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スタイリッシュ武器屋 作者:弘松 涼
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76 不殺のタクティクス1

 意味深なセリフを残して伊藤さんは去ろうとしている。ひのきの棒を売ってもらわなければ、今回のミッションは失敗になってしまう。とにかく私は焦っていた。

 一旦5ゴールドを受け取りはしたが、なんとしても伊藤さんに貰って貰わなければ、次に進めない。

「何、これはあげたお金よ。あなたが受け取らないなら捨てるわ」と言えば、伊藤さんは渋々だが受け取ってくれることは知っている。
 そんな苦肉の策で、半ば強引に、伊藤さんに手渡した。そんな調子だから、とてもひのきの棒を代わりにくれとは言えない。いや、言うだけならできるだろうが、あまりにも不自然過ぎる。


「あの……。教えて頂戴。さっき言いかけていた地味タクティクスを極めた最強の闘士って誰?」


「ベーブルースです」


 そう告げて、伊藤さんはこの場を後にした。
 カイルとは遺恨だけを残してしまった。
 終始無言で重たい空気を出していた。





 伊藤さんの去った応接間では――

 兵士たちは次の武器屋をどうするかといった相談を始めている。


 私は伊藤さんの言葉からヒントを探していた。


 地味を極めた究極の闘士――ベーブルース……


 彼の事は幼き頃、歴史で習ったことがある。
 確か野球というスポーツでホームラン王という偉業を成し遂げたスーパーヒーローだ。


 野球とは――
 この世界では誰もが知っている過激なスポーツである。
 9人対9人でアタックとディフェンスに分かれて戦うゲーム。
 9ターンまでに何人殺したかで勝敗が決まる。



 そんなデスゲームで、彼はホームランという地味な戦法だけで勝利を収めてきた。更にホームラン予告なんてのもしていたくらいだ。

 ホームランなんて打ったら悲惨だ。

 たった一人で一塁、二塁、三塁、そしてホームベースと順番に進まなくてはならないのだから。

 まず一塁を守備するファーストが脅威だ。
 ファーストは戦闘回数がもっとも高くなる。
 だから大抵はチームで高レベルな戦士が、ガチガチに重装備をして死守している。全身に強力なバトルアックスやロングソード、二股の槍などを装備している。


 定石ではピッチャー返しを打ち、ピッチャーを落としてからバットを装備したままファーストに突っ込む。そして装備したバットでファーストと戦う。

 なのにベーブルースはホームランを打った後、バットを投げ捨て、単騎でファーストに突っ込む。当然のようにファーストは背中の長剣を抜いて襲い掛かってくるが、ベーブルースはその体躯を活かし、防御に徹しながら二塁三塁と歩を進め、ボロボロになりながらホームベースまで帰ってきた。まさに何でもありという野球の世界で、不殺を貫いた伝説の闘球士グラディストライカーがベーブルースである。

 その不殺のスタイルにあこがれて、のちにサダハルやイチローといったニュージェネレーションも現れた。闘球士イチローは、内野安打専門というリスキーな戦法を取っている。内野安打など意味がない。ファーストなりセカンドなりに球をぶつけ、少しでも敵を削って塁にでないとみすみす殺されてしまう。だが運動神経抜群のイチローは巧みな回避スキルで野手の攻撃をかわして、得点を手にする。


 だが。


 もっと言えば、野球で得点を取ることにあまり意味がない。
 なぜなら相手チームを殲滅すればそこで勝利が決まるからだ。


 多くの闘球士は、その若き命をマウンドで落としている。
 されど球界に魅力を感じている若者は後を絶たない。
 それは剣闘士以上の多額の報酬が得られるからだろう。


 そして不殺を誓った闘球士はすでに球界を去り、今、殺さずの野球をしている者は誰もいないと聞く。



 私が野球について訪ね出したものだから、兵士の一人が聞き返してきた。

「カノン様。そういえば、今年はどのチームが勝ちますかね?」

 賭け事に興味などない。
 だがもしベーブルースに勝利のヒントがあるのなら、私はプロ野球選手を目指さなくてはならないのかもしれない。


 兵士の一人が話しかけてきた。


「あれ、カノン様? こんなところに野球のチケットがあります。もしかしてカノン様は野球ファンだったのですか?」



 伊藤さんが野球観戦のチケットを置いて行ったのだろうか。



「メモが添えてありますよ。えーと、さっきの武器商人のようです。
 読みます。
 ――カノン様。地味な意地悪をするところをみると、狭い砦で長期の籠城、かなりストレスがたまっていると思います。
 今は下手に武器調達するよりも、そのストレスを発散された方が得策と思います。
 思い切りスポーツ観戦されれば、気持ちもスッキリして、良い戦略を思い付くと思います。このチケットは席もあまりよろしくないので、たったの5ゴールドです。ゲームは本日のお昼からスタートしますので、今から馬を走らせたら間に合うでしょう。お代は先ほどいただきましたので、ご安心ください」



 私は即座に馬を用意させた。
 皆は、ここの所、軍議ばかりで疲れていると思ってか、数人の護衛をつけ、ターバンに口にはマフラー程度の簡単な変装を施す程度で野球観戦を許可してくれた。籠城している軍隊の長がそこを抜けて野球観戦という大衆娯楽に行くことを否定しないなんて不安すら覚えるが、好都合といえばそうなる。



 まぁとにかく。
 砦内では、カノンは無類の野球好きという噂でもちきりだろう。



 カノン内では「アクアは伊藤に難癖つけて野球観戦チケットをゲットしたよ」という噂でもちきりになり、すぐに「見えないのに観戦に行ってどうするのさ?」と突っ込みが入り、だが「折角、貰ったんだ。行っとけよ」という意見が大半を占め、結果、野球観戦に行くこととなった。罠と疑っているのはハディスくらいだろう。吊り上った目で訝しげに様子をうかがっているが、ハディスは基本沈黙を通す姿勢だ。

 特段否定はせず、「今、アクアに主導権がある。判断はアクアに任せる」と言うくらいだった。
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