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雫の堕ちる場所
作:十波 悠真



bad end


いつもの朝。変わらない7時30分。毎日が繰り返されているようで退屈だった。入学したころは、ここまで冷めてはいなかった。
もっと目的意識が強かったと思う。
でも2年、3年になるにつれて積極性が湧き出てこなくなる。
「・・・また学校に行かなきゃならないのか」
動こうとしても布団の気持ち良さが、身体の行動を阻止する。
「このまま寝ていられたら幸せだなぁ」
沈黙が部屋を包み、時計の音が大きく聞こえる。しばらく惚けていると、1階から
「仁君〜!!早く起きなさい!!遅刻するわよ!!」
怒声が響き渡る。
せっかくの安らぎの
時間を!
「あ〜。今日は休む」
「何言ってるの!終業式まであと少しなんだから、ちゃんと行きなさい!!」
・・・そういえばそうだった。終業式までもう1週間ちょいしかない。
でもだからと言って、なにかが変わるわけでもないだろうに。
「早くしなさい!!」
「あ〜もう!わかったよ!!」
これ以上の罵声もうんざりなので、着替え始める。
この制服もやっと卒業かと思うと開放感がくる。
ちゃっちゃと着替えを済ませ、下に降りると母が朝食の準備していた。
「朝ご飯はいる?」
「いらない」
「少しぐらい食べない?」
「だからいらないって」
このやり取りも毎度の事でかなりめんどくさい。
リビングで時間を確認した後、洗面所で顔を洗い、歯を磨く。寝癖を直し、改めて時間を覗くといつもの7時50分。
そろそろ出ないと遅刻しそうだな。
靴を履き、ドアを開ける。その時目に映った空は
平生とは合わないことに
俺は気付かなかった。



キーンコーンカーンコーン。
チャイムが鳴ると同時に校門に駆け込む。
結構ギリギリで危なかったな。電車は少し遅れたし、途中で走ってなかったら間に合わなかった。
過去の自分の行為に少し親愛感を持った。
階段を上がり3ー1の教室に入る。この瞬間の視線がなんか痛い・・・。
窓際の1番後ろという、誰もが1度は座ってみたい席に腰をかけ、机にもたれる。
このクラスにも3年になって1ヶ月も経たない内に飽きた。
馬鹿みたいに騒ぐ奴も、
それを見て笑ってる奴も、注意する教師も、
ひそひそと
陰口を向ける奴らも、
全員がうっとうしかった。だから俺にとって卒業は
めでたい事だ。
別れたくないとか言う神経はおかしいんじゃないか?こんなつまらない日々に、名残惜しいものなど普通は何もないだろ。
「・・・ほんと、つまんねえなぁ」
・・・俺はたぶん、楽しい日々に変わるようにしたいから、こんな事ばかり愚痴ってるんだろうなと実感していた。

キーンコーンカーンコーン。
本鈴が鳴り、担任の教師が入ってくる。
今日は何やら3年間の作文を、400字原稿用紙5枚分を書いて、終わった奴から帰っていいという
殺戮的な学校側の虐めだ。実は言うと、
俺は作文で神懸かり的に下手くそと称され、呼び出しまでくらった事がある。
「マジかよ・・・」
今までダラけて歩いて来た道を、何でいちいち文にしなきゃならねぇんだ・・・。 心の奥底で真剣にこの企画を考えた奴を恨んだ。
1時間後、クラスに一人はいる何故か馬鹿なのに早い奴が、教壇の椅子に座っている教師に提出する。
「・・・ほんと謎だよな」
普通はそんな書くことないだろう?
適当にみて教師からOKが出ると、
真っ先に帰る不思議ちゃん。その後も次々に皆が提出していく。情けない気が、時間が経っていく毎にのしかかる。
3時間後、とうとう俺と教師しか教室に残っていなかった。
「小波〜。まだできんのか?」
教師が痺れを切らしたのか、今まで黙っていた口が開く。
「えっ?あっはい。まだっす・・・」急いで作文の続きを書く。が、まだ一文字も書けていなかった。
「そんなに苦手か。作文」2人しかいない教室で
教師は話を続ける。
「なら、楽しい事を書けよ。どんな些細な事でもいいんだから。目標でも夢でもいいんだぞ。少しくらいあるだろ?ん?」
「・・・すんません。全くないです」
そう告げると
考えをまとめたかのように指示する。
「なら、それは春休みの宿題だ。始業式までに持ってこい」
「でもそれじゃあ、卒業してしまってますよ」
「それまでに持ってこればいいんだよ。今日はもう帰れ」そう笑いかけ、荷物をまとめて教室をでる際に、
「あー、鍵は閉めといてくれ。・・・あと、校舎をぐるっと廻って来たらどうだ?新しい発見があるかもしれないだろ?」
そうして作文の流砂から抜け出した。
「・・・図書室にでも行くか」
1階にある図書室に向け、階段を降りる。
下駄箱の横が図書室となっているが、あまり活用している人は少ない。
たいした本は置いてないかららしい。
ガラガラッと扉を開ける音が室内に伝わる。
肝心の何を読むかまだ
決まってはいなかった。
「まだ12時か。時間はあるから適当に見ていくか」 時計は12時16分を指していた。
キョロキョロ周りを見ていくと、1冊の古びた本が目にとまる。
「?」
何故かこの本に手を掛けたかった。
「小説?」
手に取り、ぴらぴらっとページをめくっていくと
気になる部分を見つけた。『永久に続く虚空に、君は飛び立つか?
熟視するのは慕う者でありながら、その志に背く公は何者でもない。』
「・・・・・・なんかよくわからんな」だけど、この文は
かなり未知な感じだな。
なにか意味深く、また疑問を抱くような。
「まだあるな・・・」
次々に見通していくと
さっきとはことごとく違う文章が記されていた。
『自我を失う無情な空想に対する実在に、背中を見せる弱き者。戻るは死の道、進むは絶望の道、止まるは永久の道。時の流れを3区分した単一彼方に、望む自由、夢幻の影在り』
「???」
これ理解できねぇだろ・・・。
ちらっと時計を見ると
2時を過ぎていた。
「やべっ!読み耽ちまった」
席を立ち、本を戻そうとする。
しかし、何か戻したくない自分がいるみたいだった。それほど気がかりな本ではないのに・・・。「・・・・・・ええい!持って行っちゃえ!」
本を鞄にしまい込み、図書室を閉める。この出たときのす〜っと入ってくる冷たい空気が、ちょっと癖になりそう・・・。



学校を出て電車に乗る。
何故か昼は、人がいるかどうかぐらいの割合しかいない。なので今の時間帯は最適である。
窓際の椅子に座り、あの本を開く。
そういえばタイトルって何だろ?
疑問を抱き、表を見ようとすると
「あ、それってもしかして『bad end 1章』ですか?」
向かいの椅子にちょこんと座っている女の子が
口を挟む。
「あ、すみません。なんか気まずくしちゃって」
「いや、別にいいけど・・・知ってるの?この本」
「はい!意味は全然解らないんですけど、なんかつい深く考えちゃうんです。
だからその本の2章、3章買っちゃったんですよ!で、その内容が・・・」楽しそうに話す少女。
なんか久しぶりだな。女の子と話すのなんて・・・。
「あのー。大丈夫ですか?」
「えっ?」
突然聞かれ、思わず声が裏返る。
その状態に女の子はクスクスと笑う。
「すみません。でも、ぼ〜としていましたから心配で」
「ああ、ごめん。なんか女の子と話すの久しぶりで」
「そうなんですか。・・・あれ?今気付きましたけど、その制服って・・・」
前屈みになり、私服から胸元が少し見える。
俺も今気付いたけど、この子の私服は結構露出度高いな。急に顔が赤くなったのが、自分でもわかり下を向く。
「どうしたんですか?」
「い、いや、何でも。で、何だっけ」
「制服です。もしかしてそれって本城高校のですか?」
「そうだけど?」
「私、そこの2年生なんですよ」
「じゃあ後輩?」
「はいっ!」
こんな子いたんだ・・・。
全く知らなかったな。
『ええ、まもなくー、稿町ー稿町ー』
列車のアナウンスが次の駅を示す。
「あっ私降りなきゃ」
「そっか」
「また会えたらいいですね」
「会えるよ。同じ学校だしね」
「そうですね。また話もしたいですし、見かけたら声をかけてください」
「そっちもな。またあの本の事聞かせてよ」
「はいっ!!」
プシューッとドアが開き、彼女がくぐる。すると
振り返り
「あの!私、郁河真希っていいます!あなたは?」
「俺は小波仁。仁でいいよ」
プシューッ。
ドアが閉まり、
ゆっくり電車が動き出す。郁河はずっとこっちを見ていた。俺もなんか目を背けたくなくて、見えなくなるまでずっと眺めていた。
そのまま俺は駅まで立っていた。
誰も座らない椅子を空けたまま・・・。
ふと片手に持っていた本を開く。そこには
『無我の心に灯が明くる』と書かれていた。
「郁河真希・・・か」
また、会いたいな・・・。












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