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散歩
作:あきくん


散歩
 老人がいつものように散歩をしていると、いつものように若い男女が話をしているところが見えてきた。彼らが話をするようになったのはいつのことだろうか。
 散歩。老人にとってはその単語が正しい。しかしそれを、ウォーキング、と呼ぶ者もいる。どこが違うかといえば、ウォーキングのほうが運動のように感じるが、老人にも若い男女にもよくわからない。同じものなのかもしれないし、厳密には違うものなのかも知れない。ただ、どちらも歩くということには違いはないとは理解している。好きに使えばいい。
 男の場合は散歩、女の場合はウォーキング、老人の場合は散歩。彼らはそう決めている。言い方に違いはあるが、彼らはそれぞれ毎日同じ時間に同じ道を通って歩く。そしてそれぞれに歩く理由がある。それらの点では同じだ。
 男と女は毎日同じ時間に橋の前ですれ違い、それぞれが歩いてきた方に消えていく。老人は彼らがすれ違うところを、毎日同じ時間に橋の中央付近で見る。そんな状況がしばらく続き、それが三人にとってのいつもどおりとなった。
 それからしばらくたつと、いつのまにかその場所で若い男女は会話をするようになっていた。散歩をしているのだから、それを妨げない程度の二言三言の会話だ。老人は橋の中央付近よりやや彼等に寄って、その二人を見るようになった。いつか二人いっしょに歩いているところを見てみたいものだと、そう思うようになっていた。これがいつもどおりとなった。
 いつもどおりがどれだけ続いていたときだろうか。この日も、男はいつもの時間いつもの場所でいつものように女と出会い、軽い話をした。それを老人が見、そして男はいつものように女のきたほうに歩いていき、塀にぶつかってとまっているトラックの巨大なタイヤの下に、先ほどすれ違った女と同じ服を着た同じ顔の女を見た。男に恐怖はなく、ただいつもどおり歩いて家に帰った。
 次の日も男はいつもの時間に散歩に出た。
 昨日見たものは何だったのだろうか。幽霊か本人か。本人か別人か。そんなことを考えながら歩いた。そして、いつもの場所で女に会った。そして会話をしてすれ違う。別に怖いことはない。いつもどおりのことだ。何の不思議もない。もちろん老人もいつもどおり見ていた。それからも三人は同じように過ごした。
 しかし男は考える。いつまでもいるべきではない。
 それから二人の会話は少し長くなり、そのぶんだけ老人は少し二人に近づいた。これがいつもどおりとなった。
 その日女と会ったときに男は切り出した。
「君は何のために散歩をしているんだ?」
「何のため?」
「そう目的があるものだろ?」
「それじゃああなたにはあるの?」
「えっ、はじめは体力作りのためだったけど、今は日課かな」
「そう。わたしもそんなかんじかな」
「それでもいつか終わりはあるんだよ」
「でもあたりまえのことだからわからなくなっているのね」
「君はどうして毎日くるんだ?」
「いつものように、あたりまえのことよ。あなたは?」
「同じだよ。だけどいつまでも続けることじゃない。今こうして長く話していることだって、今までなかったことじゃないか」
「何が言いたいの?」
「変わるんだよ。いつまでも同じとはいかないんだ」
「わかっているのね」
「君はわかっていないじゃないか」
「わかっているわ。あたりまえのことだからって、あたりまえのままじゃいけないことだってあるのよ」
「じゃあ何でここにいるんだ?」
「それはあなたよ」
「なにを・・・?君は、君はここにいるべきじゃないんだ」
「それはあなたでしょ。あなたは、・・・もう死んでいるのよ?あなたのいつもどおりは終わったのよ・・・?」
「・・・それは君だよ。僕は見たんだ。君の・・・死体を・・・」
「えっ・・・。でも私も見たのよ。あなたの死体を」
「えっ。その日からも君はいつものように来て、いつものように・・・」
「あなたもそうだったのよ・・・」
 老人が近づく。彼らの長い会話が老人に橋を渡りきらせたのだ。
「お嬢さんが一日早かった。わしはそれからも見てきたよ」
「あなたは?」
「同じようにいつもどおりの散歩仲間じゃよ」
「私たち二人とも死んでいると言うんですか?」
「ああ、そうじゃ。じゃが、いつもどおりいたときはうれしかった。何も怖くなく、当然だと思ったものじゃ」
「あなたもですか・・・」
「私もそうでした。あたりまえのことで、何も疑問はありませんでした。でも私が死んでいたなんて・・・。いつもどおり来ていただけなのに」
「僕も何も変わったことはなかった・・・」
「だが真実を知って、なおいるというのはどういうことじゃ?」
「ずっと繰り返すのかしら。ただ歩くことをあたりまえに繰り返して」
「自分でも止められないのか・・・」
「なぜ?今は違う。こんなに長く話し、しかもわしがいる。これはいつもどおりのことではない。そうではないのか?いつもどおりは終わったんじゃよ。それなのに・・・・、他に何かあるんじゃないのかね?」
「わかりません・・・」
「私も・・・」
「理由はあるものじゃよ。ただそれに気づかないだけじゃ。いつもどおりに隠された本当の理由にな」
「あなたにはあるんですか?」
「歩くことが目的じゃてな。若い者とは違う。ふぉふぉふぉ」
「知っているんですか?」
「むう・・・。わしが思うに、会うために来とったんじゃないかね?」
「えっ・・・」
「少なくともわしにはそう見えた・・・」
「・・・そうかもしれない。僕は君に会うために歩いていたんだ」
「わたしも、あなたに会いたくて・・・」
「わしは前から二人一緒の歩くところを見てみたかった」
 二人は同じ方にいった。
 老人の散歩はまだ続く。新たな楽しみを探して。
   了


20070419
 読んでくださった方に感謝いたします。
 この話は別の”忘却”という話の言わば親戚のようなものです。のような、というのは共通点がいかに多くても他人であるということです。解りにくいかもしれませんが、それは間違い無くわたしのせいです。
 これは題名のとおり、ずっと散歩していくという変わらない話です。変わっても変わらないことはあるんです。・・・きっと。
 感想を頂ければ幸いです。













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