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スタイリッシュ武器屋 作者:弘松 涼
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79 とある側近の奮闘

カノンの側近である兵士視点です
 盲目の知将。
 それはまさしく彼女にふさわしい言葉だ。

 
 カノン様は、虐げられてきた弱者救済のため、そしてアイゼンハードの将来を憂い、立ち上がった。
 途中、数々の障壁もあったが、俺はカノン様についていこうと心に決めている。


 それにしても不思議だ。
 どうしてカノン様は野球観戦をしたいと言ったのだろうか。


 野球とはボールとバットを駆使した残虐な殺し合いだ。



 正義感溢れる我が将が、どうしてこのような場に……
 おそらく何か意味がある筈だ。



 だが……
 もしかしたら……
 これは伊藤と言う怪しげな武器商人の差し金かもしれない。
 罠である可能性だって少なくはない。
 俺は、命に代えてもカノン様を守る。

 

 そんな俺は、今、猛烈に興奮していた。

 姫菊という黒髪の野球少女が、素晴らしいプレーをしているからだ。
 真っ直ぐで黒くてつぶらな瞳が特徴的な、まだちょっぴりあどけなさが残る少女。
 一言で表すと荒野に咲く一厘のたんぽぽ。
 まわりを明るく照らす。
 勝気ある男勝りな性格をしているようだが、我が将と被るところもある。
 カノン様はいつも張りつめた氷のような無表情で淡々と話される。
 まるでその姿は、凍てつく雪原にひっそり、だが、力強く咲く白いサザンカのよう。
 でも笑うときっとあのような感じな気がする。


 試合は4ターン裏。
 通常の試合ならチームの半数以上死者がでているだろう。
 なのに未だ誰も死んでいないのだ。
 それはあの少女が、試合の流れを完全にコントロールしているからだ。


 ふと思った。
 もしかしてカノン様は彼女の事を知っていたのではないのだろうか!?
 だからこの見事な不殺の戦闘術から、今後の対チート軍との戦略の糸口を探そうとしているのかもしれない。


「カノン様。ありがとうございます。俺もこの試合から何かヒントを手に入れます。あれ、カノン様?」


「……何か言ったか?」

 カノン様は試合に夢中になられていたご様子。

「すいません。何でもございません」


 カノン様の手は強く握られていた。
 きっと素晴らしい試合に熱くなっているに違いない。
 俺も試合に集中しなくては……




 だが。







 ここからだった……
 恐ろしい惨劇が始まったのは。






 試合は4ターン裏。
 ゴブリンズの攻撃。
 バッターボックスには3番、巨躯で筋肉隆々のギガスウォーリアが立っている。
 全身はフルメイルで身を包み、バットの代わりに背が弓なりになった長剣を握っている。
 あれでボールが弾き返せるのだろうか。


 姫菊投手はニヤリと口角に笑みを浮かべてボールを投げた。
 スナップを効かせたカットボールだ。
 カットボールを投げるピッチャーはあまりいない。
 カットボールはフェアープレーのための魔球。
 言葉の通り、打たせて抑えることが目的。

 そんなことをする意味がない。


 何故なら――
 バッターは容赦なくバットを振り回して襲い掛かってくるのだ。なら、脳天にデッドボールを決めて確実に仕留めた方が早いと考えるピッチャーが大半だ。


 我々が戦っているチート軍も、魔改造した武器で罪のない子供を人質にとって襲い掛かってくる。それと同様な卑劣な相手に、正々堂々戦うなんて惚れ惚れする。 

 姫菊選手が、「そんな剣では打ち返せないわよ」と自信満々に声を上げた。

「ククク。打ち返す必要なんてねぇんだよ!」

 ギガスウォーリアは剣を縦に振った。



 俺は目を疑った。
 あれは真空剣。
 軽く振るだけで真空が生まれるチート武器。

 剣先から突風が生まれ、姫菊選手を襲った。


 彼女は投撃のモーションに入っている。
 回避不能だ。

 それでも横シフトに体を傾け回避しようとする。


 だが、強烈な斬撃が彼女の右肩をかすめた。
 肩あてに亀裂が入り砕け散り、彼女の肩から鮮血が舞った。


 確か公式ルールでは――
 アタッカー陣は、遠距離攻撃用の武器使用は禁じられている。
 バッターは、バット、もしくはバットに付随する武器による近接攻撃のみで戦わなくてはならない。
 飛距離1メートルを超える攻撃は、特級反則事項にあたる。(ただしディフェンス陣を除く)


 俺は叫んだ。

「審判! 何をしている! 反則だろうが!!」


 姫菊選手は肩を押さえ、マウンドに膝をついた。

「うぅ」


 ギガスウォーリアは剣を肩の上にトントンと乗せて、ニカリと笑った。

「ククク。姫菊! これからてめぇの装甲をじっくり剥いでやるぜ。そしてその下もな……、ククク、ウハハハ! おらおら、観客共も騒げよ! 美少女をエビの皮むぎの要領で、いい感じにひん剥いてやるってんだからよ!」


 無抵抗の少女になんてことを……


 こんな愚劣な行為を許していいのか!?
 なのに何故だ。さっきまで姫菊選手をカッコいいぞと応援していた観客たちは手のひらを返したように拳をあげて「いけー! ギガスウォーリア。お前、最高だぜ!」と言っている。


 さすがにユニカル陣の監督らしき人がベンチから立ち上がり、アンパイアと何やら話し出した。


 そうさ。
 これは紛れもなく反則だ。
 ルールブックにも書いてある。
 危険行為を犯したギガスウォーリアは、即退場。
 さらにユニカルには5点の追加点が入る。


 なのに……


 恐ろしい判定が言い渡されたのだ。


 アンパイアは手を上げ「ユニカルは難癖をつけ無意味に試合を中断しようとした。ルールブック第24条に投手のHP回復を目的にした試合中断は一人退場となる。ユニカルは誰か退場させなくてはならないが、誰にする?」

 と言い出した。


 観客達は、「やったぜ! これで美女が泣くところが見れるぞ! さすが審判、いい仕事するぜ!」と狂い叫んでいる。


 許せない。
 こんな試合があっていいのだろうか!?

 だが俺ではどうすることもできない。
 俺はカノン様を見た。
 こんな苦しい時、彼女ならどうするのか知りたかった。


「……ちょっと席を外す」
「え? カノン様。どちらへ?」

「いや……。化粧室へ」
「化粧室?」

「今朝から腹の調子が良くないのだ」


 あ、トイレのことでしたか。

「失礼しました」


 分かります。
 俺も腹が痛いです。
 ズキズキします。
 反吐を吐きたくなるくらい、とめどない怒りってやつが俺のはらわたの中で暴れまわっています。
 それにこんな惨状、見たくない。
 俺も今すぐトイレに駆け込みたい。
 だけど俺がここから消えたら誰がユニカルを応援するのだ!?
 客席からはゴブリンズコール一色なのだぞ。


 俺は声を張り上げた。

「姫菊! 頑張れ! 卑怯だぞ! ゴブリンズ」


「なんだてめぇ。ゴミを応援するなんていい度胸だ!」


 観客共は俺に石を投げてきやがった。だけど、それでも俺は全力で姫菊を応援した。俺の額に石が当たった。手を当てたらベットリ血がついていた。

 でも、こんなの大したことない。



 ユニカルの選手達は、マウンドに集まり相談を始めた。
 仲間の一人が姫菊にタオルを巻いて止血した。
 姫菊は険しい表情で仲間たちに指示をしている。
 観客席は「行け、ギガスウォーリア! 今が隙だらけだ!」「美女を脱がせ!」そんな愚劣なコールで白熱しており、ユニカルの選手達が何を言っているのかよく聞こえない。でも、おおよその内容は分かる。
 審判に従わなくては反則負けになるから、その相談をしているのだろう。

 
 苦肉の策でライトの選手を降板させた。



「頑張れ! 俺は何があっても絶対にあんたを応援するぞ!」

 姫菊の耳に届いたのだろうか。
 彼女は俺の方を見て、爽やかに歯を見せて笑ってくれた。


 客のひとりは「うぜぇ」と叫んで、今度は俺に手に持っている酒をかけてきた。


 俺だって負けない。
 何もできないが、姫菊と一緒に悪と戦う。


 ひとつだけほっとしたのは、この場にカノン様がいないということだ。
 こんなところにいたら怪我をしてしまう。
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