第四十一話 Sランク
『魔力爆圧』→『魔力暴爆』に変更しました。
テミアが相手をするのは、Sランクの冒険者であるエリス。
エリスは人間の魔術師であり、少し派手なローブを着ており、装飾も付いていた。その装飾から魔力を感じたから魔道具だと予想出来る。エリスの容姿は、十代後半に見えて、とても可愛い部類に入る。身長は高くはなくて、150センチに届くかだった。
胸の方は…………、テミアが言っていた通りに残念だった。
「残念胸の娘。先手を譲るわ」
「残念胸と言うなっ!!」
毒舌が働き、エリスは顔を赤くして、水色のオーブが嵌めてある杖を上げる。
そうすると、エリスの足元から波が現れる。それは予選で見せた技と同じだった。凄まじい水の量がテミアに襲い掛かる。
「年増エルフ、見てなさい。こうして破ればいい!!」
視線だけシエルの方に向けて、大包丁剣で波を一刀両断する。波は二つに割れて、テミアの横を通り抜ける。
「簡単でしょ?」
大包丁剣を肩に抱えて、言うが、シエルは「出来るかぁぁぁ!!」と叫んで、周りにいた観客も呆気に取られるか、ウンウンと頷いていた。
「なんてな馬鹿力なのよ……、この”打波”をこうして破ったのは貴女が初めてよ」
「この程度で終わりではないよね? さぁ、私に見せなさい」
「偉そうに……」
杖が光り、周りに水が現れて3体の水蛇が現れる。どうやら、あの杖が大量の水を生み出しているようだ。
”打波”を発動していた時も杖の青いオーブが光っていたことから間違いないだろう。
魔法で生み出される水は、魔力で出来ているが、あの杖の効果で、周りにある水分をかき集めて増幅させている。
だから、エリスはあんな量の水を一瞬に準備出来るのだ。
だが、あの杖を壊してしまえば、戦力が半減するのは予測出来る。
「次は水の蛇ですか。何匹出そうとも無駄ですよ」
「無駄かはやってみればいい」
人間の倍はある2体の蛇がテミアの元に突っ込む。蛇は浮いていて、スピードは中々早い。だが、テミアからにしたら、遅いぐらいだった。
「ただの水に戻りなさいな!」
テミアは水の蛇を両断し、空いた手でもう1体を殴り飛ばす。そのまま、エリスの元に向かうが…………
「水には、剣や拳は効かないわ」
蛇がすぐに復活して、テミアの足を止める。そこに、エリスの傍に待機していた蛇が水鉄砲を撃ってくる。
「斬っても復活するなんて、ウザいですね。やはり、術師をやった方が早いですね」
水鉄砲を避けながら、エリスがいる場所まで走る。敏捷は高いから1、2秒はあればエリスの前まで行けるが…………
「かかった」
「っ!?」
今まで、石畳の中に隠していた水が吹き出し、テミアを包み込む。さらに、水の蛇もテミアに絡み付き、水の量が増える。
今のテミアは水の塊に閉じ込められている状態で、息が出来ていない。身体は浮いていて、地に付いていない。
泳いで空気がある場所まで行こうとするが、同時に水の塊も動く。大包丁剣を振っても、水圧に邪魔をされて吹き飛ばす程の威力が出ていない。
これでは、テミアは出られず、息ができなくて死んでしまう。
「どうやって死なさせようか考えたら、今の状態がいいと思ったの」
「…………」
テミアは空気を無駄にしないように話さない。しかし、何も出来ないならそのまま死んで負けてしまう。
『おおっ!? テミア選手は水の塊に閉じ込められて、絶体絶命だっ! このまま、試合が決まってしまうのか!?』
レディナや観客達はこの状態を見て、決まったと思ったようだ。現にも、テミアは何も出来ないのだ………………、あれ? と輪廻は違和感を感じた。隣にいるシエルも同じようなのを感じたようで、首を傾けていた。
「……? 貴方は何を……?」
エリスも気付いたようだ。テミアの体内に魔力が集まっていることに…………
「”魔力暴爆”」
テミアがそう呟いたと思ったら…………
ドバァァァァァァァァァンッ!!
テミアを中心に爆発が起きた。いや、爆発したと言うより、テミアの体内で何かが起こり、水の塊を吹き飛ばしていたのが正しいだろう。
「なっ…………、っ!?」
エリスが驚愕している時に、テミアはすぐに動いて右手を切り落としていた。
肩から下の右手を斬られたエリスは、痛みを感じても、すぐに右手を拾い、後退していた。
「いっ、……”再水”」
エリスは拾った右手を肩に押し当てると、水が集まっていた。”再水”は回復の効果がある水魔法なのだ。
(ほぅ、水魔法には回復魔法があるみたいだな……。それにしても、テミアは無茶をするな……)
輪廻はテミアが何をしたのか、大体はわかっていた。”魔力操作”で魔力を身体の中心に集めて、その魔力を暴走させて解放したのだ。
それで、爆発に似た現象を起こして、厄介な水の塊を吹き飛ばしたわけだ。当のテミア本人も無傷ではなく、口から血が出ているのが見えた。
おそらく、内臓破裂はしてなくても骨の何本か逝っている可能性が高い。
テミアは体内にある瘴気で回復を促進させることが出来るが、骨が折れているのでは、何分かでは治らないだろう。
「ゴホッ、魔力を暴走させてみたけど、成功したみたいね……」
「貴女はっ……、無茶なことをして破ってくるとは!」
テミアがしたことは殆ど捨て身に近い。もし、テミアではなく、輪廻がやったら水の塊から解放されても、一撃を入れるのは難しいだろう。さっきのはステータスが高いテミアだから、堪えられたのだ。
「ふ、ふははっ! 魔力の節約を考えていたら、貴女を倒せそうはないな。本気でやらせてもらう!」
「セリフが負けフラグっぽいのですが、いいのですか? 残念胸の娘よ」
「また残念胸とっ! 許さない許さない!!」
エリスが本気で動こうとしたが、それは叶わなかった。
何故なら…………
「……え?」
「何、この黒い檻は……」
2人が闘技場ごと、黒い檻に閉じ込められていたからだ。
(何が……? それって、闇魔法?)
シエルを見ると、驚いていたが、すぐに気付いたように輪廻の顔を見て言ってくる。
「間違いない! あれは”魔牢”よっ!」
「まさか、ここに闇魔法が使える奴が?」
観客も現れた黒い檻に動揺している。2人とも閉じ込められているから、2人がやったことではないのがわかっている。
なら、誰が……? と疑問が出ていたが、すぐにわかった。
エルフの王であるラウドに向かっているフードを被った男がいたからだ。
親衛隊とラウドもそのフードを被った男がこっちに向かっていることに気付いた。親衛隊の3人が前に出て、止めようとするが、1人は”魔矢”で心臓を撃ち抜かれてしまう。
残った2人がラウドの盾になり、向かってくる男を迎え撃つが、双剣で切り裂かれてしまう。
「ぐあっ!?」「ぐっ!」
巧みな技で、親衛隊の攻撃を受け流し、腕を落として腹を切り裂いていた。
そのまま、ラウドに攻撃しようとするが…………
「させっか!」
「むっ!?」
輪廻が間に入り、ナイフで双剣を受け止める。そこに、ラウドが後ろから十本ぐらいの火の矢を撃ち出す。輪廻を上手く避け、敵だけに向かっていた。
「ちっ!」
敵は後ろに下がりながら矢を撃ち落とす。そして、顔を隠していたフードが掠って落ちた。それで、男の正体がわかった。
「その双剣で、もしや…………、と思ったが、やっぱりお前だったな」
「ふっ、まさか少年が助けるとは思わなかったな」
フードを被った男の正体は、第一試合で輪廻と戦ったロニーだったのだ…………