アマギディオン 〜いつか見た空の青の下で〜(18/38)PDFで表示縦書き表示RDF


アマギディオン 〜いつか見た空の青の下で〜
作:東樹 九林



第一章 17


 大斧が、振り下ろされ――!
「『自由の為の闘争(ルチヤ・リブレ)』!」
「『熱狂の日々よ(ラ・フォル・ジュルネ)』!」
「!?くお?!」
 右からハスドルバルの首を刈るように、また、左から足を薙ぎ切るように二つの魔法が交錯する!大斧は振り下ろされず、左右の魔法から身を庇う盾へと変わった。
「………主人に楯突くか、下郎ども」
 僕らの前から飛び退いて、ハスドルバルは舌打ち一つ。頭部は盾で守れたものの、右の足首に深手を負っている。
「我らは、お嬢様御付の身ゆえ」
「たとえ雇い主でもぉー、可愛いお嬢様に手をあげるなら見過ごせませんわー♪」
 代わって、巨漢の筋肉執事と小柄なメイドが僕らを守るように立ち塞がっていた。
「――――ネル!?ゴルヘグ!?」
 驚くエリーシャにネルさんが手を貸して助け起こす。
「恩に着る………礼はいずれ。さぁ、行きますよコウキ君」
「ん、で………でも」
 エリーシャの小さな手が、その見た目を裏切る強い力で僕を引き起こす。
「礼など不要、これは従者の務め」
「行ってらっしゃいませー♪エリーシャちゃーんコウキさま――♪」
 ハスドルバルから、武装を解いて殺気を放つ騎士達から目を離さぬまま背中で語る執事とこちらを振り向いて明るく手を振るメイド。
 いつどちらが口火を切ってもおかしくない緊張の中、エリーシャは僕を連れて先ほどのヴァルキューレで穴の開いた壁に近づき、
「騎士の(クラック・デ・シュバリエ)よ!私は必ず舞い戻る!
『剣聖』の力を取り戻したヤグチ・コウキと共に!」
 そして、飛んだ。
「う、うわわわわぁおおお!?」
 もちろん僕を道連れにして、まるで身投げのように、高い高い城の上から、飛び降りた。
 一瞬の浮遊感、どうしようもない落下感。一瞬毎に迫り来る地上。
「し、死ぬ!死んじゃうーー!」
「全く………飛び降りたくらいで殿方が取り戻すなんて、みっともないですよ」
 喚く僕にエリーシャは僅かに顔を顰めて、
「―――『東方より来たれ風神(ストリボーグ)』」
 掛かる急制動。
「…と、飛んでる?」
 白銀の(シュベルトライテ)に、魔女のホウキよろしく跨って飛行するエリッサ、に、しがみつく僕。
「もっとしっかり掴んでください!振り落とされますよ!」
「しょ、しょんなこと言ってもぉぉヲ!?」
 僕の腕の中にすっぽり納まってしまうようなエリーシャの小さな小さな体は、ほんの少し力を込めれば崩れそうに繊細で、躊躇してしまう。
なーんて逡巡する間も無く、
「う、うわわわわ!?」
 本気で落ちそうになったので思いっきり抱きついた。
「――――ゃ、ん!?あ、そ、そう!そんな風にしっかり掴まってください。
絶対………絶対に、離さないで!」
 抱きつく僕の腕に、エリーシャの小さな手が添えられる。仄かな、暖かさ。
「コウキ君の力を………お借りします!」
 瞬間、僕の身体から、エリーシャに何かを吸い出されるような感覚。
「ふ、ふぇ?な、なにこれ?」
 気持ちいいような、悪いような、何とも不明瞭な感覚に訝っていると、エリーシャの術が、発動した。
「――仮想魔術『未知の領域(テラ・インコグニタ)』!」
「う――わあああぁぁぁぁ!!??」
 揺れる三半規管、壊れる水平感覚。
 ジェットコースターなんてメじゃない、急加速と、それに伴う強烈なG。エリーシャが言う様に振り落とされそうになって、ますます強くエリーシャの小さくて柔らかい体を抱きしめた。
 瞬時に小さくなる『騎士の(クラック・デ・シュバリエ)』。
瞬時に大きくなる『黒い地球』。
時間に取り残された迷子(ぼく)にとって、何一つ現実感の無い世界。抱き締めたエリーシャの体温と甘い匂い、頬にかかる黄金の髪だけが現実だった。












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