アマギディオン 〜いつか見た空の青の下で〜(16/38)PDFで表示縦書き表示RDF


アマギディオン 〜いつか見た空の青の下で〜
作:東樹 九林



第一章 15


「………エリーシャ?」
 信じられない思いでその名を口にする。
「ヤグチ・コウキを処分するということで会議が進んでいるようですが………私は、それに反対します」
 大人達を真っ向から見据えてキッパリと、エリーシャは断言する。
「エリーシャ!下がれ!君にはこの会議に出席する権限はないだろう」
 誰かの怒声。しかし無視して歩み寄るエリーシャ。すれ違いざま、エリーシャが僕に囁く。僕にだけ、聞こえるように。
(大丈夫。あなたを処分なんて――――)
 柔らかい声、僕を安心させるように母性的な微笑み。微かに立ちのぼる、甘い香り。
(――――絶対に、させませんから)
エリーシャは僕を護るかのように、僕の側に立ち、円卓の面々に話し掛けた。
「私はディドのサンサーラです」
 サンサーラ、また、この言葉。
「私には絶滅戦争の記憶がある。
私にはコウキ君と共に戦った体験がある。
私はこの場にいる誰よりもコウキ君の事を熟知している。
だから、断言できる――コウキ君は、どんな障害があろうとも、最後には必ず勝利を掴んでみせる、と」
 力強い言葉にはなんの迷いも無く、
「エリーシャ・バルカの名に掛けて、コウキ君の喪失した記憶と能力を、私が、必ず、取り戻してみせます」
 エリーシャが断言する。
 僕は………孤独なんかじゃない。僕よりも頭一つ小さな少女の健気な応援が、凍りかけていた僕の心を再び暖めてくれた。
小さなエリーシャの体。でも、その姿は夢の中で見た人のように、大きく感じられた。
 しかし――――
「これはしたり。『人類存続の為に必要な犠牲』を散々強いてきたバルカ家の言とは思えませぬなあ」
 エリーシャの熱弁には、冷水をもって答えられた。否、それ所か、

「――――ふん、同じ失敗作どうし、随分と仲が宜しいようだ」

「――――な!?」
 エリーシャをも蔑み、嘲弄する言葉。
「この生意気な小娘も、一緒に処分した方がよろしいのではないか?ハスドルバル翁。揃って役立たずだ」
「そうだ。『ディド』の聖名を継承できなかった御主の名を掛けて、一体何の価値があるというのか?」
 エリーシャに向けられる言葉の刃の、集中口撃。聞いているこちらの方が痛々しい。
 大の大人が寄ってたかって少女を責める。その、醜悪な、光景。
「おまえら………」
 耐え切れなくなった僕が自分の事も忘れてエリーシャに助け舟を出そうとして………
「――――シュベルトライテ」
 ぽつりと呟いたエリーシャの片脇に浮かび上がった白銀の槍に、あっさりと僕の動きは止められた。
 先刻、僕の胸を貫いた槍。白銀の、至高の芸術のように美しい――――凶器。
 すーっと、僕の身体から血の気が引いていった。
「エリーシャ!気が狂ったか!?」
「権威ある円卓会議に武器を持ち出すなど言語道断!」
 騎士たちが椅子を倒して立ち上がり、暴挙に出たエリーシャに口角泡を飛ばして……
「………ブリュンヒルデ」
「言語道断………」
更に一本、今度はエリーシャの頭上に浮かぶ。
騎士たちの動きが止まる。口も止まる。
「ゲルヒルデ!オルトリンデ!ヴァルトラウテ!」
「ごんご………」
 更に、更に、更に三本!
「ヘルムヴィーゲ!ジークルーネ!グリムゲルデ!ロスヴァイセェ!!」
「………どうだん」
 続々とエリーシャの周囲に出現する神威兵器、なんと総計九本!
僕を貫いたシュベルトライテに良く似た、でもどこか違う槍が更に八本。
「ま、まあまあまあまあ、落ち着きたまえエリーシャ君」
 すっかり下出に出てしまった騎士たち。完璧に腰が引いてしまっている。
 さっきまでうるさかったワンちゃんが、シッポを巻いてお腹見せてるような変貌ぶり。つまりは、白旗上げて完璧な降参のポーズ。
 無理もない。実は、僕も物凄く怖かったりする。一本でも危険な神威兵器、それが九本もあるのだから!
「我々もちょいとばかし言葉が過ぎたのは謝るから………と、とにかくまあ、槍を、その危険極まりないものを収めなさい」
 脂汗を流しながら説得を始めた騎士をみて、
「名にしおう騎士ともあろう方々がそんなに取り乱して――――みっともないですよ」
 冷たい、背筋が凍りつくような笑顔をエリーシャが作り………
「イディジー・ヴァルキューレ、全弾発射(ファイエルフライ)!」
 号令と共に、火箭(ミサイル)のごとく槍は放たれる。
「ぬおおおおぉぉお!?」
「ぎゃあああああ!??!」
 閃光一閃目は灼かれ、轟く爆音鼓膜を破かんばかり。破裂する円卓、穿たれる壁、騎士達は泡を食って逃げ惑い、暴れ狂うその威力、まさに『九人の怒れる戦乙女たち(イディジー・ヴァルキューレ)』!
「あ、あわわわ………」
 一人何もできず目前の惨状にまごつく僕の手を、
「逃げます!コウキ君!」
 片手にシュベルトライテを掴んだまま、エリーシャが、強く、引いた。












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう