【日本原発安全神話崩壊記念小説】 もえPDFで表示縦書き表示RDF



 地震対策が十分にとられていなかった原発のニュースを見て、思いついた小説。5分で読める超短編。
【日本原発安全神話崩壊記念小説】 もえ
作:東樹 九林


 空は青空。
 強い日差しが夏の到来を告げていた。

「いやーーーーーーあっついねーーーーーーーーーー!!」

 陽光をアスファルトが照り返して陽炎を作る。
 遠くの風景が幻想のように揺れて、歪む。

 海から吹く強い風も、熱気を孕んで爽やかとは言いがたい。

 ブレザーの下のシャツが汗を吸って体に張り付く。
 それでも、ネクタイを緩めないのは、彼女なりの羞恥心。

「夏だねーー、こりゃもう完璧にパーペキに夏だねー」

 夏だ。
 紛れもなく、夏の日差し。
 間違いなく、夏の暑さ。
 気温は34度。
 天気は夏。
 気温は夏。

「いやはや全く異常気象もここに極まれりってぇ感じだねー」

 少女はくるりとその場で回って、僕に笑いかけた。

 背景には青い海。



         「今日は、クリスマスだってゆーのにさ」




 少女は言葉と顔だけで笑って、瞳は泣いていた。  

 海からは、宇宙まで届く炎の柱が立ち昇っていた。

 ――――炎。

 炎が、昇っている。

 深海から、

    海を突き抜け、
    
       天を破り、

          空の果てまで、


        海から空まで、うねりながら、

 炎の柱が、

          竜が如く、

                  昇っている。

         太陽を喰らうように。

―――――――――――――――――――――――――――― 
 今日はクリスマス。
 12月25日。
 ローマの教会の定める『救世主』の誕生日から2020年経った日。
 
 世界は滅亡一直線だった。

――――――――――――――――――――――――――――

 メタンハイドレートというものがある。

 まるで氷にしかみえないものだが、燃える。
 
 これが、残り少ない石油の代替エネルギーとして、期待された。

 日本近海にあるメタンハイドレートは世界屈指の資源量(フリーガスも含めて7.35兆m3。日本が消費する天然ガスの約96年分)であり、これを有効活用すれば、日本はエネルギー大国に転じる。

 石油を持たない日本が、エネルギーを自活できる。
 どころか、近隣諸国に輸出することも出来る。
 日本政府は飛びつき、開発を開始した。
 その危険性については、理解しえないまま……… 

 中国との領有権問題で戦争直前一触即発のムードに何度も陥りながら、

 2012年に試験運転が始められ、

 2015年には晴れて営業運転が開始された。

 それから五年、電気代ガス代が以前の半額と、家計に優しいお値段設定で日本国民はメタンハイドレートの恩恵を享受した。

   ――――その危険性を知らされる事もなく――――

 そして2020年12月。

 遂に、その日は来た。


 天災か                    人災か

       理由は         不明だが

          メタンハイドレートに

            火がついた。

 約90年分のエネルギーが数日にして燃え上がった。
 炎となって深海の底から海を突き破り天を突き破り宇宙にまで達し昇り続ける炎の柱。

 誰も望まない地球版プロミネンスは、掘削地付近の台湾・沖縄諸島の全てを焼き尽くすだけでは飽き足らず、全地球的な災いとなった。

 二酸化炭素の200倍の温室効果作用があるメタンの大量燃焼は、地球の環境を数日のうちに激変させる。

 昨日までの冬は、今日には夏になった。

 富士山の氷が解けた。

 エベレストの氷が解けた。

 北極の雪が溶けて、

 南極の氷河が、全て溶けた。

 熱風と強い日差しが、世界各地で山火事を引き起こす。


 赤道直下では、摂氏70度を越える突風が吹き荒れ、生きるものは誰もいない。

 メタンハイドレートの大量気化による超温室効果による環境激変。
 メタンと酸素の科学反応による、酸素濃度の低下。
 既に海中は無酸素状態となったらしく、海中の生物は尽く死に絶えた。
 海面は魚類の屍骸で埋め尽くされ、清涼な水色など何処にも見えない。
 海からの風には強い腐敗臭。
 それでも、まだ呼吸が出来るだけ有り難がらないといけないわけで。

 二億五千万年前、ペルム紀末の大量絶滅の再来。
 その引き金がメタンハイドレートへの着火。
 地球上の生命の98%が死に絶えた。
 その原因が、メタンハイドレートの爆燃。
 絶対安全なクリーンエネルギーなんていっときながら。
 チェルノブイリのメルトダウンより酷いじゃねーか。 

 今日はまだ生きている。
 明日もなんとか生きてるだろう。
 でも、その次はもう無いと思う。
 
 世界の終わりは唐突過ぎて、
 
 ぼくらの理解を超えていた。

――――――――――――――――――――――――――――

「なんでこんな事になっちゃたんだろうな〜」

 最後のアイスにかじりつきながら、僕はぼんやりと考える。

 熱い、暑い。頭が回らない。

 気温は既に45度。

 クリスマスのデートは真夏の暑さの下で。

 ムードもへったくれもありゃしない。

 道には虫の死体、鳥の死骸、犬猫の屍骸。
 体の弱い人はとっくに暑さにやられて死んじまった。
 暑さに強い奴でも、結構死人が出始めている。
 今朝のラジオは、世界の人口が十分の一になったらしい、とだけ放送して以来、ウンともスンともいいやしない。
 電源が切れたんだろう。そうに違いない。バッテリーさえ充電すれば、また元気にラジオが流れるはずだ。
 充電なんて、どこでもできないけど。

 実家の家族はまだ生きてるだろうか?
 蝿がたかってなけりゃいいけれど。

 行く所も帰る所も全てなくなった僕達は、せめて涼める場所をと彷徨い歩く。

 暑さに耐えかねて川に飛び込む人が続出している。
 そのまま流されて帰らない人も続出している。

「どこか、涼しい場所ないかなーーー?」

 近寄ると暑苦しいから少し距離をとって、でも繋いだ手は離さずに、僕らは彷徨いデートを続ける。

 クリスマス。
 灼熱のクリスマス。
 ホワイト・クリスマスにはならなかった。
 ラスト・クリスマスにならなきゃいいけど。


 文系人間が知識を寄せ集めて作っただけで、推論なんかできないので、本当にこうなるのかは不明。

 でも、原発の安全対策、危機管理のまずさに、自分なりに思うところあって書いて見ました。













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