もう夕方だが、野営をせずに進んでいく。
「ようやく、ベッドで眠れる〜」
「確かにそうですね。私は欲求が……じゅるり」
「まぁ、村に着いてからな」
今のテミアは、欲求に一直線だった。ある意味、シエルも睡眠欲求に追われているが…………
「おっ、本当に少し歩いただけですぐだな」
完全に日が落ちる前に、一つの村に着くことが出来た。名前はトゥル村と言う。『試練の山』からそんなに離れていなくて、大丈夫なのか? と思ったが、その心配はないようだ。
「あ、あれは『幻影の水晶』があるわね!」
「確か、Sランク以下の魔物を寄せつけないと言う水晶だったな?」
「はい、魔人である私でも嫌な波動を感じますね」
「身体は問題ないか?」
テミアは魔人であり、身体に悪いなら泊まれないことになる。テミアを外で待機して、輪廻とシエルだけが宿に泊まる方法もあるが、輪廻はそんな方法は取る気はない。
大切な仲間なのだから、1人だけを外で待機させることが出来ない。一緒に野営をする方を取る。
「いえ、問題はありませんね。その水晶は、魔物や魔人に近付かれないように、嫌な波動を出しているだけで、悪いモノは発してないようです」
「つまり、我慢すれば、魔人は入ってこられるってことだな」
魔物は本能で感じとって、近付こうとしないが、魔人は違う。魔人は知性を持っており、嫌な気配があろうが、近付けるのだ。だが、
「あ、門番の人がいる。どれも強そうだねー」
「ああ。Sランクの実力を持っている人もいそうだな」
魔人が入ってきても、強い冒険者や兵士がいる。北と南の地は、強い魔物や魔人が多いから、自然に強い者が集まったり、強くなっていく者が増える。
おそらく、あの兵士は激戦を熟してきた猛者だろう。
「止まれ!! 冒険者なら、ギルドカードを出すように!!」
「ギルドカードね。出しておけ」
ギルドカードを見せていく。魔人は、人間に近い姿をしているし、化ける力を持つ魔人がいるのだから、冒険者はギルドカード、商人なら、証明書を見せる必要がある。
「ほぅ、まだ小さいが、修羅場を潜っているな。後ろにいる二人も強いな」
「そうだね。魔物や魔人とも戦ってきたからね」
門番の兵士達は、ギルドカードのランクを見て、感嘆していた。まだ11歳でSランクに届いているのだから、驚くだろう。
メイドもメイド服のままで戦っているのか? とも聞かれたが、そうですよと正直に答えた。
どんなメイドだよっ!? とも突っ込まれたが、問題なく村の中に入れた。
「へぇ、こいつどいつも強いな」
「皆様を切り倒したら、どれだけレベルが上がるのでしょうね?」
「しっ!? こ、この道真ん中でそんな物騒なことを言うんじゃない!! 私まで危険人物と見られるじゃないっ!!」
「え、思ったことを言っただけですよ? それに、口を塞ごうとしても、もう遅いと思いますよ?」
「えっ……?」
周りを見ると、怯えている人や警戒している人が輪廻達を見ていた。テミアの言葉に真実味が帯びているのを感じ取ったからだろう。
(警戒している者は、Aランク以上だと考えた方がいいな)
輪廻はその状況で、冷静に観察をしていた。輪廻達が動かない限りは、周りの人は動くことはないと判断して、言い合いをしている2人の手を引っ張って宿を探すことにする。
輪廻に手を引っ張られるとは思っていなかったのか、ふぇっ!? と声を漏らして思うがままに、引っ張られるのだった。
その様子を見た人は気が抜けたのか、警戒を止めてくれた。警戒したが、子供に手を引っ張られて赤面する2人を見て、どうしてこんな奴を警戒していたんだ? と思ったから警戒を解いたのだ。
宿はすぐに見付かった。ここはラディソム国程に冒険者が多いわけでもないから、宿は空いていた。
「ふむ、明日からは情報を集めるか?」
「本気で吸血鬼を……?」
「うん、一目は見てみたいじゃない?」
「少年はそう言う人だったわね……」
とにかく、吸血鬼に会って『邪神の加護』のことを聞くことが最優先だ。今の所、『邪神の加護』についての情報はラウドから貰った本に一つだけだが、あった。そして、あのふざけた能力で高いステータスを手に入れることになった。そして、次のを探したいが、今は情報がない状態なのだ。
「ふむ……、これからやることは、それぐらいかな。もう寝よ……」
「捧持いたします」
テミアが我慢出来ないと言うように、四つ脚になって迫って来る。
輪廻は仕方がないな、と苦笑してテミアの相手をするのだった…………
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輪廻達はギルドに向かっていた。情報を集めるなら、ギルドが適していると思い、向かうが…………
「慌ただしいな?」
「何かあったのかしら?」
「それに、数が少ないですね」
ギルド内は騒がしかった。何事なのか、近くにいた受付嬢に聞いてみることに。
「何があったんだ?」
「あぁ、この状況ですか? 近くでSランクの魔人の目撃情報があったの」
Sランクの魔人、輪廻達もまだ戦ったことがない相手になる。それが、近くに現れたのだから、ギルド内が騒がしいのも冒険者の数が少ない理由がわかった。
冒険者は逃げ出したか、討伐しに村を出たのどちらかだろう。
「緊急事態……ではないみたいですね?」
「はい、今回は討伐しに行くかは自由です。目撃情報を届けてくれた方は、魔人がこちらに気付いていたようですが、襲われませんでした」
魔人が襲って来なかったのは、何かの目的があってかかもしれないのだが、放っておくことは出来ない。村の危機ではないので、緊急事態という号令ではなく、賞金を高くして冒険者が自分から討伐しに行かせるようにしたみたいだ。
「ふーん、今は興味ないからいいや。で、お姉さんに聞きたいことがあるけどいい?」
「あら、可愛い坊やね。もしかして、食事のお誘いかしら……ひっ!?」
急に受付嬢が怯えたかと思ったら、視線が後ろに向いていたことで納得した。後ろでテミアが眼だけで、受付嬢を怯えさせていた。
「私の御主人様を誑かせないで下さいな?」
「は、はい!」
「おいおい、冗談を言っていただけで怯えさせたら駄目だろ?」
今のは冗談だとわかっていたが、一々冗談を言われる度に怖がらせるのはなんだかと思い、注意しておく。
「すいませんでした」
テミアは謝る。受付嬢にではなく、輪廻へだが…………
「こちらのメイドが悪かったね」
「い、いえ! こちらこそ、空気を読めなくてすいませんでした!!」
だから、テミアの代わりに輪廻が謝ることにする。それはいつものことだから、慣れたものだ。
「話を戻すけど、最近、吸血鬼を見付けたんだよな?」
「あ、はい。全滅したかと思われたのですが、それは間違いでしたね」
「その目撃場所は何処かわかるか?」
「もしかして、吸血鬼を狙って?」
吸血鬼を見た場所を聞くのは、狙っていると思われても仕方がないだろう。
「いや、ただ全滅した吸血鬼はどんなのか一目は見たいと思ってな」
「そうですか。吸血鬼は強いので、Sランクの冒険者でも1人で戦わないようにお願いします。死にますから」
「そーだね。無理はしないから」
「そうですか……、わかりました」
受付嬢は、地図を取り出して、見せてくれる。指を指した場所は、ここからそんなに離れていなくて、一日で行ける距離だった。
「思ったより、近いな。住家はまだ見付かっていないのか?」
「はい。吸血鬼も人間と変わらない暮らしをしていますので、空から捜せば、すぐに見つかると思いましたが……」
「まだ見付かっていないわけか」
捜索の依頼で空から探す冒険者以外に、様々な冒険者も捜しに行ってきたが、どの冒険者も生きて帰っていて、結果は全くのゼロだったのだ。
洞穴とかではなく、人間のように家で暮らしているなら、建物の姿ですぐにわかるはずだ。なのに、見付かっていないのは…………
「……シエル」
「はい、私達が住んでいた村に似ていますね。でも、空中からでも見付かっていないとなると、『幻惑の森』とは少し違うかもしれません」
受付嬢に聞こえないように、ひそひそと話す。シエルの村は『幻惑の森』の中にあったのだ。それと似ているのでは? と思ったが、空から捜していたが見付かっていないことから『幻惑の森』とは違うだろう。
「しかし、捜しに行った冒険者全員が無事なんて、あそこにはいなくて、他の場所だったとかじゃねぇのか?」
「広範囲に捜索を出すのは、ここでは無理ですね。ここより大きな街でなくては……」
「そうか。まぁ、一度だけ脚を運んでみるか」
もしかしたら、『幻惑の森』とは違う方法で、家を隠しているかもしれないのだ。
「さぁて、吸血鬼を見付けに行こうぜ」
「はい」
「吸血鬼か〜、会いたくないな……」
シエルだけ、吸血鬼に会いたいとは思っていないようだが、輪廻達が行くのでは、一緒に行くしかない。
これから吸血鬼の捜索に出るのだった…………