第一章 4
「!?」
夢の中の女が言ったのと寸分違わぬ言葉が、僕の夢の中だけに存在するはずの言葉が、目の前の少女の口唇から発せられた。
「約束は………叶えられませんでしたね」
顔を伏せて、口元だけで笑うエリーシャ。
「そん………な………」
エリーシャの言葉は、僕の夢を現実だと証明していく。僕はもう、力なく項垂れるしかなかった。
エリーシャが再び僕を見据える。
「話すより、実際に目にする方が早いでしょう」
「う……わ」
温かい手が女の子とは思えない強い力で僕の腕を取り、拒絶する暇も無くエリーシャの手で起こされる。
「―――今、この世界の残酷な現実を」
冷たい言葉を耳にしながら、部屋の窓の方に連れて行かれる。エリーシャが部屋の窓を開けて、上空を指差す。
嫌な予感。見たくない。しかし、エリーシャの無言の圧力が見ることを強制した。部屋の窓から外を見る。指し示された上空を。
「………………え?」
そこに空は無かった。あるのは金属製の……天井だけ。無機質な、灰色の、天井だけ。
「ここの人工アレキサンドライトの天窓から見ることができます」
血が全身から引いていく。目は天井の一点に釘付けになる。
「あなたの目で、しっかりと見てください………現実を」
天窓、ああそれは確かに天窓だった。金属の天井の一角に開いた穴は、この地下の外の姿を見せていた。
「『あまねく光は遮られる(ルーキフーゲ)』によって、一切の光を失った、あの星の姿(、、、、、)を」
天窓の外は………暗黒だった。夜の闇じゃない、そんな甘いものじゃないあの暗黒は………一切の生命の存在を拒絶する残酷な宇宙の色そのものだ。
「あ………?あ………ぁあ………!?」
足が萎えて床に膝を着く。宇宙の先に在るモノに気づいてしまったから。
アレキサンドライトの天窓に浮かぶのは黒く澱んだ星。
その星は宇宙の暗黒すら飲み込むクラサ、野晒髑髏の落ち窪んだ眼窩の様なクラサ、カビつき腐り果てた果実の様なクラサ、
あの星で最も有り触れていて、そして最も優しい色が広がっているはずなのに、どこにも見えやしない。
「ちきゅ…う…?あんな…黒く……濁りきったものが……地球…?」
俯きうな垂れ呻く。信じられなかった、信じたくなかった、この目が間違っているのだと思いたかった。
「その通り、コウキ君」
しかし、非情にもエリーシャの声がそれを認めさせる。認めさせられてしまう。
「地球は滅びたのです。百年前に」
空の青色を一切失った天体を、生命の源たる光を拒絶する星を、頭上に見上げる。其処は一切の生命の息吹を感じ取れない死の星にしか見えなかった。
暗転する視界の中で、ココハドコデスカ、と最後に尋ねた。
「此処は月」
答えはすぐに返ってきた。
「………家を失くしたこどもたちの、最後の避難所です」
その言葉を最後に、僕は再び意識を失った。
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