第十六話 瘴気
本日一話目
朝に王城から出発した英二達。パーティのリーダーは英二に決まり、ゲイルは監督のような役割となった。
「まず、ここでギルドカードを作っておく。身分証明書の変わりになるからな」
「確かに、他の国に行くなら身分証明書は必要ですね」
ギルドに入っていくゲイルと英二達。朝早いからなのか、冒険者は少なかった。
「ギルドカードの登録を頼む」
「あ、ゲイルさん? もしかして、その子達が?」
受付嬢はあのリーダだった。勇者や輪廻のことを昨日、ゲイルから話を聞いているから大体のことは把握している。
「まさか、輪廻様が召喚者の1人だと思いませんでしたよ。召喚者達って、それ程に強いのですか?」
「いや、輪廻が特別だっただけだ。召喚者の中では一番の実力者だったからな」
「そうだったんですか!? 皆様がDランクの冒険者より強かったり、ゴブリン30体以上を無傷で倒せたりはないですよね?」
「いきなりやれと言われても無理だと思います」
英二がその質問に答える。
「あの、貴方は……?」
「自己紹介が遅れました。僕は英二と言います。これでも一応、勇者です」
「あ、勇者様でしたか! 勇者でも無理なのに、輪廻様は一体何者ですか……?」
リーダも輪廻は一体何者なのか気になったようだ。職業も教えて貰えなかったから、わかることは少ないのだ。
「一体、職業はなんだったのかしら……?」
「本人から剣士と聞いているが……?」
英二達は輪廻の口から剣士だと聞いたからそう思っていたのだが…………
「剣士? 輪廻が戦っている時は、剣ではなく、ナイフを使っていましたが……」
「ナイフだと?」
「あー、多分職業も隠してんな。剣士の剣術ではナイフは含まれないからな」
剣術を持っている剣士の貴一が言う。訓練の時、試しにナイフを使ってみたが、剣ほどに使いやすい物ではなかった。
おそらく、剣術のスキルを持っているから剣の補正が付いているが、ナイフは付いてないと貴一は考えている。
「職業も違う……? なら、剣術なしでゲイルさんに本気を出させたのか?」
「ゲイル様に本気を出させたの!?」
英二の言葉に驚愕するリーダ。ゲイルは前に冒険者をやったことがあり、その時はBランクだった。
「ああ、輪廻はステータスに頼った戦い方ではなくて、技術で戦うタイプだったからな。輪廻はステータスの差を埋める高い技術を持っていたから、その時は本気で避けてしまったな」
「そうでしたか……」
「ただ、輪廻君のステータスを見せてもらった人はいないから、ステータスも英二のを越えていたと言う線も捨て切れないわね」
「ああ、あいつならやりかねないな。剣士じゃなくても剣術を持っている可能性もあるけどな」
「輪廻君って、そんなに凄かったんだね……」
全員分のギルドカードが出来るまで輪廻のことを話しつつ、待っていた。
「全員のギルドカードは出来たな?」
「はい、大丈夫です」
「よし、旅の方針だが……、輪廻はおそらく近くの国に向かうだろうな」
「近くの国……、もしかしてラディソム国ですか?」
「ああ、絢はちゃんと学問を習っているな。そこは周りに三つのダンジョンがあり、冒険者が集まる国だ」
「なんで、そこにと向かうと?」
旅に出るとしか知らないから、何処に向かうかはわからないのだ。何故、近くの国だと言えるのか?
「輪廻は冒険者のギルドで登録していた。つまり、冒険者をしながら旅に出ると考えているはず。まず、レベルを上げるために、何処かのダンジョンに潜ると考える可能性が高い」
「だから、ダンジョンが多いラディソム国なんですね」
まず、レベルを上げるためにダンジョンに潜るのも納得出来る。ダンジョンにいる魔物は外にいる魔物より経験値が多いからだ。
「輪廻にDランクの冒険者を倒す力があるなら、ここら辺にいる魔物では弱すぎて経験値が美味しくないと考えて、この国に長く滞在はしなかっただろう」
「それに、兵士達が捜しに来たら、見つかってしまうのもあるわね」
「何故、旅に出たかったのかな……?」
わからないことがもう一つある。何故、皆に黙ってテミアだけを連れて旅に出たのかだ。
「それはわからないから、聞くために会いに行くだろう?」
「うん……」
顔が晴れない絢。その様子に、晴海が絢にしか聞こえないように、小さな声で耳に語りかける。
「もしかして……、輪廻がテミアという子と駆け落ちしたと考えてない?」
「ふぇっ!?」
「それだったら、落ち込むのはわかるけど…………」
「ち、違うよ!? そんなこと考えてないから!!」
「あら、違った?」
「そうですよ!!」
ニヤッとする晴海を見て、絢はからわれたとわかって顔を赤くして頬を膨らませていた。
「……わざなのね? テミアを連れていった理由はわかっているんだから」
「実力があると見抜いたから連れているでしょうね」
「わかっているなら、言わないでよ」
まだ頬を膨らませているが、さっきほどに暗くはない。つまり、晴海の目論みは成功したということだ。
「ははっ、晴海もありがとうな」
「えっ?」
「絢に元気が出るようにやっただろう?」
英二からお礼を言われて呆けていた晴海だったが、その理由がわかり、胸を張る。
「当たり前でしょ。友達で、パーティの仲間なんだからっ!」
「あははっ、なら次は上手くやった方がいいぞ。まだ顔が赤いじゃないか」
「仕方がないでしょ。輪廻君のことになると時々、壊れちゃうんだから、今の状態がベストなのよ」
「まぁ、そうだな。輪廻君は絢に愛されているな」
「だけど、置いて行ったのはマイナスね。少しは手ほどきが必要かしら?」
「うーん、輪廻はまだ絢から好かれていると気付いてないだろ? あいつのせいより、絢の自業自得だと思うけどな」
そう言って、貴一は笑う。自業自得なのは確かなのだから、晴海は何も言わなかった。
そこは、絢本人が頑張らないといけないところであり、晴海が輪廻に教えるなど、野暮なことをするべきではない。
「よし、出発するぞ」
皆は国王から支給された武器を持っている。国王から支給されたといえ、身に合わない強い武器を渡されても扱えないから、兵士と同等の武器を渡されているのだ。
その代わり、お金は1人金貨10枚と持たされており、強くなったら自分で買い替えることが出来る。
旅に出る準備は終わらせており、5人は万全の状態で旅に出たのだった…………
−−−−−−−−−−−−−−−
輪廻とテミアは道がない森の中を歩いていた。何故、整地された道を進まないのか、理由はこの瘴気にある。
今、瘴気を使って、荷物を浮かせて運ばせているのだ。
「瘴気って、凄い便利だな〜」
「ありがとうございます。瘴気による周辺の察知も出来ますので、不意を討たれることはないかと」
テミアは身体の一部である瘴気を周りに散らばって、生き物がいないか察知が出来るのだ。
テミアの能力であり、一部でもある瘴気は、魔界特有の毒であるのだが、察知させる瘴気は毒ではなく、神経を張り詰めた瘴気で、生き物に触れたらテミア本人に伝わるようになっている。
察知が出来る瘴気を拡げる距離は半径20メートルなのだが、戦いに使う毒の瘴気は半径5メートルまでしか拡げられない。
「瘴気はいくらでも出せるのか?」
「限度はありますが、使った分は魔力を消費して回復出来ます。ちなみに、魔力は一晩はすれば全快します」
「ふむ、テミアも睡眠が必要なんだ? 昨日は寝てないみたいだが……」
「魔力を全く使っていなかったからですね」
「成る程、睡眠は魔力を回復させるために必要な行動ってわけか」
魔力を使ったら睡眠が必要だが、使わなかったら睡眠を取らなくても問題はなさそうだ。
「今、拡げている瘴気は元に戻せるの?」
「はい、戻せます。瘴気が消費される時は、相手の身体に潜り込ませた場合と、魔法によって消される場合ですね」
「ほうほう、やはり戦いではないと消費出来ないと……、やっぱり便利だな」
荷物を運ばせている瘴気を見てそういう。
便利だが、この瘴気は誰にも見せられない。普通ではないからだ。なので、整地された道を使わずに森の中を進んでいるのだ。
でも、整地された道からそんなに外れていなく、道の隣にある森の中を歩いているのと変わらないから、迷子になることはない。
「あ、10メートル先に魔物が一体いますが、どうしますか?」
「そうだな……、瘴気を使った戦い方を見せて貰えるか?」
「了承しました」
しばらく歩くと、狼の魔物が一体だけ見付けた。狼は待ち伏せをしていたのか、こっちを見て唸っている。
「あれ、狼は集団で行動しているんじゃなかったっけ?」
「おそらく、はぐれだと思います」
「はぐれかぁ、はぐれは他の同族より強いイメージがあるんだが……」
「いえ、確認したら特に強くはありませんでした」
輪廻も鑑定を使ってみると、レベルが2で、ステータスは敏捷が80だが、他は50以下だった。
ゴブリンのを見ていないからどっちが強いかわからないが、確かに強いとは思えなかった。
「まぁいいや。さっさとやっちゃって」
「はい」
テミアは毒の瘴気を出し、狼を捕まえるように纏わり付かせる。
狼は瘴気が危険だと察したのか、逃げようとするが、瘴気の方が早かった。
「ギャウッ!?」
瘴気に捕まってしまい、動け無くなった狼の口に入り込み、毒で殺した。
それらを5秒で終わらせたテミアは殺せて当たり前のような表情をしていた。
そして、こっちに終了したと伝え、礼してきた。
(やはり、テミアはメイド服が似合うんだよな。それに、瘴気は触れてもダメージを受けていなかったから口径摂取させないと駄目みたいだな)
輪廻は瘴気のことを分析していく。
「お疲れ。やはり、ここら辺の魔物じゃ、相手にならないな」
「はい、ダンジョンの魔物なら経験値に美味しいでしょうね」
「そうだな。出来れば早くラディソム国に行きたいが、歩いて一週間の距離があるからな」
馬車があれば、4日で着くかもしれないが、今回はたまたま馬車が出てなかったこともあり、早めに出ないと兵士達に見つかるから歩きで行くことにしたのだ。
「まぁいいか。急ぎの旅ではないし、ゆっくり行くか」
「はい、私は御主人様に着いていくだけです。歩きでの旅は嫌いではありませんから」
「そりゃ、良かったよ」
このまま、狼の死骸は放って、先に進んでいく。まだ一週間もかかるのに、荷物が増えるのは望ましくないから、剥ぎ取るならあと1、2日で着ける距離になってからだ。
次は昼頃になります。