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スタイリッシュ武器屋 作者:弘松 涼
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82 謎の鉄仮面1

 ひのきのバット。
 攻撃力はたったの1。
 推定価格、5ゴールド。

 対する真空剣。
 攻撃力:814
 貫通攻撃可能
 遠距離攻撃可能
 更にギガスウォーリアは二刀流もできるし、野球ではバットの二刀流は許されていないのだが審判は無視してくれる。


 誰が見たって、真空剣に軍配があがる。


 表面的にはひのきのバットを小馬鹿にしていたギガスウォーリアだったが、内心はかなり動揺していた。それとは裏腹に、アンパイアはクスクスと笑っている。

 そして片手をあげ、「部外者の乱入により、先ほどのストライクはノーカウントにさせて頂きます!」
 と叫んだ。

 これで三振は取り消しとなり、ギガスウォーリアの攻撃は続く。
 あの女たちを殲滅するのに十分な時間を確保したぜ。アンパイアはそう思い選んだ発言なのだろう。

 だが対するギガスウォーリアは小声で、「お、おい」と抑制しようとする。

 アンパイアはそれに気づいていないのだろう。ニヤニヤ笑いながら続ける。

「お気づきでしょうが、あの仮面の女、レベルは3。そしてククク、職業はなんと……」

 アンパイアとギガスウォーリアには、スポーツ用品店チートカンパニーより特殊なコンタクトレンズを支給されている。

 その名はサーチアイズ。

 このコンタクトレンズを通して見れば、名前や個人情報といったパーソナル情報こそ分からないが、筋肉の付き方や体温、体脂肪率を測定することにより、どういった鍛え方をしてきたのかが手に取るようにわかる。そこから相手のレベル、能力、適性などが分析されて、事細かに表示される。
 その整合率は脅威の99.9999%


 だからアンパイアとギガスウォーリアの視界には、仮面の女の情報が克明に映っているのだ。


 性別:♀
 身長:158センチ
 体重:47キロ
 レベル:3
 適職:偽勇者


 それを見てアンパイアは大声をあげる。

「この乱入、当然なら即退場と言いたいところですが、今回ばかりは特別、認めます」

 その判定で会場中の熱気が膨れ上がる。
 それもそのはず、仮面の女は会場中の連中すべてを敵に回す発言をしているのだから。

「さすが名審判だ。そんな生意気な奴、殺しちまえ」と親指を下に向けて叫ぶハゲ親父までいるくらいだ。


 アンパイヤはバッターボックスの男に視線を向けて、ニタリと笑う。

「ささ、ギガスウォーリア様。あの小生意気な女を殺して、仮面を剥がし、無様な格好にしてさしあげてください」
「……余計なことを」

「え、何か申されましたか?」
「……別に」


 そうなのだ。
 相手はレベル3の偽勇者。

 そのことはギガスウォーリアも分かっている。


 ――だったら、何故、俺の奥義を一瞬でかき消しちまえるのだ。
 きっとまぐれ。
 いや、まぐれでできる芸当ではない。


 アンパイアは、「ククク。どうせお優しいギガスウォーリア様のことです。手加減をしたのでしょう」と小声で言っているが、手加減なんてしていない。


 マジで本気だ。


 もしかして、何かトリックをしているのか。
 どこかにでっかい扇風機でも隠しておいて、あらかじめ竜巻を相殺するための気流を起こしておいて、タイミングよく登場した。

 そうだ。
 そうとしか考えられない。


「おい、仮面の女。死にたくなかったら、今のうちに消えちまいな」

「ふ、それは私のセリフだ。私は不殺の野球に興味などない。キサマが私を殺そうとするのなら、それに応えるだけだ。さっきも言ったがこのひのきのバッドに打ち返せないものはないのだぞ。キサマの真空など、目を閉じていても容易に跳ね返せる」

 そう言うと、もう一度ひのきのバットをギガスウォーリアに向けた。

 その迫力にギガスウォーリアは一歩後ずさり、ごくりと喉が鳴る。

 それもそのはず。
 鉄仮面の奥には9つの精神が宿っている。
 その中でもっとも冷酷非道で残忍な冥王の目で睨んだのだから。
 それはこの世のものとはとても信じがたい、背筋も凍る冥府の一瞥。
 今、この肉体を操縦している者は、すべての表情をすることができる。
 どういった気持ちでこの目つきをつかったのだろうか。
 そんな彼女の唇は静かに動いた。

「死にたくなかったら正々堂々プレイをすることだな」


 不覚にもギガスウォーリアは、肩が震えた。
 続いて止まらない脂汗。

 ――敵はレベル3の偽物なのだぞ。
 かつて俺はダークムーンの一軍にいたこともある。
 なのにどうして!?


 女はフッと笑い、「その前にタイムだ」と軽く手を上げる。

 アンパイアは「ははぁん。なるほど、その間に姫菊投手の体力を回復させる気だろう。タイムは認めない」と返す。

「そんなくだらない理由ではない。彼女は女だ」

 そう言い姫菊に視線の先を向ける。
 満身創痍の少女。
 野球スーツは全壊し、胸の先と股の部分をちぎれた白い布が覆っているくらいだ。おしりの形だってくっきり見えている。そんな姿なのに懸命にマウンドで立っている。
 誰が見たって、このような格好で試合を続行できるわけがない。

 いや、ここにいる醜悪なギャラリー共は、それを望んでいる。
 健気に頑張る少女が崩れていくのが面白くて堪らない、どうしようもないクズ共しかいない。

 一人を除いては。
 カノンの護衛をしている騎士だけは、「そうだ! タイムだ! こっちはてめぇらのノーカウントや数々の卑怯な判定をのんでいるだぞ!」と猛烈に叫んでいる。

 周りの客がまた持っていたビール瓶をぶつけ、
「なんだ、こいつ。そうしたら折角あそまで脱がしたのに、また野球スーツを着てくるだろうが! そんなの卑怯だろ! 駄目に決まっているだろうが!」

「何をぬかす! 多くのスポーツにおいて、服や道具が著しく破損した場合、取り換える権利は認められている。野球だって例外ではないはずだ」


 その通りである。
 もしバットが折れたら、タイムを取って交換するのはよく目にする光景だ。だからこれは当然の権利である。


「知るか。俺は美女の裸がみたいんだ。お前らもそうだろ! おい、審判、タイムを認めるなよ!」
「て、てめぇら、どこまで腐っているんだ!」

 熱狂の渦の中、あの男が声を出した。
 ギガスウォーリアだ。
 サラリと笑い、「おいおい、おめら、タイムくらい認めてやろうぜ」と言った。

 かなりのブーイングも出たが、エースであるギガスウォーリアが言うのなら仕方ない。一度は肩を落としたギャラリー共だったが、再びギガスウォーリアの応援を始めた。シャッターチャンスを伺っていた観客達はカメラをベンチに置くと、
「さすがギガスウォーリア! なんたる温情! 俺たちはみんなお前を応援しているぜ」


 ギガスウォーリアは観客に向かって軽く手を振った。
 この男、普段は観客なんてどうだっていいと思っている。自分が楽しければそれでいい。
 この行為は、ただただ震えている手をごまかすためのパフォーマンスだった。


 ギガスウォーリアは、ベンチの奥に消えていく姫菊、そして仮面の女に視線をやった。
 歩くたびに長い長髪が揺れる。
 スタイルこそ悪くはないが、まるでモデル体型。
 とてもスポーツ選手とは思えない。

 なのに、あの目。
 いったい奴は何者なのだ。

 仮面の女はギガスウォーリアに方に軽く振り返ると、フッと微笑をこぼした。

「このタイムはキサマにとって大切なコンディション調整の時間となるだろう。控室でしっかり震えておけ」

「ぐぅ!?」


 ギガスウォーリアはとてつもない焦燥にかられた。
 敵は自分が震えている事まで知っていたからだ。
 果たして自分なんかが勝てるのだろうか。

 思わずギガスウォーリアはアンパイアを睨め付けた。

 このアンパイア、名審判、名審判と呼ばれて調子に乗っているが、なんて余計な事をしやがるんだ。
 ギガスウォーリアの歪んだ眼光は、まさにそう言っているかのようだった。
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