真夏の夜の三部作(4/4)PDFで表示縦書き表示RDF


真夏の夜の三部作
作:雪場



+α


「えっと、この角曲がって…」

 ケータイのディスプレイ上に映し出される地図とにらめっこしながら、和葉は待ち合わせ場所へと向かっていた。
 夏祭りの夜の次の日、突然メールで取り付けられた約束。

「ここ、かな」

 着いた先は落ち着いたつくりの喫茶店。和葉が白木のドアを押すとベルが澄んだ音を立てた。
 クラシックが微かにBGMとして流れる店内。パッヘルベルのカノンかな、と和葉は思う。
 そのままワインレッドの長椅子と白いテーブルの間にちらりと視線を走らせる。一番奥の席に、昨日までの待ち人はいた。

「珍しいやん、平次の方が早いなんて」

 和葉が一言告げると、ウェイトレスが注文を取りに来た。平次は珈琲、和葉は紅茶をそれぞれ頼む。

「で、話ってなんなん?」

 まあちょっと待てや、そう平次は濁して外に突き出した窓越しに空を眺めた。快晴だった。

「変な平次」

 口を尖らせながらも、和葉は大人しく待つ。しばらくすると、珈琲と紅茶が運ばれてきた。
 和葉はカップに添えられたレモンと砂糖をスティックの半分だけ入れ、黙ったまま口をつける。平次は何か考えるように外を眺めたままだった。

「なあ、何考えとるん? 珈琲冷めるよ」

 平次はやっと視線を戻す。意を決したように黙ったまま珈琲を流し込んだ。
 タン、と小気味良い音を立てて珈琲カップが受け皿に戻される。

 平次の視線が、真っ直ぐに和葉の瞳を捉える。
 ドキリとしたのか、和葉の顔がほんのり赤く染まる。

 それを見て平次も顔を赤らめ、目を逸らす。
 そして、口を開いた。


「和葉、スキや」


「へっ?」


「せやから」
 参ったな、そんな風に頭を掻きながら、平次の目が和葉を見据える。

「スキや」





「スキって、くわとかあんなんと違うスキ?」

 黙って平次はうなずく。

「スキーとかとも違うスキ?」

「アホ。何べん言わせんねん。正真正銘、女へんに子供の子のスキや」
 平次は勢いに任せて言うと、飲み残しの珈琲カップを取り、すっかり冷めた珈琲を飲み干す。

 カップを下ろす。和葉の顔を見た。
 和葉の呆気にとられたような表情がスローモーションのように崩れ、平次の目線を避けるように下を向く。


「和葉、泣いとるんか?」

 視線の先の彼女は、何故かうなだれたまま。その丸みを帯びた肩が小刻みに震えている。



「だって、平次からこんなこと、言うてくるなんて……、アタシ、絶対自分から、言いださなアカンって、ずっと思っててん、せやから、せやから……」



 うつむいたまま、途切れ途切れに告白する和葉。今度は平次が驚かされる番だった。



「ほんなら、和葉」



 和葉が顔を挙げ、小さくうなずく。
 涙に目元を光らせながら、微笑んだ。





「アタシも平次のこと、スキや」





 二人を眺めるように、窓の外を涼しい風が通り過ぎていった。
 長かった夏の終わりを告げる、そんな風が。


 最後まで読んでいただき、どうもありがとうございます。
 いろいろと紆余曲折はありましたが、復帰作は「つながりのある短編集に近い中編」という筆者の優柔不断さを表すような形態となりました(苦笑)。
 大学生活が始まりますと、忙しくなるとは思いますが(研究やレポートが多いらしいので)マイペースで執筆は続けていきたいと思ってますので、また私の駄作を読んでいただけると幸いです。それでは。
 08,3,18     雪場













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