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スタイリッシュ武器屋 作者:弘松 涼
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70 誇り高き悪女カノン

ここからオリジナルカノン視点です
 私の両親は勇者だった。

 父はあらゆる剣技を極め、母は聖なる魔法を得意としていた。二人ともかなりの使い手で、人知れず悪をこらしめてきた。

 悪を極める7魔人の一人、地底界を支配する暗黒鬼神ヴェルザークを倒したのも、私の両親。
 そんな偉大な両親は、結婚し、私が生まれると同時に剣を封印し、誰も知らない村でひっそりと暮らすようになった。


 何もない農村で田畑を耕してひっそりと暮らしていたが、私は幸せだった。
 頼れる父と、優しい母がいれば十分だった。


 時折、昔の友人が訪ねてきては熱心に冒険へと誘っていたが、二人はかたくなに拒んでいたのを記憶している。



 そんな私の幸せは壊された。



 暗黒鬼神ヴェルザークは生きていたのだ。


 復讐を誓い、強大な力を身に着けて、再び両親の前に現れた。


 長い間、剣を握っていない両親だ。魔力を増大させた暗黒鬼神に、まったく太刀打ちできなかった。

 一瞬で村は崩壊され、気が付いたら私の目の前にバラバラになった両親が横たわっていた。

 見上げると塔のように巨大な魔人がいるのだ。

 嘆き。
 憤り。
 嗚咽。

 そのようなものを通り越して、私の中に生まれたのは、ただただ怒りだけだった。
 優しい両親を殺したこの悪魔だけは絶対に許さない。

 小さな私は、父の剣を持ち上げ、大きな咆哮を上げた。
 勝てないのは分かっている。
 だけど、私は勇者の娘だ。

 
 死に物狂いで、目の前の悪魔に突撃していった。

 
「ほぉ。リューゼルとフローリアにこんな小娘がいたのか。なるほど、だからここまで弱体化していたのか。ククク。こんな小娘、すぐ殺すことは簡単だ。だがそれでは我が復讐にはならん」



 ヴェルザークは私に人差し指を向けた。



「勇者の娘よ。貴様に死よりも恐ろしい恐怖をくれてやる。両親のしでかした罪をその身で報いよ」



 黒い爪の先に閃光が現れた。
 それは、おそろしく邪悪な何か。それしか分からなかった。

 同時にそれは放たれた。


 当時の私には、とてもかわす力などなかった。


 弾丸を浴びたと同時に、私の視界は一気に真っ暗になった。
 恐怖でデタラメに剣を振った。


「怖がらないで。カノン」

「――!? あなたは誰!?」

「私はハディス。安心して。私達はあなたを殺さない。ちゃんと助けてあげる。私達があなたを大切に支配してあげるから」


 さっきまで瓦礫の散らばる村にいたはずなのに、どういう訳か、私は真っ暗な空間に投げ出されていた。

 そして目の前には9人の私がいる。
 目つきこそ違うが、9人のカノンに囲まれている。




 そこで私の記憶は一度途切れた。




 再び目が覚めたのは、ついさっきだった。
 どうもこの肉体には、地震とも酷似している大変動が起きたようだ。
 そのショックで目を覚ましたのか。


 私は眠っていた。
 だが、見ていた。
 脳髄の底で。



 断片のように途切れながらだが、うっすらとした視界に映像が流れていた。



 9人のカノンが、数々の悪事をしているのを、私は見ていた。
 そして心の中で涙していた。


 駆け出し冒険者を愚弄したり、僧侶にセルフ葬式屋と酷い言葉で蔑んだり、魔道士に大金を貢がしたり、自分を尊敬する純粋な女の子に卑劣なる道を説いたり、その他、数々の悪道を貫いてきた。



 もはや私に勇者の血を継ぐ資格などない。



 きっとこれが奴の復讐なのだろう。
 私は生きながら、恥と苦しみの重圧に押しつぶされてきた。


 だから――


 私は、私のやりかたで、9人のカノンを討つ。


 私は脳髄の奥でじっくり見たいた。
 そして気づいた。
 私もこのカノンの肉体内では、個性の一人であることに。


 言い換えれば、私は10番目のカノンということになる。


 それを証拠に――
 脳に誰もいないときに試してみた。
 脳髄から心を取り出すことができた。
 なんとも奇妙な感覚だった。
 私は半透明となっている。
 そして血管だらけの脳の中を、自由に動くことができる。
 振り返ると、脳髄には6歳の私が埋め込まれている。


 声が聞こえてきたので、一度脳髄の中に戻った。


 奴らは互いを天体にちなんだ精神コードで呼び合っている。
 それぞれ目つきが違うだけで、まるで瓜二つの容姿。
 すなわち目つきに性格が表れているということか。

 私は強欲なイメージを脳に浮かばせてみた。
 人を蹴落として大笑いする、カノン・ゴールデルを思い出していく。
 あんな奴と同じ思考を持つなんて思わず目元が熱くなるが、今はそのような小さなことをとやかく言っている場合ではない。
 透き通る血管の管に映っている自分を見た。
 いじわるそうなカノン・ゴールデルの目つきになっている。

 なるほど。
 似せた精神パターンで行動すれば、騙しとおせるようだ。


 私が目を付けたのは、無個性なカノン。
 それはカノン・アクア。
 どうも8人のカノンは、ハディスを中心に動いているみたいなのだ。
 そして一番点数を稼ごうとしているアクアこそ、もっとも演じやすい精神コードと踏んだ。

 まずは奴の精神を乗っ取って、体の自由を手にするところから始めることにした。




 そして、その時が来たのだ。




 ハディスが、「一番目に変われ」と言った今こそ、その好機。

 
 ゴールデルは主導権を破棄し、脳みその奥へと消えた。
 誰にも気付かれないように脳髄から出ると、太い血管に隠れながらひそかにアクアを尾行した。そしてアクアが脳幹に手を差し伸べたと同時に、私は背後から手刀で一指しにした。
 アクアは振り返って私に気づいた。
 何か言おうとしている。悲鳴を上げて仲間を呼ぶ気か。だが、そうはさせない。アクアの口を抑え言葉を封じ込め、憑依を始める。


 アクアのように心を無にして。


 そして完全に憑依が終わる。
 私は静かなる悪女・アクアの精神コード(肉体)を手に入れた。



 脳幹に手を添えると、私の表面に風を感じる。

 これは外気か。
 今、私の手中にはカノンの支配権があるようだ。

 カノンの手に命令を下す。
 手が動いているのを感じる。
 懐かしい感覚だ。

 手さぐりに机の上をさわり、コップを見つけた。
 暖かい。
 コーヒーのようだ。
 一口つける。
 口内にほろ苦い味が広がり、思考が冴えわってくる。


 運よく一人、抹殺できたが、残り8人の悪の精神コードが、私の体内に潜んでいる。
 私に奴らと渡り合ることができるだろうか。


 私は一人の人物を思い出していた。
 私は脳髄の奥でずっと見ていた。
 だから知っている。
 数々の迷える冒険者を救ってきた伝説の武器商人の存在を。


 ――ひのきの棒しか売らないスタイリッシュなあの人なら――
 もしかしてあの人なら、私のとるべき道を指し示してくれるかもしれない。



 私の現状を、果たして分かってもらえるだかろうか。
 それに私は8人のカノンに見張られているのだ。
 私のもっとも忌み嫌う悪女を演じ切らなければならない。





 だが、今、私の戦いが始まった瞬間であることは確かなる事実だ。
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