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フライングソーサー214 
作:東樹 九林



素直な気持ち


「アタシだって…訳、分かんないんだよぉ!」
 力の限り、アタシは叫んだ。

「確かに…今のアタシには、女バスの、部活がつまんない!」
「美夏……」
「…先輩」
「あの試合から…あの宮瀬のプレイから、アタシはドキドキ止まんない」
 ぎゅっと強く目蓋を閉じて心に焼き付いた光景を言葉にする。
「日本にいる限り絶対にみる事が出来ないと思ってた、アタシの理想的なダンクが…目に焼き付いてる」
 感情が止められない。
「ダンクだけじゃない。誰かにパスを出そうとすると、無意識に宮瀬のスピードに合わせちゃってる」
 自嘲気味に笑う。
「ははっ、おかしいよね。女子にあんな厳しいパス取れるはずないのにさ」
「…部長」
「今はゴール下に突っ込んでいくのも、怖いんだ」
 ぽろぽろと言葉を漏らしながら、気持ちが落ち着いてくる。
「194センチの鬼頭を止めたみたいに、宮瀬のすごいブロックで止められるんじゃないかって思っちゃってさ」
 有り得ない幻想だと分かりながら、アタシの体は部活中何度も硬直する。
「あの試合から、感覚が全部狂っちゃってるんだ」
 思い描くのは、いつもアイツ。
「………宮瀬。
アタシの全ての基準が、宮瀬になってる」
 オフェンスでも、ディフェンスでもちらつく宮瀬の影に怯えてる。
 逆に、宮瀬のプレイに憧れて、無理なのに無茶なのに、宮瀬のプレイを真似しようとしてしまう。
「フリースローラインに立つと、宮瀬が後ろから飛んでくるんじゃないかって期待してる」
 あの日の背中を、再現できるわけないのに。

 沈黙は十秒近く。再び口を開く前にアタシの気持ちは決まっていた。
「ごめん、みんな。確かにアタシ、部長失格だよね」
 言葉を出しきって、アタシは目蓋を開けた。
「きーちゃんの言う通り辞めた方が部の為に………って?んん?」

 目を開けると、みんなの反応が思っていたのと違う。

 うふふふふふ、という笑いを隠しきれない顔で、みんなが、アタシを見てる。
                 「美夏〜あんた〜宮瀬のこと〜」
                       部員一同で

                    『好・き ☆ す・ぎ〜』
                        ハモる。

「そ、そんなんじゃない!!」
 ぼん、と体が赤くなる。
「こ、これはその…!好きとか嫌いとかそういうんじゃあ!」
「いいや、その通りさ!美夏あんたのその気持ちはLOVE以外の何者でもないのよ!!」
 きーちゃんはがっしとアタシの腕を掴んで力説する。
「ほんとに…恋、なのかな」
 タジタジになるアタシに
「恋よ」
「恋ね」
「甘酸っぱい恋愛模様よね〜」
 洗脳するかのように部員達が恋だと囃し立てる。
「こういうのって、あれよね、あれ」
 くすくす笑って一年の何人かが
    「急に」
              「王子様が」
                         「来たから」
      「びっくりして恋に落ちてしまいました。そんな感じ?」
                             「そんな感じ!」

「お、王子様って宮瀬の事か!?アイツはそんなガラじゃあ…」
「と・に・か・く」
ピシっと目の前にきーちゃんの指が突きつけられる。
「美夏、アンタ宮瀬にアタックするまで部活禁止ね」
「な、なんだよそれ―!ぶ、部活とは関係ないだろ―!?」
「関係ありだってば。そんなモヤモヤした気持ちのままじゃあ、戦力にならないしねー」
「とにかくアタシ達女バス部一堂としてはさ、アンタに復活してもらわないと困るのよ」
「だ・か・ら、アンタの恋を、アタシ達みんなで応援してあげる♪」
「………う、あ……」
 アタシは言葉を失う。
 みんなは暖かい微笑みで、アタシを見てる。
「アンタが部活と恋愛を両立できるとは思ってないからさ。今だけ部の方は任せときなって」
 頬が熱くなって、
 恥ずかしくなって、
 嬉しくて、
「お、おせっかいだってば…みんなぁ」
 アタシの目頭は熱くなった。
 おのれきーちゃん。アタシを罠に掛ける為に一芝居打ちおったな。
「で、でもさぁ…アタシ達ってばまだ中学生やん。れ、恋愛とか…まだ早いっちゃないかと…」
「恋に老いも若きもないわー!!」
「ぶりぃち!?」
っぱーん!とハリセンで頭を叩かれた。
「いいこと美夏!女ってもんはブラを着けたその日から誰かのLOVEを受ける義務があんのよ!」
「な、何だよその極論」
「いい〜美夏〜あれから宮瀬くんが何人に告白されたか知ってんの〜」
「五人よ、五人!週一ペースで告白されてんの」
「ご、五人!ゴレンジャー!?」
「で、その全員を宮瀬は振ってる」
「うわ〜、もったいない〜」
「振られた子にそれとな〜く理由を聞いてみたらね」
「『ぼくは、バスケが出来る子以外は興味が無い』だってさ〜。
いや〜、ほんっと筋金入りのバスケ馬鹿だねぇ。恋愛対象にまでバスケを絡めるなんてさぁ!!」
「おおっと、吉川の姐さん!そいつを言ったら此処にも『恋愛対象にまでバスケを絡める』お馬鹿さんがもう一人いるじゃありませんか〜」
じと〜、と生ぬる〜い目と、にやりにやりと笑う顔でみんなの視線がアタシに集まる。

「ど・どうせアタシは筋金入りのバスケ馬鹿よ!」

「まあ、いきなり告るなんて高難度の事は無理だろうから、ちょっとハードルを下げてっと」
きーちゃんはマジシャンのように何かを取り出す。
「ここに魔法のチケットがある!」
「日本プロバスケットボール開幕戦のチケットよ!コイツを使うがいいわ」
「バスケバカ同士!バスケで楽しいファーストデートにしてらっしゃい!」
「いいか!誘え!告れ!!ゲットしろ!!まずはその第一歩を始めるのよ!」

 みんながニヤニヤしつつ、でも、真剣に、アタシを応援してくれている。
 アタシはいい仲間を持った事が嬉しくて、
 アタシはおせっかいな仲間を持った事が気恥ずかしくて、
 アタシの想いを知られた事がたまらなく恥ずかしくて、

 きーちゃんからチケットを受け取って、
「おう!絶対宮瀬を落として帰ってくるからな!!」
 覚悟を、決めた。

「いよぉーし!その気合いこそ美夏らしいわ!」
威勢よく飛び出すアタシに、みんながぐっとガッツポーズで送り出してくれた。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「み、み、み〜〜〜〜、宮瀬ーーー!!」
 ドアを思いっきり空けて、HR前の教室に飛び込んだ。
「な、なに!?」
 珍しく目をまん丸にした宮瀬が、アタシの襲撃にビビる。
 その顔に

     ビシィィィ!とチケットを突きつけて、

「こ、今度の土曜日!一緒にバスケ見に行かないか!!」
しばらく、口を開けたまま変な顔してた宮瀬は…

「うん。一緒に行こう」

爽やかに、笑ってチケットを受けとった。












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