アマギディオン 〜いつか見た空の青の下で〜(23/38)PDFで表示縦書き表示RDF


アマギディオン 〜いつか見た空の青の下で〜
作:東樹 九林



第二章 5


そんななか、ぼんやりと街頭のテレビを見ていて、一つの映像に釘付けになる。
 肩口に羽織った着物を翻し、閃く剣刃十重二十重。
捻り、うねり、飛び上がり、切り上げ切捨て、息つく暇ない人間業とは思えない過激で度肝を抜くアクションの数々。
ワーグナーを思わせる狂騒的な音楽効果と相俟って、道行く人々も思わず足を止めてテレビに魅入る。
 時折フラッシュバック気味に『He’s Coming』というテロップが挿入され目に焼きつく。
あー、映画CMかなー、と思っていたら最後にアップで映った顔は、
「こ、これ………僕!?」
 まごうこと無き自分の姿。思わず叫ぶ。
 反して平静を保つのはエリーシャ。
「政府公告です。救世主ヤグチ・コウキの」
「ふぇえ!?公告!!??」
「颯爽・英明・勇武・可憐・絢爛・剣舞・挺身・疾風・美勇………そして最強」
スラスラと出てくる単語はなんだか背中が痒くなるようで、
「それぞれ『強さ』『優しさ』『カリスマ』を主眼とした三バージョン、月の民一億の老若男女に広く希望と理解を戴けるように制作致しております」
なんというか、二○○一倍くらい美化されている気がするのですが?と、言う間もなく次の政府公告が………
次は、音楽は無し。ただ風と、草木のそよぐ音だけがする。
「実際に百年前の絶滅戦争中に撮影されたコウキ君の画像を使用しております」
 ひらひらとサクラ舞い散る中、夜桜の幹に体を預けて静かに微笑む僕の姿。
 とても静かで、されども情緒豊かで、古式ゆかしく、そして静かな決意を秘めた佇まい。
 音も無く、動きも無く――それでも得も言われぬ説得力を放つ光景は、最後にこう締めくくられる。
 曰く『大丈夫、みんなは僕が守るから』
 途端にキャーーっと黄色い悲鳴。なんだか女子中学生らしき一団が僕の映像を見て騒ぎ立てている。
「やーーん、コウキきゅんかっこいいー」
「かわいいー、あれで強いなんて反則よね」
 かしましい悲鳴。真横に当人がいるとは思ってもいないだろうが………
「………………………………」
「一部、加工はしていますが」
 えーーーっと、どこを加工すれば僕なんかがこんなに美化されてしまうんだろう。
「コウキ君の魅力を余すところ無く伝え広める為に、私も制作に参加し苦心致しました」
 誇らしげに――――胸に手まで当てて――――エリーシャ。
 すいません、僕の方は恥ずかしさでグロッキーです。なにこの公開羞恥プレイっぷり?
「ええ、みなさんにも好意的に受け止められ、コウキ君は大変人気もあるようなので私は嬉しいです」
 なんというか、まあ………実に空気がくすぐったいです。
 ふと気付く。街中に氾濫するものに。
「――――ポスターもある」
 壁には『一体何万倍美化したのか!?』という僕のポスターが貼られ、
「――――ほ、本も!?」
 漫画に雑誌に新聞の特集記事と僕の事が目白押し。各見出しには
○『三十分で分かる!救世主(コウキきゅん)の全て!』
○『ちっちゃいけれど救世主!』
○『パクッちゃえ!剣聖のスタイル』
○『剣聖が腐敗王に勝てる百の理由』
「三十分で分かられちゃうんだー、ぼくー」
 あっはっはっと頭が痛い。
「………こっちもエリーシャが作ったの?」
「いいえ、政府広告以外は民間会社によるものです」
「ああ、写真集まであるし………平積みだし………なんか、買ってる人いるし………」
「――――救世主がどんな人なのか、ヤグチ・コウキはどんな人物なのか、剣聖が如何なる技を使うのか、アンヴァリッドはどんな力があるのか………」
 にっこりと微笑むエリーシャには一点の曇りすらなく。
「みんな、知りたがっているのですよ」
(あー、これは確かに変装くらいしとかないと、出歩けないなぁ………)
 ヒラヒラのスカートを軽く指で摘む。少し俯くだけで長い髪が顔に掛かる。
今だけはこの性転換に感謝しよう。あのヤグチ・コウキと今の僕が同一人物だとは、とてもとても知られたくは無い。今の僕にとって、全くの別人になっていることが精神的に救いとなっていた。色んな意味で。
 安堵と黄昏の混合した溜め息をついた瞬間。異質なものが、目に飛び込んできた。


安楽死(ユータナジィ) 一人百メレム』


 張り紙一つ、素っ気無く張られた異様。












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