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スタイリッシュ武器屋 作者:弘松 涼
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85 運命の歯車

 ゴンザークは小さくつぶやいた。
 その声に反応して、黒装束に身を包んだ黒子のような男がササッと現れる。

「これがユニカルのメンバー表です」と黒子が紙を手渡す。

 ゴンザークはそれを手にすると、視線を落とし、ニカリと口角を吊り上げる。

 ピッチャー …… 姫菊京香
 ファースト …… アーク
 キャッチャー …… アスカ

 ――ククク。この野球という名の殺人ゲームにおいて、もっとも危険で高難度のポジションはキャッチャーよ。敵とぶつかる可能性が最も高い。言い換えれば、死亡する確率が最も高いということになる。


 この布陣を見ただけでゴンザークは、己の読みに間違いがなかったと再認識する。


 ――なるほど。仮面の少女はアスカという名か。覚えておくぜ。その名前。それにしてもあいつ、見かけによらず、なかなかやるな。
 あんなに細い体をしているのに、重量150キロはゆうに超えるヘビーアーマーを装備できるとは……


 そういった気持ちで、ユニカル陣ベンチ前にある入り口で張った。
 ニヤリと口角を緩まているゴンザークではあったが、いくばくかの緊張感を漂わしていた。それはそうだろう。これから超大物ビックスターをスカウトしようとしているのだ。百戦錬磨の達人と言えど、いや達人だからこそ、ここ一番で気を引き締めなければならないのだ。それなのに後方にいる新野球連盟の総帥は「だー、だー」と言いながらペロペロキャンディーを舐めているのだ。
 その舐め切った態度に、わずかながら苛立ちを覚えているようだ。本人すら気に留めていないが、左足が小刻みに揺れている。


 コツリコツリ。


 その音で選手の誰かがやってきたのだと分かる。
 ゴンザークは目を丸くした。驚きを隠せなかった。

 何故なら――

 長い黒髪の仮面少女――アスカは、なんと最も軽量な紙装甲、ショットダガーを装着していたからだ。
 赤の胸当てや肩あてはあるものの、それは段ボールくらいの強度である。
 敵はゴブリンズのエース。
 そしてギガスウォーリアは真空剣があるのだぞ。
 段ボールでどうやって太刀打ちするつもりなのだ。

 ゴンザークはニカリと笑う。

 ――やはりそうか。この女。相当の使い手。
 真空剣などアスカにしてみたら、玩具同然のなか。
 ククク。やはりさすがだ。俺の目には狂いがなかった。
 この女、引き抜くしかない。


 だが総帥が勝手にしゃべり始めた。

「ねーねー、あんた、あんた、これからキャッチャーするんだろ? そなのにどうしてショットダガーなの。俺っちは野球界のトップだから、特別教えてあげるけどさー、もしかして、あんた、おバカな人なのか? キャッチャーするんなら、ヘビーアックス、最低でもウィングソードを装備していないとすぐに死んじゃうよ。ゴンザークよ。こんなおバカなノーセンス。引き抜くの辞めにしないか?」

 ノーセンスでバカはキサマの方だ。
 ゴンザークは一度鋭く総帥を睨みはしたが、まだ総帥を爆破する時期ではない。
 頬を緩め、アスカには話しかけようとした。


 だがアスカは短く、「そこをどけ」と言い放つ。


 ゴンザークは手を合わせてさすりながら、
「アスカ選手。実はですね、私どもはあなたの能力を高く評価しています。もしよろしければダークムーンの一軍に席を設けさせてはもらえないでしょうか」

「興味ない」

「ダークムーンが嫌でしたら、あなたの為に新チームを創設させていただいてもいいのです。契約金は……」

 ゴンザークは胸のポケットから小切手を取り出してサラサラと書く。


「100億ゴールドでいかがでしょうか?」

 小切手にはそう書かれてあった。

「足りなければ、後ろにもうひとつ丸をつけてもいいですよ」

 アスカは金など興味ない。
 贅沢などしたいなど、思うことはない。

 だが彼女にはもう一つの顔があった。
 現在敗戦中の、将軍というもう一つの姿が。

 砦では武器、弾薬はもちろん、薬や包帯すら十分に足りていない。
 ひのきの棒の起こす奇跡に賭けて、言葉の通りすがるような思いでここにやってきたのだ。

 もし100億ゴールド手にできれば、軍を立て直せる。
 その10倍もあれば……

 それに敵はこちらの何百倍もの兵力。
 相手は悪列非道な軍隊。前任者の自分が正義のために刃を向けた相手。
 だが、そもそもこの戦いに勝ちなどありえないのだ。
 このままいけば全滅してしまう。
 他の自分カノン達は興味ないだろうが、それだけは避けねばならない。

 
 この金を使えば、手打ちにできるかもしれない。

 
 アスカの喉がゴクリと鳴った。

 ゴンザークはそれを見逃さなかった。心の中でクスリと笑った。

「もちろんあなたのチームには我々の開発した特殊野球兵器を欲しいだけ支給いたします。我々の開発したバッドは、振るだけでいかずちが落ちるものだったり、バットの先が取れてロケットランチャーに変形するものだったりと種類にして1000万アイテム以上、実に豊富なラインナップを取り揃えています」


 アスカの喉はもう一度鳴った。
 それだけの武器があれば、悪の限りを尽くすチート軍を倒せるかもしれない。


 だが目の前の男がやりたいのは殺人野球……


「ふふふ、あなたが助けた姫菊選手は殺さずの野球がすばらしいとおっしゃいますが、果たしてどうでしょうか? 私は殺人野球の方がすばらしいと思います。この殺人野球をやっていれば世界は平和になるのです」

 何を言い出す?

「私は本当に世界平和を心から願っています。いずれ歴史の教科書が証明してくれます。我々、殺人野球を提唱する新野球連盟が世界に秩序をもたらしたと。その時、我々に逆らった姫菊選手は戦犯としてその悪名を残すことになるでしょう。
 考えてみてください。殺人野球をもっと公式化すれば世界から戦争がなくなるのです。それぞれの国がもつチームが市民を代表して戦うという公約を作れば、弱い人々が戦争に駆り出され苦しむことがなくなるのです。
 毎年何人の人が死んでいると思いますか?
 その何人が、子供や女、老人といった非戦闘員だったと思いますか?
 それをこの球界に閉じ込めるのです。
 殺し合いは非常なことです。ですが、それをこの球界だけに閉じ込めることにより世界は平和になるのです。
 我々が目指しているところは世界平和です」

 ……。

「もしアスカ選手が我々の仲間になってくだされば、このすばらしい考えをもっと早く世界に広げることができるのです。私が好きな言葉は正義です。どうか一緒に世界を平和にしませんか?」


 この男が言っているのは所詮詭弁。アスカはそう思った。


「ふ、残念だったな。私が好きな言葉は悪。もういいだろ? そろそろ道を開けてくれないか?」

 ゴンザークはアスカをこのように評価していた。
 姫菊に加担したところから、アスカは正義という言葉に弱いと思っていた。
 だが違ったようだ。
 なら、と、切り口を変えてきた。

「お待ちください。例えば殺人野球とはカレーライスのようなものです。ただの野球は白いごはん。ごはんだけでは退屈でしょう。野球は、殺人という新しい要素を組み込むことにより更なる高みに到達したのです。我々とこの面白い殺人野球を普及していこうではありませんか?」

「お前は知らないのか? 真のごはんはおかずなど不要」

 総帥が「カレーの方がおいしいわ! バカか!」と話しに割ってくる

 アスカは静かに続けた。

「想像してみろ。
 滅多に料理を作らない寡黙な親父がいた。
 その親父は、ことに米のことだけはうるさい。
 水は手首のくるぶしまで。
 そしてかまどは、こだわりのある自家製。
 米にしっかりと水分を含ませてから強い火力でムラなく炊き上げる。これによってお米の細胞を壊すことなく一つひとつの粒にうま味が詰まった極上のごはんに仕上がる。強力な火力で一気に炊き上げるからこそ、噛むほどに、甘み、香り、そして粘りのあるご飯となる。かまどがグツグツして、甘い匂いが鼻孔を楽しませてくれる。その透き通るようなほくほくのごはんを茶碗によそう」

 
 その言葉で二人の喉はゴクリと鳴った。

「一粒を箸で取り、口に運ぶ。そして一口。噛めば、ご飯のうまみが口いっぱいに広がる。思わず箸でかき込んでしまう。そうなったらもう止まらない。ほくほくでアツアツのごはんが、舌を、歯を、そして胃袋を喜びで包んでくれる。それが真のごはんだ。ごはん一筋、米炊きに命を懸けた職人の作り出した最高傑作に、他の味を混ぜるなど言語道断」


 総帥は「あーん、あーん、おいしいごはんが食べたいよー」とどこかへ言って走って行った。


 アスカの髪が風でなびく。


 ゴンザークはアスカが何を言わんとしているのか理解した。
 なるほど極上のごはんは混ぜ物など不要、それは野球も同様。そう言いたのだろう。このアスカという女、できる。
 絶対に傘下に欲しい。

「今回は諦めますが、私は必ずあなたをスカウトしてみせます」

 そう言ってゴンザークは道を開けた。


 これが世界を分断して戦うことになるだろう二人のファーストコンタクトだった。
 悪の仮面をかぶりどす黒い精神に雁字搦めに見張られている、静かなる正義の使者カノン=アスカ。
 そして正義という詭弁を自在に操る極悪商人――ゴンザーク。


 この二人にはもう一つの顔があった。
 それは孤独なる盲目の知将。そして対するゴンザークは、自分自身もまだ自覚こそないが、それに対する大いなる悪……
 
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