閑話 メルアの思い その1
私は、メルア。
ガリオン国でギルド長を任されている。
メルアは狼人族で、素早さが自慢の種族である。さらに、戦闘が好きで、バトルジャンキーの種族と呼ばれることが多い。
メルアは二年前からギルド長を勤めている。その前は、ダガンやゲイルのパーティに入っていて、魔物や魔人と戦ってきた。
それで、入ったばかりで一緒にいたゲイルだけはBランクだが、他の人はSランクを越えている。メルアもSランクで、実力はSSランクにギリギリ届いているぐらいはある。
んで、パーティを解散した後に生まれであるガリオン国に戻ったのはいいが、暇過ぎた。
しばらく、するとダガンがギルド長になったと報告があったので、これだっ! と思ったものだ。
普通ならギルド長は、前ギルド長の推薦が無ければ、なれない。だが、ガリオン国のギルドは違っている。
ガリオン国は強い者が正義と言う言葉がある。つまり、ギルド長も強い者がなれるのだ。馬鹿でも、頭を使う仕事は秘書に任せて、荒事を解決する側に回ればいい。
ガリオン国は実力主義のため、いざこざが多いからギルド長は強い者が勤めたほうがよいのは間違っていないだろう。
そして、メルアは前ギルド長に決闘を挑んだのだ。前ギルド長は、元Sランクのベテランだったが、SSランクの実力を持っているメルアには及ばなかった。
いい戦いだったが、最後に疲れで、メルアの動きに追い付けなくなり、前ギルド長は負けた。
パーティを解散したばかりのメルアは鍛練を欠かしていなかったため、体力の差が現れた形になった。
こうして、メルアはギルド長になったのだ。
輪廻がダンジョンに向かった後、メルアはギルド長室に戻っていて、椅子にポンと座って息をついていた。
「……ふぅ、あんな戦いを見せてくれては、私も戦いたくなるじゃないか。くくっ……」
メルアは強い者がいたら挑みたくなる。さっきの戦い、シエルは見事だったと認めていた。前に戦ったことがある輪廻と比べたら物足りさがあるだろうが。
「あの時を思い出すな。な? エリタ?」
「まだドアを開けていないのに、話し掛けないで下さいよ」
ドアを開けて、ギルド長室に入るのは、妖孤族の女性、秘書を承っているエリタと言う。
「ドアの前で待機していたエリタが悪い。何をしていたんだ?」
「貴女の闘気が漏れていたので、収まるまで待っていようと思って」
「ちっ、いつになっても相手をしてくれねぇよな」
「私は弱いですからね」
エリタの言う通りに、エリタはBランクの実力しかなくて、メルアの相手なんて自殺行為だと言っても間違っていないだろう。
「むぅ、”妖術”って奴、見たいんだよ」
「だから、私が使う”妖術”なんて、人に見せられるほどではないので、見せたくはありません」
メルアは戦いたいと言うより、”妖術”を見たいだけでエリタに突っ掛かっているようだ。
「そんなことよりも、あの時って、いつのことですか?」
「話を戻しやがって。まぁ、いいけどな……。あの時と言うのは輪廻が来た時だ」
「ああ……、アレですね」
「あの時の慌てよう、面白かったな! あははっ!!」
「むぅ、笑わないで下さい!」
まだ笑いつつ、あの時のことを思い出していた。そう、今から一週間ぐらいだろうか…………
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一週間ぐらい前、ギルド長室に慌てて入ってくる者がいた。ドアをバタンッと開けて、仕事中だったメルアは眉をしかめるのだった。入ってきたのは、秘書をしているエリタだった。
「なんだ、緊急事態のことが起こったか? 魔人でも攻めてきたのか? それとも、魔物の大群か?」
メルアはエリタの慌てようから、緊急事態だと予想したのだ。だが、どれも違ったようで、エリタは横に首を振るのだった。
「い、いえ、緊急事態のようなモノですが、どれも違います!」
「なら、なんだ? さっさと説明しろ」
イライラしてきて、言葉に刺が出ていたが、エリタは気にせずに手に持っていた手紙を渡してきた。
(……これは、エルフ語? はぁっ!? こ、この押印は王族のモノじゃねぇか!?)
開け口に押印があり、それは王族からの手紙である証拠だった。それなら、エリタが慌てるのもわかる。
「まさか……、エルフ王からの使者が来ているのか?」
「え、ええと……、1人はエルフでしたが、あと2人は……」
どういうことだ? と疑問が浮かぶのだった。エルフ王からの使者なら、殆どはエルフが来るはずだが、エリタの話を聞くには、残りの2人は人間で、子供とメイドだと言う。
(もしかして、エルフ王の使者じゃない? いや……、この手紙は何だ?)
まだ手紙は見ていない。使者が来ているなら、この手紙は使者がいる前で読まなければならないのだ。
前に読まずに切り捨てる馬鹿がいたから、今後からは使者が届けに来たなら、使者の前で読むことが常識になっている。
「……とりあえず、あいつらを呼べ」
「わ、わかった」
エリタはエルフ王の使者だと思える3人を呼びに行った。
(さて、どうすんかな。王からの手紙が来ているということは、何かが起こったということだ)
しばらく考え事をしながら、待っていたらノックが聞こえた。どうやら、考え事をしている内にドアの向こうまで来たようだ。
「入れ」
エリタがドアを開けて、3人の姿が見えるようになる。
(本当に、ガキ、メイド、エルフじゃねぇか)
見た目では、奇妙な組み合わせだなと感じられたが、メルアがガキだと思っていた男と目が合うと…………
「っ!?」
メルアは腕には愛用している武器を付けており、後ろに飛びのいて警戒していた。エリタはそれを見て、目を丸くしていた。
「へぇ、俺達の実力がある程度はわかるみたいだね」
「何者だ? エリタは気付かなかったみたいだが、私にはお前がガキだろうが、騙されねぇぞ? ガキの皮を被った化け物じゃねぇよな?」
見た目はガキで、魔力も抑えているみたいだが、眼から何かを感じたのだ。漠然な気配だが、メルアは強者の眼だと本能で判断したのだ。
得体がしれない存在に、身体が反射的に警戒をしていたわけだ。
「で、警戒を解いて手紙でも読んでよ?」
「……これがあったな」
エルフ王からの手紙、これがあるから、得体がしれない存在だろうが、エルフ王の使者である可能性が高い。
警戒を解くが、距離は取っておく。
「警戒しすぎねぇ?」
「アホ言うな。後ろにいるメイドから殺気をビンビン出しているんだぞ?」
「チビ獣が、御主人様をガキと言うからですよ? 次からまた言ったら、排除しますよ?」
「チビと言うな。クソメイドが、反対に排除してやろうか?」
ギルド長室の中で殺気が充満する。エリタは既に部屋を出て離れている。巻き込まれないように、すぐに動いていたのだ。
「こらー!! 喧嘩をしてないで、話を進めようよ!?」
「年増エルフは黙りなさい」
「あぁん? お前も邪魔をすんのか?」
テミア、メルアはギロッと、眼をシエルに向けるとシエルはビクッと輪廻の後ろに隠れていた。
「あー、今のはシエルの言う通りだな。テミア、下がっていろ」
「……畏まりました」
「で、こっちの者が悪かったな。話をしようぜ?」
「……ちっ、いいだろう」
お互いは矛を収め、ポンと椅子に座るメルア。喧嘩が起こらないのがわかったのか、扉からエリタが戻ってきた。
「もう! ここで戦わないで下さいと、いつも言っているじゃないですか!」
「うっせーな、で、お前らの用事はこの手紙だけか?」
「いや、それを読み終わったら、一つだけ頼みがある」
「面倒くせぇな……」
まず、手紙を読むことに。手紙の内容は…………
「なぁ、あの魔人イアがアルト・エルグに現れた!?」
「え、えぇぇぇーーーー!?」
手紙の内容は、魔人イアがアルト・エルグに現れたことだ。
アルト・エルグに現れたなら、西の地にある国の何処かに現れてもおかしくはないのだ。
「成る程な、魔人イアの手先からエルフ王から助けたから、その繋がりが出来たわけか」
「たまたまだけどな」
「ふむ……、魔人イアの件はわかったが、次の用事は何だ?」
手紙を読み終わったら、頼み事があると言っていた。
「難しいことじゃない。何処かの温泉を貸し切りに出来るようにして欲しい。こいつらと入るからな」
「温泉を……?」
温泉を貸し切りにするのは、普通は無理だ。何故なら、温泉目的に来る客が多くて、金も温泉で回っているのだ。
その温泉を一つといえ、貸し切りにすることは、宿の方に損が出来てしまう。温泉に入るのに、お金を取っており、沢山の客が来ているとなれば、わかるだろう?
「……って、なんで私に頼むんだよ? ここの国王がいんだろ」
「ここは実力主義だろ? 国王よりも強いお前は、国王より権力が強い。違うか?」
「……チ、知っていたか」
惚けて、面倒事を回避しようとしたが、輪廻には見抜かれたようだ。
「だったら、わかるな?」
「ええ、自分より弱い者の頼みは聞きたくないでしょ?」
「はっ! わかってんな。で、やんのか? 頼みを聞くのは面倒だが、戦いなら別だ。いつでも受けてやる」
さすが、バトルジャンキー。それに、輪廻の答えは…………
「今から一対一で勝負しよう。ここに生死の結界はあるか? つい、殺してしまったら頼み事を聞いてもらえないからね」
「ほぅ、いい度胸だな」
メルアはニヤッと口を歪めて、目の前の輪廻を見る。実力はわからないが、強者だと本能が教えてくれる。
そして、メルアは輪廻と戦うことになったのだ…………