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スタイリッシュ武器屋 作者:弘松 涼
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78 新野球連盟

 私たちは伊藤さんが指定した最安値の席から観戦している。
 確かにこの場所は最後尾の立見席。
 最安値なのかもしれないが、冷静にこのステージを観察するには最高の場所なのかもしれない。ここからはプレーヤーだけではなく、観客まで一望できる。

 私には心眼に近い能力がある故、一方向だけに気を張ればいい最後尾の席は特等席とも言える。


 子鬼をかたどったモチーフのユニホームを着たゴブリンズと、ユニコーンの角をモチーフにしたユニカルが戦っている。

 ユニカルのピッチャーが威勢良く言い放っていた。


「私たちの野球は殺さずよ!」と。




「姫菊というのか。彼女の思想は危険だ……」

 私の三つほど隣に、黒服を着た二人の男が座っている。
 一人は髪を後ろで固めた白髪の男性。落ち着きがあり大物のイメージを醸し出している。どこかの大企業の社長、いや、会長なのだろうか。首には高価なマフラーをしている。
 もうひとりは丸顔で小太りの年は40代くらいの商人風の男だ。

「へへへ、総帥、ご安心ください。奴のプロファイルは控えています」


 そう言ってファイルのような物を取り出すと、何やらきな臭い話を始めた。



 総帥という言葉で思い出した。
 この初老の男性は、かの有名な新野球連盟総帥――レナード=アクセラークだ。
 かつて父からも聞いたことがある。
 レナードは球界のドンとも呼ばれており、球界がこのように変貌したのは彼のせいと言っていた。その隣にいるのは話の流れから推測して、新野球連盟にスポーツ用品を卸しているスポーツ用品店の社長なのだろう。


「総帥。姫菊は甲子園では殺さずの天使と呼ばれておりました」

「何。甲子園から殺さずを続けていたのか!? どうしてそのような危険人物をマークしておかなかった?」

「危険? 所詮甲子園ですぞ? 高校球児には二刀流をマスターした剣士や、時を操る時空魔道士、殺傷性の高い化学兵器を生み出すマッドサイエンティストはいないのです。爆薬や毒ガスを使う甲子園球児がいますか? さすがにいないでしょう? だから殺さずという生ぬるいプレーでも何とか突破できます。ですがここはプロの戦場」

「とはいえ、ほら、見ろ! 殺さずとか言っているユニカルが優勢ではないか?」


「ふふふ、本日の相手は、弱小のゴブリンズ故、殺さずといった生ぬるい手法で戦えるだけです。ですが……ククク」

「どうした?」


「実はゴブリンズも弊社のクライアントチームなのです。ですから弊社の特別性のスポーツ用品を装備しております」


「そうか。ではあの姫菊とかいう小生意気なガキはどうなるか言ってみろ」


「木端微塵でございます」

「ククク。それは楽しみだ。殺さずなどといった愚行をした罰があたるのか」

「そうでございます、総帥」

「さすがチートカンパニーだ。ククク。あははは」


 チートカンパニーだと!?
 我々が戦っている卑劣な軍勢も確かそのような名前だった。
 チート軍。
 魔改造した武器を装備したありとあらゆる卑怯な手を使ってくる軍隊だ。

 試合は4ターン目へと移行している。
 攻撃はゴブリンズからユニカルへと変わる。


 バットを持った姫菊がネクストバッターズサークルで3回ほど素振りをして、バッターボックスへと立った。

 ゴブリンズのピッチャーは「死ねや!」と叫んで、ボールを投げてきた。
 姫菊の頭部へ向かって球は伸びる。
 姫菊はそれをバントの構えで処理。
 ボールはコロコロとピッチャーの前へと転がっていく。


 バントか!?


 野手の誰かに当てて敵の勢力を弱めてから塁に出るのが定石なこの野球というゲームで、 バント程意味がない行為はない。

 だが姫菊はバットを投げ捨て、颯爽と走り出した。
 ファーストは背中の棍棒を抜いて襲い掛かってくる。
 それをバク中でかわして、一塁をポンと踏むと続いて二塁を目指した。

 セカンドが腰のダガ―を抜いて襲い掛かってくる。
 それをフェイントでかわし、二塁ベースを踏むと、更に三塁へと走る。
 姫菊はジャンプ。サードの頭を軽く蹴って大きく飛び上がると体を折って回転しながら三塁を蹴り、そのままホームへと走る。

 完全に敵を翻弄させる見事なプレーだ。

「カッコいいぞ! 姫菊!」

 会場の皆は立ち上がり大声援を上げている。



 姫菊は「あなた達がちゃんとした野球をしていたら、私をアウトにできたかもしれないのにね」と皮肉を言った。

 ゴブリンズのピッチャーは悔しそうにグラブをマウンドに叩きつけた。


 だがチートカンパニーの社長と新野球連盟総帥だけが不気味に笑っている。

「ククク。所詮、あの程度の芸当、猿まねと同じよ。総帥はどういった処刑方法がお好みですか?」

「彼女の罪は重い。今、殺さずもいいかもと思った観客が、ほんのわずか増えたかもしれない。それを相殺できるようなレベル……そうだな、なるべく残酷な方法がいいぞ」

「分かりました。ククク。裸にして相当な辱めを与え、大衆の前で木端微塵にして差し上げましょう。見ものですぞ。ささ、総帥、まだ賭けはできますぞ。ゴブリンズに張るなら今の内に」

「もはや小さな博打になど興味がなくてな。ただ猪口才な小娘が悲壮感漂う姿が楽しみなだけだ。ククク」


 闘球士である以上、連盟に逆らってプレーなどできないだろう。
 それは国家に逆らった勇者と同じ末路を辿る。
 例え国家の方が悪くても、大流に逆らって生きていけるはずなどない。


 だが……


 どうしてか私の拳は強く握りしめられていた。


 分かる。
 私の中に流れる勇者の血が騒いでいる。
 きっと父さんが彼女を助けろと言っているに違いない……
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