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第五十一話 魔人イシュダラ



 魔人と言うのは、言葉を話せる程の知能がある魔物のことを言う。

 強さや人型にこだわらず、別の体型でも言葉を話せるなら魔人と定義される。


 例に、テミアも身体を持たない瘴気の化け物だが、念話で話すことも可能なら、魔人となる。

 その魔人が有名になる程に、二つ名が付く。冒険者でも有名になれば、『暴竜』のような二つ名が生まれる。




 で、今回倒しに行く魔人は魔人イシュダラと言い、『墓場の守人』と二つ名が付けられる程に有名である。南の地にはSランク以上の魔物、魔人、冒険者が活動している中で、魔人イシュダラはAランクだが、生き残っていた。

 その有名な魔人が何故、西の地にいるのかわからないが、Cランク程度の魔物しかいない『タクト沼』に現れたから、輪廻達が向かうことになった。




 話が変わるが、この世界、『ゼアス』は四つの大陸に別れており、東、西、北、南と分かりやすくなっている。その四つの大陸で様々な生き物が生きていて、輪廻が召喚されたティミネス国やラディソム国、アルト・エルグ等は西の地になる。


 次に、魔王や強力な魔人がいるのは東の地と言われている。何故、曖昧なのかは、今まで行って生きて帰った者はいないからだ。

 東の地には、魔界に繋がるモノがあり、魔王が現れたと言う歴史になっているのだから、東の地には魔王がいると考えているだろう。

 東の地も、元は人間達もいたのだが、魔王が現れて、侵略されたのだ。殆どの人間、エルフ、獣人、ドワーフは西の地で生活している。南や北の地は半分ぐらい侵略されているが、強い者が集まっているから何とか押さえられている状態である。




 といった経緯から、南と北の地には、強い者が集まっているわけだ。


 魔人イシュダラはどうやって来たかわからないが、何故、単独で南の地から西の地にいるのか? SSランクの魔人イアと比べれば、たかがAランクの魔人が単独でアルト・エルグに近い『タクト沼』に現れるのはおかしなことだ。

 敵の陣地に単独で現れたのと変わらない蛮行でもある。




 輪廻達は今、魔人イシュダラを倒すために、『タクト沼』まで来ている。









「ここが『タクト沼』かぁ。小さな沼だらけだな」


 輪廻達は三日間かけて、『タクト沼』まで歩いた。目の前には、小さな沼がチラホラと見えて、足場はあるが、戦いになると嵌まりそうだなと思えた。

 話によると、沼は脚の膝には届かない深さで、沈むことはないが、戦いの途中に脚を取られる可能性があるから気をつけることに。




「ここに着いたが、何処にいるんだろうね?」

「『タクト沼』の奥に大きな沼があって、そこで襲われたと言っていましたわ」


 テミアはいくつかの沼を指で指し、シエルとエリスに言う。




「この沼を避けて行かなければならないですね。年増エルフ、残念胸の娘! 身体を張って、御主人様と私の足場になりなさいな」






「「ふざけんなよッ!?」」






 テミアがそう命令を出すが、やっぱり2人は断った。




「それに、また残念胸の娘と!」

「エリス……、それは諦めて下さい。私も何回か言っても止めてくれなかったから……」

「貴方も苦労しているのね……」


 2人はお互いが肩に手を置いて慰めていた。それはそれとして、『タクト沼』の奥まで知っているエリスに案内してもらうことに。









「余り魔物に出会わないな?」

「魔人がいるからじゃない?」


 魔人イシュダラが現れたせいで、この辺らには魔物がいない。魔人イシュダラと戦う前に余計な戦いをしなくて済むのは助かる。




「ただ、あの沼から何かの気配を感じるな?」

「はい、私も感じますね。ここにいる魔物は気配を絶つのが上手いと聞いたのですが……」


 テミアの言う通りに、ラウドから『タクト沼』には気配を隠すのが上手い魔物が大量に生息していると聞いた。

 ただ、『タクト沼』にいる魔物の全てが、気配を隠せるわけでもないかもしれない。




「間違いなく、何かがいるんだが、沼の中にいるんじゃな……。シエル、やっちゃって」

「撃てばいいのですね」


 輪廻は臭いが酷い沼に触りたいとは思えないから、シエルに矢を射ってもらう。

 雷の矢で何発か沼の中に撃ってもらう。




(む、気配が消えたな。何者かわからないが、死んだな)


 シエルが撃った場所から何かが浮かび上がってくる影が見えてきた。何かが浮かび上がってくるのか見ていたら…………




「人間!?」


 沼の中から浮かび上がってきたのは、シエルの射った矢で胸に傷跡が出来た人間だった。さっきまで気配から、まだ生きていたが…………、さっきの攻撃が命を刈り取ることになってしまったようだ。




「何故、人間が……?」

「っ! これは罠だっ!!」


 輪廻はすぐに声を上げるが、立っていた場所から土が盛り上がり、身体に巻き付いてきた。




「なっ、これは土魔法!?」

「……敵の攻撃ですね?」

「ああ、あれは話にあった冒険者だろうな。1人だけ残して、囮にした。そうだろ?」


 全員が土魔法で拘束されている中、輪廻は冷静に説明し、この惨状を起こした犯人に話し掛けていた。

 そして、輪廻達から少し離れた場所で土が盛り上がり、形を作っていく。






「ふふっ、賢いお子様もいたもんだね。名前を聞かせても?」

「相手の名を聞く前に、自分から名乗るのが筋だろ?」


 輪廻は拘束されていて、動けない状態なのに、普段通りだった。その態度にギョッとしていたのはエリスだった。

 エリスは目の前にいる昆虫の触角を持ち、黒い鎧のような腕をしている人型が、誰なのかわかっていたから、拘束されている今は刺激をして欲しくなかったのだ。




「ただの子供とは思えない肝をお持ちですね。私はイシュダラと言います。これでも、一応有名なのですがねぇ」

「知っているよ。『墓場の守人』とか呼ばれていたな。俺はお前を倒しに来た輪廻だ。覚えとけ」

「やはり、知っていましたか。ワザと、1人だけ逃がしてあげたので、情報が伝わっていないのはおかしいですからね」

「ふーん……」


 つまり、魔人イシュダラは冒険者を誘い込むために、1人だけ逃がして情報を広めた。つまり、次の獲物は輪廻達ってわけだ。




「それはどうしてだ?」

「もう死ぬ貴方には教える必要がないですね」


 もう情報をばらすつもりはないみたいので、輪廻はテミアに指示を出した。




「テミア、もういいぞ。やれ」

「はい」


 テミアは土の拘束から逃れるように力を込める。テミアに纏わり付いている土がピキピキッ……と音を立てて、バァンッ! と壊れた。




「ほぅ……」


 テミアは大包丁剣を取り出し、輪廻達を拘束する土魔法を切り裂き、壊した。




「これで動けるようになったが?」

「それは、1000そこらの筋力では壊せないのですがねぇ」


 イシュダラは余裕があるように、こっちを観察していた。だが、テミアが先に動き、大包丁剣でイシュダラの胴を切り裂くが、




「偽物? ……「下がれ!」っ!?」




 テミアが下がり、元からいた場所は鋭いトゲのようなのが刺さっていた。




「本体は隠れている!! 周りだけではなく、下にも警戒しろ。魔力を感じたらすぐに離れる!!」

「「はっ!!」」

「わ、わかったわ!!」


 輪廻が指示を出して、警戒する。さっきのイシュダラは土の人形で、崩れた土に戻っている。




「また土の人形!?」

「1……5……10体以上はいるわ!」


 アリの昆虫魔人であるイシュダラは土魔法を操り、今のように数で攻めていく戦法が得意で、本体は全く出てこないのだ。

 今も本体はいないだろう。輪廻は土の人形よりも、地面に注視していた。足元からの攻撃は魔力を感じ取らないと避けられないから、土の人形は他の皆に任せる。




「偽物を斬っても意味がないのですが……、やるしかありませんね」

「ああ、本体をあぶり出す策を考えとくから、時間を稼げ」

「畏まりました」


 土の中に隠れているなら、外に出てくるようにしなければ、こっちの攻撃が当たらない。




「”打波”」


 エリスが早速、大技で周りにいる土の人形を蹴散らしていた。ちゃんと輪廻達がいる場所を避けてだ。




(へぇ、上手くコントロールするな……)


 仲間を避けて、敵だけを蹴散らすなんて、精密なコントロールが必要になる。それをエリスは、難無くこなしてみせた。




「やっぱり、すぐに元通りになるわね」

「土の人形だからな。魔力を無駄にしないようにしとけ。本体が現れない限り、持久戦になりそうだからな」

「わかったわ」


 輪廻は魔力を察知することに長けている。前の世界には魔力がなかったからなのか、前の世界と『ゼアス』の差が感じ取れるのだ。前の世界にはなかった違和感が、魔力だと輪廻は理解しており、その魔力察知で本体を探す。だが、深く潜っているか、魔力察知の範囲から外れているのか、なかなか見付からなかった。




(これは、思ったより苦戦するかもな……)


 苦戦するのは、戦いのことではなく、敵を見つけることにだ。

 魔力察知で見つからないなら、他の方法で見付けるしかないと、輪廻は考えるのであった。







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